10、ヒジェの夢
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連れてこられた場所は、都が見渡せる小高い丘だった。もうすぐ夜になろうとしていたが、今日は祭りであり大晦日だからなのか、まだまだ夜の帳が降りる様子はない。ヒジェは隣に座るように促すと、淡々と語りだした。
「────俺の夢は、この都を見渡すことができる王様の次にこの国で偉い男になることだ。」
───領議政。それが彼の悲願だった。実現は難しいと思っていた夢。だが今は彼のすぐ目の前にちらつき始めていた。
「だがそなたに出会って、そなたに恋をしたから、もうそれも必要ないと思っていた。けれど、俺はあらゆる奴に不釣り合いだと蔑まれ、結果的に気づいてしまった。そなたが傍でずっと笑っていてくれる未来を掴むためには、その手を離さずに済む方法でしか実現できないと。」
「…だから、領議政になるんですね」
ヒジェは静かに頷いた。
「ああ、そうだ。その第一歩が捕盗庁大将。そうなれば誰も文句も言わないだろう」
ウォルファは黙って真面目な彼の横顔を見つめた。そして、おもむろにその手を手袋をはめた手で包んだ。
「大丈夫、私は待つわ。ずっと。いつまでも待つわ。例えあなたと私が長安と朝鮮くらいに離れてしまっても、ずっと待つわ。」
「ウォルファ……」
初めて味わった心からの言葉に、ヒジェは思わず涙で瞳を潤ませた。
「…ありがとう。」
それから彼はおもむろに長安の方向を指すと、こんなことを言い出した。
「ああ、そうだ。いつか、二人で長安へ行ってみよう。本好きなそなたに、あの書物屋を見せてやりたい。」
「本当?嬉しいわ。約束よ、ヒジェ様。」
小指を差し出したウォルファは、彼に微笑みかけた。ずっと届くことはないと思っていた笑顔がそこにあった。彼は自分の小指を絡めると、指切りの代わりに可愛らしいウォルファの小指にそっと口づけした。
「───あっ………」
「ああ、もちろん。約束だ」
満面の優しい笑顔を返したヒジェはふと、空を見上げた。既に月が出ており、雪がちらついている。
「この約束は、月のウサギだけが知っているのだな」
「ええ、ウサギとあなたと私だけ。」
二人は顔をもう一度見合わせて笑うと、祭りの最後を飾る燈籠飛ばしのために再び町の喧騒に戻っていくのだった。
二人でひとつの燈籠を買ったヒジェたちは、橋の上にやって来た。
「願い事を念じてから飛ばすのだぞ?」
「わかっています。あなたこそ、きちんと考えていますか?」
「当然だ、決まっておろう。早くそなたの唇を奪えますようにだ」
それを冗談だと知っているウォルファは、呆れた振りをしながら心の中で念じた。
────ヒジェ様と私。党派が例え違えども、そしてそれがどんなに厳しくとも、歩む運命の道は同じでありますように。
また、ヒジェも先程とは全く違う想いを念じた。
───これから南人が起こすであろう事が、俺とウォルファの生きる道を別ちませんように。そして全て失っても、か弱く俺が守らないと消えてしまうようなこの手を、決して離さずに済みますように。
二人の願いを受け入れたのかは分からないが、燈籠が闇夜に舞い上がっていく。そしてそのうち、夜の帳に溶け込んでしまった。
まるで、これからの二人の未来を暗示しているかのように。だが、互いの幸せな未来のことしか念頭にないウォルファとヒジェにとって、そんなことを想像することは不可能に等しかった。
一つの年が終わり、暖かい春に向かおうとしていた。けれどユンの片想い、そしてヒジェとウォルファの両想いの二つの恋は、これから長きに渡って続くことになる厳しい冬の始まりに差し掛かったばかりである。
「────俺の夢は、この都を見渡すことができる王様の次にこの国で偉い男になることだ。」
───領議政。それが彼の悲願だった。実現は難しいと思っていた夢。だが今は彼のすぐ目の前にちらつき始めていた。
「だがそなたに出会って、そなたに恋をしたから、もうそれも必要ないと思っていた。けれど、俺はあらゆる奴に不釣り合いだと蔑まれ、結果的に気づいてしまった。そなたが傍でずっと笑っていてくれる未来を掴むためには、その手を離さずに済む方法でしか実現できないと。」
「…だから、領議政になるんですね」
ヒジェは静かに頷いた。
「ああ、そうだ。その第一歩が捕盗庁大将。そうなれば誰も文句も言わないだろう」
ウォルファは黙って真面目な彼の横顔を見つめた。そして、おもむろにその手を手袋をはめた手で包んだ。
「大丈夫、私は待つわ。ずっと。いつまでも待つわ。例えあなたと私が長安と朝鮮くらいに離れてしまっても、ずっと待つわ。」
「ウォルファ……」
初めて味わった心からの言葉に、ヒジェは思わず涙で瞳を潤ませた。
「…ありがとう。」
それから彼はおもむろに長安の方向を指すと、こんなことを言い出した。
「ああ、そうだ。いつか、二人で長安へ行ってみよう。本好きなそなたに、あの書物屋を見せてやりたい。」
「本当?嬉しいわ。約束よ、ヒジェ様。」
小指を差し出したウォルファは、彼に微笑みかけた。ずっと届くことはないと思っていた笑顔がそこにあった。彼は自分の小指を絡めると、指切りの代わりに可愛らしいウォルファの小指にそっと口づけした。
「───あっ………」
「ああ、もちろん。約束だ」
満面の優しい笑顔を返したヒジェはふと、空を見上げた。既に月が出ており、雪がちらついている。
「この約束は、月のウサギだけが知っているのだな」
「ええ、ウサギとあなたと私だけ。」
二人は顔をもう一度見合わせて笑うと、祭りの最後を飾る燈籠飛ばしのために再び町の喧騒に戻っていくのだった。
二人でひとつの燈籠を買ったヒジェたちは、橋の上にやって来た。
「願い事を念じてから飛ばすのだぞ?」
「わかっています。あなたこそ、きちんと考えていますか?」
「当然だ、決まっておろう。早くそなたの唇を奪えますようにだ」
それを冗談だと知っているウォルファは、呆れた振りをしながら心の中で念じた。
────ヒジェ様と私。党派が例え違えども、そしてそれがどんなに厳しくとも、歩む運命の道は同じでありますように。
また、ヒジェも先程とは全く違う想いを念じた。
───これから南人が起こすであろう事が、俺とウォルファの生きる道を別ちませんように。そして全て失っても、か弱く俺が守らないと消えてしまうようなこの手を、決して離さずに済みますように。
二人の願いを受け入れたのかは分からないが、燈籠が闇夜に舞い上がっていく。そしてそのうち、夜の帳に溶け込んでしまった。
まるで、これからの二人の未来を暗示しているかのように。だが、互いの幸せな未来のことしか念頭にないウォルファとヒジェにとって、そんなことを想像することは不可能に等しかった。
一つの年が終わり、暖かい春に向かおうとしていた。けれどユンの片想い、そしてヒジェとウォルファの両想いの二つの恋は、これから長きに渡って続くことになる厳しい冬の始まりに差し掛かったばかりである。