全年齢向け
少し洒落た喫茶店の奥で若い男が楽しそうに喋っていた。
だが、椅子越しから見える頭はその男1人だけ。
店員は不思議そうにトレーにのせているアイスコーヒーをその席まで持っていくと、その意味を理解する。
「お待たせいたしました、アイスコーヒー2つですね」
テーブルに座っていたのは若い男性と向かいには小さい子供、小学生くらいの男の子だった。
店員はアイスコーヒーを手元に置くとごゆっくりどうぞと一言添えて小さい男の子にニコリと笑い返す。
「偶にはジュースとか頼んでもいいんだよ」
「う~ん、ジュースもいいけどやっぱこっちの方が好きかな?」
「君くらいじゃないかな?小学生でアイスコーヒーしかもブラックが好きなんて」
どこかで聞いた事がある言葉だなと、ふとどっかの早撃ちガンマンを思いながら男の目の前で冷たいアイスコーヒーを飲むコナンだった……
「そういえば、この間また事件を解いたんだって?」
「おじさんがね、えっとね――」
コナンはその時の事件の出来事を新聞とかでは書かれていない部分も細かく、丁寧に説明していく。
男は嬉しそうに語るコナンのキラキラした表情を愛でるかのように眺めながら事件の話しを聞き、時には他愛無い話をして時間を過ごしていく。
喫茶店で話が盛り上がっているとやがて日が傾き始め日が暮れてきた。
「もうこんな時間だね。そろそろ帰ろうか」
「うん…そだね」
2人は喫茶店を後にすると、男はコナンにそっと手を差し伸べるとコナンは少し恥ずかしながらもその手を取り、帰り道を歩いていく。
やがて公園の前に差し掛かるとコナンは握っていた手を名残惜しそうに離す。
「いつもありがとう。送ってくれて」
「いいよ、それにこんな小さい子が何かあったら大変だからね。それより家まで送り届けなくて大丈夫かい?」
「うん、すぐ近くだから。ありがとう」
コナンは男にバイバイと手を振るとその男も振り返してきてくれる。
「また今度ね、黒澤さん!」
その男――黒澤はコナンが見えなくなるまで微笑みながら手を振り続けた。
「はぁ……」
黒澤と別れた後、コナンはため息交じりの息をつく。
探偵事務所に着くと2人ともどこかに出かけているのか誰もおらず、コナンはソファーに横になり、1人物思いにふける。
*****
黒澤という人とはある事件をきっかけで出会った。
始めは事件の容疑者だったが、いつものように麻酔銃を使って小五郎のおっちゃんを眠らせ事件を解決。
その数日後にコンビニで再開した。
軽く挨拶をし、話した後別れた筈だった…だが偶然にもそのコンビニに強盗が入ってきた。
本当にオレって何か憑いているんじゃって思うくらい事件に遭遇してしまう。
いつものようにキック力増強シューズを使いボールを出し蹴ろうとした瞬間だった…
強盗の目の前に平然と黒澤さんが近づいていきいとも簡単に強盗犯を投げ飛ばし一発KOしてしまう。
オレはその場でボールを空振りしてしまいその場で尻もちをついてしまい、店員が呼んだ警察によって強盗はあっさりと逮捕。
「ボウヤ大丈夫かい?」
尻もちをついていたオレを心配そうに黒澤さんが話しかけてくれて大丈夫と返したが、不安そうな表情を浮かべていた。
無理も無い、ふつう小さい子供が強盗にあったら怯えたり泣いたりするのが普通の現象だ。
だがオレは高校生、こういうのも慣れておりもっと大変な目にもあっていたからこのくらいの強盗なんともないのだ。
黒澤さんはボクを起き上がらせてくれて、本当に大丈夫かい?と心配をしてくれた。
「本当に大丈夫です、ありがとう。黒澤さん」
「そうか…ならいいが。とりあえず外に出ようか」
黒澤さんに言われ、コンビニの外に出ると黒澤さんが袋から缶を2つ出す。
「さっき買ったものだけど、どうぞ」
黒澤はコナンに炭酸ジュースとコーヒー缶を渡す。
「あ、ありがとう。じゃあ…こっちで」
「そっちでいいのかい?」
コナンが選んだのは缶コーヒーだった。黒澤は少し驚いた表情を見せると、こっちのほうが好きだからと返すと少し微笑みながら黒澤は残った炭酸を開け壁にもたれながらそれを1口飲む。
「この間は事件の容疑者になってどうしようかと思ったけど、君のお父さんに助けられちゃったね。どうもありがとう」
「あっ、あの人はボクの父親じゃなくて……」
オレはこれまでの経緯を話し、もちろん幼児化の話は覗いてだが。
だが話した後黒澤は少し申し訳なさそうな顔をしていた。
まあ、こんなガキが親元を離れて居候だ。何か思うのは仕方のないことだ。
「そういえば、黒澤さんあの時の事件不審な個所いくつか解っていたよね?」
「ああ…まあ、少しだけね。元々推理ものとか結構好きで、犯人とか結構解っちゃう時あるんだよね。」
「へえ~凄いね黒澤さんって」
今時推理物が好きで犯人が解る人ってあんまりいないから素直に凄いと思った。
長めの黒髪で表情はとても穏やかな印象だが、どことなく威厳も感じられた。
だが話してみるととても感じがいい人で結構いいスーツを着ている所を見ると何処か良い企業に入っているんだろうなとも思う。
だがこの黒澤さんには不思議な既視感があった。
あの事件で初対面な筈なのになぜか“初めて”ではない感じがした。何処かで会ったのだろうかと思うのだが思い出せない。
名前も下が“陣”とあいつを思い浮かべた時もあった。
だがあいつとこの人では雰囲気がまるで違う。ベルモットのように姿や性格を本人そっくりに変えるならまだしも、あいつにはそういう芸当はできないだろう。
やはり、本当に初対面で誰かと勘違いしているのだろうと思った。
「じゃあ推理が得意ならボクが今までの事件教えてあげようか?覚えている範囲だけど」
「えっ、いいのかい?実は名探偵毛利小五郎の事件TVで見て私も謎を解いてみたかったんだよ。」
「うん、ボクが覚えている範囲でよければ」
(まあ、ぶっちゃけオレが解いてるんだけどな。その推理…)
ニコッと黒澤に笑顔を向けると、ありがとうと黒澤は口が弓なりに反れて笑う。
それからコナンと黒澤は度々こうして会い、小五郎(コナン)が解いた事件を黒澤に教えることになっていく。
だが、下の名前が気になってしまう時がある。
確かにあいつと特徴が似ている場所もいくつかあるが、それだけだ。
性格がまず違っており、声色も違う。
あいつは冷徹で残酷だ…今でも悪夢にうなされることだってある。
けど黒澤さんはあいつとは正反対だ。
温厚でやさしく、見た目がガキなオレでもしっかりとした対応だ。
なにより傍にいると妙に落ち着く感じがしたのだ。
始めの方は警戒も兼ねて推理を教える傍ら黒澤さんの事を観察していた。
だが、2度3度と会う回数が増えるにつれて黒澤さんの人望や人格が露わになるにつれて、この人はあいつとは全く違う人だと思うようになっていき、最近ではこの人の前にいると自分も心から落ち着けるようになっていった。
「オレ、黒澤さんの事……」
好き なのかな……
いざそう思い始めると顔が赤くなりソファーに顔を埋める。
だが瞳の裏に黒澤の顔が出てきてさらに顔が赤くなり今度はソファーから飛び起きる。
相手は男ましてや自分とかなり年の離れた人を好きになるなんてありえないと思った。
だけど、黒澤の事を考えると胸が高鳴るのを感じる。
コナンはソファーにもたれて大きなため息をついた。
ある日、コナンは昴が居候している工藤邸に足を運んでいた。
「最近、何か変わった事がありませんでしたか?」
「え?」
何を急にそんなの事言うんだろうと、飲んでいた紅茶を飲む手が止まってしまうコナン。
「特に何もないけど…どうしたの昴さん」
「いえ、君が何もないというなら私の気のせいでしょう…」
すみませんと一言そういうと紅茶を飲みほし、近くにある引出しをあけ薬の入ったカプセルをコナンに渡す。
「そろそろ切れる頃でしょう。予備の薬渡しておきますね」
「…うん。ありがとう」
錠剤を貰うとその袋をコナンは強く握りしめる。
あの10日間に及ぶ監禁生活でオレは永遠と思えるくらいの地獄を味わった…
黒の組織に捕まり、あまつさえジンに犯され続け、いろんな薬を打たれ未だにその後遺症が残っている。
筋肉の方は元に戻ったが、催淫の効果がまだあり、常に薬を持っていないと危ない状態だ。
薬を飲めば効果が次第になくなるから、常に常備しておかないと気が気ではない。
だがここ最近症状も軽くなり、くるスパンも遅くなりつつあった。
「じゃあボクそろそろ帰るね、ありがと」
席を立ち玄関に向かうと昴がチョーカー型変声機で声色を赤井に戻す。
「ボウヤ、最近身の回りで最近知り合った人に不審な男はいなかったか?」
「えっ…?」
昴の顔で瞳が開きじっとコナンの顔を見つめる赤井に、コナンは小さく笑う。
「不審な男なんていないよ。心配してくれてありがとう赤井さん。じゃあね」
コナンはバイバイと手を振り工藤邸を後にする。
「……俺の気のせいならいいが。」
赤井はその後ろ姿を見つめつぶやいた――
赤井さんが言っていた不審な男に一瞬黒澤さんの顔がよぎったが、赤井さんが考えている様な人じゃない事はオレがよく知っている。
確かに始めは疑ったりもしたが、会うにつれてあの人は良い人だと思うようになったし、それにオレはあの人の事が好きなんだと思う――
男でしかも今はガキなオレだけど、この感情は抑えようとしても湧き上がってきてしまう。
あの人はオレの事をどう思っているんだろうか…
やっぱりただの小学生に見えているんだろうか。
保護者のような見かたでただ、一緒にいるだけなんだろうか……
だけどガキが言う言葉をあんなに真剣に聞いてくれる大人もそうそういない。
オレはそれを確かめたくて、黒澤さんのケータイに電話を入れ、会う約束をした。
「ごめんなさい、急に呼んじゃって…」
「いいんだよ。丁度仕事終わった所だからね」
口元を弓のように引くと、黒澤は椅子に着くと、コーヒーを注文した後、今日はどうしたんだい?と問いかける。
「なにか悩みごとでもあるのかな?」
会ってすぐに直球でそれを言い当てるなんて、自分の顔がいつもと違うのを解っていてそれを言い当てるなんてやはり黒澤さんは観察眼がいいんだなって思う。
「……顔に出てた?」
にこりと頷くと、オレは顔を赤くして黒澤さんに思い切り話をぶつけてみる事にした。
「ボクのことどう思ってますか…?」
「小学生の割にとても頭がきれる子。そして大人でも気づかないところによく気付く…かな」
注文したコーヒーを一口飲みながら黒澤は言う。
「そうじゃなくて…ボクのこと好き。ですか……?」
高校生だとこれはおかしいのだが、今は小学生だ。
小さい子供がよく大好きな人に“この人と結婚する!”とか平気で言うから多分今のオレの言葉もそういうふうに捉えられているんじゃないかなと思う。
だが、オレは本気だ。
黒澤さんもオレがこういう事を言わないだろうという事は解っている筈だ。
「……君は冗談は言わない子だと理解はしているが」
飲んでいたコーヒーを皿に置き、自分の方を見つめてくる黒澤さんの表情が真面目になると一息起き、俺にやさしく話しかけてくる。
「君はまだ子供でしかも小学生だ。確かに頭はキレる。それにとても賢く小学生以上に見える時もある。だが、もし君と付き合うというならば私は捕まってしまう。」
手錠をかけられたように手を合わせて黒澤は薄く苦笑いをする。
「けどオレの方があなたに告白したんだからこれは合法ですよね?!それにオレは大人と人とよく歩いているし、あなたと付き合っていたとしても第3者からは恋人には見えない筈です!それに今のこの関係だって十分付き合っている雰囲気なはずです!これが“恋人同士”の関係性になるだけです、今とそう変わらない筈だ!」
思わず素の“新一”の口調で大きな声を荒げてしまい、黒澤はビックリしていた。
そして当の本人も思わず興奮してしまった事にしまった…と思い口元に手を当て、周りを気にする。
「まあ…確かに今の状況とそう変わらないかもしれない。だがその関係性が無理なんだ。法律や世間が許してはくれない。君がもう少し大人になってまだその感情が…」「ごめんなさい!黒澤さんっ」
黒澤の話の途中でコナンは席を立ってしまうとそのお店から出ていってしまう。
(やってしまった……)
お店から突然出ていってしまいビルの合間の小さな路地にしゃがむコナン。
「くそっ…らしくねぇな」
顔を埋め、大きくため息をつく。
「黒澤さんもオレの事 意識していたと思ったのになぁ…」
何度も会っていて、自分に好意を抱いているなと何となく気づいていたから自分が勇気を出して言ったのに見事に玉砕。
(まあ、当たり前か。オレはこんな姿だもんな、さすがにガキに手を出したら犯罪になっちまう。)
もし黒澤さんに会っていたのが新一だったらなにか変っていたのだろうか…
あの時告白したのがコナンじゃなくて新一だったらあの人は受け止めていたのだろうか…
新一の姿ならどれほど良かったのだろうと、こんな身体にした黒ずくめの男たちに憤りを感じてしまう。
またため息をつくとしゃがんでいた身体を起き上がらせると一呼吸置く。
急に店を出ていってしまったっため黒澤さんが心配しているかもしれない。
オレは裏路地から顔を出すと急に身体が宙に浮き、大通りから一気に遠ざかりさっきいた裏路地の奥の方へと追いやられてしまう。
急な事で一瞬何が起こったか分からなかったが、すぐに頭を回転させ状況を確認する。
(相手は3人か…両腕を捕まえられていて身動きが取れないか。一体何なんだこいつらは…見た所何処にもいそうなチンピラっぽいけど)
裏路地の奥の方に行くと身体を下ろされ、周囲をその男たちに囲まれてしまう。
「おにいさんたちいきなり何するの」
「へー、ガキのくせに大人3人に囲まれながらも威勢がいいじゃねえか」
リーダーっぽい男がコナンに話しかけるといきなり懐にあったスマホをその男に取り上げられてしまう。
「…はっ…やっぱりな。おいガキ、ここに電話しろ」
勝手にスマホを盗られアドレス帳からある人物の名前を表示する。
そこに書かれていた名前は鈴木次郎吉だ。
名前を見た瞬間、こいつらは金目当てで自分をこんな場所に追いやったのだと把握した。
何度もキッドを追跡していたせいでTVの取材などで顔は全国に晒されていたせいで、金持ちの知り合いとして認識されていたようだ。
「お兄さんたちお金が目当てなの?悪いけどそんなことで大金が手に入ると思ってるの?誘拐したとしても警察や大人の人がすぐに見つけてお兄さんたちすぐ捕まえて刑務所行になっちゃうよ」
「ハッ!ガキのくせに頭が働くな。」
男は息を吐きながら笑うといきなり胸ぐらを捕まれ、殴られると思ったがリーダーである男の言葉で制止させられる。
「見える場所の傷はバレちまう」
「ああ?だったらどうするんだよ」
見えない傷をつくればいいんだよとリーダーの男は俺の身体を上から下まで見ると殴ろうとした男もソレに気付き、悪そうな笑みでオレを見つめてくる。
「――ッッ!!」
瞬間オレの身体は硬直した。あの目にあの笑み…今でも鮮明にフラッシュバックされる記憶の表情そのものだった。
男たちはオレの腕を頭より上に上げると上着をまくり上げる。
「やめろ…ッッ!!」
「ガキの癖に何をされるかわかってんのか…聡明なおこさまはコッチの経験もあるのかな!」
男は続けざまにズボンを下ろすとコナンは下着一枚の状態になる。
瞬間以前の虐げられた記憶が溢れるように出てきてしまい、その反射で瞳からは涙がこぼれてくる。
(いやだいやだいやだ!!だれか……)
助けて……
震えながら息をのんだ瞬間目の前にいた男が視界から消えた。
「えっ…」
鈍い音と共に男がふっとばされていた。他の男たちが動揺しているのが目に入り、視線を上に向けると黒澤がいた。
黒澤は着ていた上着をコナンにかけると一言男たちに渇を入れる。
「この子に指一本でも触れて見ろ 次は容赦しない」
黒澤の眼光がぎらつき、男たちは一瞬で恐怖を覚え小さく悲鳴を挙げて一目散に逃げていく。
「すっげー…」
小さくコナンは呟くと黒澤はその場にへたり込んでしまう。
「あ~~…怖かった。顔面を殴ると結構痛いんだね」
さっきの威勢はどこへやら。黒澤はコナンの方に振り向きながら殴った手をひらひらとかざし、痛いと呟きながら笑う。
脱がされたズボンを履き被せてもらった服を黒澤に渡すとすごく不安げな表情を向ける。
「大丈夫?変な事されなかった?」
「うん。服脱がされただけだから大丈夫だよ。ありがとう黒澤さん」
そうか…と黒澤は胸をなでおろすとコナンの腕を引っ張って立たせてもらうのだが、腰に力が入らない。
「あはは…腰抜けちゃった」
無理もない。危うく強姦まがいな事をされそうになったのだ。普段ならあれくらいの事で怯むコナンではなかったのだが、あの時の記憶が脳裏によぎると身体が動かなかった。
(ヤベェよな…こんな調子じゃ)
しっかりしないと!と自分に渇を入れると急に体が持ち上げられ黒澤の腕の中に収まる。
「えっ…!黒澤さん!?」
「立てないんだろう。このままお姫様抱っこして帰ろうか」
少し笑いながら言うとコナンは一気に恥ずかしくなる。お姫さんだっこは嬉しいが、人目の付くところでそれはやめてほしいという自制が働き、おんぶでお願いしますと黒澤に言うと、2つ返事で返しながら黒澤におぶさり帰路に着く。
そんな2人の様子を遠目で見ていた人がいた―――
『あれは……』
To Be Continued…
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2015.8/29 2021.12/31
だが、椅子越しから見える頭はその男1人だけ。
店員は不思議そうにトレーにのせているアイスコーヒーをその席まで持っていくと、その意味を理解する。
「お待たせいたしました、アイスコーヒー2つですね」
テーブルに座っていたのは若い男性と向かいには小さい子供、小学生くらいの男の子だった。
店員はアイスコーヒーを手元に置くとごゆっくりどうぞと一言添えて小さい男の子にニコリと笑い返す。
「偶にはジュースとか頼んでもいいんだよ」
「う~ん、ジュースもいいけどやっぱこっちの方が好きかな?」
「君くらいじゃないかな?小学生でアイスコーヒーしかもブラックが好きなんて」
どこかで聞いた事がある言葉だなと、ふとどっかの早撃ちガンマンを思いながら男の目の前で冷たいアイスコーヒーを飲むコナンだった……
「そういえば、この間また事件を解いたんだって?」
「おじさんがね、えっとね――」
コナンはその時の事件の出来事を新聞とかでは書かれていない部分も細かく、丁寧に説明していく。
男は嬉しそうに語るコナンのキラキラした表情を愛でるかのように眺めながら事件の話しを聞き、時には他愛無い話をして時間を過ごしていく。
喫茶店で話が盛り上がっているとやがて日が傾き始め日が暮れてきた。
「もうこんな時間だね。そろそろ帰ろうか」
「うん…そだね」
2人は喫茶店を後にすると、男はコナンにそっと手を差し伸べるとコナンは少し恥ずかしながらもその手を取り、帰り道を歩いていく。
やがて公園の前に差し掛かるとコナンは握っていた手を名残惜しそうに離す。
「いつもありがとう。送ってくれて」
「いいよ、それにこんな小さい子が何かあったら大変だからね。それより家まで送り届けなくて大丈夫かい?」
「うん、すぐ近くだから。ありがとう」
コナンは男にバイバイと手を振るとその男も振り返してきてくれる。
「また今度ね、黒澤さん!」
その男――黒澤はコナンが見えなくなるまで微笑みながら手を振り続けた。
「はぁ……」
黒澤と別れた後、コナンはため息交じりの息をつく。
探偵事務所に着くと2人ともどこかに出かけているのか誰もおらず、コナンはソファーに横になり、1人物思いにふける。
*****
黒澤という人とはある事件をきっかけで出会った。
始めは事件の容疑者だったが、いつものように麻酔銃を使って小五郎のおっちゃんを眠らせ事件を解決。
その数日後にコンビニで再開した。
軽く挨拶をし、話した後別れた筈だった…だが偶然にもそのコンビニに強盗が入ってきた。
本当にオレって何か憑いているんじゃって思うくらい事件に遭遇してしまう。
いつものようにキック力増強シューズを使いボールを出し蹴ろうとした瞬間だった…
強盗の目の前に平然と黒澤さんが近づいていきいとも簡単に強盗犯を投げ飛ばし一発KOしてしまう。
オレはその場でボールを空振りしてしまいその場で尻もちをついてしまい、店員が呼んだ警察によって強盗はあっさりと逮捕。
「ボウヤ大丈夫かい?」
尻もちをついていたオレを心配そうに黒澤さんが話しかけてくれて大丈夫と返したが、不安そうな表情を浮かべていた。
無理も無い、ふつう小さい子供が強盗にあったら怯えたり泣いたりするのが普通の現象だ。
だがオレは高校生、こういうのも慣れておりもっと大変な目にもあっていたからこのくらいの強盗なんともないのだ。
黒澤さんはボクを起き上がらせてくれて、本当に大丈夫かい?と心配をしてくれた。
「本当に大丈夫です、ありがとう。黒澤さん」
「そうか…ならいいが。とりあえず外に出ようか」
黒澤さんに言われ、コンビニの外に出ると黒澤さんが袋から缶を2つ出す。
「さっき買ったものだけど、どうぞ」
黒澤はコナンに炭酸ジュースとコーヒー缶を渡す。
「あ、ありがとう。じゃあ…こっちで」
「そっちでいいのかい?」
コナンが選んだのは缶コーヒーだった。黒澤は少し驚いた表情を見せると、こっちのほうが好きだからと返すと少し微笑みながら黒澤は残った炭酸を開け壁にもたれながらそれを1口飲む。
「この間は事件の容疑者になってどうしようかと思ったけど、君のお父さんに助けられちゃったね。どうもありがとう」
「あっ、あの人はボクの父親じゃなくて……」
オレはこれまでの経緯を話し、もちろん幼児化の話は覗いてだが。
だが話した後黒澤は少し申し訳なさそうな顔をしていた。
まあ、こんなガキが親元を離れて居候だ。何か思うのは仕方のないことだ。
「そういえば、黒澤さんあの時の事件不審な個所いくつか解っていたよね?」
「ああ…まあ、少しだけね。元々推理ものとか結構好きで、犯人とか結構解っちゃう時あるんだよね。」
「へえ~凄いね黒澤さんって」
今時推理物が好きで犯人が解る人ってあんまりいないから素直に凄いと思った。
長めの黒髪で表情はとても穏やかな印象だが、どことなく威厳も感じられた。
だが話してみるととても感じがいい人で結構いいスーツを着ている所を見ると何処か良い企業に入っているんだろうなとも思う。
だがこの黒澤さんには不思議な既視感があった。
あの事件で初対面な筈なのになぜか“初めて”ではない感じがした。何処かで会ったのだろうかと思うのだが思い出せない。
名前も下が“陣”とあいつを思い浮かべた時もあった。
だがあいつとこの人では雰囲気がまるで違う。ベルモットのように姿や性格を本人そっくりに変えるならまだしも、あいつにはそういう芸当はできないだろう。
やはり、本当に初対面で誰かと勘違いしているのだろうと思った。
「じゃあ推理が得意ならボクが今までの事件教えてあげようか?覚えている範囲だけど」
「えっ、いいのかい?実は名探偵毛利小五郎の事件TVで見て私も謎を解いてみたかったんだよ。」
「うん、ボクが覚えている範囲でよければ」
(まあ、ぶっちゃけオレが解いてるんだけどな。その推理…)
ニコッと黒澤に笑顔を向けると、ありがとうと黒澤は口が弓なりに反れて笑う。
それからコナンと黒澤は度々こうして会い、小五郎(コナン)が解いた事件を黒澤に教えることになっていく。
だが、下の名前が気になってしまう時がある。
確かにあいつと特徴が似ている場所もいくつかあるが、それだけだ。
性格がまず違っており、声色も違う。
あいつは冷徹で残酷だ…今でも悪夢にうなされることだってある。
けど黒澤さんはあいつとは正反対だ。
温厚でやさしく、見た目がガキなオレでもしっかりとした対応だ。
なにより傍にいると妙に落ち着く感じがしたのだ。
始めの方は警戒も兼ねて推理を教える傍ら黒澤さんの事を観察していた。
だが、2度3度と会う回数が増えるにつれて黒澤さんの人望や人格が露わになるにつれて、この人はあいつとは全く違う人だと思うようになっていき、最近ではこの人の前にいると自分も心から落ち着けるようになっていった。
「オレ、黒澤さんの事……」
好き なのかな……
いざそう思い始めると顔が赤くなりソファーに顔を埋める。
だが瞳の裏に黒澤の顔が出てきてさらに顔が赤くなり今度はソファーから飛び起きる。
相手は男ましてや自分とかなり年の離れた人を好きになるなんてありえないと思った。
だけど、黒澤の事を考えると胸が高鳴るのを感じる。
コナンはソファーにもたれて大きなため息をついた。
ある日、コナンは昴が居候している工藤邸に足を運んでいた。
「最近、何か変わった事がありませんでしたか?」
「え?」
何を急にそんなの事言うんだろうと、飲んでいた紅茶を飲む手が止まってしまうコナン。
「特に何もないけど…どうしたの昴さん」
「いえ、君が何もないというなら私の気のせいでしょう…」
すみませんと一言そういうと紅茶を飲みほし、近くにある引出しをあけ薬の入ったカプセルをコナンに渡す。
「そろそろ切れる頃でしょう。予備の薬渡しておきますね」
「…うん。ありがとう」
錠剤を貰うとその袋をコナンは強く握りしめる。
あの10日間に及ぶ監禁生活でオレは永遠と思えるくらいの地獄を味わった…
黒の組織に捕まり、あまつさえジンに犯され続け、いろんな薬を打たれ未だにその後遺症が残っている。
筋肉の方は元に戻ったが、催淫の効果がまだあり、常に薬を持っていないと危ない状態だ。
薬を飲めば効果が次第になくなるから、常に常備しておかないと気が気ではない。
だがここ最近症状も軽くなり、くるスパンも遅くなりつつあった。
「じゃあボクそろそろ帰るね、ありがと」
席を立ち玄関に向かうと昴がチョーカー型変声機で声色を赤井に戻す。
「ボウヤ、最近身の回りで最近知り合った人に不審な男はいなかったか?」
「えっ…?」
昴の顔で瞳が開きじっとコナンの顔を見つめる赤井に、コナンは小さく笑う。
「不審な男なんていないよ。心配してくれてありがとう赤井さん。じゃあね」
コナンはバイバイと手を振り工藤邸を後にする。
「……俺の気のせいならいいが。」
赤井はその後ろ姿を見つめつぶやいた――
赤井さんが言っていた不審な男に一瞬黒澤さんの顔がよぎったが、赤井さんが考えている様な人じゃない事はオレがよく知っている。
確かに始めは疑ったりもしたが、会うにつれてあの人は良い人だと思うようになったし、それにオレはあの人の事が好きなんだと思う――
男でしかも今はガキなオレだけど、この感情は抑えようとしても湧き上がってきてしまう。
あの人はオレの事をどう思っているんだろうか…
やっぱりただの小学生に見えているんだろうか。
保護者のような見かたでただ、一緒にいるだけなんだろうか……
だけどガキが言う言葉をあんなに真剣に聞いてくれる大人もそうそういない。
オレはそれを確かめたくて、黒澤さんのケータイに電話を入れ、会う約束をした。
「ごめんなさい、急に呼んじゃって…」
「いいんだよ。丁度仕事終わった所だからね」
口元を弓のように引くと、黒澤は椅子に着くと、コーヒーを注文した後、今日はどうしたんだい?と問いかける。
「なにか悩みごとでもあるのかな?」
会ってすぐに直球でそれを言い当てるなんて、自分の顔がいつもと違うのを解っていてそれを言い当てるなんてやはり黒澤さんは観察眼がいいんだなって思う。
「……顔に出てた?」
にこりと頷くと、オレは顔を赤くして黒澤さんに思い切り話をぶつけてみる事にした。
「ボクのことどう思ってますか…?」
「小学生の割にとても頭がきれる子。そして大人でも気づかないところによく気付く…かな」
注文したコーヒーを一口飲みながら黒澤は言う。
「そうじゃなくて…ボクのこと好き。ですか……?」
高校生だとこれはおかしいのだが、今は小学生だ。
小さい子供がよく大好きな人に“この人と結婚する!”とか平気で言うから多分今のオレの言葉もそういうふうに捉えられているんじゃないかなと思う。
だが、オレは本気だ。
黒澤さんもオレがこういう事を言わないだろうという事は解っている筈だ。
「……君は冗談は言わない子だと理解はしているが」
飲んでいたコーヒーを皿に置き、自分の方を見つめてくる黒澤さんの表情が真面目になると一息起き、俺にやさしく話しかけてくる。
「君はまだ子供でしかも小学生だ。確かに頭はキレる。それにとても賢く小学生以上に見える時もある。だが、もし君と付き合うというならば私は捕まってしまう。」
手錠をかけられたように手を合わせて黒澤は薄く苦笑いをする。
「けどオレの方があなたに告白したんだからこれは合法ですよね?!それにオレは大人と人とよく歩いているし、あなたと付き合っていたとしても第3者からは恋人には見えない筈です!それに今のこの関係だって十分付き合っている雰囲気なはずです!これが“恋人同士”の関係性になるだけです、今とそう変わらない筈だ!」
思わず素の“新一”の口調で大きな声を荒げてしまい、黒澤はビックリしていた。
そして当の本人も思わず興奮してしまった事にしまった…と思い口元に手を当て、周りを気にする。
「まあ…確かに今の状況とそう変わらないかもしれない。だがその関係性が無理なんだ。法律や世間が許してはくれない。君がもう少し大人になってまだその感情が…」「ごめんなさい!黒澤さんっ」
黒澤の話の途中でコナンは席を立ってしまうとそのお店から出ていってしまう。
(やってしまった……)
お店から突然出ていってしまいビルの合間の小さな路地にしゃがむコナン。
「くそっ…らしくねぇな」
顔を埋め、大きくため息をつく。
「黒澤さんもオレの事 意識していたと思ったのになぁ…」
何度も会っていて、自分に好意を抱いているなと何となく気づいていたから自分が勇気を出して言ったのに見事に玉砕。
(まあ、当たり前か。オレはこんな姿だもんな、さすがにガキに手を出したら犯罪になっちまう。)
もし黒澤さんに会っていたのが新一だったらなにか変っていたのだろうか…
あの時告白したのがコナンじゃなくて新一だったらあの人は受け止めていたのだろうか…
新一の姿ならどれほど良かったのだろうと、こんな身体にした黒ずくめの男たちに憤りを感じてしまう。
またため息をつくとしゃがんでいた身体を起き上がらせると一呼吸置く。
急に店を出ていってしまったっため黒澤さんが心配しているかもしれない。
オレは裏路地から顔を出すと急に身体が宙に浮き、大通りから一気に遠ざかりさっきいた裏路地の奥の方へと追いやられてしまう。
急な事で一瞬何が起こったか分からなかったが、すぐに頭を回転させ状況を確認する。
(相手は3人か…両腕を捕まえられていて身動きが取れないか。一体何なんだこいつらは…見た所何処にもいそうなチンピラっぽいけど)
裏路地の奥の方に行くと身体を下ろされ、周囲をその男たちに囲まれてしまう。
「おにいさんたちいきなり何するの」
「へー、ガキのくせに大人3人に囲まれながらも威勢がいいじゃねえか」
リーダーっぽい男がコナンに話しかけるといきなり懐にあったスマホをその男に取り上げられてしまう。
「…はっ…やっぱりな。おいガキ、ここに電話しろ」
勝手にスマホを盗られアドレス帳からある人物の名前を表示する。
そこに書かれていた名前は鈴木次郎吉だ。
名前を見た瞬間、こいつらは金目当てで自分をこんな場所に追いやったのだと把握した。
何度もキッドを追跡していたせいでTVの取材などで顔は全国に晒されていたせいで、金持ちの知り合いとして認識されていたようだ。
「お兄さんたちお金が目当てなの?悪いけどそんなことで大金が手に入ると思ってるの?誘拐したとしても警察や大人の人がすぐに見つけてお兄さんたちすぐ捕まえて刑務所行になっちゃうよ」
「ハッ!ガキのくせに頭が働くな。」
男は息を吐きながら笑うといきなり胸ぐらを捕まれ、殴られると思ったがリーダーである男の言葉で制止させられる。
「見える場所の傷はバレちまう」
「ああ?だったらどうするんだよ」
見えない傷をつくればいいんだよとリーダーの男は俺の身体を上から下まで見ると殴ろうとした男もソレに気付き、悪そうな笑みでオレを見つめてくる。
「――ッッ!!」
瞬間オレの身体は硬直した。あの目にあの笑み…今でも鮮明にフラッシュバックされる記憶の表情そのものだった。
男たちはオレの腕を頭より上に上げると上着をまくり上げる。
「やめろ…ッッ!!」
「ガキの癖に何をされるかわかってんのか…聡明なおこさまはコッチの経験もあるのかな!」
男は続けざまにズボンを下ろすとコナンは下着一枚の状態になる。
瞬間以前の虐げられた記憶が溢れるように出てきてしまい、その反射で瞳からは涙がこぼれてくる。
(いやだいやだいやだ!!だれか……)
助けて……
震えながら息をのんだ瞬間目の前にいた男が視界から消えた。
「えっ…」
鈍い音と共に男がふっとばされていた。他の男たちが動揺しているのが目に入り、視線を上に向けると黒澤がいた。
黒澤は着ていた上着をコナンにかけると一言男たちに渇を入れる。
「この子に指一本でも触れて見ろ 次は容赦しない」
黒澤の眼光がぎらつき、男たちは一瞬で恐怖を覚え小さく悲鳴を挙げて一目散に逃げていく。
「すっげー…」
小さくコナンは呟くと黒澤はその場にへたり込んでしまう。
「あ~~…怖かった。顔面を殴ると結構痛いんだね」
さっきの威勢はどこへやら。黒澤はコナンの方に振り向きながら殴った手をひらひらとかざし、痛いと呟きながら笑う。
脱がされたズボンを履き被せてもらった服を黒澤に渡すとすごく不安げな表情を向ける。
「大丈夫?変な事されなかった?」
「うん。服脱がされただけだから大丈夫だよ。ありがとう黒澤さん」
そうか…と黒澤は胸をなでおろすとコナンの腕を引っ張って立たせてもらうのだが、腰に力が入らない。
「あはは…腰抜けちゃった」
無理もない。危うく強姦まがいな事をされそうになったのだ。普段ならあれくらいの事で怯むコナンではなかったのだが、あの時の記憶が脳裏によぎると身体が動かなかった。
(ヤベェよな…こんな調子じゃ)
しっかりしないと!と自分に渇を入れると急に体が持ち上げられ黒澤の腕の中に収まる。
「えっ…!黒澤さん!?」
「立てないんだろう。このままお姫様抱っこして帰ろうか」
少し笑いながら言うとコナンは一気に恥ずかしくなる。お姫さんだっこは嬉しいが、人目の付くところでそれはやめてほしいという自制が働き、おんぶでお願いしますと黒澤に言うと、2つ返事で返しながら黒澤におぶさり帰路に着く。
そんな2人の様子を遠目で見ていた人がいた―――
『あれは……』
To Be Continued…
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2015.8/29 2021.12/31