零
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私は、山間の小さな村で生まれ、その翌朝には裏山にある祠に「返された」。
実際は、その見てくれのせいで捨てられた、といったほうが正しい。
それでも私がこうして生きているのは、当時の山の主のおかげである。
彼女は___その、山の主というのが雌の銀狐であったのだが、彼女は祠に捨て置かれた私を世話してくれたのだった。
だから私は、自分の母は彼女だと思っている。彼女からお前は捨て子だったのを自分に拾われたのだと言われてもなお、その気持ちに変わりはない。
これから語る私の知る私の生い立ちは、すべて彼女が私に聞かせたものだ。彼女は私に嘘を吐くような者ではなかったので、私は自分のそれを信じている。
___ _
前提として、彼女は山の主であった。麓の里で何が起こっているかなど、手に取るように知っていた。
だからその夜、稀な容姿の赤子が生まれたことも、それが捨てられらことも承知でそれを助けに行った。
そして母乳の代わりにと、希釈した光酒や、蟲の作り出す栄養価の高い液などを私に飲ませた。
それらを夢中で飲む私を見て、母は育て上げることを決めたのだという。主に、それを成し遂げることが難しいと知っていてもなお。
そして私に名をくれたのだ___樹、と。
私が物心ついた頃、母は二つの姿をもっていた。なんせ彼女は山の主である前に狐である。
普段は狐の姿でありながら、私に最低限の知識を教えるときにはヒトの女に化けた。
その時に、言葉やら話し方やらを私は教わった。
そして、お前は二本の足で歩かなければならない、ということも。
母は、主なだけあり何でも知っていた。だからきっとそんな所業がなせたのだろう。山の事だけではない、人の事も伝えてくれたのだろう。
たまに山の恵みを加えて人里に降りていき、帰りに着物を咥えていた母の姿は、今思えば少し微笑ましい。
また、母は優しかった。いや、見方を変えれば残酷だと言われてしまうのかもしれないが、少なくとも私にとっては優しさだったといえる。
物心ついてしばらくたって、自分でいろいろと判断ができるようになって。
そんな私に母は切り出した。自分は本当の母ではないこと。私を拾ったこと。私が捨てられた理由。私にヒトの事を教えてきた理由。そして、いつか私はヒトの世界で生きていかなければいけないこと。
全てを、包み隠さず。
衝撃的だったし思いはいろいろあったけれど、それでも大事にされたことは私が一番知っている。
変わらずに私は母と暮らした。
そして、少し前。
母は、寿命を全うし、主の役目も全うし、私の目の前でその制を手放した。
次の主はもう決まっている事を聞かされていた私は、なんとなしにこの山に居続けるのも申し訳ないと思い、これを機会にとこうして里に下りてきた。