零
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
樹が、化野の家で療養して数日。
起き上がるだけでふらつく程だった体調も良くなり、彼女の寝たきり生活は終わった。
「おい、樹。ちょいと掃除を手伝っちゃくれんかね」
書庫を整理していた化野が、縁側に座っていた樹に声をかける。
『そうじ…?なんだ、それは。なにを、すればいい?』
「え…ほれ、あれだよ。はたきを使って埃を落としてそれを箒で掃いて、って」
『なんだ、その…はたきって』
…こいつ、掃除を知らんのか。
驚く化野を他所に、樹は不思議そうな顔を向ける。
普通に暮らしてきた者なら。この年なら。
掃除くらい知っていてもいいのではなかろうか。
いや、知っていないとおかしいのではないか。
やはりこの娘は変わった経歴を持ってるに違いない。
こうなると、化野の好奇心は止まることを知らない。
「おい、樹。聞いてもいいか?」
『ん』
「お前…今までどんな暮らしをしてきたんだ」
『つまらないぞ、きっと』
いい、聞かせてくれ。
隣に腰掛けた化野を見て、樹がコクリと頷いた。
・
『二山越えたところに、里がある。私の生まれは、そこなんだ』
ぽつり、と語り出した樹の横に、今日の掃除は明日に持ち越しだと決めて腰を掛ける。
初夏を感じさせる爽やかな風が、二人の間を通り抜けてまた空へと帰っていく。
彼女の色のない髪の、風に揺れて陽の光をはらむ様に思わず目を細めながら、その声に耳を傾けた。