零
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「先生、ありがとうございました!」
「おう、薬は欠かすなよー」
いつものように往診を終え、帰路につく。
道端の草木を揺らした初夏の軽やかな風が髪を遊ばせ頬をなでて通り過ぎる。
少し前とは打って変わった抜けるような空の青さは夏の到来を知らせていた。
漁師町であるこの地ではあるが、裏手には多くの山々が連なっている。
今日の往診はその山の麓に近い家であったから、後ろを振り向けばそこが漁師町であるとは感じないほどの緑の豊かさだ。
初夏の息吹もあるから、尚更。
「いやあ、夏だねえ」
家とは反対、山を見ていた化野は誰に言うともなく呟いた。
「立派なもんだ……お?」
ふと、なにか。
山々を見渡していた視界の隅に違和感を覚える。
注意深く見てみれば
青々とした茂みの中に、人、らしきもの。
どうやら倒れているらしい。
「来るときにあったかね、あんなの…」
一応様子を見てくることにする。
近づけば近づくほど、そこにあるのは"倒れた人"。
少女だった。
…こりゃまた、大層なご容姿だな。
知り合いの男を彷彿とさせるようなその容姿に小さく笑った化野は、しゃがみこんで声をかける。
「おい、お前。聞こえるか?」
「……っう」
かろうじて返ってきた返事。
しかしその顔は決してそこでただ休んでいたとは言えないようなものだ。
ぼろぼろの服から覗く肌には殴打のあとや擦り傷が多い。
「…すまんが、見過ごせないからな」
そう断って慎重に少女を背負い、化野は家へ急いだ。