薬売り
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「…なあ、薬売り。私が死んだら泣いてくれるか」
夏の日差しが強い昼下がり。
茶屋の軒先に座り、ぼうと考え事をしていた美雪が、相手の顔も見ずただ道の向こうの方に見える逃げ水を眺めながら口を開く。
その気怠気な口調を気にはせず、薬売りは横目で美雪の方を伺った。
「泣いてほしいんですか」
「…」
いかにも興味深そうに聞く薬売りに、口を噤む美雪。
さっき見ていた逃げ水を、町の子供らが必死になって追いかけている。
どうやら今度はそれを眺めているようだった。
そんな彼女を見越してか、薬売りは美雪の視線の先を己も見つめながら、続けて口を開いた。
「それなら俺なんかではなく…見聞屋の彼にでも頼めばいい。あの人は、貴女を慕ってるでしょう。そのほうが、いいのでは」
その口ぶりは、僅かに自虐的に聞こえる。
しかし周りには、ただ蝉が喧しく鳴いているだけで、そんな事に気が付く者は美雪の他に誰もいない。
見聞屋の彼___というのは、旅の道中度々遭遇する、与作という妙齢の男の事だ。
各地で情報を売り買いする事を生業とし、美雪とはそこそこ長い付き合いがある。
与作の方では、どうやら美雪を好いているらしい、ということは、好かれている本人と薬売り、双方一致の見解だった。
それほど彼がわかりやすい反応を示すというのが正しいのだが。
「…いや、お前がいい。他の奴らには知られたくもない。泣くなど以ての外だ」
薬売りの言葉に暫く黙っていた美雪だったが、ふと顔をあげ隣に座る薬売りを見やると、芯のある声で凛とそう言った。
「…そう、ですか。考えて、おきましょう」
一瞬面食らったような顔をした薬売りだったが、次の瞬間には何やら嬉しそうに、その口元をふっと緩め、柔らかい声でそう返したのだった。
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