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3 years ago

 ある大物芸能人を追ってホテル街へ来ていた俺は、奴が姿を現す瞬間を、今か今かと待っていた。
 草むらに身を隠し、姿を現す瞬間をただ静かに待つ。

 今世間でも人気のアイドルのスキャンダルだ。
 事務所か週刊誌か。
 どちらが買うかは分からないが、まぁ良い金になるだろうと思う。

 そして、遂に現れた目標に俺は草むらから何枚も写真を撮った。
 かなりいい絵は撮れたと思うが、万が一の事も考えて、近くでも撮ろうと草むらから飛び出して、何回もシャッターを切る。

「うわっ!」
「きゃっ!」

 腕で顔を隠そうとしている姿が実に良い。
 悪いことをしています。という風で良い金になりそうな予感がした。

「逃げろ!」

 男の言葉を合図として走り出したアイドルを追いかけようとした俺は、不意に現れた何かにぶつかり、地面に倒れてしまった。

 命と同等くらいに大事なカメラは何とか守ったが、視界の向こうでは既にアイドルと男が走り去った後である。
 まだ何枚か撮りたかったのに、惜しいことをした。

 俺は、ぶつかってきたアホに怒鳴りつけるべく立ち上がったのだが、どうにも相手の様子がおかしい。

「お、お前! パパラッチのとーふ!」
「あん? 誰だテメーは。なんで俺の事を知ってる」
「僕の事! 探しに来たんだろ!」

 何だコイツは。と思いながら、何となく顔に見覚えがあった俺は、懐からメモ帳を取り出して確認する……と、見つけた。
 どうやら地下アイドルの『紅人あかり』という奴らしい。

「フン。地下アイドルね」
「ぼ、僕は別に偶然通りかかっただけで、ここに用事があった訳じゃ!」
「あーあー。良い良い。お前みたいな雑魚に用はねぇんだ。好きにしろ」
「ざ、ざこ……?」

 仕事を邪魔された俺は、呆然としている僕ちゃんに現実を教えてやる事にした。
 タバコを取り出し、火を点けながら、口を開く。

「良いか? お前みたいな奴は星の数ほど居るんだ。自分が特別な何かになれるみたいな顔して現れて、パッと消えてゆく。花火と同じさ。夜空から消えたら何も残らねぇ」
「……!」
「そういう訳だ。石ころ君。現実が分かったら田舎に帰ると良い」

 俺は情けない顔をしている『紅人』の写真を数枚撮り、その場を立ち去るのだった。

「だが、まぁ。この写真が高値になる事を祈ってるぜ。『紅人』君。ガハハハ!! ワハハハハ!!」




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とーふさまより
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