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三國無双

君を。君だけを攫ってしまいたい。春の終わりを叫ぶかのように、風に煽られて散っていく花びらと共に。君。君だけが私の唯一だった。唯一の番であったよ。それは未来永劫変わることがなくて、ただむなしく、かなしい。君を想えば涙が流れる。
ああ、どうして今、この手を君が握ってくれないのかって。

鶏が朝を呼ぶ声に合わせて、出陣の支度を整えていた最期の君が思い出せない。早朝にもかかわらず、やけに日差しがまぶしかったんだ。逆光に包まれた君はやさしい声で「いってきます、」と呟いた。これから多くの兵を殺めに行くというのに、なんてやわらかな声を出すんだろう。そういう君の、冷静になりたがっているときの声も、好きでたまらなかった。
日の出と共に出陣した君は、日の入りと共に帰陣した。まるで寝入ってるかのような綺麗な顔で。
ねえ君、心の臓を突かれてどうしてこんな穏やかな顔をしていられるの。君の死に顔を、こんなにも早く見ることになる私のことを少しでも考えてくれたかい。
ああそうだ、君のことだ。命の灯が消え入るまで、この国のことを思っていて、殿が平かな世にしてくださると、そう信じてこんな穏やかな顔をしているんだ。

私が知らないはずないじゃないか。

君の死に顔を見る未来なんて想像したこともなかった。君が私を看取るのだと信じてやまなかった。こんなにも苦しくて、苦しくて。君の生きた証が楔となって私を貫く。
ああ、まぶしいな。君の生が、まぶしいよ。愛してやまない君の生が、私には必要で、まぶしくて、苦しい。
こんな感情を私に植え付けるのは君だけでいい。君の代わりに何倍も生きて、何倍も国のために働くよ。君は草葉の陰で悔しがっていればいいさ。
そう遠くないうちに私もそちらへ行くから、寂しくて泣いたりしないように。もう君の涙を掬ってやることもできないのだから。
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