君は恋にうるさい

火の灯った煙草を、口にくわえたままでゆらゆら揺らす。最近はまた値段が高くなったせいか、愛煙家には少々世知辛い世の中になった。でも禁煙しようなどと思う気持ちは微塵もない。煙草を落とさないように欠伸を噛み殺しながら、空を仰いだ。

雨の匂いとアスファルトから昇る熱気に、そういえば昼間は雨が降っていたとあまり回らない脳みそで考え出した。雨が降った後の空は、何時もより幾分か綺麗な気がする。

空に走る一本の飛行機雲。浅葱色に映える入道雲。うっすらと肌に浮かぶ汗の玉。短い人生を叫ぶ蝉の声。


夏は嫌いだ。


元から明るいカッパーベージュ色をした髪を掻き上げて、ジーンズのポケットに手を突っ込む。

『潤。』

左手をさわさわと動かした。

『お前は俺の左側だろうが。』

彼は何時になったら俺の心から消えてくれるのか。まだ長い煙草を灰皿に押し潰して顔を伏せた。



夏は嫌いだ。



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