「できねえって最初から諦めんな。できる、ぜってえ見つけてやるって気持ちで個性使え」

『う、うん』


後輩に指導され、なんとも言えない気持ちになる。でもそんなこと言われるの久しぶりだ。もちろん訓練は何度もしたし、先輩達も訓練を手伝ってくれたり、アドバイスをしてくれた。でも全く上達しない私を見兼ねてみんな何も言わなくなった。憐れむような目で見られるようになった。
きっとこの子もいつかは...ううん。諦めるのはまだ早い。ちょっとでも後輩にいいとこ見せなきゃ!
集中し、ヴィランを見つけてやると念じながら歩く。
...!


『爆豪くん!あの交差点の角から車で宝石強盗が出てくる。多分3人』

「行くぞ!」


交差点に丁度着いた頃例の車が現れた。信号無視で突っ込んでくる!


「ほんとにきやがった。やるじゃねえか#ユウ#。後はオレがやる!危ねえから下がってろ!」


爆破で器用に空を飛び、閃光のような光が強盗の車を襲う。強盗の目が眩んでる間に車のフロント部分を爆破し、即刻強盗を捕まえてしまった。車に引火してしまう可能性を踏まえての行動。判断力、スピード。
ほんとにこの子すごい...!


『すごいね爆豪くん!流石大注目のルーキーだ』

「別にこんくらい普通だろ」


普通か...実際彼にとってはそうなのだろう。じゃあ私は...ダメだ。彼といると余計に自分はダメな奴だって実感して立ち直れなくなってしまいそうだ。


「それより、ちゃんと視れたじゃねえか。情報もドンピシャ。おかげで立ち回り方考える余裕もあったしスゲえ戦いやすかった。次行くぞ」

『うん...!』


久しぶりに褒められた。嬉しい気持ちになりながら見回りを始める。
その後もヴィランを捕まえたり、事故を防いだり自分でも驚くくらい調子が良かった。


「全然問題ねえじゃねえか。できねえってのはふりか?」

『ふりじゃないよ!なんかわかんないけど、今日はすごく調子がいいの。不思議...っうわ!』

落ちていた石に躓いて思いっ切りコケた。
せっかく良い気分だったのに痛いし、恥ずかしいし散々すぎる!

「大丈夫かよ」

呆れた顔で手を差し伸べてくれる爆豪くんに申し訳なく思いながら、ヒリヒリする手のひらで頑張って自力で立ち上がる。
火が大の苦手な私は爆豪くんの個性が怖い。彼が誤って爆破するなんてことないのは分かってる。でもそれでも怖いものは怖い。さっきまで爆豪くんが横にいるだけで体が強ばっていたくらいだ。触れるのはかなり難易度が高いというか、爆豪くんの爆破の根源が掌という時点で手は絶対触れられない。

「おい、手も足も血出てんじゃねえか!とりあえず水道探すぞ。歩けるか?」

『全っ然大丈夫大丈夫!』

正直かなり痛いがここで手を貸すなんて言われたら罪悪感で死んでしまう。

「あぶねッ!」

グイッと腕を引かれた刹那、体が強ばり反射的に爆豪くんの手を振りほどいてしまった。
キキーッという音が聞こえたと同時くらいに体に衝撃が走り地面に投げ出される。

『い...た...』

どうやら自転車に轢かれたらしく、視界の先に自転車は転がっている。

「おい!しっかりしろ!」

『ヒッ!触らないで!』

伸ばされた爆豪くんの手から逃れるようにして身を縮める。

『ご、ごめん...私、火が苦手で爆豪くんの個性が怖くて...助けてくれようとしたのにほんとにごめんなさい』

「いや...悪かった...すぐ救急車が来るらしい。動くと危険かもしんねえし来るまでじっとしてろ」

『うん。...ほんとにごめんね』


結局、自転車のスピードも落ちていたし、そこまで大した怪我もなく意識もハッキリしていたので入院することも無く夕方には帰れる事となった。

「荷物、会社から持ってきた」

『ごめん、ありがとう。貴重な爆豪くんの1日無駄にさせちゃったね』

「そんなのいい。触れらんねえし、荷物持ちくらいしかできねえけど送ってく」

『そんないいよ別に。タクシー使って帰るし』

「オレ、車持ってる」

『マジか』


助手席から運転する彼の姿を眺める。


『爆豪くんはなんでヒーローになろうと思ったの?』

「ナンバーワンになるため」

『あははっ そっか。爆豪くんなら成れるよきっと』

「お前は」

『私?私は...正直よく分かんないんだ。そんな使える個性でもないし、火見ると竦んじゃうし、人を救けたいって気持ちも人並みだし、多分ヒーロー向いてない。でも学生の時にいつだか分からないけど視えたの。知らない誰かが死ぬ瞬間が。知らない人の筈なのに、どうしようもなく悲しくて、胸が苦しくなってあの人を救けなきゃって、ヒーローになる道を選んだ。わけわかんないよね。そんな知らない誰かの為だけにさ...他の人には内緒にしてね』

「オレも誰かに見つけて欲しいってガキの頃からずっと顔も名前も知らねえソイツを探してた。それで今日やっとお前を見つけた」

『え...?』

「朝言っただろ。見た瞬間ピンときた。あとそのラベンダーの匂い。昔から懐かしいような悲しいようなとにかく胸がザワつく匂いだった。だから運命としか言いようがねえだろ。やっと見つけたんだ。触れられねえくらいで諦めたりしてやんねえからな」

『へっ!?』

「着いたぞっていうか、ほんとに家ここで合ってんのか?」

『え!?合ってる合ってる!そこのアパートの1階だよ!』

「オレの家そこの3階」

『ええー!?』





もしかして運命?





2/2ページ
スキ