短編
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『痛っ〜』
「何やってんだてめえ」
思いっ切り柱にぶつかった私をかっちゃんがしらーっとした目で見てくる。
考え事をしていて全く目に入ってなかった...くすくす笑い声が聞こえるしもうやだ恥ずかしい...
「柱にぶつかるとかマジで何やってんだよ...昨日は扉にぶつかってたしよ」
『えっあれ見られてた!?誰にも見られてないと思ったのに!』
「はあ...そんなんじゃそのうち怪我するぞ。なんかあったのか?」
『あったというか...うん...』
私は今というか今月に入ってずっと悩み続けていることがある。
もうすぐかっちゃんの誕生日なのにプレゼントが浮かばない!!
あれもダメこれもダメと悩み続けてもうあと1週間しかない。
センスもないし料理も出来ないし、かっちゃんが何なら喜んでくれるか全然分からない。
「んだよ。ハッキリ言え」
『えっと...』
本人に言ってしまうのは流石にどうかと思ったが、ものすごい勢いで睨んでくるかっちゃんから言い逃れできそうもなく渋々理由を話す。
「オレの誕生日プレゼントだァ?そんなくだらねえ事で悩んでたのかよ」
『くだらなくない!かっちゃんの喜んでくれる物が浮かばなくてほんとのほんとに悩んでるんだから』
「だったらオレに直接聞きゃあ良いだろ。下手に予測しようとするよりよっぽど手っ取り早いし確実だ」
『じゃあ何が欲しい?あまりに高い物は無理だけどできる限り頑張る...!』
「...考えとく」
夕方になり、決まったとかっちゃんが、心做しか落ち着きのない様子で私に話し掛けてきた。どんな物が欲しいか興味津々に続く言葉を待つ。
「今週の日曜、映画行くの付き合え」
『へ?』
「なんか文句あんのか」
『ないけど、まさか映画って言われると思わなかったからびっくりした』
「チッ 分かったら1日空けとけ」
『分かった』
「そんなお二人に耳寄り情報!今週の日曜なら割引も特典もあるここがオススメ!」
キッとどこからともなく現れた上鳴くんを睨みつける
かっちゃんに苦笑しながら見せてくれた画面を覗く。
『すごい!安いうえにポップコーン付いてる!』
「流石ユウちゃん良い反応!でこれが割引の条件!」
『条件?』
かっちゃんの方を向くと何故かそっぽを向かれた。
「条件はカップルか夫婦であること!」
『ええ!?ダメじゃん!』
「その日だけカップルってことにしちゃえばいいんだって!実際1日で別れるようなパターンだってあるし!ちょっとカップルっぽいことしときゃバレねえって!」
『ええーでもカップルっぽい事とかわかんないし、そういうのかっちゃんは嫌だと思うし...』
「...別に...」
『え!?』
「じゃあ決定〜!2人ともちゃんとカップルに見えるようにオシャレしてけよ〜」
『ええー!?』
言うだけ言って消えてったよあの人!どうすんのこの空気!
「おい」
『は、ハイ!』
「お前は嫌じゃねえのかよ」
『私?私は嫌じゃないよ?ポップコーン食べれるし』
「チッ!やるならちゃんとやれよ。オレは中途半端は嫌えだ」
『わ、分かった』
『と言ったもののどうしよう!カップルらしいって何!?オシャレって何!?』
「ユウちゃん落ち着いて...オシャレは私もよく分からんけど、みんなに一緒に選んで貰えばいいよ!カップルらしい事は周りの真似をすればいいんじゃないかな?そんなサービスデーなら来てる人大概カップルか夫婦だろうし」
『なるほど!お茶子ちゃん頼りになる〜!』
(カップルらしいって普段通りで全然大丈夫やと思うけど...)
そして当日...
「よし完璧!チョー可愛い!流石私!」
「可愛い!」「これならバッチリだよ!」
『慣れない格好はやっぱり恥ずかしい...』
「似合ってるから大丈夫だって」
「そうそう!もっと自信持って!」
『うん、みんなありがとう。ポップコーンのために頑張ってくる...!』
「ポップコーンのためて...」
「ブレないね〜」
「そのまま爆豪くんと付き合っちゃえ!」
飛んでくる言葉に苦笑しながら部屋を出て、あまり姿を見られないようにそっと寮の外へ出ると先に待っていたかっちゃんと目が合った。
『ご、ごめん、お待たせしました...』
こちらを見たまま何も話さないかっちゃんに焦っているとハッとした様子で目を逸らし、行くぞと手を引かれる。
『やっぱり変かな...デートっぽい服装って女の子達に選んで貰って、髪もセットしてくれたんだけど...』
「別に見慣れねえだけで変とは言ってねえだろ...」
『横歩かれるの恥ずかしいとか思ってない?』
「んなこと思ってねえわ。それより上手いことちゃんとやれよ?バレて恥かくとかごめんだぞ」
『そ、そうだね...頑張ってカップルの人の真似する』
「...なんか早々に嫌な予感がするな」
『なんで!?』
久しぶりの電車に少しワクワクしながら乗り込む。
『電車久しぶりだね〜』
「そうだな。...んだよジロジロ見てきやがって」
『いや、かっちゃんってこういう服も着るんだーと思って』
「着ちゃ悪いかよ」
『全然!いつもスポーティな服着てるからなんか新鮮だなと思って。かっこいいし、よく似合ってるね!光己さんが選んだの?』
「ハァ?オレが選んだに決まってんだろ」
『ええ!?マジか!?めっちゃセンスいいね...かっちゃんネーミングセンスは壊滅的なのに...』
「ネーミングセンスもあるわクソが!」
『いやあれは...ふっ...ふふっ』
「笑ってんじゃねー!」
『いたっ!彼女に暴力は良くないと思います!』
「何が彼女だクソチビ!」
『暴言も良くない!』
ギャーギャー言っているうちに駅に着き、映画館へと向かう。
「ぜってえ上手くいかねえ気がしてきた」
『かっちゃんがキレなきゃなんとかなるってば!とりあえず暴力は絶対ダメ!実際彼女ができた時、そんなんじゃ嫌われちゃうよ?かっちゃん本当はすごい優しいんだから勘違いされたら悲しいじゃん?』
「オレはそんな奴と付き合うつもりはねえ」
『またそういうこと言う...』
ちょっと気をつけるだけでいいのにほんと損な性格だなあ...
映画館に着くとカップルや夫婦らしき人でごった返していた。
「チッ すげえ人だな。はぐれるなよってな、何してんだてめえ!」
『かっちゃん!てめえは良くない!何って周りの人の真似して腕組んでる?え、もしかしてやり方が違う?』
「おもくそ当たってんだよ...」
『ん?ごめん、聞き取れなかったからもう1回』
「なんでもねえ!チケット買いに行くぞ!」
『了解!』
「なんとか買えたな」
『うん!ヒヤヒヤしたけど...それにしてもまさかかっちゃんがこの映画選ぶとは思わなかった。ちょっと気になってたし、私は見れて嬉しいけど!』
「開場になったし行くぞ」
『はーい』
座席に座りポップコーンを2人で食べていると電気が消え映画が始まった。少しして動かないからか段々体が寒くなってきた。
やっぱり薄着すぎた...この時期にスカートで上着なしは寒がりの私にはやはり厳しすぎたようだ。少しでも暖かくしようと体をさするがさして変わらずどうしようか考えていると、膝の上のポップコーンが消え、代わりに上着が乗せられる。
「寒いならそれ着ろ」
耳元で囁かれる声に何故か心臓がドキリとする。
『ありがとう...』
羽織った上着は暖かく、ふわりと持ち主の香りがした。
上着のおかげなのか別のなにかが原因なのか体はすっかり暖まり、熱いくらいだった。
『2人が結ばれて良かった...』
「普段泣かねえ癖にこういうのだとすぐ泣くんだな」
『だって泣けるんだもん...途中どうなるかと思ったけどハッピーエンドでよかった』
「そうだな」
『かっちゃんはさ、主人公みたいに大切な人の為に自分の幸せを捨てられる?』
「...オレならどっちの幸せも諦めたくねえし、両方捨てなくていい方法を探す」
『ふふっ かっちゃんらしいね』
「だからお前も諦めんな。きっと必ずしもどっちかじゃねえ。両方捨てなくてすむ方法だってあるはずだ」
『...そうだね。まあ心配しなくても、私に主人公みたいな強さも優しさもないから!きっと選べず立ち止まっちゃうと思うんだよね』
なにが心配しなくてもだ...
絶対こいつは自分の幸せを捨てる。今までずっとそうだった。立ち止まることも助けを求めることもせず、すぐに...
「そしたらオレがなんとかする」
『!...あっはは!かっちゃんは頼もしいね。その時はよろしく頼んだ!』
分かってる。きっとこいつは他人を頼らない。だから勝手に止めるまでだ。
もう絶対捨てさせねえ...!
その後ご飯を食べたりショップをまわっていたら時間はあっという間に過ぎてしまった。
『かっちゃんの誕生日プレゼントとして映画行ったのに、なんか私ばっかりはしゃいじゃってごめん。私なんかとカップルのフリもさせちゃったし』
「フリっつーかほぼ素だったじゃねえか。別にいいんじゃねえの。楽しいに越したことねえだろ。...オレもまあ楽しかったし...」
『なら良かった!かっちゃんは意外と良い彼氏さんになれるかもね〜上着ほんと助かった!凍え死んじゃうかと思った』
「寒がりなくせにそんな薄着とか馬鹿だろ」
『オシャレには我慢が必要だって言われたからさ。周りもこれくらいの服装だったし、きっとこれが普通なんだろうなあ。世の女の子達はすごいね』
「アホくせェ。それで体調崩したらどうすんだよ。お前は人一倍寒がりなんだから無駄に我慢とかしてんじゃねえ」
『ふふっ私の心配してくれるんだ。ねえ、かっちゃん』
「んだよ」
『誕生日おめでとう』
「まだ誕生日じゃねえ」
『わかってるよ〜でもなんとなく1番に言いたくなったからさ』
「早すぎだろ」
『先手必勝ってやつだよ!寮だし私が1番最初に言えないかもしれないじゃん』
「当日に出直してこい。しょうがねえから1番に聞いてやるよ」
『約束だからね!じゃあ前日は、かっちゃんの部屋にお泊まりさせてもらおっと』
「はあ!?何言ってんだてめえ!」
『だって部屋で1人でいたら私多分寝落ちしちゃうし...日付変わってすぐに言えるようにしたいの!私床で寝るからいいでしょ?ね?』
「ッ〜〜!分かった好きにしろ!」
言っちまった...
自分の首を絞めるのは分かっていたが、やましい気持ちなど一切なく純粋にオレを祝いたいだけのこいつを無下にすることも出来ず、結局了承してしまった。
そして当日予想通りの展開に溜息が出そうになる。
寝巻き姿で、オレの膝の上に頭を乗せて、スマホを見ているユウに頭を抱えたくなる。
好きな奴と一緒に寝れるなんてラッキーじゃんとか言うやつの気が知れない。無防備にやりたい放題やってくれるあいつにこっちはドキドキさせられっぱなしで気が気じゃないし、常理性との戦いである。
『もうすぐだねかっちゃん!』
「そうだな...」
『眠いかもだけどあとちょっと頑張って!』
疲れているが、なんかもう全然寝れそうもない。
『3、2、1...!かっちゃん誕生日おめでとう!』
「ああ」
嬉しそうに笑顔でオレを見上げてくるユウに思わず頬が緩む。なんだかんだ言っても好きな奴に祝われるのはやっぱり嬉しい。何故かソワソワし始めたユウを不思議に思っていると
ユウが体を起こしてオレに向き直り、少し気恥しそうにオレを見た。
『かっちゃん...!いつも私と一緒にいてくれてありがとう。助けてくれてありがとう。私のこと嫌いにならないでいてくれてありがとう』
「ふっ...どれも当たり前だろ。ありがとなユウ」
『うん...!おめでとうかっちゃん!』
おめでとうをあなたに
「何やってんだてめえ」
思いっ切り柱にぶつかった私をかっちゃんがしらーっとした目で見てくる。
考え事をしていて全く目に入ってなかった...くすくす笑い声が聞こえるしもうやだ恥ずかしい...
「柱にぶつかるとかマジで何やってんだよ...昨日は扉にぶつかってたしよ」
『えっあれ見られてた!?誰にも見られてないと思ったのに!』
「はあ...そんなんじゃそのうち怪我するぞ。なんかあったのか?」
『あったというか...うん...』
私は今というか今月に入ってずっと悩み続けていることがある。
もうすぐかっちゃんの誕生日なのにプレゼントが浮かばない!!
あれもダメこれもダメと悩み続けてもうあと1週間しかない。
センスもないし料理も出来ないし、かっちゃんが何なら喜んでくれるか全然分からない。
「んだよ。ハッキリ言え」
『えっと...』
本人に言ってしまうのは流石にどうかと思ったが、ものすごい勢いで睨んでくるかっちゃんから言い逃れできそうもなく渋々理由を話す。
「オレの誕生日プレゼントだァ?そんなくだらねえ事で悩んでたのかよ」
『くだらなくない!かっちゃんの喜んでくれる物が浮かばなくてほんとのほんとに悩んでるんだから』
「だったらオレに直接聞きゃあ良いだろ。下手に予測しようとするよりよっぽど手っ取り早いし確実だ」
『じゃあ何が欲しい?あまりに高い物は無理だけどできる限り頑張る...!』
「...考えとく」
夕方になり、決まったとかっちゃんが、心做しか落ち着きのない様子で私に話し掛けてきた。どんな物が欲しいか興味津々に続く言葉を待つ。
「今週の日曜、映画行くの付き合え」
『へ?』
「なんか文句あんのか」
『ないけど、まさか映画って言われると思わなかったからびっくりした』
「チッ 分かったら1日空けとけ」
『分かった』
「そんなお二人に耳寄り情報!今週の日曜なら割引も特典もあるここがオススメ!」
キッとどこからともなく現れた上鳴くんを睨みつける
かっちゃんに苦笑しながら見せてくれた画面を覗く。
『すごい!安いうえにポップコーン付いてる!』
「流石ユウちゃん良い反応!でこれが割引の条件!」
『条件?』
かっちゃんの方を向くと何故かそっぽを向かれた。
「条件はカップルか夫婦であること!」
『ええ!?ダメじゃん!』
「その日だけカップルってことにしちゃえばいいんだって!実際1日で別れるようなパターンだってあるし!ちょっとカップルっぽいことしときゃバレねえって!」
『ええーでもカップルっぽい事とかわかんないし、そういうのかっちゃんは嫌だと思うし...』
「...別に...」
『え!?』
「じゃあ決定〜!2人ともちゃんとカップルに見えるようにオシャレしてけよ〜」
『ええー!?』
言うだけ言って消えてったよあの人!どうすんのこの空気!
「おい」
『は、ハイ!』
「お前は嫌じゃねえのかよ」
『私?私は嫌じゃないよ?ポップコーン食べれるし』
「チッ!やるならちゃんとやれよ。オレは中途半端は嫌えだ」
『わ、分かった』
『と言ったもののどうしよう!カップルらしいって何!?オシャレって何!?』
「ユウちゃん落ち着いて...オシャレは私もよく分からんけど、みんなに一緒に選んで貰えばいいよ!カップルらしい事は周りの真似をすればいいんじゃないかな?そんなサービスデーなら来てる人大概カップルか夫婦だろうし」
『なるほど!お茶子ちゃん頼りになる〜!』
(カップルらしいって普段通りで全然大丈夫やと思うけど...)
そして当日...
「よし完璧!チョー可愛い!流石私!」
「可愛い!」「これならバッチリだよ!」
『慣れない格好はやっぱり恥ずかしい...』
「似合ってるから大丈夫だって」
「そうそう!もっと自信持って!」
『うん、みんなありがとう。ポップコーンのために頑張ってくる...!』
「ポップコーンのためて...」
「ブレないね〜」
「そのまま爆豪くんと付き合っちゃえ!」
飛んでくる言葉に苦笑しながら部屋を出て、あまり姿を見られないようにそっと寮の外へ出ると先に待っていたかっちゃんと目が合った。
『ご、ごめん、お待たせしました...』
こちらを見たまま何も話さないかっちゃんに焦っているとハッとした様子で目を逸らし、行くぞと手を引かれる。
『やっぱり変かな...デートっぽい服装って女の子達に選んで貰って、髪もセットしてくれたんだけど...』
「別に見慣れねえだけで変とは言ってねえだろ...」
『横歩かれるの恥ずかしいとか思ってない?』
「んなこと思ってねえわ。それより上手いことちゃんとやれよ?バレて恥かくとかごめんだぞ」
『そ、そうだね...頑張ってカップルの人の真似する』
「...なんか早々に嫌な予感がするな」
『なんで!?』
久しぶりの電車に少しワクワクしながら乗り込む。
『電車久しぶりだね〜』
「そうだな。...んだよジロジロ見てきやがって」
『いや、かっちゃんってこういう服も着るんだーと思って』
「着ちゃ悪いかよ」
『全然!いつもスポーティな服着てるからなんか新鮮だなと思って。かっこいいし、よく似合ってるね!光己さんが選んだの?』
「ハァ?オレが選んだに決まってんだろ」
『ええ!?マジか!?めっちゃセンスいいね...かっちゃんネーミングセンスは壊滅的なのに...』
「ネーミングセンスもあるわクソが!」
『いやあれは...ふっ...ふふっ』
「笑ってんじゃねー!」
『いたっ!彼女に暴力は良くないと思います!』
「何が彼女だクソチビ!」
『暴言も良くない!』
ギャーギャー言っているうちに駅に着き、映画館へと向かう。
「ぜってえ上手くいかねえ気がしてきた」
『かっちゃんがキレなきゃなんとかなるってば!とりあえず暴力は絶対ダメ!実際彼女ができた時、そんなんじゃ嫌われちゃうよ?かっちゃん本当はすごい優しいんだから勘違いされたら悲しいじゃん?』
「オレはそんな奴と付き合うつもりはねえ」
『またそういうこと言う...』
ちょっと気をつけるだけでいいのにほんと損な性格だなあ...
映画館に着くとカップルや夫婦らしき人でごった返していた。
「チッ すげえ人だな。はぐれるなよってな、何してんだてめえ!」
『かっちゃん!てめえは良くない!何って周りの人の真似して腕組んでる?え、もしかしてやり方が違う?』
「おもくそ当たってんだよ...」
『ん?ごめん、聞き取れなかったからもう1回』
「なんでもねえ!チケット買いに行くぞ!」
『了解!』
「なんとか買えたな」
『うん!ヒヤヒヤしたけど...それにしてもまさかかっちゃんがこの映画選ぶとは思わなかった。ちょっと気になってたし、私は見れて嬉しいけど!』
「開場になったし行くぞ」
『はーい』
座席に座りポップコーンを2人で食べていると電気が消え映画が始まった。少しして動かないからか段々体が寒くなってきた。
やっぱり薄着すぎた...この時期にスカートで上着なしは寒がりの私にはやはり厳しすぎたようだ。少しでも暖かくしようと体をさするがさして変わらずどうしようか考えていると、膝の上のポップコーンが消え、代わりに上着が乗せられる。
「寒いならそれ着ろ」
耳元で囁かれる声に何故か心臓がドキリとする。
『ありがとう...』
羽織った上着は暖かく、ふわりと持ち主の香りがした。
上着のおかげなのか別のなにかが原因なのか体はすっかり暖まり、熱いくらいだった。
『2人が結ばれて良かった...』
「普段泣かねえ癖にこういうのだとすぐ泣くんだな」
『だって泣けるんだもん...途中どうなるかと思ったけどハッピーエンドでよかった』
「そうだな」
『かっちゃんはさ、主人公みたいに大切な人の為に自分の幸せを捨てられる?』
「...オレならどっちの幸せも諦めたくねえし、両方捨てなくていい方法を探す」
『ふふっ かっちゃんらしいね』
「だからお前も諦めんな。きっと必ずしもどっちかじゃねえ。両方捨てなくてすむ方法だってあるはずだ」
『...そうだね。まあ心配しなくても、私に主人公みたいな強さも優しさもないから!きっと選べず立ち止まっちゃうと思うんだよね』
なにが心配しなくてもだ...
絶対こいつは自分の幸せを捨てる。今までずっとそうだった。立ち止まることも助けを求めることもせず、すぐに...
「そしたらオレがなんとかする」
『!...あっはは!かっちゃんは頼もしいね。その時はよろしく頼んだ!』
分かってる。きっとこいつは他人を頼らない。だから勝手に止めるまでだ。
もう絶対捨てさせねえ...!
その後ご飯を食べたりショップをまわっていたら時間はあっという間に過ぎてしまった。
『かっちゃんの誕生日プレゼントとして映画行ったのに、なんか私ばっかりはしゃいじゃってごめん。私なんかとカップルのフリもさせちゃったし』
「フリっつーかほぼ素だったじゃねえか。別にいいんじゃねえの。楽しいに越したことねえだろ。...オレもまあ楽しかったし...」
『なら良かった!かっちゃんは意外と良い彼氏さんになれるかもね〜上着ほんと助かった!凍え死んじゃうかと思った』
「寒がりなくせにそんな薄着とか馬鹿だろ」
『オシャレには我慢が必要だって言われたからさ。周りもこれくらいの服装だったし、きっとこれが普通なんだろうなあ。世の女の子達はすごいね』
「アホくせェ。それで体調崩したらどうすんだよ。お前は人一倍寒がりなんだから無駄に我慢とかしてんじゃねえ」
『ふふっ私の心配してくれるんだ。ねえ、かっちゃん』
「んだよ」
『誕生日おめでとう』
「まだ誕生日じゃねえ」
『わかってるよ〜でもなんとなく1番に言いたくなったからさ』
「早すぎだろ」
『先手必勝ってやつだよ!寮だし私が1番最初に言えないかもしれないじゃん』
「当日に出直してこい。しょうがねえから1番に聞いてやるよ」
『約束だからね!じゃあ前日は、かっちゃんの部屋にお泊まりさせてもらおっと』
「はあ!?何言ってんだてめえ!」
『だって部屋で1人でいたら私多分寝落ちしちゃうし...日付変わってすぐに言えるようにしたいの!私床で寝るからいいでしょ?ね?』
「ッ〜〜!分かった好きにしろ!」
言っちまった...
自分の首を絞めるのは分かっていたが、やましい気持ちなど一切なく純粋にオレを祝いたいだけのこいつを無下にすることも出来ず、結局了承してしまった。
そして当日予想通りの展開に溜息が出そうになる。
寝巻き姿で、オレの膝の上に頭を乗せて、スマホを見ているユウに頭を抱えたくなる。
好きな奴と一緒に寝れるなんてラッキーじゃんとか言うやつの気が知れない。無防備にやりたい放題やってくれるあいつにこっちはドキドキさせられっぱなしで気が気じゃないし、常理性との戦いである。
『もうすぐだねかっちゃん!』
「そうだな...」
『眠いかもだけどあとちょっと頑張って!』
疲れているが、なんかもう全然寝れそうもない。
『3、2、1...!かっちゃん誕生日おめでとう!』
「ああ」
嬉しそうに笑顔でオレを見上げてくるユウに思わず頬が緩む。なんだかんだ言っても好きな奴に祝われるのはやっぱり嬉しい。何故かソワソワし始めたユウを不思議に思っていると
ユウが体を起こしてオレに向き直り、少し気恥しそうにオレを見た。
『かっちゃん...!いつも私と一緒にいてくれてありがとう。助けてくれてありがとう。私のこと嫌いにならないでいてくれてありがとう』
「ふっ...どれも当たり前だろ。ありがとなユウ」
『うん...!おめでとうかっちゃん!』
おめでとうをあなたに