インターン&文化祭 編
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『ビルボードチャートってこの前プッシーキャッツが言ってたやつだよね?ヒーローの人気ランキングの事だったんだ〜』
「そんくらい常識だろ。保育園児でも知っとるわ」
かっちゃんの部屋で訓練後の反省会をした後、テレビをつけると、ビルボードチャートの特集をやっていた。
なるほど。支持率だけじゃなくて事件解決数や社会貢献度とかも加味されるのか。
『みんなヒーロー好きだよね〜あっエンデヴァーさん1位じゃん!2位がホークス?誰?』
「最速の男。18で事務所立ち上げて10代史上初チャートトップ10入り。最速最年少」
『なにそれすごい!あっ特集始まった。翼!絶対強いじゃんかっこいいじゃん!しかも支持率すご!まあ個性もだけど顔も良いし、そうなるよね〜納得』
「お前、ホークスみたいなのがタイプなんか」
『タイプっていうか普通に人気なの納得だな〜って。なんでそんな怖い顔してんの?かっちゃんはホークス嫌いな感じ?』
「別に。つーかとっとと自分の部屋帰れや」
『え〜いいじゃん!かっちゃんは私といるの嫌?』
「んなこと言ってねえだろ」
『じゃあいいよね!』
かっちゃんの枕を抱えながらベッドを背もたれにしてテレビを再度見始めると、かっちゃんは溜息をつきながら机に頬杖をついてテレビを見始めた。
『リューキュウって確かお茶子ちゃんが言ってた!
うわ〜ほんとに美人!しかもドラゴンとかかっこよ!
ウォッシュ!?ウォッシュって何者!?』
「うるせえなおい!」
『だってあれヒーローなの!?マスコットとかじゃなくて!?あれ?ベストジーニストってかっちゃんが職場体験に行った』
「ああ」
『そっか...活動休止してるんだ...』
神野事件に関わったから...
アナウンサーが話し始めた神野でのヒーローの活躍、被害の説明に胸が痛む。私が捕まらなければこの人が大怪我する事もなかったのに...
「変なこと考えてんじゃねえぞバカ」
『いたっ!』
私にデコピンをすると、かっちゃんは隣に座った。
『酷い!変なことなんて考えてないもん!』
「思っきし顔に書いてあんだよ。活動休止はオレらのせいじゃねえ。ヴィランがいればヒーローは戦うし、怪我は付き物だ。それでも何度も立ち上がるからヒーローはかっけえんだよ」
『かっちゃん...』
本当はかっちゃんだって気にしてる筈なのに。関わりがある分私よりももっとずっと...
そんな彼に気を使わせて何やってんだろ私...
枕をギュッと握りしめ、俯いているとポンと頭の上に手が乗せられる。
「お前が生きてて良かった」
『私も、かっちゃんが生きて、こうやって隣にいてくれてすごく嬉しいよ』
かっちゃんは何も言わず返事をするかのように、私の頭を撫でた。
静かながらも穏やかで心地よい時間が流れる。
すると突然、テレビの映像が切り替わった。
『エンデヴァーさんに脳無...!』
「まだ残ってやがったのか!」
『あっ!』
切り付けられ傷だらけで倒れるエンデヴァーさんを見て、ひゅっと喉が鳴る。
血が...このままじゃ死んじゃう...ダメ...だって貴方には...!
「おい!ユウしっかりしろ!もう映像見んな!」
暗くなった画面にハッとする。
『早く轟くんのとこに!』
「落ち着け!そんな状態で他人のこと気にしてる場合かよ!」
『だってお父さんが!轟くんを探さなきゃ』
「おい!」
立ち上がった途端に目眩が起こり、足に力が入らなくなる。
倒れるユウをなんとか受け止めたが、支えきれず尻もちを着く。痛みに顔を顰めながら、体を起こすとユウの呼吸がおかしい事に気が付く。
『はッ...轟くッ...はっっ...ハぁッ』
「大丈夫だ!大丈夫だから落ち着け!」
マズい、過呼吸になってやがる...!早く落ち着かせて呼吸を戻させねえと!でもどうすれば...
咄嗟に幼い頃の記憶が蘇る。
苦しそうに浅い呼吸を繰り返し、ぐったりしているにも関わらず、まだ立ち上がろうとするユウを抱きしめる。
「大丈夫だ。ナンバーワンヒーローはそんな簡単に死んだりしねえし、轟には他の奴らがついてる。だからお前は何もしなくていい。考えなくていい」
記憶を頼りにユウの母親がしていたように、ゆっくり呼吸する事を促しながら、子どもを寝かしつけるようにトントンと背を叩いていると段々とユウの呼吸が落ち着いてきた。
「落ち着いたか?」
『うん...ごめんね...かっちゃん』
「謝られる筋合いはねえ。体調は?」
『苦しいのはなくなったけど、まだちょっとクラクラする...』
「まだ動かずじっとしとけ。過呼吸、頻繁にあんのか?」
『ううん。お父さんが死んじゃった時と親戚に連れてかれてすぐは結構あったけど、それ以降はなかった。迷惑かけてごめん』
「今度はちゃんと助けられたか?」
『え...?』
「ガキの頃、苦しそうにもがきながら助けてって言ってるお前に死んじまうんじゃないかって怖くて何もできなかったのさっき思い出した。まあ、今やった事もお前の母さんの真似事に過ぎねえけどよ」
『よく覚えてるねかっちゃんは。
私、全然覚えてないや。かっちゃんに怖い思いさせちゃった事も、お母さんにして貰ってた事も、誰か一緒にいてくれると安心できるって事も...
かっちゃんにはすごく助けられたよ。こんなに早く治まったの初めて。いつも気絶して起きたら治ってるって感じだったから』
「気絶って...」
『大丈夫だよ。過呼吸じゃ人は死なないから。なってる時はすごく苦しいし、精神ズタボロだし、治まっても気分最悪だけどさ。でも今日は体の疲れだけで他は全然大丈夫そう。かっちゃんのお陰だね』
声にいつもの元気がなく、未だオレにもたれかかったまま、ぐったりしているユウはかなりしんどそうだ。
見えないがきっと顔色もかなり悪いだろう。これで軽いなんて、気絶していた時はよっぽど辛かったはずだ。
ましてや連れ去られた時はまだ小学生。到底1人で乗り越えられるものではないだろう。
誰にも助けて貰えず、1人で苦しみ続けるユウを想像して、後悔と怒りで感情がごちゃ混ぜになる。
『かっちゃん?ごめん、邪魔だよね。すぐ部屋に戻っ』
「動くなって言っただろーが」
体を起こそうとするユウをギュッと抱きしめる。
「別に邪魔じゃねえし、いりゃあ良いだろ。寝てえなら寝てもいい。ベッドで横になるか?」
『ふふっ さっきは帰れって言ってたのに...ごめん、もうちょっとだけこのままでいさせて...』
「好きなだけそうしてろ」
『.....轟くん大丈夫かな...エンデヴァーさんちゃんと生きてるかな...』
「2人とも大丈夫だわ。ナンバーワンヒーローはそんなヤワじゃねえし、今頃勝ってんだろ」
『そうだといいな...』
また無理して動こうとしたり、過呼吸になるんじゃないかと心配したが、どうやら大丈夫そうだ。
『かっちゃん...』
「んだよ」
『かっちゃんはいなくなったりしないでね...もう大切な人がいなくなるのも、一人になるのも嫌ッ...嫌だよぉ...』
震えた声で呟くユウは小さな子どものようだった。
「いなくなったりしねえよ。もう、お前を一人にはさせねえって約束する。これは絶対だ」
『うん...ありがとう...』
過酷で凄惨な人生を歩んできたユウの傷は簡単に消えることはない。
それでもきっとユウは迷惑をかけまいと誰にも言わないし、助けを求める事はしないだろう。
普段のユウはそんな暗い過去なんて微塵も感じさせない奴だし、察するなんてまず不可能だ。
幼馴染であるデクやオレの家族はユウの両親が死んでしまっていることを知っているが、引き取られた後ユウがどんな扱いを受けていたかや個性の呪いについても知っているのはオレだけだ。だから、ユウの寄る辺になってやれるのはオレしかいない。
もしオレがユウに告白して、今のような関係が失われてしまったら、ユウは今のようにオレに弱ってる姿を見せるような事はしなくなり、また1人で全部抱え込むだろう。
だったらオレは...
初恋は実らない