インターン&文化祭 編
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珍しくこいつにかっこいいと言われ、散々昔練習した曲を動揺してミスったとか、こんな近い距離に座られて、じいっと見つめられるとか、こっちばかり恥ずかしい思いをさせられるのは気に食わない。
なんて気持ちがあるのも確かだが、この曲を弾いていたらこいつの歌が聞きたくなった。
人に聞かれるのが恥ずかしいらしく、歌う時は決まって2人きりの時だった。
歌が上手いわけじゃない。歌詞も間違えるし、音も外す。でもユウの歌声と2人だけの時に訪れるその特別な時間がオレは好きだった。
歌い出したユウは正面を向いていて、オレからは背中しか見えず、どんな顔をしているか分からないがかなり緊張しているらしく、声は震えているし小さい。無理に振って悪いことしたなと思ったが、慣れ始めたのか音程が安定し始め、声も少しずつ大きくなる。
歌上手くなったなこいつ
ふわっとした可愛い声は昔と変わらず聞いていて心地いい。
同じように隣に座っていた昔は歌ってるユウが見れたのに、違う向きで座っている今は見られず歯痒い。
クソ...早くコイツの顔が見てえ。
『終わった〜』
「お前、歌上手くなったな」
『ほんと!?やったー!今度初カラオケ行ってみようかな!』
「冒頭最悪だったけどな」
『うっ...上げてから下げるのやめてー』
「そろそろ寮戻るぞ。...カラオケ行くなら付き合ってやってもいい」
『やったー!ってことは、かっちゃんの歌聞けるって事だよね!聞いた事ないし楽しみ!約束だよ?』
「わかった。わかったから落ち着け」
分かりやすくご機嫌になったコイツの事を笑えないくらい歌練習しとかなきゃななんて考えてるオレも大概浮かれている。
このまま何もなく寮へ帰れれば良かったのだが、帰る際もユウに声を掛ける奴は多く、その声にイライラしながら寮へと帰った。
『ああ...疲れた...まだ文化祭やってるし、かっちゃん行ってきてもいいんだよ?』
「特に見てえもんもねえしいい」
『そっか...私に付き合ってくれたせいで文化祭あんまり楽しくなかったでしょ?ごめんね』
「普通に楽しんだわ」
寮生活になり、2人だけでいられる時間が貴重になった今、文化祭の内容はどうあれオレには嬉しい時間だった。モブからの邪魔すぎる声掛けがなければ、オレもユウももっと楽しめただろうが、今後の学校生活の為だと目を瞑るしかない。寮に戻れば声掛けはないし、クラスの奴らも暫く帰ってこないだろう。
文化祭が終わるまでもう少し2人でいられるなと横でソファにぐったりと座り込んでいるユウを見ながら考えていると、入口の扉が開く音がした。
「あれ?かっちゃんにユウちゃん、文化祭はもういいの?」
『ちょっと色んな人から声掛けられすぎて疲れちゃって』
「すごい反響だよね!特にユウちゃんは目立ってたからしょうがないよ。可愛いとか綺麗とか僕もあっちこっちでユウちゃんへの声を聞いたよ」
『ほんと勘弁して欲しい...あまりにお世辞がすぎる...』
「そんな!お世辞なんかじゃないよ!本当にすごく綺麗だった。見とれて思わず立ち止まっちゃうとこだったよ。エリちゃんもすっごく綺麗だったって!妖精のお姉さんって言ってたよ」
『そ、そんな!言い過ぎだよ...』
赤くなるユウを見てモヤモヤした気分になる。デクへのイライラも募り、眉間にシワが寄っていくのが自分でも分かった。
『いずっくんはこんな時間にどうして寮に?』
「エリちゃんにりんご飴をプレゼントしたいから、これから作ろうと思って」
『すごい!ねえ!かっちゃん私達も...わっ!どうしたの!?』
「かっちゃん!?」
ユウの腕を掴み、引っ張るようにしてエレベーターに乗り込む。
『...私、何か怒らせるような事しちゃった?』
困ったように、恐る恐る声を出すユウにやっと冷静になり、罪悪感が押し寄せてくる。
きっとユウはデクと一緒にりんご飴を作りたかったのだろう。
何やってんだクソだせェ...
彼氏でもないくせに嫉妬なんて身勝手にも程がある。
他の奴がユウに気があるような事を言うのが気に食わない。他の奴に赤くなったり、可愛い反応をするユウが気に食わない。誰よりも思っているのに他の奴が簡単に言えるような綺麗や可愛いなんて言葉ひとつ素直に言えない自分が気に食わない。
罪悪感からユウの顔を見ることも出来ず、悪いとだけ呟きエレベーターを降りるとユウは追いかけて来た。
「無理矢理連れてきて悪かった。お前は戻ってデクとりんご飴作れ」
『かっちゃんは部屋に戻るんでしょ?私も行っていい?』
「...好きにしろ」
ユウの真意が読めないまま、部屋に入り壁側を向いてベッドに寝転ぶと背中合わせにユウはベッドに座った。どうすればいいか分からず、頭を巡らせていると、不意に髪に何かが触れた。
「なにしてんだ」
『頭撫でてる?』
「撫でんな!」
『あれ?かっちゃん寂しいんじゃないの?』
「誰がだ!寝言は寝て言え!」
『そうなの?引っ張ってかれたからてっきりそうなのかと思って。かっちゃん、昔も私がいずっくんとかとばっかり遊んでると同じことしてたからさ』
「い、いつの話してんだてめえ!」
ほんとに余計なことばっかり覚えてやがる...!
昔から何一つ進歩せず、高校生になっても同じことをしている自分が恥ずかしいが嫌なものは嫌なのだから仕方ない。
「そういう時は寂しかったり、傷ついてる時だから目一杯優しくしてあげてってお母さんに言われたのを思い出したの。優しくって言われてもよく分からないから私がされて嬉しい事をって思ったんだけど、失敗だったね」
「...いい。続けろよ。別に失敗じゃねえ」
『うん...!』
頭を撫でられるなんて何年ぶりだろうか。子ども扱いされてるみたいで少し不服だが、気分がどんどん安らいでいくのを感じる。優しく触れるユウの手がたまらなく心地いい。
「...他の奴と回りたかったか文化祭」
『私はかっちゃんと回れて良かったよ。やっぱり1番自然体でいられるし、かっちゃんは変にお世辞とか言わないから。ピアノも聞かせて貰えたし!かっちゃんこそ良かったの?』
「誘ったのはオレだ。嫌なら誘ってねえわ。..............綺麗だった」
『なにが?』
「演技してるお前だよ。言っとくが、お前の言う通りオレはお世辞なんて言わねえからな」
『〜〜ッ!あ、あの...えっと.........ありがとう...』
顔を見なくてもユウが真っ赤になっていることが手に取るように分かった。振り向き、顔を見上げると案の定、顔を真っ赤にしたユウと目が合った。
「ハッ 顔真っ赤」
『いじわる......
か、かっちゃんもかっこよかったよ。ドラムもピアノも演奏すごかった』
「言い返そうって魂胆か?そんなんでオレが」
『かっちゃんは私のこと信じてくれないんだ。本当にそう思ったのに...』
「...」
『あれ?かっちゃん、もしかして照れてる?なんか顔赤く』
「違っええわ!熱いだけだ!」
『だよね〜かっこいいなんて言われ慣れてるもんねかっちゃんは』
言われ慣れてるのは確かだが、好きな奴から言われるとなれば話は別だ。
てか言い方とか表情とか色々卑怯だろ!
「...お前から言われるのは他とは違えんだよ」
『そっか。私と一緒だね』
「は?」
『かっちゃんに言われると、ちゃんと嬉しいって思えるの』
はにかみながら笑うユウに胸がキュンとする。
可愛いすぎんだろクソ...
「...なあ、ユウ。オレ」
かくんと頭を揺らして、目を擦るユウに言葉を止める。
「眠いのかお前」
『だいじょうぶ...』
「何が大丈夫だ。今にも寝そうじゃねえか」
『せっかく2人でいるのに...ねちゃったらいみなくなっちゃう』
「選手交代だ」
『うわっ』
腕を引き、座っていたユウを寝かせる。
『いきなりなに?』
「寝ろ。オレも疲れたし寝る。だから無理して起きてようとしなくていい」
『べつにむりしてなんか...』
寝かしつけるように、頭を撫で始めるとすぐにユウは寝息を立て始めた。
無理しやがって
考えてみればあれだけの技をやって、片付けが終わるまでの短時間の睡眠でこいつの体力が回復するはずもない。それでも頑張って起きていようとしたのは、オレのため。そんなのいじらしくて可愛いにも程がある。
「あークソ...」
体を横たえると予想以上に距離が近く、すぐ近くにユウの寝顔が見えた。
淡い紅の塗られた唇が目を引く。突然ふわっとシャンプーの良い香りがして、疑問に思い動きを止めると、自分がユウのとんでもない近く、あと少しで唇が触れるんじゃないかという距離まで近ずいていた事に気が付き、即刻離れる。心拍数が上がり、体がどんどん熱くなっていく。
な、な何やってんだオレ!?
完全に無意識だった。無意識でキスしようとするとか完璧ヤバい奴だろ!
1人で盛大にテンパっていたが、少しも起きる様子なくぐっすり眠っているユウを見てだんだん冷静になってきた。
ったく...こっちの気も知らねえでいつもいつも...
ずっとこいつを見てきた。好きな物も嫌いな物も、性格も、境遇も他の誰よりオレが1番よく知っている。好きだって気持ちも誰にも負けない自信がある。
でもそんな事こいつは少しも知らなくて、オレは意識すらされていない。誰より思いが強くても、思っている期間が長くても報われるというわけではない。もし拒絶されてしまえば、今の距離感は失われ、今までのような関係ではいられなくなってしまう。恋とは本当に面倒で残酷だ。
「早くオレを好きになっとけバカ」
近くて遠いこの距離感