インターン&文化祭 編
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『かっちゃん〜どうしよう!よくよく考えたら私ダンスとか踊れない...しかも大人数の前でとか絶対死んじゃう!』
そう。三奈ちゃんのダンスやじろちゃんの演奏、完全に見る側の視点でしか私は先程まで考えてなかったのだ。
意気揚々と寮に向かうみんなの役決めという言葉を聞いて、とんでもない内容だということに今更気付いてしまった私は本当に馬鹿すぎる。昨日大いに賛成しちゃったし、自分で自分の首をしめたようなものだ。
「さっきまで楽しみ〜!とか言ってたくせによ。お前が苦手そうな内容だと思ってたが、そこ考えてなかったんか。マジでバカだな」
『うぅ...一気に文化祭が憂鬱に...』
「保育園も小学校もダンスからっきしだったもんなお前。まあダンスだけじゃねえけど」
『なんも言えねえ...かっちゃんはダンスも演奏もなんでもできちゃうもんね。ほんと羨ましい...
でも今回は私が1番頑張らないと』
「あ?んだそれ?」
『ん?アレ?...ああ!?スマホ教室に忘れた!ちょっと取り行って来る!』
今からどうにかしようと、ダンスの基礎とか色々ググッてたのに!馬鹿だ私〜!
帰り支度の途中で話し掛けられてそのまま机の上に忘れて置いてきてしまった。誰かに見られたら恥ずかしいし、早く回収せねば!
あった!無事にスマホを回収し、教室を出る。急いで寮に行かないと、話し合い始まっちゃう。廊下を走っていると何かに躓き、勢いよく転んでしまった。
『いった...』
「ヒーロー科ともあろう人間が廊下を走っちゃダメだよなあ?」
「ヒーロー科は贔屓されてるから何やっても許されんだよ」
「ハハッたしかに」
知らない男の人が3人。なにこれデジャブ?足をかけられたのか...本当に最近ツイてない。勢いよく転けたため、手も膝もズキズキと痛む。
「なんかあ〜オレらの為とか言って文化祭調子乗ってるらしいじゃん?なあみんなのストレスの元凶の三条よお?」
『っ...ごめんなさい...』
「へえ〜ちゃんと自覚はあるんだ?でもそんな謝罪の言葉だけじゃ全然足りねえんだわ」
「つーことで」
腕を強く引かれ、近くにあった部屋に投げ飛ばされる。
『った...』
「いつも通り個性使って見張り頼んだわ」
「任せとけって!」
「視界に入らない場所でも、見える個性とかほんと羨ましいわー悪い事バレずにやりたい放題じゃん」
「だろ〜?」
「さーて、分かってると思うけど静かにしろよ?全部お前の行いが悪いせいなんだからな」
『...そう。悪いのは私1人。他の人は誰も悪くない。
それで気が済むなら私の事は、殴るなり蹴るなりすればいい』
「あはははっ!見た目によらず肝が据わってるねえ〜でも女の子にそんな酷いことするわけないじゃん!それともそういうのが好きなタイプだったり?爆豪って見るからに乱暴そうだもんね〜」
『なんの話?かっちゃんは乱暴そうに見えるかもしれないけど、すごく優しい人だよ。勝手に決めつけないで』
「ハハッかっちゃんって呼んでるんだ!可愛いね〜三条ちゃん」
「じゃあ本当かどうか確認しなきゃな」
『!!』
いきなり抑え込まれ無理矢理ブレザーとYシャツを開けられる。
『何して...!』
「ここまでされてわかんない?爆豪ともしてるだろ」
「ちょいちょい傷あんじゃん。全部爆豪?」
『やめて!離して!』
「静かにしろっつったよな?全部お前のせいなんだから責任とらなきゃダメだろ」
「もっと色っぽい下着にしろよ。それに酷え火傷!
萎えるわ〜でも意外とイイもん持ってんじゃん」
『〜ッ!』
胸を触られ、ゾッと吐きそうなほどの嫌悪感が押し寄せる。脚やスカートの下にも触れる手が気持ち悪くて仕方がない。触られた場所が汚れていくような感覚に苛まれる。嫌、触らないで気持ち悪い気持チ悪イ...
私のせいだから受け入れなきゃいけないの?
この先何されるかなんて馬鹿な私でも流石に分かる。
嫌だ...でも...
「ねェ聞いた?ヒーロー科A組ライブやるんだって。オレ達の為に。いい気なものだよ。振り回してる張本人なのに」
クソ...聞こえてんだよ。
事件後学校で時折聞こえる声。ヒーロー科をよく思ってねェ奴らの、もしくはヴィランに拐われたオレとユウへの批判。
オレだってユウだって好きで拐われたわけじゃねえっつーの。
なんにも言わねえし、気にするような素振りも見せないが、オレに聞こえてるってことは、きっとユウにもそういった声は聞こえているだろう。
おそらくオレ以上に...
「あいつ遅えな...」
途中で別れた後、歩くペースを遅くしたのにも関わらず、まだ来ない。普通に考えれば、寮へと続くこの道に来る前にもう合流出来ててもおかしくない。教室までなら流石に1人でも迷わず行けるだろう。
.....
スマホを取り出し、あいつに電話をかける。
2度かけても電話は繋がらないままだ。
クソッ!
嫌な予感がして教室に向かって走り出す。
「そうそう責任とらなきゃね」
「つーかこれ爆豪への嫌がらせにもなるし一石二鳥じゃん!ラッキー」
「あいつ体育祭からずっと調子乗ってるし、目障りなんだよな〜その癖あっさり捕まってやがるし。それでまだあの態度とれる神経疑うわ」
「弱い奴ほどよく吠えるってやつだろ」
「言えてる」
『かっちゃんは弱くない!かっちゃんが捕まったのは私のせいだ!かっちゃんの事弱いってんなら寄って集ってこんな事してるお前らなんてゴミ以下だ!』
「このクソアマ...!調子乗ってんじゃねーよ!」
『ッ!』
殴られた右頬が痛み、口の中に血の味が広がる。
「よほど痛い目に遭いたいらしいな」
「望み通り痛くしてやるよ!」
腕も足も押さえつけられ、身動きが取れない。スカートの中に伸ばされた手が下着に触れる。
『嫌っ!』
「おい!マズイ!早く逃げるぞ!」
「今良いとこだろ!もう少し」
「いいから!早くしねえと冗談抜きで殺される!早く個性でオレ達の記憶消せ!」
「チッ!運が良かったな」
男にトンと額に指を当てられると途端に意識が朦朧としてきた。
朦朧とした意識の中、男達が慌てた様子で部屋を出て行くのが見えた。
廊下の奥にチラッと人影が見えた。ユウか?
走る速度を上げようと踏み込んだ時、床に赤いものが見え思わず立ち止まる。
血...?極小量だが擦れたように薄らと赤く靴跡が残っている。
予想が外れることを祈りながら靴跡の向いている方角にある部屋の扉を開けると倒れている小さな背中が見え、即座に駆け寄る。
「ユウ!!」
『う...かっちゃん...?』
ゆっくりと体を起こすユウにドキリと心臓が跳ねる。
「お前、その格好...」
『え...?あっごめん!』
体を隠すようにブレザーを引き寄せるユウの手からは血が出ており、左頬が腫れている。
プツンと自分の中で何かが切れる音がした。
「それ誰にやられた?」
『お、思い出せないの...』
「本当にか?口止めされてんじゃねえのか?そんなの気にしなくていい。なんとしても見つけ出してぶっ殺してやる!」
『そんなのダメだよ!相手は普通の生徒だし、手出したらかっちゃんが悪者にされちゃう』
「普通だァ!?何もしてねえ奴に暴力ふるって無理矢理襲うような奴がか!?ふざけんな!」
『でも私のせいだから...私が捕まってみんなに迷惑かけたから...』
「お前のせいじゃねえ!悪いのはヴィランであってお前でもオレでも誰でもない!どいつだ?そんなクソみてえな事言いやがっ、!あの人影か!クソッ!ぜってえ許さねえ!ぶっ殺す!!」
見えた方角的に、下駄箱とは逆方向。まだ校内にいる可能性は高い。立ち上がり走り出そうとしたところで腕を引かれる。
「離せユウ!今ならまだ追い付けるかもしれねえ!」
『ダメ...私なら大丈夫だから』
「大丈夫なわけねえだろ!」
手を振りほどき、振り返り際に見えたユウの表情にハッとする。
『大丈夫...少し触られただけ...だから、いつもの優しいかっちゃんに戻って...』
何やってんだオレ...
今にも泣きそうな顔で震えているユウを見て、一気に冷静になる。とめどなく溢れ出る怒りや殺意に呑み込まれて何も見なくなっていた。
こんな状態のユウを1人此処に置いて行くつもりだったのかオレは...
ユウはいつからこんな顔をしていた?
初めから?それとも...
オレがユウを怖がらせてどうすんだよ...
今何を優先し何をするべきかなんて決まっている。
「悪い...頭に血が上って...どうかしてた。ごめんな...」
そっとユウの頭に触れると、ビクッと体を大きく揺らした。すぐに手をひき、ユウと距離をとる。
「わ、悪いっ!」
『違っ!...ごめんなさい...』
ユウ自身も自分の反応に驚き、ショックを受けたようだった。悲しそうな顔をして俯いてしまうユウにどうしていいか分からなくなってしまう。
「とりあえずこれ着ろ。そんで寮帰って怪我の手当てだ。本当は保健室行った方がいいだろうが、そんな格好で行くの嫌だろ?」
『うん...』
着ていたブレザーをユウに放り投げ、反対側を向くと、ボタンが転がっているのが見えた。
無理矢理ユウの服を脱がせたということが、嫌でも想像できてしまう。
ボタンを拾い上げ、また湧き上がってくる怒りを必死に抑える。
「着れたか?」
『うん』
「立てるか?」
『多分』
立ち上がったユウが一瞬顔を顰めたのをオレは見逃さなかった。
「足痛えんだな?」
『ちょっとね...でも大丈夫だよ』
「お前の大丈夫は信用できねえ。怪我見せてみろ」
バツが悪そうな顔をしてユウがスカートを持ち上げると、両膝とも出血しており、範囲も広く見るからに痛そうだ。廊下の血はおそらくこの怪我のものだろう。
「なにが大丈夫だ!変な見栄はってんじゃねえ!」
『ごめんなさい...』
「オレに乗るの我慢できるか?」
『え?』
「触れられんの怖いんだろ」
『あっ...かっちゃんだし、へ、平気だよ!』
「無理そうなら言え」
背負うとなると、距離が近いのは言わずもがな確実に脚には触れなければならない。
不安を感じながら乗れるようにしゃがむと、口ではああ言っていたがやはり不安らしく緊張した面持ちで、ユウがオレの背に乗った。
「持ち上げるぞ」
頷くのを確認し立ち上がった後、ユウの反応を伺う。
「いけそうか?」
『うん!全然大丈夫!』
「じゃあ行くぞ」
『あっ!鞄くらい私持つよ!』
「怪我人は大人しくしとけや」
『それくらい大丈夫なのに...』
無理してるようでもなく本当に平気な様子のユウに安心する。
『もう鞄置いてかなくてもいいんだね』
「いつの話してんだよ。つーかあんだけすっからかんなランドセルならお前背負ってても持てたわ」
『かっちゃん覚えてるんだ!?』
「忘れるわけねえだろ」
忘れられるわけない。あの時のユウの顔も、悲痛な声も涙もクラスの奴らへの怒りも。
涙でぐしゃぐしゃな顔でありがとうヒーローと微笑むユウも全部...
『そっか...いつも迷惑かけてごめん』
「はあ...小さい時からそればっかだなお前。迷惑だなんて思ってねえよ。オレが勝手にやってるだけだ。つーかいつも間に合わねえし謝んのはこっちだっつーの」
『ちゃんと間に合ってるよ!あの時、かっちゃんが来てくれなかったら、多分私学校行けなくなってた。今日だってかっちゃんが来てくれなかったら、触られただけじゃ済まなかった』
「チッ!お前が怪我したり、辛い思いしたり、襲われてる時点で全然間に合ってねえんだよ!」
『でも絶対来てくれる。今日なんて先行っててって言ったのに、それでも来てくれた。ね?すごいでしょ!私のヒーローは!』
「んだよそれ」
『いつもありがとうヒーロー』
「...おう」
納得はいかない。自分の不甲斐なさにイラついて、悔しくてたまらない。それなのにとても嬉しそうにユウが話すから、気持ちが和らいでいってしまう。
感情が黒から白に塗り替えられていく。
いつもそうだ。たった一言。それだけでオレの感情はいとも簡単に変わってしまう。
...いつもありがとな