インターン&文化祭 編
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目を開けると保健室のベッドの上だった。
全身が怠く、体を起こす事さえも一苦労だ。
きっといずっくんがここまで運んでくれたんだな。後で謝らなくちゃ。
「起きたかい?」
『はい、またお世話になったみたいですいません』
「全くだよ。毎度死にそうな状態で運ばれてきて心臓に悪い。あんたが1番の問題児だね」
『すいません...』
「あんたの個性は外傷にならず、ダイレクトに自身の命にダメージがいくからタチが悪い。無理せず、少しづつ強化していくようにしないと、寿命が削れるか運が悪ければそのまま死ぬことも有り得る。だから個性強化は慎重に行うこと!分かったらグミを食べてお帰り。心配して気が気じゃない子達が寮でやきもきしてるだろうからね」
『達?』
達という言葉に首を傾げていると扉を開く音が聞こえ、かっちゃんが入って来た。
「毎回毎回心配させんな馬鹿!」
『ご、ごめん!かっちゃん帰って来てたんだね。おかえり』
「おかえりじゃねえわ馬鹿!帰って来るなり、デクがお前が死ぬかもとか言うから心臓止まるかと思ったわ!」
『ごめんなさい!』
「静かに。爆豪、あんたには寮で待ってるように言ったろうに」
「チッ!たまたま近く通ったから寄っただけだ」
『近くって休日なのに校舎に用があったの?』
「お前は黙っとけ!早く帰んぞ!」
『えー...帰るけどさあ...』
別に教えてくれるくらい良くない?
先生に呼び出しでもくらったのかなと想像しつつ、ベッドから立ち上がる。
『あっ』「っぶねェ!顔色悪いとは思ってたが普通に立てねえくらい具合悪いんなら言え!」
『ごめん...自分でもそんなつもりはなかったんだけど』
力が入らず転けそうになったところを、かっちゃんに助けられる。そんなに重症だったのかと自分でも驚きだ。
「急かして悪かった...もう少し休んでくか?」
『ううん。リカバリーガールに迷惑かけちゃうし、寮に帰って休む。かっちゃん、申し訳ないけど転けそうになったらまた助けて』
「歩けねえ奴が何言っとんだ。早く乗れ。言っとくがお前に拒否権はねえからな」
『ごめん、ありがとう。リカバリーガールもありがとうございました』
「お大事に。無理するんじゃないよ」
かっちゃんに背負われ、保健室を出る。
『重いのにごめん、かっちゃん』
「全然大したことねーわ。
.......強くなんねえとダメなのか?」
『え?』
「お前がやっとなりてえもん見つけたんだ。協力するつもりだし、やめておけなんて今更言わねえ。
だが今のままで十分じゃねえか?強くなる代償に今日みたいになったり命を削るような事になんなら今のままの方がいい。オレはお前が強くなるよりも、弱くても無個性でもいいからずっと隣にいて欲しい。もうお前がいなくなるのは嫌なんだよ」
『かっちゃん...』
優しい言葉に泣きそうになる。溢れ出る気持ちのままにかっちゃんの首に腕を回してギュッと抱きしめる。
『私ね、死ぬの怖くなっちゃったの。
今日、心臓が痛くなって体が動かなくなって、このまま死んで、終わっちゃうんじゃないかって怖くなって、嫌だって思った。前まで自分の命なんてどうでも良かったはずなのに、夜とか1人でいると、いつまで生きられるんだろうって考えて怖くなるの。かっちゃんに頼って貰えるようなサイドキックになりたいのに前みたいに、捨て身で戦えないし弱くなっちゃった。
かっちゃんの気持ちは、すごく嬉しい。私なんかのことそこまで思ってありがとう。でも今の私は戦える力を持ってる。どれだけ一緒にいられるか分からないけど、いられる間くらいは頼れるサイドキックでいたいの。だからもっと強くなりたい。身勝手でごめんねかっちゃん』
「どこに謝る要素があんだよ。お前が普通に戻って安心した。弱くなってなんてねえ。死ぬのが怖いのは当たり前だ。オレだって怖え」
再び歩き出しながら、呆れながらも安心した様子で話すかっちゃんにホッとする。
『そっか...これが普通なんだ』
「はあ...次から新しい事試す時や新技の開拓する時はオレといる時にしろ。お前1人でやらせるとまた今回みたいになりかねねえ」
『ごめん...』
「九尾の呪いは今までの例を見るに、少なくともあと10年は大丈夫なはずだ。その間にオレが絶対何とかするから心配すんな」
『例って...?』
「あの家にあった歴代の持ち主の手記や書物を先生伝手で警察に調べてもらった。オレも読ませてもらったし、少なくとも10年ってのは間違いねえよ」
『調べてくれてたんだ...ありがとう。安心した。かっちゃんなら10年あれば、本当にどうにかできちゃうかもね!』
「するっつってんだろ!だから今回みてえな死に急ぐような真似ぜってえすんなよ?」
『はい...』
突然抱きつかれて、思わずその場で固まり軽くパニックになりかけるが死ぬのが怖くなったと弱々しく小さな声で話すユウに冷静になる。普通の感覚に戻ったとひとまず安心したが、間違いなくユウの精神的不安は何倍にも増えることになる。自身が長く生きられないと知ってしまっているユウはいつその時が来てしまうか不安と恐怖でいっぱいなのだろう。
体育祭での出来事を思い返す。あの狐からユウを解放する方法はまだ見つからない。でも絶対になんとかしてみせる。あいつと過ごす時間がこの先10年なんかで足りるわけない。そんなの今までの穴埋めにすらならない。
過酷な人生を歩み、やっと幸せに触れたあいつからそれを奪うなんて許さない。
だから覚悟しておけと心の中で狐に宣戦布告する。
寮に戻ると、デクと轟がすごい勢いで走ってきた。
「ユウちゃん!」「三条無事か!?」
『う、うん!』
「うんじゃねえだろ。歩けてねえだろうが」
「足動かなくなっちゃったの!?」
「もう治んねえのか......?」
『違う違う!疲れによるものだと思うから休めば治るよ!心配かけてごめんね』
「「良かった...」」
「分かったらこいつ部屋に運んでくからどけや」
『ごめん、こんなだから今日はもう休むね...いずっくん、保健室まで運んでくれてありがとう。そんなに広くして大丈夫?って心配してくれたのに、私が馬鹿なせいで多大なるご迷惑をおかけしました...』
「そんな!僕がもうちょっとちゃんとリスクとかも考慮できてたらこんなことには...」
『これは完全に私のせいだから気にしないで!新しい技ができたって調子に乗りすぎた』
「行くぞ馬鹿」
『て事だからほんとごめんね!心配してくれてありがとう!』
部屋に着きユウをベッドに下ろす。思った通り、から元気だったらしく背負う前より顔色が悪く、ぐったりしている。
『運んでくれてありがとう』
「やっぱり無理してやがったな。顔色悪くなってっぞ」
『そんなに無理してたつもりはないんだけど...』
「保健室の時より悪化してんだろうが。とにかく早く休め。何か欲しいものとか食べたいものあるか?」
『あんまり食欲ないしなあ』
「お前に食欲が無いなんてそりゃあ重症だな」
『せっかく、かっちゃんが作ってくれそうな雰囲気なのに無念だ...』
「元気になってその新技ってのが使えるようになったらオムライスでもタルトでもなんでも作ってやるよ」
『ほんと!?それは頑張らないと!』
「だから早く寝てさっさと回復しろ」
『待ってかっちゃん!1個お願いしてもいい...?』
「んだよ」
『あの...頭撫でて欲しい...デス』
「は」
予想だにしないお願いに思わずポカンとしてしまう。
『やや、やっぱりいい!変なこと頼んでごめ』
「ばーか。こんくらいいつでもしたるわ」
『えへへ、ありがとう』
撫でてやるとユウは嬉しそうに目を細めた。
可愛すぎんだろクソ...
弱ると人肌恋しくなるとはいうが、甘え下手で1人も全然平気そうなこいつも例外ではないらしい。
小さい頃にユウの体調が悪くなった時に心配して見に行くと伝染るから近くに来るなと追い払われていたことを思い出した。
今思えばあの時も本当は寂しかったのかもしれない。
「お前って実は寂しがり屋か?」
『昔は割とね。今は別に1人でも全然平気なんだけど、かっちゃんにはなんか甘えたくなっちゃって。ごめんね?』
「別に...嫌とか思ってねえし。むしろ...」
『?』
「なんでもねえ!お前、そういう事絶対オレ以外には言うなよ!」
『そういう事...?』
「チッ!お前はずっとオレにだけ甘えときゃいいんだよ!」
『嬉しいけど、それは流石に申し訳ないかな...』
「申し訳なくねえわ!いいつってんだろーが!」
『えー...なんで私怒られてんの』
相変わらず鈍いにも程がある。
少しは察しろこの鈍感女!
「自分で考えろ。そしてさっさと寝ろ」
『考えてたら寝れないじゃん!』
「どうせいくら考えてもお前じゃ分かんねえし、諦めて寝ろ」
『理不尽!でもそれならもう1個お願い!寝るまで手握ってて欲しいんだ』
「はあ...何なんだよお前...」
またも殺す気かというお願いをしてくるユウに、断れる訳もなく、ベッドの端に腰を掛け、体調が悪いせいか、冷たく感じる手を握る。
『そう言いつつやってくれるんだ』
「甘えろつったのはオレだ。手握れとか撫でろとか母親が恋しくなったか?」
『あははっ 間違いではないけど違うよ。お母さんと手握って寝たことないし。
かっちゃんは覚えてないか〜私が寝る時に怖いって言うと、手握って一緒に寝てくれてたんだよ?保育園のお昼寝の時間とか、お母さんが夜に帰れない時に、かっちゃんの家に預けられた時とかね』
「そんな昔のこと覚えてねえわ。よく覚えてんなお前」
『だって嬉しかったし好きだったんだもん。何時からかしてくれなくなってすごいショックだったんだから。だから今嬉しいの』
「...そうかよ」
反則みたいなことばかり言いやがって!
無いのは重々承知だが、好意があるとしか思えないような言動の数々に頭も心臓も色々限界だ。
鼓動はうるさいし、顔の熱は一向に下がる気配がない。こいつが目を閉じているのが唯一の救いだが、この状況が寝るまで続くとか地獄でしかない。もういっそ自分も寝てしまえと目を閉じる。
再び目を開けると、オレの顔を見上げるユウと目が合った。
『おはようかっちゃん!ねえねえ、すごいんだよ!
かっちゃんのおかげで治ったの!』
そう言って握った手を見せて笑うユウに、思わず吹き出してしまう。
『なんで笑うの!本当に治ったんだもん!』
「いや...フッ...なんでもねえ」
『なんか今撫でられるのはあんまり嬉しくない...』
不服そうに頬を膨らませながらも、そのまま大人しく撫でられているユウにまた笑いそうになる。
可愛すぎてなんて言えるわけない。言ったとしても、本人はバカにしてると怒るだろう。
でも無邪気でバカで子どもみたいなこいつが、本当に可愛くて仕方ないのだ。
可愛い可愛いオレの幼馴染