仮免試験 編
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話したいことがある。
そうユウに言われた時、これで終わりなんだと悟った。
無言の中、2人を乗せて上っていくエレベーターの階数のランプがまるでカウントダウンのようだと自嘲する。
部屋に通され、言われた通りベッドへ座ると、ユウは向かいにある椅子に座った。
『かっちゃんが戦ってる時に言ってた事聞いちゃった』
「ああ」
『それでね気付いたの』
きた...覚悟はできていたものの、いざとなると口にされるのが怖くて、逃げ出したい気持ちに駆られる。
『かっちゃんが思ってた事、私と全く同じだった』
「ごめん...オレがお前を傷付けてた。それに気付いたからお前はオレに近付かなくなったんだろ?安心しろ、ちゃんと分かってる。もう干渉するようなことはしねェ。今まで本当に悪かった」
下を向き目を閉じる。言えた...本当はこいつが言い出す前に自分から言わなければいけなかったのに、情けねえ怖くてずっと言えなかった。
『違う!違うよ...』
ガタッと勢いよく椅子から立ち上がるユウに驚いて、顔をあげると、目に涙を溜めてオレを見るユウと目が合った。
『かっちゃんはいつも、どんな状況でも私を救けようとしてくれるから、一緒にいるといつか私のせいでかっちゃんが死んじゃう、離れなきゃって思ったの...でも、ふとした事でかっちゃんのこと思い出して、もう前みたいに戻れないんだって悲しくなって、どうしようもなく苦しいの...』
とめどなく涙が頬を流れ落ちていく。ユウが自ら、自分の気持ちを伝える事は珍しい。迷惑をかけたくないと全部内に溜め込んで、本当に辛い時や苦しい時は誰にも頼らないし、言わない。
だからオレが、オレ達がどれだけ無駄なことをしていたか、どんな思いだったかやっと分かった。
「ばっかみてえ...オレもお前も。こんなくだらねえ事もう終わりにすっぞ。オレはまだまだ弱い。今はまだ絶対は無理だって分かった。でもすぐにお前のこと絶対救ける最高のヒーローになる。だからお前は何も考えずオレの傍にいろ」
『うんっ...!』
飛び込んでくるユウに驚きながら抱きとめるが、勢いそのままベッドに倒れ込む。
「お前に心配かけねえくらい強くなる。死なねえって約束する。だからお前も死なねえって約束しろ。今回で分かっただろ。お前がオレを心配する気持ちとオレがお前を心配する気持ち全部同じなんだよ。だから簡単に死ぬような真似すんじゃねえ。お前が無茶する度にこっちは生きた心地がしねえんだよ」
『ごめん...』
「ったく...」
頭を撫でると、オレの肩に顔を埋めて、ユウは泣き始めた。聞き慣れた声。髪の感触。陽の光のような優しい匂い。ずっと焦がれていた間近で感じるそれに、欠けていたものが満たされていくような感覚がする。頬を暖かいものが伝っていく。それを誤魔化すように、抱き締める腕に力を込める。
もう離さねえ
鳥の囀りが聞こえ、目を覚ますと体中が痛み思わず顔を顰める。起き上がろうとして異変に気が付く。重い。足の感覚がおかしい。
『んっ...』
聞こえた声に一気に頭が覚醒する。
昨日あのまま寝ちまったのか!?足がベッドから落ち、上にユウが乗っているという無茶すぎるこの態勢で!?
一旦落ち着こうと目を閉じるが自分が思いっ切りユウを抱き締めていることに気付き、一気に体が熱くなる。
つーかこの体制色々不味いにも程があんだろ!半端じゃない密着具合にプラスして今は夏で互いに薄着、そしてこの柔らかい他の場所とは違う感覚がする部分はきっと...
あーークソッ!!更に体が熱くなり、汗が滲んできた。これはもう即刻起こす他ない。
「おい!ユウ起き...」
横を向くと想像以上に顔が近く驚いて言葉が詰まる。
『ん...かっちゃん...?』
「!!」
顔を上げたユウの額に唇が当たる。
「ち、違!今のは!!」
『うおっ』
恥ずかしさのあまり、ユウを横に突っぱねる。ゴロンとオレの上から落ち、横に転がったユウがゆっくりと体を起こす。
『えっ?あれ?なんでかっちゃんが?夢?』
「違えわ!昨日お前が上に乗ったまま寝たせいで帰れなかったんだよ!」
こっちの気も知らねえで寝惚けた顔しやがって...!!本当はこいつも自分もいつ寝たのか全然覚えてないが、この際棚上げだ。
『...あ。ご、ごめんねかっちゃん!重かったでしょ?怪我もしてるのに本当にごめん!顔も赤いし熱あったりする?体大丈夫?』
「重かったし、体中痛えわ!赤いのは熱いだけだほっとけ!つーかてめぇも酷え面してんだよ!目それ痛くねえんか!」
『私これ怒られてる?心配されてる?痛くないけど、そんなに酷いんだ...みんなに会いたくないなあ...』
「冷やせば多少マシになんだろ。ちょっと待っとけ」
氷水で濡らしたハンカチをユウの顔に押し付ける。
『冷たっ!!』
「それで目の周り冷やしとけ」
『ありがとう。ふふっ...やっぱりかっちゃんと居ると安心する』
「...そうかよ」
『えーなんか冷たい。かっちゃんは私の事どう思ってるの?』
「どうってオレは...」
鼓動が早くなる。言え、言うんだ。言ってしまえ!
「お前のこと好きだって思ってる」
『え』
目を見開き、驚いた顔でこちらを見るユウに鼓動は更に早くなり、体の熱は増していく。
『そ、そんな風に言われるなんて思ってなかった...絶対馬鹿とか食い意地張ってるとか言われると思ってたのに...』
視線を彷徨わせながら、頬を染めるユウにドキッとする。ユウは照れ屋だが、悲しいかなオレに対して照れる事はほぼない。だからこんな反応されて期待してしまうのは仕方がないと思う。
『私もかっちゃんのこと好きだよ。いずっくんに対する態度は嫌いだけど』
こいつ...!こうなる予感がしないことも無かったが、こいつの好きとオレの好きは別物だ。苛立ちやら虚しさで叫び出したくなるのを我慢して、言葉を絞り出す。
「そうじゃねえ!オレが言ってるのは」
言葉を遮り、けたたましくアラーム音が鳴り響く。
『かっちゃんのアラーム?あ!ヤバい!掃除!』
「あと20分。はあ...クソッ!!着替えてくる。お前も支度済ませて共有スペース来い」
『う、うん』
なんつータイミングで鳴ってんだよクソが!!
アラームに八つ当たりしながらエレベーターを降りる。せっかく好きだと伝えるとこまでいったのに、頑張った苦労が水の泡だ。
盛大に溜息をつき、支度を済ませて共有スペースへ向かうと既に2人は集まっていて楽しそうに何やら話している。
「てめえら喋ってねえで掃除しろや!」
「わっ!ごめんかっちゃん!」
『いずっくんは私達のこと心配してくれてたの!目どうしたのって言われたから、昨日かっちゃんに泣かされたって説明してた』
「えっ!?な、何やったのかっちゃん!?」
「語弊のありまくる言い方してんじゃねえ!てめえが勝手に泣いてただけだろうが!」
『勝手にって酷い!昨日はあんなに優しかったのに!』
「るせえ!てめえこそ、いつも昨日くらい素直で、しおらしけりゃ可愛げあんのにほんと可愛くねえヤツだな!」
「いったい昨日何があったの!?」
「うるせえ!クソデク!」
『またそういうこと言う!かっちゃんのそういうとこ嫌!』
「うるせえチビ!」
「ふふっ 2人とも元に戻って良かった」
『ごめんね。いつもいずっくんには心配かけてばっかりだ。でも多分もう大丈夫。声に出して伝え合う事がどれだけ大切か分かったから。ね?かっちゃん』
「...ああ」
その後起きてきたクラスのヤツらに馬鹿にされたが、昨日のことは4日謹慎を食らっても後悔のない時間だった。知ろうともしなかった2人の本音。言わなかったオレの本音。それを互いに知ったことで、やっとオレは前へと進めた気がした。
「爆豪、謹慎の割になんか清々しい顔してんな」
「してねえわ」
『かっちゃんーゴミ袋持ってきたよ』
「そこ置いとけ。んで次は台拭きしろ」
『はーい』
「なるほどそういうことか」
「もしかしてなにか進展があった感じ?」
「進展も何もねーよ」
「ちぇーつまんねーの」
「あほズラ、お前じゃユウは手に余る」
「へ?」
アイツは誰にも渡さねえ