仮免試験 編
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仮免試験当日、みんなで円陣をしようという時に、いきなりとんでもない人が現れた。
ものすごい勢いで頭下げたせいで血出てるし、テンション高すぎるし大丈夫かこの人!?
私は全く知らないが士傑高校という有名な学校の人のようだ。ていうかとりあえず挨拶より止血しようぜ...
「夜嵐イナサ。ありゃあ...強いぞ」
淡々と語り始める相澤先生の言葉に驚きを隠せない。
推薦入試トップで辞退?どういうこと...?
あれ?それってもしかして轟くんより強いってこと!?
色々やべえ人じゃん!
続けて現れた異常に明るい女の人に相澤先生が何故かものすごく嫌な顔をした。いずっくんの説明を聞いて納得だが、その狂気に満ちたヴィラン退治は1度見てみたい気がする。傑物学園2年2組の担任...難しい名前の学校ばっかだな。やって来た真堂という男の人がクラスのみんなと順々に握手をしていく。
「君が三条さんだね。神野事件大変だったね。入院したって聞いたけど、怪我はもう大丈夫なのかい?」
『は、はい。おかげさまで...』
「それは良かった!今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
この人の言ってる事多分本心じゃない。この笑顔も...小学校での出来事がどんどん思い浮かんでくる。違うのに、どうしても被って見えてしまう。嫌だ。嫌...
差し出された手に恐る恐る手を伸ばそうとすると、彼の手を誰かが弾いた。
「フかしてんじゃねえ。台詞と面が合ってねえんだよ」
「同じく神野事件を経験した爆豪くん。君は特別に強い心を持っている。想いもね」
真堂さんはちらっと私の方を見た。
傑物学園の人達が去っていき、ふうっと息を吐く。
『ごめん、かっちゃん。ありがとう』
「...別に」
こちらを見ることもなく、歩いて行ってしまう彼に悲しさと寂しさが押し寄せる。
少しくらい普通に会話出来ると思ったのに...
今まで散々甘えてきた罰か...
今はそんなこと考えたってどうしようもない。
気持ちを切り替え、試験の説明を聞く。
自分のターゲットを守りつつ、3つのターゲットにボールをぶつけて、2人倒したら抜け。
ボールは6個ピッタリ。なかなか難しいお題だ。
会場に移動するのかと思いきや部屋が開けて、大きな街のようなステージが現れた。
無駄に大掛かりだ...
いずっくんが、ひとかたまりになるようにとみんなに声を掛ける。なるほど。不安だったけどチーム戦ならなんとかなるかも!
『よし!頑張るぞー!』
「行くぞ」
『え!?何!?なんで!?』
何故か轟くんに引っ張られみんなと離れてしまった。
「この辺でいいか」
『いいかじゃなくて!なんで私連れてきたの!?』
「オレと三条で組めば勝てると思ったから」
『で、でも私多分轟くんの足引っ張っちゃうよ?』
「何言ってんだ。お前十分強いだろ。特にサポート面では、連携のしやすい技が多いし、火の威力も底上げできる。オレにとっては最高のサポーターだ」
『そ、そんな、突然っ、、褒めすぎだよ!私なんて全然...』
「三条は自分を過小評価しすぎだ。お前は強い。それでお前にとってはオレも強いんだろ?」
『うん!轟くんはめっちゃ強いよ!なんでも粉砕できるもん!』
「悪ィなんでも粉砕は厳しい... でもそう思ってくれてるんなら、一緒にチーム組んで強くないわけねえだろ?」
そう言ってふっと笑う轟くんに、褒め殺しからやっと少し引いてきた熱が一気に戻ってくる。
『轟くん、それは反則だよ...』
「何がだ?てかお前、すげえ赤くなってるけど大丈夫か?」
『轟くんのせいだよ!』
「そうなのか」
『轟くん!』
轟くんも気が付いたらしく、飛んできたボールは炎に包まれ足元へと落ちた。
「こんなとこでイチャイチャして余裕だねえ〜流石体育祭2位と3位だ。あれ?でも三条さんって爆豪くんと付き合ってるって話だったけど、彼に乗り換えたのかな?それとも」
『うっせえ黙れ!乗り換えただァ?両方付き合ってねえわクソが!』
「落ち着け三条。周りがすげえ驚いてる」
『ご、ごめん...でもとりあえずアイツはボコるって決めた』
「フッ...でも他の奴らもどうにかしねえと。思ってた以上に狙われるな」
『腹立つわーこの人数差は反則でしょ。でもアイツをボコるまでは終われない!いくよ轟くん!』
「目的は試験に合格することだぞ。まあ、勝てばいいことか」
「随分ナメてくれるじゃねえか!」
相手が投げた小さな部品が突然大きくなる。
『でかっ!何!?ナット!?』
「物を大きくする個性か...!退け三条!」
轟くんが氷壁を作り、防ぎきれなかったナットを炎で燃やそうとするもビクともしない。
『なんで溶けないの!?』
「ただの金属じゃないからね。熱に強いタングステンを使ってる」
タン...何て?知らんけどとりあえず炎対策はされてるってことね。轟くんの炎がダメなら私のもダメだしどうしたものか。
「言ったっしょ?雄英生だからって2人なんて余裕ありすぎだっての」
『これじゃ私の狐火も約立たずだ...土とか水の個性持ちもいるみたいだし普通にピンチだね...轟くん、何か策ある?』
「アイツらをできるだけ集めて一気に叩く。お前は──────」
『ラジャ!』
轟くんが高い場所で攻撃を仕掛けてくる敵の方へと向かい、攻撃を繰り出す。
私は狐火で全身を防御しつつ中心へと向かう。
おーたくさん来る来る。轟くんを狙うより私を狙う方が堅実だもんね〜分かる分かる。
狐火プラス尻尾というアドバンテージがあるため、ボールを当てられないようにするのはそこまで難しくない。ただし、防御全振りで攻撃はほぼ出来ないし、轟くんがあのナット野郎を食い止めてくれてなければ即試合終了なわけですがそこは轟くんなので安心である。
炎が氷壁を溶かし、轟くんの姿が見えた。
合図だ!
『轟くん!』
みんなの視線が一斉に轟くんの方へ向く。
うわっ視線集まりすぎて緊張する...
攻撃のモーションをし始めたところで、さっきまで私が居た下から悲鳴が上がる。
驚いて下を見た後、こちらを見たナット野郎にニヤリと笑い、体を捻り飛び上がる。
『歯食いしばれ!』
轟くんの姿を解除し、思いっきり尻尾を叩きつける。
「ぐはっ...!」
『やったー!轟くん、あと1人!』
「残りのやつ全員凍らせてあるから、下降りてこい。
...お前、殺してねえよな?」
『殺すわけないじゃん〜ちゃんと手加減したし、骨折はしてないと思うよ?』
「お前のこと怒らせねえように気をつけねえと...」
『やだな〜怒って尻尾で殴るなんて轟くんにはしないって!あースッキリした!ありがとう!轟くんのおかげでまた勝てた!』
「オレの方こそ、また救われた。ありがとな三条」
『あっ...』
「悪ィ、嫌だったか?」
『ううん!全然!嬉しい...通過したし控え室行こっか』
涙が出そうになるのを隠すように俯き前を歩く。
頭を撫でられると彼のことが思い浮かんでしまう。
轟くんの手、かっちゃんとは違う...
撫でられるのは好きだし、嫌ということではない。
ただ、違いが分かって思い出して、悲しくなっただけ。
小さい頃から、私は彼に撫でて貰うことが好きだった。乱暴そうでいて優しい手はいつも私に元気や喜び、安心を与えてくれた。だけど...
もう撫でてくれることもないんだ...
ぽとりと1粒の涙が地面に落ちた。
いつになったら忘れられますか