体育祭 編
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体育祭の影響か昔の夢を見た。オレの忘れられない、忘れてはいけない罪の夢。
体育祭でのあいつとの戦闘。爆破が思うように使えなくなった。初めは何が起こったか分からなかったが、しっかりと刻み込まれた記憶から体が拒否反応を起こしたのだ。それに気付いてからは、あの光景や匂いや感覚、全てがフラッシュバックして力を誤ることなんて絶対にないのに、あいつを爆破する事が怖くてたまらなくなった。結果あいつに言われて爆破したわけだが、精神的にあれはだいぶきた。出来ることならもう二度とやりたくない。
体育祭から翌々日、ベッドに寝転がってげんなりしていたオレに、退院したとユウからラインが来て、慌ててユウの家に向かった。
体育祭のユウの事が頭からずっと離れずにいる。とてつもなく強かったあの九尾の存在をきっとユウは知らない。体を乗っ取られる。個性に食われるとはそういうことだったのだ。だが、これを本人に言ったところでどうにか出来るものではないだろう。
あの九尾の力は計り知れない。ベストコンディションでの最大火力だったにも関わらず、全く歯が立たなかった。
圧倒的な力の差を見せつけられ、今のオレではユウを止められない事が分かってしまった。奴の口ぶり的にすぐに体を奪うつもりはなさそうだが、ああして表面に出る事は既に可能という事だ。そんな危険なものを抱えて生きていくのはユウの性格上恐らく耐えられない。
この前の個性の話を聞いた限り、今のユウには生きることへの執着がない。
昔から自己評価が低く、自信がない性格だったがそれが加速し、自身に全く無関心な非常に危険な状態に陥っている。だからそんな物が内に潜んでいるなんて知れば、すぐに死ぬことを選ぶだろう。
オレ1人で何とかするしかない。勝てない事を知ってしまった。奴の言う完全な器にあとどれくらいでユウがなってしまうのか分からない。
そうなってしまう前に解決策を見つけなければ、オレはまた約束を守れず、あいつを失うことになる。あんな思いをするのは二度とごめんだ。
だから早くもっともっと強くならなければいけない。
オレが絶対あいつを救ける。改めてそう決意し、掌を強く握った。
『まさか来てくれるとは思わなかった』
「また意識不明だったんだぞ分かってんのかてめえ。それ以前に散々ボコっておいて、見舞いも行かねえとかクソすぎだろ」
『かっちゃんって根は真面目だよね。いつもは素行悪いのにほんと不思議』
「まだボコられ足りねえようだな」
『えっお見舞いに来てくれたんですよね!?』
こちらの気も知らず何事も無かったようにケロッとしているこいつに若干の殺意を覚えるのは仕方がないと思う。しかもぐう〜っと全く緊張感のない音が鳴り始める始末だ。
「余程ボコられたいようだなァ?」
『違うって〜!さっき起きたばっかでまだ何も食べてないからしょうがないじゃん!どんな状況であれお腹は空くの!』
「もう2時だぞ?どんだけ寝てんだてめえ」
『退院して帰って来てすぐ寝て、かっちゃんに連絡しなきゃって連絡してまた寝た。ちなみに今もめちゃくちゃ眠い。でもお腹も空いた』
「ナマケモノバリな活動時間なのに腹は減るんだな」
『寝てても体力使うって言うじゃん?リカバリーガールのお陰で、怪我は良くなったけど、代わりに疲れと眠気がすごくてさ〜元々個性使うとそうなるし、全く動く気力が湧かない』
あははと呑気に笑うこいつに何も言えなくなる。
それって元をたどれば原因全部オレじゃねえか!
『ん?どうしたのかっちゃん?』
「家の鍵寄越せ。そんでお前は寝とけ」
『家の鍵?それなら玄関にあるけど何に使うの?』
「買い物行ってくる。何が食いてえんだよ」
『え!もしかして作ってくれるの?さっきまでボコるって言ってたのに』
「うるせえ。早く言わねえと作んねえぞ」
『オムライス!オムライスがいい!』
「またオムライスかよ。ワンパターンなヤツだな」
『えーオムライス美味しいじゃん!この前、かっちゃんが作ってくれたのすっごい美味しかったし!』
「分かった分かった。作ってやるから思う存分寝とけ」
『わーい!ありがとう!』
料理を完成させ寝息を立てて爆睡しているユウを起こす。
「おい、起きろ。よだれ垂れてんぞ」
『ん〜よく寝た...なんかめっちゃいい匂いする』
「冷める前に早く食え」
わーいとリビングに向かって行ったユウの後を歩く。
『すごーい!豪華!いただきます!』
目を輝かせて料理を食べ始めるユウをじーっと眺める。幸せそうに口いっぱいに料理を頬張るこの姿が昔からオレは好きだったりする。良くも悪くも顔に出やすいこいつは、好きな物や美味しい物を食べるとこういう顔になる。逆もまた然りで、とにかく分かりやすい。だからこいつの好き嫌いはよく覚えていたし、好きな物を食わせようとする癖がついている。
『美味しい〜!幸せだ〜かっちゃんは食べなくていいの?こんなに美味しいのに食べないの絶対損だよ?』
「損も何も作ったのオレだし、何時でも食えんだよ。昼食ったし、夕飯も近いしオレはいらねえ。お前が全部食え。美味いことくらい食わなくても分かってんだよ」
『美味いことくらい食わなくても分かってるってプロの発言だね。流石次世代クックヒーロー』
「誰がなるか!オレがなるのは最強のナンバーワンヒーローだわ!」
もったいないなーなんて言いながらまた食べ始めるユウはとてもご機嫌で、クックヒーローになんてなるつもりはないが、もっと料理の腕を磨くのはありだななんて考えてしまう。
「明日の放課後って何か用あるか?」
『特にないよ?』
「じゃあオレの家に来い。ババアが連れて来いってうるせえんだよ」
『ババア...?...あ!かっちゃんのお母さんのことか!全然行くけどなんで突然?』
「体育祭でお前、名前付きでバッチリ放送されたからな。なんで言わなかったんだってめちゃくちゃ怒られるし、連れて来いってとにかく体育祭からクソうるせえんだよ!体育祭から帰った第一声もお前のことだったしな」
『それは、なんかごめん。ていうかそうじゃん放送...あーもう死にたい...見た人の記憶全部抹消できる個性とかないかなあ...恥ずかしくて明日から街歩けない...』
「!お前明日、オレが迎えに来るまで待ってろ。絶対1人で先に学校行くな。いいな?」
『うん!やった!これでかっちゃんに隠れられる!でもやっぱり憂鬱すぎるな...葉隠ちゃんみたく透明になりたい』
「一気に気分沈みすぎだろ。3位とったんだから堂々としときゃいいんだよ」
『あ!そうじゃん!かっちゃんどうだったの!?』
「...1位」
『すごい!!やったね!宣言通りじゃん!おめでとう...って顔!全然嬉しそうじゃないし何があったの!?』
「あんなのオレは1位ってぜっってえ認めねえ!!」
『そ、そうなの?でもよかった。安心した。かっちゃんはちゃんと私に勝ってくれたんだね』
「...ああ。でもあれはもう使おうとするな。お前が死にそうになるのはやっぱり見てられねえ...」
『うん。私も使いたくないし、自分からは使わない。止めてくれるにしても、かっちゃんに迷惑かけたくないし』
「そうしろ。あんなの何回もやってお前の体が持つとは思えねえしハイリスクすぎる」
『うん...心配かけてごめん...』
「でも今回だけは褒めてやるよ。お前は約束通り全力でオレに立ち向かった。その結果がこれだ。受け取れ」
『銅メダル!なんでかっちゃんが持ってるの?』
「お前に渡せってオールマイトに押し付けられた。だからはよ受け取れや」
『えーこういうのって首に掛けてくれて、なんか言ってくれるもんじゃないの?』
「どうでもいいだろそんなん。重要なのはメダルが貰えるか貰えないかだろ」
『やだ!かっちゃんと違ってメダル貰うのなんて初めてだし、ちゃんと本物感味わいたい!』
「めんどくせえな.....ほらよ。3位おめでとう」
『えへへありがとう』
メダルを首に掛けてやるとユウはムスッとしていた表情を一変させ、首に掛かったメダルをキラキラとした目で見つめている。そんなユウを見て自然と口元が緩む。
「よく頑張ったな」
頭を撫でるとユウはふふっと嬉しそうに笑った。
変わんねえな...こいつもオレも。
保育園の時にオレに撫でられると安心するってこいつが言ったから、撫でると嬉しそうな顔をするからよくやっていた覚えがある。時間が経ってもずっと続けていた癖は簡単には抜けないらしい。
「これもお前にやるわ」
『うわっ!ちょっといきなり投げないでって、これ金メダルじゃん!やるってこれはかっちゃんが持ってないとダメなやつでしょ!』
「いらねえわ、そんな意味もねえメダル。あんな1位オレが欲しかったもんじゃねえ。誰がなんと言おうとオレはぜってえ認めねえ...」
『そっか。でもこれはかっちゃんが持ってなよ。かっちゃんにとって納得いくものじゃなかったかもしれないけどさ、一切手を抜いたりせず全てに全力でぶつかるかっちゃんは、すごくかっこよかったよ。一番かっこよかった!だからほら、金メダルあげる!』
金メダルの紐を持って、何故か少し得意げに笑うユウを見て思わず笑みが零れる。
「フッあげるも何も元からオレんだわ」
『はい!かっこよかった大賞1位おめでとう!』
「なんだそのクソみてえなネーミング」
そう言いながらも口元が緩んでしまっているのが自分でも分かった。同じ物のはずなのに、首に掛けられた金メダルが前とは全然別物に見えた。
悪くねえ