体育祭 編
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突如体を襲う衝撃。傾く体に浮遊感。舞い上がる赤。痛む掌から起こす2発目の爆破。男の悲鳴。背中への衝撃。全身に感じる重み。
全てが一瞬だったが、スローモーションのようにその光景ははっきりと鮮明に見えた。
遅れてやって来た痛みに悲鳴を上げそうになるのを必死に耐え、下唇を噛む。嗅いだことの無い、何かが焼けたようなにおいがする。手の甲を地面につき、やっとの思いで体を起こす。
少し遠くに倒れている男の姿が目に入り、段々と大きくなるサイレンが聞こえ、ふっと息が抜ける。
「ユウ、もう大丈夫だぞ。ヒーローや警察も直ぐに来る。だから...ユウ?」
力なく、オレの体から滑り落ちるユウを見て息が止まる。長かったはずのユウの髪が短くなっており、髪で隠れていたはずの背中からは血が零れ服をじわじわと赤く染め上げていた。
「おい!ユウ!...ッ!!」
ぶわっと全身から汗が吹き出る。上手く呼吸が出来ない。違う...嘘だ嘘だ嘘だ...!だってオレは!
「うあああああああ!!!!」
ユウの左腕は焼けただれ、酷く損傷していて目も当てられないような状態だった。切り傷ではなく、火傷。誰がユウにそんな事をしたかなんて考えるまでもなかった。酷く痛んでいたはずの手の感覚がなくなる。この匂いは人間の肌の焼けた匂いだったのだ。
この後は気が動転しすぎていてよく覚えていないが、それ以前のことは、光景も匂いも感覚も生々しいほど鮮明に覚えていた。
家に帰っても、あの光景がずっと脳裏に焼き付いて離れない。守るべきはずのユウに大怪我を負わせた。もしかしたらその怪我が原因で死んでしまうかもしれない。左腕が使えなくなってしまうかもしれない。この時初めてオレは自分の個性が使い方を誤れば人を殺してしまうとても恐ろしいものだと自覚した。
自分を攻め続けるオレを両親は必死で慰めようとしてくれたが、ユウの意識が戻ったと聞くまでオレはずっと泣いていた。
意識が戻っても罪悪感が消えることはない。ユウの火傷の痕は傷が深くずっと残るらしい。
お見舞いに行くことになり、早く回復したユウの姿を見たい反面、顔を合わせるのはとても怖かった。きっとユウはオレを恨んでる。
「勝己、怖くても逃げちゃダメ。勝己の気持ちも痛いほど分かるけど、どんなに辛くても現実とちゃんと向き合わなきゃいけない。大丈夫。素直に勝己の気持ちを伝えればユウちゃんならきっと許してくれる」
「...許してくれなかったら?」
「許して貰えるまで何度も謝る!1度ダメだったくらいですぐ諦めるようじゃヒーローになんてなれないよ?」
「うん...でもオレもうヒーローになれる自信ねえ...」
悲しそうな顔でオレの頭を撫でたあと母はユウの病室の扉を開けた。
怖くて、ユウの顔が見れずに母の後ろで俯いていると、ユウがオレに話し掛けてきた。
『かっちゃん手怪我したの?頬っぺも怪我してる』
その言葉は想像もしていなかった、オレの怪我を心配するものだった。顔を上げると点滴を繋がれ、あちこちを包帯で巻かれたユウと目が合った。自分の方が何倍も重症なくせに、心配そうな表情でオレを見つめるユウにどんな顔をすればいいか分からなくなる。
その怪我を負わせたのはオレなのにどうしてそんな顔すんだよ...
「...お前の怪我に比べればこんなのなんでもねえよ...」
気遣うような言葉も謝罪も何も言えず、ぶっきらぼうな返事しかできなかったオレを見かねて母親はユウの母ちゃんを連れて、部屋を出ていった。
とにかくまずは謝らなければと謝罪を口にするが、それはユウによって阻まれた。
悪くないから謝るなと耳を疑うような事を言うユウに唖然としてしまう。
更にユウは驚きの言葉を口にする。
オレが爆破するのを分かってて飛び込んだとバツが悪そうにそう言ったのだ。
1回目の爆破を目の前で見たにも関わらず、オレを救けるために躊躇なく飛び込むなんてどうかしている。
でもヒーローのようだとこの時オレは思った。
無個性で、弱々しくて世話の焼ける奴だと思っていた小さな少女は自分が思っているより、何倍も強く勇敢だった。
名誉の負傷だと、最近オレが教えた言葉を言って笑うユウを見て、ヒーローとか関係なしに傷付けたり、悲しませたりせずにユウを守れる男になりたいとこの時オレは強く思った。
「よかったね勝己。今後もユウちゃんのことしっかり守ってあげてね」
「分かってる!当たり前だろ!」
「あとユウちゃんにお嫁さんになってもらいなさい。元から来てくれたらいいなーって思ってたけど、今日でもう確信した。あんないい子もう一生現れないから何としても絶対ゲットなさい」
「分かっとるわ!!.....ハッ!...何変なこと言ってんだくそババア!!」
「あっはははっ!気合い十分で結構結構!でもそれはそうとしてババアはやめなさい!」
「いってえ!」
言われなくてもそのつもりだ!