職場体験 編
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とある日、かっちゃんと友達数人で遊ぶ約束をした私は楽しみで約束時間の20分前くらいに公園のベンチに座って待っていた。
早く来すぎちゃったなあ...
遠くで遊んでいる誰かの声を聞きながら、足をプラプラさせていると少し先にある公衆トイレと木の隙間にちらっと何かが見えた。なんだろう?猫かな?
鞄をベンチに置き、様子を見に行く。
あれ?何もいない。どこかに隠れたのかな。近くにある植木の下を覗く。
!なんでこんなところに...
「見たね?」
突然聞こえた声に恐る恐る後ろを向く。体が震える。
絶対この人普通じゃない。
この人がやったんだ...
「あーあ、まさかこんなとこまで子どもが入ってくるとは。でも見られちゃったし仕方ないよね」
殺される!足元を抜けようと走るが髪を掴まれ捕まってしまう。
「痛っ!誰か」
口を塞がれ声が出せなくなる。抜け出そうと暴れるが、強くしめつけられ抜け出せない。
「この場所で殺すと後が面倒だ。痛くされたくなければ暴れるなよ?」
鋭い矛のように変形した爪を突き付けられ、抵抗をやめる。人通りが少なく誰からも見えないこの場所では誰も私に気付いてくれない。噛まされた布で声が出せない。
このまま殺されて終わりなの?嫌!まだ死にたくない!
「大人しく裏に停めた車に乗ってもらおうか。僕の爪はよく切れるんだ。抵抗すれば痛い思いをすることになる。どうせ死ぬなら痛くない方がいいでしょ?」
「ユウ!」
聞き慣れた声の主を探そうと体をずらすと男越しに驚いた顔をした彼が見えた。
「チッ!ついてねえなあ、また餓鬼かよ。どんどん仕事が増えてくじゃねえか」
その声を聞いて、かっちゃんの表情が険しくなる。
「ユウを返せ!!」
「うるせえ餓鬼だな!」
男がかっちゃんの方へ走る。
かっちゃんが殺されちゃう!
急いで男の後ろを追いかける。すると男の前でものすごい爆発が起こった。男が前にいるのも関わらず、爆風で体が浮きそうになり、火傷するのではという程の熱風が吹き抜ける。
爆煙が消えると掌を前に出し、肩で息をするかっちゃんが見えた。目が合うとかっちゃんは私の方へ走ってきた。その時、倒れていた男の手がピクリと動いた。
来ちゃダメ!
布のせいで声が出せない。かっちゃんの方へ急いで私も走る。
「このクソガキがあああ!!」
かっちゃんが慌てて、掌を男へ向けようとする。
間に合って...!!
かっちゃんに勢いよく飛び付くと、背中に鋭い痛みが走り直後、ものすごい音が鳴り響いた。
目が覚めると、泣いているお母さんの顔が見えた。
どうして泣いてるんだろうと不思議に思っていると、背中と左腕が激しく痛み出した。
突き刺す様な痛みがずっと続き、頭がおかしくなりそうだ。痛み止めを打たれ少しすると痛みが遠のいてきた。
「ユウ生きてて良かった...死んじゃったらお母さんどうしようかと...」
泣きながら話すお母さんを見ていたら、徐々に記憶が戻ってきた。
『お母さん!かっちゃんは!?かっちゃんは無事なの!?』
「ユウ落ち着いて!勝己くんなら大丈夫。もう昨日退院したわ」
『良かった...』
その後お医者さんから怪我の状況を母と共に聞かされた。出血と火傷が酷い状態で病院へ運ばれ、私は丸1日意識が戻らなかったらしい。
話を聞いた後、背中の切り傷は治るが、左腕の火傷は跡が残ると言われたと母が複雑な表情で言った。
1週間後、普通の病室に移されると、かっちゃんとかっちゃんのお母さんがお見舞いに来てくれた。
「ユウちゃん!無事で本当に良かった...!」
泣きそうな顔をするかっちゃんのお母さんにどうしていいかわからず、かっちゃんの方を見ると、俯いたままで表情は見えないが、後ろに回された手に包帯が巻かれているのがちらっと見えた。
『かっちゃん手怪我したの?頬っぺも怪我してる』
「...お前の怪我に比べればこんなのなんでもねえよ...」
ビクッと体を揺らし、顔をあげたかっちゃんと目が合ったが、かっちゃんはすぐにまた俯いてしまった。
少ししか顔は見れなかったが、いつかの私のように泣き腫らした眼をしていた。
本当はすごく痛いんだろうな...もしかしたら痛くてずっと泣いていたのかもしれない。
「勝己、他に言うことがあるでしょう。お母さん達は外に出てるから、ちゃんと話しなさい」
再びビクッと体を揺らしたかっちゃんは、お母さん達が部屋を出るとゆっくりと顔を上げ、辛そうな顔で私を見た。
「...ユウ...オレのせいで怪我させてごめ」
『謝らないで。かっちゃんは悪くない。救けてくれてありがとう』
「でも...」
『怪我くらいどうってことないよ。かっちゃんが爆破するって分かってて飛び込んだのは私だし、本当にかっちゃんは何にも悪くないの』
「お前分かってて飛び込んだのか」
『うん。かっちゃんが掌を向けようと動いたのは見えてた。でも早くしないとかっちゃんが死んじゃうってそれしか考えてなくてそのまま飛び込んじゃった。倒せてたかもしれないし、かっちゃんにとっては迷惑だったかな』
「いや...間に合わなかった。オレが爆破するより、ユウが斬られる方が速かった。だからユウが救けてくれなかったらオレは死んでた。...ありがとなユウ」
この時の感動を私は今も覚えている。初めて人を救けられた。初めてかっちゃんの役に立てた。初めて自分を誇らしいと思えた。この感動があったからこの事件の事がトラウマになったり、いつかの様に恐怖に縛られることもなく乗り越えられたのだと思う。
『じゃあ名誉の負傷ってやつだね!私もかっちゃんも!』
「そうだな」
いつもの元気が戻ってきたかっちゃんに安心していると、お母さん達が帰ってきた。
「何とかなったみたいね。ユウちゃん、綺麗な体に傷を付けることにになって本当にごめんなさい。そしてありがとう。ユウちゃんが勝己の友達で本当に良かった」
『私こそかっちゃんが友達で、ヒーローでいてくれて本当に良かったです!』
次の日、警察が事情聴取にやって来た。私は気絶してしまい覚えていないが、その後直ぐにかっちゃんの爆破の音でヒーロー達が駆けつけ私達は救出され、あの男は殺人未遂で逮捕されたとの事だった。女性を攫って、自宅で殺そうとしていたらしい。私が死体だと思った女の人は、睡眠薬で眠らされていただけで無事だったみたいだ。
事情聴取をされても泣いたり、怖がったりせずケロッとしている私に、警察の人達は唖然としていた。
退院後、初めて会ったかっちゃんと互いの拳をコツンと当て笑い合いこの事件は終末を迎えた。
きっとこれが私の原点