ゆーあーmyヒーロー
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楽しく保育園に通っていた日々は突然終わりを告げる。
お父さんがヴィランに殺された。
ヴィランが暴れ回ったビルにいた多くの人達が亡くなり、殉職するヒーローも出た大事件。その被害者の1人だった。
私は保育園にも行かずずっと部屋で泣き続ける日々を送っていた。お父さんが死んでしまった事も悲しいし、自分もヴィランに殺されるのではないかと怖くてたまらなかった。悲しみと恐怖でがんじがらめになった私は今日も怯えて外に出られずにいた。
ガチャっとドアを開ける音が聞こえ、急いで布団の中へ潜り込みギュッと目を瞑る。お母さんはノックをするはずだし、お母さんじゃない。もしかしてヴィラン...?聞こえる足音に体が震える。
『ひっ』
布団を勢いよく捲られそうになる。逃げようと必死になって藻掻くと体がグラっと傾く。
「っぶね!」
腕を掴まれベッドの上に引っ張りあげられる。
掴まれた腕を振りほどこうと暴れる。
「っ!おい!おい!落ち着けユウ!」
聞き慣れた声が聞こえ、振り向くと焦った顔をしたかっちゃんと目が合った。
『あ...かっちゃ...ん』
「ひでえ顔だな。どうしたんだよ。しっかりしろバカユウ」
いつも通り物言いは刺々しいが、声は今までに聞いたことないほど弱々しく、困ったような悲しそうな表情をしていた。
『ごめんなさい私っ手を...』
ベッドから落ちそうになった私を引っ張りあげた彼の手には私が引っ掻いた傷がつき、血が滲んでいた。
「こんくらいどうってことねえ!」
『でも血が』
「オレはこんなんでどうにかなるほど弱くねえ!そんなことより、どうしてあんなにパニックになってたんだよ」
『お母さんはノックをするはずなのに突然ドアの開く音が聞こえたから、ヴィランだと思って...』
「は?」
何を言ってるんだという顔で彼は私を見ていた。
『お父さんが死んじゃって悲しいし、私もヴィランに殺されるんじゃないかって...怖くて涙が止まらなくて、他の事考えようとしても...直ぐに思い出しちゃって...もうやだよお...』
私がゆっくり、どもったり震える声で話すのを彼は黙って静かに聞いていた。
「お前、ヒーローって知ってるか?」
『え...』
知っているに決まっている。いきなり何を言っているんだろう。
「ヴィランをぶっ飛ばす!そんで弱いやつを救ける!それがヒーローだ!」
『でもヒーローも死んじゃったってニュースで...』
「オレは強いから絶対死なねえし負けねえ!強えヒーローは最後は必ず勝つんだ!」
『う、うん』
いつも通り自信満々に言ってのける彼に、何がなんだか分からないが返事をする。
「だからオレがお前のヒーローになってやるよ!」
そう言って二っと笑った彼はかっこよくて、とても輝いて見えた。恐怖も悲しみも一瞬で消え去り、暗闇から光の方へ引っ張りあげられるようなそんな感覚がした。
悲しくも怖くもなくなったのに、何故かまた涙が溢れてきた。
「オレが守ってやるし救けてやる。だから明日は保育園来いよ」
不器用に私の涙を拭う手はとても温かかった。
『うん...ありがとう、かっちゃん』
また溢れてきた涙を払おうと目を擦るとぽんと頭に手を置かれ頭を撫でられる。乱暴なようで優しい手つきに涙は止まることなく流れ続ける。しゃくり上げながら涙を流し続ける私の頭を何も言わずにかっちゃんはずっと撫でてくれていた。
泣き疲れていつの間にか眠ってしまったらしく、気がつくと、かっちゃんはいなくなっていた。
リビングの方から声が聞こえてくる。もしかしたらまだお母さん達は話してて、そっちにいるかもしれないと、部屋を出るとお母さんは電話をしていた。私に気が付くと電話をやめ、心配そうな顔で私を見た。
「ごめんね、誰にも会いたくないってユウが言うから止めたんだけど、勝己くん聞いてくれなくて...急ぎの用事があってそのまま出掛けちゃったんだけど、大丈夫だった?」
『うん。かっちゃんは達は帰ったの?』
「達?ああ、来たのは勝己くんだけよ。私が出掛けてる間に帰っちゃったのね。さっきの電話は光己ちゃんからで、すごい謝られちゃった。突然来たから驚いたけど、まさか1人で家に来て1人で帰っちゃうとは、びっくりよね。ユウは何処か行く時は必ずお母さんに言うのよ?」
『うん』
いつも通りお母さんに連れられて来たと思っていた私にはかなりの衝撃だった。かっちゃんの家から私の家までどれくらいあるのか覚えていないが、少なくとも外に出て見えるような場所にはないはずだ。
『心配して来てくれたんだ...』
「勝己くんはユウのこといつも大切にしてくれてるから、とても心配してくれてたのね」
『え?いつも意地悪言ってくるし、かっちゃんは私のこと嫌いだよ』
「ふふっユウにはまだ分からないか。勝己くんはユウのこと嫌ってなんていないよ。少し素直になれなくて恥ずかしがり屋さんなだけ」
『そうなの?』
「うん、お母さんが保証する!」
よく分からないけど、私は嫌われていないらしい。
じゃあ今までも無理して一緒にいてくれてたわけじゃないのかな。それなら嬉しいな。
『あのね、私明日からまた保育園行く』
「!ほんと!良かった!でも本当に大丈夫なの?無理してない?」
『うん。私にはヒーローがいるからもう大丈夫なの!』
小さな私のヒーロー