体育祭 編
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体育祭当日、轟くんの突然の宣戦布告で控え室はザワついていた。
轟くんがそんなことをする人だとは思ってもなかったので思わず唖然としてしまったが、宣戦布告を受けたのはまさかのいずっくんで、慌てて切島くんと止めようとする。が、いずっくんの返した言葉でクラス全体の空気が一変した。いつも気弱ないずっくんが堂々と言い切る姿はとてもかっこよかったし、その言葉は私に鋭く突き刺さった。
その通りだ。だから私も本気で挑まなければ。
アナウンスが流れ、会場へと足を踏み入れる。想像の何倍もの観客。マイク先生の実況、大盛り上がりの会場に圧倒され緊張で震えながら、かっちゃんと切島くんの間に隠れる。
「おい、すげえ震えてるけど大丈夫か?いつもの調子からは考えられねえけどお前本当に人前ダメなんだな」
『ほんと無理...何この人数、マイク先生の実況...完全に私を殺しにかかってるじゃん...』
「泣きそうな顔でぴーぴー言ってんじゃねえ。その姿が全国放送されてんだぞ、ちゃんとしろ」
『あああーテレビ忘れてたーーもうやだ消えたい...』
緊張で死にそうだ。だけどそれ以上に私は怖くてたまらなくなっていた。これだけの人数がいる中で、もしまた変身してしまったら確実に被害者がでる。
いずっくんの言葉で頑張ろうってせっかく思えたのに...
だけど私のせいで誰かが傷付くよりも、ヒーロー科を外される方がマシだよね...
かっちゃんやいずっくんと同じクラスになれて、担任やクラスメイトにも恵まれた。けどもう諦めるしかない。全力でやらなかったとかっちゃんは怒るだろう。でも仕方ない。仕方がないの...
選手宣誓をするのはまさかのかっちゃんだった。
かっちゃんがすごいことは分かってたけど、入試1位だったとは。てか態度悪...ポケットに手突っ込んで宣誓とかある?と思っていた矢先、オレが1位になると宣誓するかっちゃんにほんとどういう心臓してんだと気が遠くなりそうになる。
ブーイングヤバい...A組全員とばっちりだよどうしてくれんだかっちゃん!ヒーロー科からいなくなる身だし、私は目立ただず過ごしたいんだよ!しかも先生今の宣誓ツッコまないの?マジかー...
そんな精神が死にかけてるところでおい、と戻ってきたかっちゃんに声を掛けられる。
『何?かっちゃんのせいで私の精神は死んだよ。どうしてくれんだおい』
「宣誓前から既に死んでただろうが。宣誓は聞いてたな?1位になるのはオレだ」
『うん。かっちゃんならなれると思うよ』
いちいちなんの確認なんだろうか?意図が分からず顔をしかめる。
「オレが求めるのは完膚なきまでの1位だ。お前が狐になろうが何しようがオレは負けねえ。お前を絶対止める。だから怖がるな。全力でぶつかって来い」
『...気付いてたの?』
「あたりめえだろ。緊張であんな顔しねえわ普通。狐になって暴走するのを恐れてるんだろうが、そんなの心配することはねえ。雄英がたかが1人の暴走くらい止められねえわけねえだろ。会場にはイレイザーヘッドもいるし100%大丈夫だわ」
『そっか...全然思いつかなかった』
「はあ...そういうことだ。だから全力で来い」
『うん。ありがとうかっちゃん』
今日までは隠せてたのに最後の最後にバレてしまうあたりやっぱり私はダメだななんて思いながら、かっちゃんが気付いてくれた事を喜んでしまってる自分は本当に救いようのないやつだと思う。
不安も恐怖も消えた。あとはかっちゃんやいずっくんの言った通り、本気で全力で挑むまでだ。
1種目目は障害物競走。
個性で身体強化をしてスタート位置につく。
前が見えない中いきなり地面が凍り驚くも、手前の人達のリアクションのお陰で何とか避けられた。
すごい個性の人がいたもんだな。これでだいぶ人数が減ったのではないだろうか。凍った人たちの間を抜けると試験の時にいたロボットがいた。
あの氷轟くんの個性だったのか!なんてバカ強いのだろう。私が一切歯の立たなかった0ポイントヴィランを一瞬で凍らせ先に進んでいく。
私の力じゃ倒せない。どうすれば...悩んでいると八百万さんが大砲でヴィランを吹き飛ばした。
すごい...!それに便乗して間を抜けさせてもらったが次の綱渡りでまたすぐに足を止めることとなった。
怖すぎでしょ!何あれ!?落ちたら死ぬじゃん!
綱は出来れば渡りたくない。身体強化を更に強めて島だけで渡っていけないかな...足を集中して強化するイメージで...!勇気を出して思いっきりジャンプする。いけた!あとは焦らず慎重に...!
何とか渡りきりコースを進む。
最後の障害物は地雷らしい。あちこちで爆発が起こっている。威力は大したことないみたいけど、音があまりにデカい。個性の特性上、聴力がかなり強化されているためうるさいなんてもんじゃない。鼓膜がやられそうだ。
ここは個性解除するしかないな...
個性を解除した瞬間、どっと疲れがでる。体が能力に追いついてないから反動がすごい。でもここまで頑張って来たんだからできるだけ上位を目指すんだ!
結果は20位。あれだけ人数がいた中でこの順位を取れたことに驚きすぎて何度も順位表を見直す。え?幻じゃないこれ?
「頑張ったじゃねえか。お前が20位取れるなんて思ってなかったわ」
『かっちゃん!やっぱりあれ幻じゃないんだ!信じられないけど20位とれたんだ...』
かっちゃんに言われてやっと実感が湧いてきた。
今ばかりは自分を褒めてやりたい。感動を噛み締めながら、そういえば轟くんと競ってたけどかっちゃんは何位だったんだろうと順位表をもう一度見る。
『ん!?いずっくんが1位!?』
また順位表を何度も見直す。いずっくんが1位!?
そしてかっちゃんは3位...恐る恐るかっちゃんの方を見ると見たら子供が泣くんじゃないかというくらい怖い顔をしていた。
『つ、次の種目なんだろうね』
「ぜってえ1位取ってやる」
怖い怖いよかっちゃん...
次の種目は騎馬戦。説明を聞いて直ぐにみんなの視線がいずっくんに集まった。
ヒェッ…いずっくんだったら絶対私死んでる!
しかも声掛けて自分でチーム作るの!?やだ無理どこ行っても確実に足引っ張るしとてもじゃないが声を掛けられない。でも声をかけてくれる人いるわけないし、ぼっちにされる。
終わった私の人生終わった...
ものすごい勢いでスカウトが始まり、轟くんとかっちゃんの周りに人集りができている。人気えげつな...
どうしようと辺りを見渡しているとぽつんといずっくんが取り残されていた。ここはいずっくんにお願いして組んで貰うしかない!
「ねえ、君」
『えっ私?』
あの時の普通科の...
えっ...あれ...?もう終わってる?
気が付くと騎馬戦はもう終わったらしく、昼休憩だとみんなが会場を出ていくところだった。
何が起こったんだろ?
会場は平和そうだし何も言われないから暴走したわけじゃないみたいだけど...うーん。何が起こったんだ?
考えているうちによく分からない通路に入ってきてしまった。
何処ここ!?
おろおろしていると、いずっくんと轟くんの声が聞こえた。助かったと声のする方へ行こうとすると、グイッと腕を引っ張られ口を塞がれる。何事かと上を見ると、静かにしろとかっちゃんに睨みつけられた。
一体なんなんだの意を込めてかっちゃんを睨み返したが、淡々と語り始めた轟くんの話を聞いて思わず固まってしまった。あまりに重い過去だった。こんな立ち聞きしていいような話じゃなかった。だけど...
『せっかく持って生まれた自分の力なのに...』
氷だって炎だって全部轟くんの力だ。私とは違う、持って生まれた轟くんだけのすごい力なのに...
行くぞと手を引かれ、連れられるがまま私は外へ出た。
私とは違うのに...