体育祭 編
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病室の扉が勢いよく開き、驚いて入口を見ると息を切らしたかっちゃんが立っていた。私を見たまま微動だにしない彼に声を掛けると、あまりに勢いよく走ってきたので怒られる!と身構えると予想に反して彼は、今にも泣きそうな顔をしながら弱々しく言葉を紡いだ。そして目尻に溜まった涙を、頬を伝った雫を私は見てしまった。
初めて彼の泣いてる所を見た。
幼い頃から一緒にいることが多かった彼だが、彼が泣いているところを見た記憶が私にはなかった。目を腫らして、会う前に泣いていたんだなという時はあった。でも一緒にいる時は涙目にはなろうとも涙を流すことはなく、いつもぐっと堪えていて、私ならすぐ泣いちゃうのにすごいなといつも思っていた。
そんな彼が大きくなった今、涙を流した。驚きすぎて思わず指摘すると泣いてないと言いつつ、彼は腕で顔を拭った。
なんで骨折したのか意識不明になっていたのか彼の言葉で解明されたが、私には全く身に覚えがなく困惑するばかりだった。
ただそのせいで彼に泣かせるほどの思いをさせてしまった事だけは疑いようのない事実だ。
記憶はないが、ああまた自分は失敗してしまったのだと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
その後、一昨日の事を彼が謝ってくれ、明日スーパーに付き合ってくれると言ってくれたので少し気分が明るくなったが、どこか憂鬱なままで家に帰っても気が休まることは無かった。
彼を泣かせてしまった罪悪感と身に覚えのない変身。
かっちゃんは私が狐になった事と、庇ったから怪我をしたってことしか言わなかったけど、本当にそれだけなのかな...
記憶が無いうちに誰かを傷付けたり、危ない目に遭わせたりはしてないだろうか。
それに次また突然変身してしまう可能性だってある。記憶がない以上どうしてそうなったのか、何か条件があるのか何も分からない。
どうしよう私このままじゃ...
そんなことがぐるぐる頭を巡り、あまり寝付けないまま朝が来た。
支度をしている最中にインターホンが鳴る。きっと、かっちゃんだ。あまりに早いお迎えに焦りまくってドアを開ける。
「よく着替えてたな。絶対寝込んでてジャージとかで出てくると思ったわ」
『あとちょっと早ければそうなってたね...はは』
「保健室行くだろ?寝癖はよ直してこい。そんで弁当持ってきたから食え」
『え!いいの!?やったー』
寝癖を直し、早速お弁当を頂く。美味しい。見た目も綺麗だしどれを食べてもとにかく美味しい。
『美味しかった!ご馳走様でした!これってまた、かっちゃんが作ったの?』
「ああ」
『かっちゃんってほんとすごいね〜絶対料理人でもやっていけるよ!料理本出したら私買うわ』
「出すわけねえだろ!何馬鹿なこと言っとんだ!行くぞ」
『はーい。あ、リュック自分で持ってくからいいよ!』
「うるせえ、怪我人は黙っとけ」
『あ、ありがとう』
心配かけないように言ってはみたものの、正直まだ痛いので彼の心遣いはありがたかった。
これ以上彼に心配かける訳にはいかない。
痛みに耐える自信はあるが、問題は今の不安を彼に悟られないようにすることだ。彼は昔からとにかく鋭い。幼い頃は隠し事をしても直ぐにバレてしまっていた。
だけど、今の私は3年間も雄英に行くことを隠し続け、家でどんな扱いを受けていようがずっと平凡な普通の子を演じてきた、そんな人間だ。
だから気を抜かなければ何とかなるはずだと自分に言い聞かせる。
学校に着き、保健室で治療を受けまた少し寝かせてもらう。
いつの日かと同じように彼に起こされ、髪を結び直され教室へ入った。
すると心配した、無事で良かったなどと言われながら、ものすごい勢いで囲まれた。どんどん人が集まり、もみくちゃにされそうになったところをかっちゃんに救出される。
「こいつは骨折してんだ!無理させんじゃねえ!」
「えー!ユウちゃん骨折してたの!?大丈夫?痛くない?」
『うん、あばらをちょっとね...でも病院で治療してもらったし保健室も行ったし大丈夫』
「マジで死んじまうんじゃないかって心配したぞ。とにかく無事でいてくれて本当に良かったぜ」
『心配かけてごめんね』
ホームルーム開始時間が迫って来たので、座席へと座ると、轟くんに声を掛けられた。
「骨折気付いてやれなくて悪かった。気付いて処置できてればもう少しマシだったかもしんねえのに、結局お前がぐったり死にそうになってるの見てるだけで何も出来なかった」
『そんな!全然痛くないし大丈夫だよ!心配かけてごめんね』
ホームルームが始まり、入ってきた相澤先生を思わずガン見する。復帰早えええ!という声が上がる中、あれで復帰していいのか?という疑問が耐えない。
だってもうほぼミイラだよ!安静にした方が良いって絶対!
しかし先生はなんでもないような様子で淡々と体育祭の話を進めていく。
えっ...私全然見た事ないんだけど、そんなにデカい催しなの?学校の体育祭なのに!?そこで将来決まっちゃったりするの?マジかよ...
そんな思いが顔に出ていたのか、大丈夫か?と轟くんに心配される。
『轟くん、私の知ってる体育祭と違いすぎて全く想像つかないんだけど体育祭って何?』
「何って言われても体育祭は体育祭だろ」
『なんで体育祭でスカウトされるの?どういう仕組み?』
「ヒーロー候補生の実力を見れるチャンスだからな。プロヒーロー達が会場やテレビでオレらの試合を見て、将来欲しいなと思った生徒をスカウトすんだよ」
『て、テレビ?えっテレビ放送されるの!?しかも会場?絶対目立つじゃん、ただでさえ運動音痴で死にそうなのにそんなの緊張で死んじゃう...』
「緊張で人は死なねえだろ」
『私は死ぬんですー!』
体育祭怖すぎる!!