ゆーあーmyヒーロー
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「嫌だ」
オレの回答にあいつは目を丸くした。
降ろせと騒ぐユウを抱き上げそのまま牢を出る。鎖が重く想像以上にキツい。
『いいって!かっちゃんまで捕まっちゃう!』
「うるせえ!もうお前を救けられないのは嫌なんだよ!」
『かっちゃん...』
「入口の扉が壊されていて驚いたが、まさかこんなところにまで入ってくるとは。ここを見られたからには君には口封じをしなくてはいけないね。この辺りには人がいない。
いくら救けを求めても誰も来ない。友達だか、彼氏だか知らないけどそいつに関わったのが運の尽きだ。残念だったね、君はもう帰れない」
ゆっくりと後ろにユウを降ろす。ごめんなさいと悲痛な面持ちで、謝るユウの頭を撫で、小さく耳打ちする。頭に疑問符を浮かべているユウに笑い、前へ出てクソ野郎を見据える。
「ハッ残念なのはてめえだ。オレを他のモブと一緒にすんじゃねえ。オレもこいつも帰るんだよ。とっととどきやがれ!」
天井へ向けてありったけの威力で爆破する。
ものすごい爆発と音に、一瞬クソ野郎は固まったが、すぐにオレを捕らえようと個性を使い始めた。
鎖を避けたり爆破しながら凌ぐ。ぶっ殺したくてたまらないが、ヒーロー免許がない以上無闇にぶっぱすれば、こちらにも罪ができてしまう可能性がある。
チッ早くしろよ...!
突然ピタッと攻撃がやみ、クソ野郎は捕縛布でグルグル巻にされた。
「遅え...」
「お前が無茶な行動するからだろ。誰が単騎で突っ込めと言った。まあ、おかげで早く蹴りがついたがな。三条、無事か?」
『あ、はい!救けてくれてありがとうございます!えっと...』
「雄英高校1-A組担任の相澤消太だ。お前の幼馴染が何とかしろとうるさいから来た」
「んなこと言ってねえわ!」
「まあそういうことだ。こんな場所とっとと出て帰るぞ。三条この辺りに警察署は?」
『近くにありますけど、多分買収されてるんだと思います。前に警察に相談したら、言ったことが全部筒抜けになってて、すごい怒られたので』
「はあ...どいつもこいつもクソだな。時間はかかるが、知り合いの警察に連絡するか。ひとまずお前は荷物をまとめろ。その後病院に連れてく。爆豪は三条を手伝ってやれ」
『分かりました。ありがとうございます』
立とうとしてふらつくユウを支えながら、階段へ向かう。ユウの手足や首に鎖の形状の痣がくっきりと付いていて思わず顔を顰める。
「このっクソガキが。そいつを返せ、そいつは一族にとって大切な生贄なんだ!」
「何が生贄だ!ふざけたこと言ってんじゃねえ!寝言は寝て死ね!それに返せだあ?奪ったのはてめえだ!あと10年もかからなかったなクソ野郎。せいぜい監獄暮らしを楽しみやがれ」
「そうか、お前あの時の...」
悔しそうに顔を歪めるクソ野郎を睨みつけ、ギュッとオレのブレザーを握っているユウを隠すようにして階段を上がった。
「これで荷物全部か?」
『うん。ほとんど何もないから。こんな事になってごめんね』
「お前が謝ることじゃねえだろ」
『だって私のせいで、こんないざこざに巻き込んじゃって、もしかしたらかっちゃん殺されてたかもしれないんだよ...?』
「首突っ込んだのはオレだ。それにもうオレは負けたりしねえよ。舐めんな」
『かっちゃんが強いのは知ってる。でももう、私のせいでかっちゃんが傷ついたり、大変な思いするのは嫌だ。
幼い時は分からなかったけど今はどれだけかっちゃんに迷惑かけてたか、甘えていたかよく分かるから。なのに結局私が失敗したばっかりにまた迷惑かけちゃった...ごめんね』
「お前、そんな風に思ってたんか。お前はオレがどんな人間か知らねえのかよ」
『ええっと...強い。頭がいい。なんでもできる。怒りっぽい。目付きと口が悪い。俺様。自分以外全員ゴミだと思ってる』
「てめえ、いい度胸だな!」
『ひぃ!かっちゃんが聞いたんじゃん!?』
全く見当違いな回答しやがって!昔からだが、こいつはわざとかってくらいズレた事を言ってくることが多々ある。ほんとにこいつは...!
『でもお兄ちゃんみたいで面倒見が良くて、本当はすごく優しい人』
「今更上げようたってそうはいかねえぞ」
『本当にそう思ってるのに信じてくれないんだ』
拗ねた様子で不満げに頬を膨らませるこいつの言ったことはどうやら本心らしい。言われたことがないことばかり言われて、柄にもなく少し照れてしまう。
「...別に信じてないとは言ってないだろ...」
『ふーん。あとね』
「もういいわ」
『私のヒーロー』
「は...?」
ニコッと笑って言うこいつに思わず固まってしまう。
『は?って酷くない?保育園の時からずっとそう思ってたのに〜かっちゃんは覚えてないかもしれないけど、かっちゃんが言ってくれたこと私すごく嬉しかったんだから...』
「オレが言ったんだ、忘れたわけねえだろ。ただ...オレは約束を守れなかった。お前がなんて言おうと2回もだ。なのにお前がまだオレをヒーローだって言うから驚いたっていうか...」
『今まで何回私がかっちゃんに救けられてると思ってるの。
今日だってこんな遠くのこんな場所に私を救けに来てくれた。
今まで救けを求めても警察もヒーローも誰も救けてくれなかったのにだよ?
私にとってのヒーローは今も昔もかっちゃんだけなの。
プロヒーローだって全部は救えない。それなのにたった2回なんてすごいじゃん!かっちゃんがプロヒーローになったらオールマイト越えられるんじゃない?』
純粋で真っ直ぐで、きらきらと輝く一切の迷いのない目。
慰めでもなんでもなく、心からの言葉だとすぐに分かる嬉々とした表情。思い出した。オレはユウのこの顔が好きだった。
オレを信じて疑わない馬鹿みたいに無邪気な顔を向けられるのが好きだった。
『え?かっちゃんどうしたの?おーい』
「超えるに決まってんだろ!」
『何で怒ってんの!?』
「まだオレのことヒーローだって思ってんなら、救けくらい呼べよ。変な遠慮なんかしやがって。お前のこと迷惑だなんて思ったことねえし、今更だわ!お前が1人で抱え込むとろくなもんじゃねえって今回よーく分かったしな!昔みたいになんでもオレに頼っときゃいいんだよ馬鹿が!」
『うん...ありがとうかっちゃん』
「分かりゃいいんだよ。心配かけやがってクソが」
頭を撫でると嬉しそうにあいつは笑った。
やっとあの日掴めなかった手を掴めた。
今度こそ約束を守る。そんな気持ちを胸に、鳴り響くサイレンに驚くあいつを見て笑った。