最終決戦偏
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入学式から少し経ち、キャーキャー女に言われる事も追いかけられる事もなくなった。
それに伴って突然ユウが消えることも逃げることもなくなり、以前のように登下校が一緒にできるようになった。
これでようやく平穏な日々に戻ったと思われたが、オレの苦難はこれからだった。
(三条先輩だ...!)
(戦闘とのギャップ堪んねえよな)
(戦ってる姿もかっこよくて素敵だけど、普段の抜けてる感じがとっても可愛い)
(それにやっぱ、戦う時だけケモ耳はあざとい)
(萌えの塊感すごい。3次元でも推せる)
キャーキャー目立つ女の声が消えて気になり始めたのはユウへの声だ。ユウの性格への配慮なのか元々内気なヤツがファンになりやすいのか、直接ユウに話し掛けるヤツはほとんどいない。
けれど、ユウが通れば囁き声が聞こえるし、口にせずともユウを見る目を見ればどう思ってるかくらい簡単に分かる。
あのテレビで映された戦いとのギャップで、ファンが減るオレとは逆にユウのファンが増えるのは付き合ってるオレからしても当然だろうなと思う。
かといってここまで多いのは想定外だし、人目があるとこでは手を繋ぐだけでも逃げていってしまうユウのせいで牽制も公言もできず、気が気じゃない。しかも悩みの種はまだある。
『しょーとくん、お兄さんとは話せた?』
「ああ。好きな食べ物は蕎麦だって」
『そっか。しょーとくんと一緒だね!』
「ああ。姉さんがユウにまたご飯食べに来て欲しいって。母さんもお前に会ってみたいって言ってるし来てくれると嬉しい」
『なんかプレッシャーがすごいんだけど...でも私もしょーとくんのお母さんに会ってみたいし、またお姉さんのご飯食べたい!』
「フッ、ご飯が食べたいだけだろ」
『違うよ!』
前を歩く仲良しカップルにしか見えない2人を睨みつけていると、両サイドから笑い声が上がった。
「嫉妬はよくないよ〜カッチャン?」
「轟、睨み殺すつもりかよ」
「うっせえ!」
ニヤニヤと笑って見てくる上鳴と瀬呂を睨みつける。
「お前のファンといざこざがなさそうで安心したけど、ユウちゃんのファンってなんか執念深そうで怖いよな。一生推します!みたいな」
「じわじわ増えてる感じするよな〜キャーキャー分かりやすく騒ぐ奴がいねえから本人全然気付いてねえけど」
「でも、お前の中で轟が一番不安要素ってのは前から変わんねえのな」
「別に不安じゃねえ!」
「まあ、あれ見て平常心じゃいられねえよな。付き合ってから三条、お前のこと意識しすぎて固くなっちまってるから、あっちといる方が楽しそうに見えるかもしんねえけど、やっぱり三条はお前といる時が一番楽しそうに見えるぜ?」
「...そうかよ」
ユウのオレに対する気持ちが簡単に揺らぐものでないことは分かっている。それでも見えないものは不安になる。自分に持ってないものを持っている人間が傍にいれば尚更...
この溜まっていくばかりのモヤモヤをどこで発散すればいいのだろう。オレが騒がれていた時、ユウはどうしてたのだろう。どうしてほしかったのだろう。
恋って分かんねえことだらけだ...
『いや〜青山くん行っちゃったね〜エリちゃんの歌激しかったね〜』
「そうだな」
送別会の片付けをしながら話すユウはなんだか機嫌が良さそうだ。人の気も知らないでなんて八つ当たりなことを考える自分が嫌になる。
『かっちゃん、片付け終わったら私の部屋に来てくれる?』
「勉強か?お前にしては殊勝な心がけだな」
『違うよ!もー!すぐ意地悪言うんだから!今回はそういうのじゃないの!』
ユウが自らオレを部屋に呼ぶなんて滅多にない事だ。ユウに限って恋人云々な事柄ではないだろう。プレゼントを貰うような日でもない。雰囲気的に別れ話ではない。...と思いたい。全然思い当たんねエ...
片付けが終わり、ユウの部屋について行くと、じゃーん!っとユウがラッピングされたカップケーキを渡してきた。
『ケーキの材料ちょっと貰って砂藤くんに教わって作ったの!だから味は安心して!』
「なんでいきなり」
『たまには私もかっちゃんに喜んでもらえるものあげたいなと思って。上鳴くん達が手作り貰えると嬉しいって言ってたからそれで...食べてくれる...?』
全く想像がつかなかった展開に驚きながら、少し曲がったリボンを解き、早速ケーキにかぶりつく。
「美味い」
『ほんと!?やったー!実はかっちゃんはあんまり甘くない方が好きかなと思って砂藤くんに言われた分量より砂糖ちょっと減らしたんだよね』
「そうか」
オレのこと考えて作ってくれたんだなとニヤけそうになるのを堪え、再びケーキにかぶりつく。
『ねえ、かっちゃん。思ったことはなんでも言っていいんだよ。私も伝えるの得意じゃないし、人を困らせたり、悲しませたりしちゃう事なら尚更言いたくないって思うから、この前のお茶子ちゃんの気持ちすごくよく分かるの。
だから言ってくれればよかったとか我慢しなくていいって言えなかった。私はそっと見ないふりをするのも優しさだと思うから。
でも浮かない顔してるかっちゃん見てたら、かっちゃんの気持ちどうしても知りたいって思った。
かっちゃんみたいに言わなくても察せるほど、私の頭は賢くなくてですね...だから教えてくれないかな?』
困ったように眉を下げるユウを見て、そんなに顔に出てたのかと恥ずかしくなるが、オレのことをこいつなりに考えて見ててくれたんだなと温かい気持ちになる。
「お前が他の男と楽しそうに話してたり、色んな奴がお前のこと褒めたり、注目して見てるから誰かに取られちまうんじゃねーかってずっと不安だった」
『えっ...そ、そっか...気のせいじゃ...ないんだよね、ごめん』
全く想定外の言葉だったらしく、目に見えて狼狽えているユウに、ここまでくればやけだと続ける。
「だから見てる奴らに、ちゃんと付き合ってるって分からせてエ。オレが一番だって安心させてほしい」
『え、えっと、どうすればいいのかな...私、色んな人が見てるとこで抱き合ったり、き、キスはちょっとムリデス...ごめん...
一番はもちろんかっちゃんだよ!好きなのも大切なのもずっと一緒にいたいって思うのもかっちゃん!
ていうか付き合ってるのかっちゃんだけだし、二番とか三番いない...恋愛じゃない好きな人はいっぱいいるけど、それ含めてもかっちゃんが完膚なきまでの一位!』
相変わらずのズレた返答にもどかしくなるが、全く他は眼中に無いといったユウの言い方に安心する。
「何ドヤってんだバカ。つーか抱き合うのもキスもオレしかいない時でもダメじゃねーか。そこまで期待してねえっつーか、オレもする気ねえわ。逃げずに手ぐらい繋がせろ。お前が逃げるから余計変な誤解を招くことになってンだよ」
『手ね...逃げないように善処します...変な誤解って何?』
「喧嘩したとか別れたとか振られたとか色々言われてンだよ!」
『ええ!?そんなこと言われてんの!?付き合ったのつい最近なのにマイク先生恨むよほんと...誰にも注目されず生きたいんだよ私は...』
「だから明日からは逃げんじゃねーぞ。あと今週の日曜...用がねえならデート行かねえか?」
『行く!』
「決まりだな。行く場所はちょっと考えさせてくれ。カップケーキありがとな」
帰ろうと背を向けるとギュッと後ろから抱きしめられた。
『おやすみ、かっちゃん。大好きだよ...』
言うなり、後ろに逃げていったユウを捕まえ、腕に閉じ込める。
「言い逃げはズリいんじゃねえの」
『〜〜っ』
「オレも好きだユウ」
真っ赤になっているユウの頬に手を伸ばす。
「.....」
今このタイミングならと勇気を出して踏み出したはずなのに肝心なところで体が動かなくなってしまう。
ドキドキと心臓がうるさい。熱くなった体に汗が滲み始め、オレを伺うように見上げてくるユウからつい目を逸らしてしまう。
「おやすみ。また明日な」
『うん...!』
自分の部屋へと戻り、盛大にため息をつく。
なんでできねえんだよバカ...
あのユウにさえできたことがなんで自分にできないのだろう。
最近以前にも増してユウが可愛いく見えてしまい、触れたいと思うのに同時に緊張するようになってしまった。でも一度触れてしまえば、すごく満たされた気分になって、ずっと触れていたくなって...
口元を手で覆いながら小さく呟く。
「今度はぜってえしてやる」
あと一歩の勇気