最終決戦偏
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『疾っ!』
体が軽い。自分が動きたいように体が動く。
周りの動きがよく見える。それでも、今のかっちゃんの動きは見えなかった。この際で進化したのは私だけではないらしい。
まあ私のは一時的だけど...
(まだ寝かせてあげない)
え...?
(ヒーローになるって決めたんだから待ってるだけじゃダメ。かっちゃんに守ってもらうんじゃなくて一緒に戦わなきゃ!)
そりゃあそうしたいけど、こんな状態じゃ完全に足でまといっていうか行くこともできない。私なんだからわかるでしょ?
頬を膨らまし、ムスッとしている幼い自分を呆れながら見ると睨まれた。
(方法ならあるもん!仕方ないから教えてあげる。その代わり絶対勝ってよね!死ぬのもダメ!あんたのことは嫌いだけど、あんたが死ぬとかっちゃんが悲しむから...)
さっき殺そうとしてたじゃん
(だってかっちゃんは私なんかいない方が幸せだったんだろうなってずっと思ってたから...)
...そうだね。私もそう思ってた。私は私のこと嫌いだし、多分この先も貴方を好きになってあげられない。でもね、そんな私をかっちゃんは好きだって言ってくれた。いっぱいいっぱい傷付けたのに、それでも好きだって。好きな人が好きなモノなら無価値じゃない。十分な価値だよ。だからもうちょっと自信を持って生きてもいいんだよきっと。
かっちゃんと一緒に戦って勝って、笑い合える明日を迎える。それを私はどっちかじゃなくて両方達成できる!なんて調子乗りすぎだと思うけど。
(いいんじゃない。かっちゃんならきっとそう言うし、かっちゃんとなら大丈夫)
うん
感覚が伝わってくる。技の使い方、効果...
知らない技のはずなのにできるという謎の確信がある。
かっちゃんを追いかけなきゃ...!
霞む視界の中、キラキラと瞬く星を散らしながら、下に降りて行った人影を見つけた。
追いかけようと体を起こすと、引き止められているのか周囲にいる人達からざわざわと声が聞こえる。
『かっちゃんと一緒に戦わなくちゃ...私だってヒーローなんだから』
こんな状態で言われても無理だってみんなが思うだろう。私もそう思う。でも少しの間ならできるって体が言っている。勝てと叫んでいる。
『解』
ぶわっと一気に視界も音もクリアになり、嘘のように痛みが消えた。体が熱い。力がみなぎってくる。
これならいける!
先程見た人影を追いかけて空へと落ちる。
『私が来た!なーんてね』
今のかっちゃんの速度、ちょっとでも気を抜けば、見失ってしまう。防御にしろ補助にしろ少なくとも目の届く範囲に居られなければ話にならない。
「ユウ。オレはまだこの力使いこなせてねェ。でもこの間にぜってえモノにするからフォロー頼むぞ」
『もちろん!』
「もういい...後にする」
そう言い残し飛び去っていくオールフォーワンを追いかける。
『逃げんのかよ!』
「逃げてなどいない。お前らに割く時間がもったいない」
私では早くて追いつけない。でもかっちゃんなら...!
ゴロゴロと何度も地面を転がりながら、かっちゃんがオールフォーワンに追いつく。
痛そうで不格好でいつものスマートさはまるでないけれど、今までになく彼は楽しそうで痛みを口にしながらもずっと笑っている。
そして遂にかっちゃんが追いつき、爆破がオールフォーワンへと直撃する。
「おまえのせいだ駆藤!!」
「ボケが来たかよバァアカ!オレァ爆豪のかっちゃんだ!」
オールフォーワンの攻撃を狐火で相殺させ、次の攻撃がないか、かっちゃんがどう動くか注意深く見つめる。
「...と思っていたがもういい...おまえ達を殺すのもゴールも譲渡も...一括だ」
めり込んだビルから立ち上がったオールフォーワンにものすごいエネルギーが集まる。
個性とかそういう類じゃなくて隕石とか災害とかそんな規模の生きることを諦めてしまうような力。
でもきっとこの1回を防げれば、かっちゃんが勝ってくれる。それならサイドキックとして私がすることは決まっている。
『かっちゃん、あとは』
「バカかてめえ。んなもん勝てるわけねーだろ」
『?』
かっちゃんの言葉の意図が分からず、首を傾げる。
「爆ぜろ」
かっちゃんの言葉とともに、オールフォーワンの方で爆破が起こった。
かっちゃんが動いた気配もないし、敵のリターンか何か?何が起こったの...?
攻撃をし損なったオールフォーワンの元へかっちゃんが飛ぶ。
「雨で威力落ちっからよぉ、コーティングして飛ばしといた!爆発する汗粒を普通の汗粒でな!誘爆せず飛ばせて時間差で混ざって他の刺激で起爆できっかなって!センスだけは褒められてきたンでな。個性は一つありゃ充分だ!!」
「これは...僕の物語だ...!!どけモブがぁあ」
かっちゃんのハウザーインパクトがオールフォーワンへと放たれる。
「んだらあああ!!!!!!!うぅぅるっせええェええええええンんだよォォォオオオオオオおおおお!!!」
更に立て続けに爆破がオールフォーワンへと打ち込まれる。
いける...!あと少し!
『かっちゃん!』
狐火をかっちゃんからオールフォーワンまでの直線上に配置する。
「これはオレたちの物語だ!!」
大爆発が起こり、辺りが爆煙に包まれる。
「オレ一人で...勝てるワケねーンだよ」
『っ...』
ぐにゃりと視界が歪み、体が痛くて重くて立っていられなくなる。耳鳴りもするし、音が遠い。時間切れのようだ。
「ユウ!まだ...消えねーのかよ...」
赤子の姿になり、虫の息だがまだオールフォーワンは消えていなかった。
「あア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
もう喋れないとこまで退化してる。でもコイツのことだ。もう何もないとは言いきれない。
『かっ...ちゃん...!』
ふらつき、倒れる寸前だったかっちゃんの足が力強く地面を踏みしめる。
「っぶねえ.....!完全に勝たねーとなァ!?」
赤子になったオールフォーワンの口からドリルの先のようなものが出てきた。
危ない!と背筋がヒヤッとしたが、かっちゃんはそれを歯で受け止め爆破した。
「オネンネの時間だオールフォーワン」
かっちゃんの爆破で遂にオールフォーワンが完全に消滅した。
それを見届けた途端にドサッとかっちゃんも倒れてしまったが腕は空に向かって上げられ、勝利を示していた。
勝った...でもあと少し、あと少しだけ...
まだ私...いずっくんに何も返せていないのに...何回も...何回も...救けてもらったのに...まだ何も...
動いて...動いてよ!まだ終わってないでしょ!!
体が動かない。地面を押しても、少しも体が浮かない。
こんなの嫌... これで終わりなんて...
「行くぞ。ユウ」
聞こえた声に顔を上げるとかっちゃんが私に掌を差し出していた。
『うんっ...!』
掌を掴むとぐっと力強く腕を引かれ、体が持ち上げられる。
いつも私を救けてくれる強くて優しい大好きな手。触れているだけで、まだやれると迷いなくそう思えてしまう。
『わっ』
「グッ...!」
なんとか立ち上がることができたが、勢い余ってかっちゃんにぶつかり、二人で倒れそうになるのをギリギリのところでかっちゃんが持ち堪える。
「悪い、加減ミスった...」
『わ、私こそごめん!あ、あの、もう離してくれて大丈夫デス...』
力強く抱き締められてるこの状況が耐え難くて顔を背けると、上から小さな笑い声が聞こえた。
「そんだけ血行良くなりゃあ、まだ動けるな」
『...おかげさまで。.....ふふっ、なにそれ』
「さっきまで死にそうな顔色してた癖に今はスゲえ血色いいから元気だなと思ってよ」
『元気だったら一人で立ってるよ、ふふっ』
「ふ...確かになっ、体痛えから笑わせんなやっ」
『先に変なこと言ったのかっちゃんじゃんっ、それはこっちのセリフ!』
小さく笑い合い、痛みに耐えながらかっちゃんの笑った顔を目に焼き付ける。
「君たち!早く病院に!」
「行かねえよ。オレらはまだやることがあンだ」
『いずっくん、デクの場所って分かりますか?』
「もしかして行くつもり!?それは無理」
『お願いします。場所が分かれば行くのは私の個性でなんとかなるかもしれないので』
「なんか手があんのか?」
『できるって確証はないけど、私、飛ばされたから黒霧と接触してるの』
「!おい!早く場所教えろや!できれば地図とか映像あんなら映像も!」
警察の人達が持ってきてくれた映像や細かい位置情報を急いで頭に叩き込む。
今まで使ったことがない個性で仕組みも何も分からないし、できない可能性の方が高いだろう。でも、後はどうなってもいいから、これだけは成功してくれと必死に願いながらかっちゃんに手を伸ばす。
「落ち着け。お前ならできる」
『!うん...!』
握られた手を握り返し、目を閉じて黒霧の個性をイメージする。そして、さっき得た情報を復唱する。
行け!いずっくんを救けるんだ!
「上出来だ」
かっちゃんの声に目を開けるとオールフォーワンと戦うヒーロー達の姿といずっくんの背中が見えた。
『やった...』
「ユウ!爆豪も!無事だったんだな!」
『しょーとくん!っグッ!』
「「ユウ!」」
『ごめん、かっちゃん、私の分までいずっくんの背中押してきてくれる?』
「...任せろ...!轟!ジャンプ台作れ!一気にいく!ユウ!くたばったら許さねえからな!約束ちゃんと守れ!褒美も寄越せ!分かったな!?」
『わ、分かった』
勢いに押されて唖然としてしまったが、全部お見通しかと苦笑する。
『頼んだよヒーロー!』
飛ぶ準備に入ったかっちゃんの背中を精一杯押す。
流れ星のように輝きながら空を駆けていったヒーローを見送り、地面に崩れ落ちる。
「ユウ!大丈夫か!」
『へへ...ダメかも...』
せっかくここまで来たのに結局私は何もできないのか...最後はやっぱりかっちゃん任せ。せっかく、行くぞって言ってくれたのに、一緒にいずっくんのとこまで行けないなんて悔しいな...
『悔いは少ないに超したことないよね...』
「ユウ?」
『頑張れいずっくん!!最高のヒーローになってやれ!!』
ドバっと口から出てきた赤い液体に、あーあ、そんな大声出すからだよと他人事のように思う。きっとやってもやらなくても変わらない。馬鹿なことをしたと自分でも思う。でもさっきまでとは違い、スッキリとした清々しい気分だ。
いずっくんの力になればなんてただの自己満足だけど、やっぱり私だって何かしたいしね。大好きで大切な幼なじみだもん。
そんな体で何考えてんだ!って後でかっちゃんに怒られそうだな。後があればだけど...
もうできることはやったし、起きてるのも限界だ。
また二人に会えるといいな...
眠さに耐えきれず、私は意識を手放した。