最終決戦偏
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苦しい...寒い...
体が動かない。どんどん暗い水の中に体が沈んでいく。
(ユウ!)
かっちゃん...
目を開けると先程までいた水の中ではなく、教室の中だった。
『ここは...』
ヒュっと喉が鳴り、心臓が激しく脈打つ。
この場所は...ここは...
「お前なんか大っ嫌いだ!二度とオレに話しかけてくんな」
私に向かって言い放つ小さな少年はとても冷たい目をしている。
思わず後退りするとまた景色が変わり、小さかった少年が見慣れた姿に変わった。
「お前のツラはもう見たくなかったってのに」
「いい加減にしろよ。いつまでオレに甘えてるつもりだ?」
「お前なんていなければよかった」
耳を塞いでうずくまり、ギュッと目を閉じる。
『やめて...かっちゃんはこんなこと言わない!』
耳を塞いでも目を閉じても、かっちゃんの声や姿が頭に流れ込んでくる。
(本当に?彼の心の声、あなたは聞いたことがあるの?本当に絶対そんなことは言わないって言い切れる?)
『それは...』
言い切れるわけない。私だったらそう思うから。人の心の中なんて分からないから。この声がかっちゃんの本心だと言われれば、そうだよねと思ってしまう。
ねえ、と子どもの声が聞こえ、顔を持ち上げられると冷たく、蔑んだ目をした幼い頃の自分と目が合った。
(いつまでかっちゃんに迷惑かけるつもり?かっちゃんは優しいから言わないけど、あんたなんかいない方がいいの。好かれてるなんておめでたい勘違いもしちゃって。あんたに良いとこなんてある?自分が彼にしてきたことを思い出してみて?)
頭に流れ込んでくる記憶はどれも忘れたいけれど忘れられないものばかりで鋭く胸に突き刺さってくる。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい...』
(あんたはこれからも傷付け続ける。あんたが死んで初めてかっちゃんは自由になれるの)
『!』
ああ、そうか...
『どうして今まで気付けなかったんだろ...』
(もう誰からも愛されないことも、自分に愛す権利も生きる価値もないことを自分が一番よく分かってるでしょ?バイバイ。大嫌いな私)
ナイフを振り上げる幼い自分を見て、私は目を閉じた。
「......っ...ぅ...」
子どもの泣き声.....?
遠くから聞こえる聞いたことのない泣き声。
誰だろう。そう思いながら再び意識が遠のいていく。
「.......て.....れかっ...たすけて...」
聞こえた声に一気に意識が覚醒する。
立ち上がり、重い体を引きずって必死に声の聞こえる方へ向かうと予想通り、クリーム色の髪をした小さな少年が泣いていた。
鼻をすすり、腕で涙を拭った少年は私を見た。
「お前はっ、、救けてくれるのか...?」
『私に...』
私にできることなら。そう言おうとして言葉を止める。
『うん。どうすれば救けられる?』
「オレっ、すげえ大切なやつがいるんだっ...いつもひねくれたことしか言えなくて、、伝えられたことねえけど、そいつが好きで、でもそいつがオレのせいで悪いヤツに乗っ取られちまってッ、救けるにはオレが殺すしかなくて、、守るって決めたのに、ヒーローになるって約束したのにっ」
大粒の涙を零し、悲痛な叫びを上げる彼の姿は今まで見たことがない。幼い頃から自信に満ち溢れていて、いつも私を救けてくれる強くて頼もしいヒーロー。でも、私が知らなかっただけでこうして泣くことも誰かに救けてほしいと願うこともあったのかもしれない。
今も心の中では...
『君はヒーローとしてよく頑張ったよ』
目線を合わせ、頭を撫でるとギュッと私の手を小さな手が握った。
『違うね。今も頑張ってる。これからも君は、ずっとその子のヒーローだよ。ちゃんと気持ちも伝えられるようになるし、その子も君のことが大好きだから、喧嘩しちゃっても、離れ離れになっちゃっても大丈夫』
「なんでそんなこと分かんだよ」
『んー...未来のナンバーワンヒーローのサイドキックだからかな』
「はぁ?」
『素直じゃないし可愛げもないけど、その子のことできるだけ好きでいてあげて』
「い、言われなくてもっ、つーか、あいつは可愛いっつーの!悪く言うんじゃねえ!」
『ふふっ、ごめんごめん。ありがとね』
「なんでお前が礼言ってんだよ。変なヤツ...ほんとに大丈夫かよ」
『大丈夫。命にかえてもなんとかする。君に殺させるなんてこと絶対させないから』
「そんなんオレはみとめねえ!ナンバーワンヒーローのサイドキックなんだろ?だったら誰も欠かさず勝てよ!いのちに変えてもなんて言うなよ!」
私を睨みつける真っ直ぐで意思の強い目に、小さくてもやっぱりかっちゃんだなと口元が緩んでしまう。
『うん。完全勝利じゃなきゃダメだよね。ありがとう』
少年を抱きしめると景色が歪み、冷たい水の中へと戻った。
苦しい...寒い...
すぐに意識が飛びそうになる。
でも、初めてかっちゃんに救けてって言われたんだ。ここで救けられなきゃヒーロー失格だ。
なんでサイドキックを目指したか思い出せ。
傷付けるためじゃないでしょ?救けたいからでしょ!
辛い事も乗り越えられるように、大丈夫だって支えられるように、挫けそうになったら貴方はすごいヒーローなんだよって伝えられるように、我慢しなくていいって涙を拭ってあげられるように、私もヒーローになって隣に立つって決めたんだ!
突然体が何かに包まれる。
さっきまでの寒さが嘘のように温かい。この安心感、この温もりを私は知っている。
(どうして.....)
『!』
ポツリと呟かれた誰かの声で魔法が解けるように、体の感覚が戻ってくる。
顔を上げた先には頬を濡らした彼がいた。
約束守れたよ。だから泣き止んで...
綺麗な赤い瞳は雫を落としながら、私を見つめている。
ああ、生きてる。そう実感した途端、気が抜けてしまったのか体に力が入らなくなった。
泣いていたあの子はこれで泣き止んでくれるだろうか。私はあの子のヒーローにちゃんとなれたかな。
あと私にできることは彼の歩みを止めないこと。まだ救けを求めることを知らない彼と最高のヒーローとして戦えるように送り出すことだけだ。
ぜってえ死ぬんじゃねーぞ...か...
体中痛いし、指を動かすのがやっとだ。人が集まって何か言ってるけど、眠くて全然頭に入ってこない。
このまま寝たら死んじゃうのかな?今度は大きいかっちゃんと約束したし、それは困るなあ...
送り出すんじゃなくて一緒に戦えるくらい強くなりたかった。やっぱり、かっちゃんのサイドキックになるなんて夢のまた夢だ。この戦いが終わったら前みたいにみんなで楽しく学校生活を送って、かっちゃんと...
ああ...眠い...もう耐えられないや.....
(まだ寝かせてあげない)