映画 ヒーローズライジング
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『かっちゃん!いずっくん!』
意識がないボロボロの状態で運ばれてきた2人に怪我の痛みも忘れて駆け寄る。
すぐに吸収を発動させるが、2人分ということもあり、手の甲のマークは一瞬でピンク色になってしまった。ズキッと体に痛みが走る。徐々に赤くなっていくマークに連動するように痛みが増してくる。
「三条、その技やべえんじゃねえか?もうやめた方が」
『2人の怪我に比べたらどうってことないよ。ここで役に立たないと私、ただの足でまといになっちゃう...』
診療所の先生達が傷口は塞いでくれたが、骨折は治らないし、未だ2人の意識は戻っていない。
2人の意識が戻るまではとてもじゃないが安心できないし、私と2人の体、どちらを優先すべきかなんて分かりきっている。
『轟くん、離して』
轟くんに手を捕まれ、睨みつけると、轟くんはとても焦った顔をしていた。
「腕、早く止血しねえと!」
『え...?』
轟くんの視線の先を見ると、コスチュームの袖が赤く染まっていた。足も同様に赤くなってしまっている。
綺麗に包帯は巻かれてたし、出血も治まっていたはずなのに...
すぐに先生達が止血してくれたが、出血のせいなのか、吸収の反動なのかクラクラする。
「大丈夫か?2人のことはオレらに任せてお前はもう休め」
『2人の意識が戻るまでは気が休まらないし、2人抜きでヴィランに勝つのは厳しい。だからなんとしても回復させないと』
「僕に手伝わせて」
突如聞こえた声に誰だろうと顔を向けるとヴィランに狙われていた男の子だった。
「活真の個性は細胞の活性化らしいの。傷を治せるかどうか分からないけど...」
隣にいる女の子が話しながら心配そうに活真くんを見つめる。どうやら2人は姉弟らしい。2人とも無事でよかったとほっとする。
「デク兄ちゃんたちは僕らを守って怪我したんだ。だから...」
活真くんが2人に手を翳すと手元が緑色に光り始めた。
これで私が吸収を続ければなんとかなるかもしれない。
「三条。これ以上はダメだ。2人とも自分の代わりにお前が犠牲になんのは嫌だと思う。だから」
『でも私が弱かったせいで2人とも...』
「姉ちゃんは弱くなんてないよ。さっきは助けてくれてありがとう。姉ちゃんも怪我してるんでしょ?ぼくが2人を救けるから休んでて」
「三条、この子に任せてお前は休め」
『うん』
「活真くんと...」
「真幌よ」
「真幌ちゃん、オレはこれから他の場所に手伝いに行くから、こいつが個性使わねえように監視しといてくれ」
『監視って轟くん』
「「わかった!」」
『ええ...』
壁にもたれ掛かりながら活真くんが個性を使う様子を見ていると真幌ちゃんが話しかけてきた。
「あなたも酷い怪我してるんだから早く寝なさいよ」
『ありがとね。でも目を閉じてもよくないことばかり考えちゃうから、こうして見てた方が気が休まるの。ごめんね。私がどうにかしなきゃいけないのに活真くんに迷惑かけて』
「どうしてあなたが謝るのよ。それに家族でも先生でもないのにあなたが責任を感じるのは変よ」
『私が怪我をして2人に迷惑かけたのが悪いの...役に立てなきゃ今までとなにも変わらない...』
「ウジウジしてあなたヒーローらしくないわね」
『ふふっ、そうだね。私もそう思う。でも救けたい人がいるから。その人と同じ景色を見て、苦労や悲しみを分かち合うには強いヒーローにならなくちゃいけない。強い人の隣には強くなきゃいられないから』
「やっぱりヒーローって強くなきゃなれないの?」
不安そうに、けれど視線は2人から逸らさずに話す活真くんを見て、いずっくんへと視線を移す。
『そんなことはないよ。強さにも色々あるし、ただ力があるだけじゃ、みんなが憧れるようなヒーローにはなれないの。私はね、ただ強いヒーローより、誰かを救けようと頑張れるヒーローの方がすごいと思う。誰かを救けようって行動ができる人はみんなヒーローになれるって私は思ってる。私には今必死に2人を救おうとしてくれてる活真くんがヒーローに見えてるよ』
「僕、絶対2人を救けるから、お姉ちゃんは休んでて」
『ありがとう。じゃあ、そうさせてもらおうかな』
「もう!さっきからそう言ってるじゃない」
こんな小さな子達相手に、ヒーローらしく振る舞うこともできず心配をかけて、とことん私はヒーローに向いていない人間だと思う。
それでも隣に立つって決めたんだからもっと頑張らないと...
あれ...なンでオレ寝てんだ...?
「起きた!」
「バクゴー大丈夫?」
心配そうに覗き込んできたガキ2人と包帯だらけの自分の体を見て察する。
「負けたんかオレ」
目覚めたのかゴソゴソと隣から音が聞こえ、デクが体を起こした。
「ここは...?」
「ここは事務所よ。活真の個性のおかげで命拾いしたんだから感謝しなさいよね!」
「お姉ちゃん...!僕、2人に救けてもらったから今度は僕がって」
「活真くんに真幌ちゃん、無事でよかった!活真くんが救けてくれたんだね。ありがとう」
「なんの個性だ?体から力が湧くような不思議な感じがする」
「細胞の活性化...でも僕だけの力じゃないよ。僕が個性使う前は狐の姉ちゃんが頑張ってたんだ」
「もしかしてあいつ...!」
辺りを見渡すと後ろの壁にユウが寄りかかって寝ていた。
顔色が悪く、起きる気配が全くない。
「おい、こいつの周りに舞ってた桜、何色だった?」
「えっと、僕達が来た時には赤と白の髪の兄ちゃんと話してたから姉ちゃんが個性使ってるところ見てないんだ」
「その人にこいつが個性使わないように監視しろって言われたし、あの性格じゃ無茶やったんでしょうね。あなた達が怪我をしたのは自分のせいだって思ってるのよ。ばっかじゃないの」
「ほんとだよな。どうしようもなくバカなんだよこいつは」
「かっちゃん...」
死ぬのが怖くないわけじゃない。デクみてえに人を救けることに強い執着があるわけじゃない。でも簡単に自分を犠牲にしてしまう。
理由は誰よりも自分の価値は低いから。
バカのくせに考え方はかなり冷淡だ。
オレと轟は仮免で落ちたため、合格したついこの間面談を行ったが、インターンが始まる前に全員個別面談を行った。事件に巻き込まれた際も授業でも自分を犠牲にする行動が多すぎると注意するとユウが何の迷いもなくキッパリとそう答えたと先生に聞いた。
インターンは全てが実戦。敵は待ってくれないし、時は戻せない。怪我もするし死ぬことだって有り得る。だから先生はユウをインターンに行かせたくないようだが、人の性格は簡単には変えられないし、そういう内面的な問題は善処しますや気をつけますと言われてしまえば何も言えない。初めはインターンに行かないと言っていたユウがオレが行く場所に一緒に行くと言い始めたから、先生はオレにその事を話したのだろう。
もちろん言われなくたってユウのことは守るつもりだが、この問題はユウの考え方を変えさせなければ根本的に解決しない。だから改めて解決策と原因を考えた。
何故ユウは異常なまでに自己評価が低いのか?
ユウの自己肯定感が低いのは不器用で上手くできないことが周りと比べて多かったから。
でも覚えは悪くても教えれば理解できるし、運動だって全部がダメなわけじゃない。
ユウくらいの人間なんていくらでもいるだろう。
では何故?
その疑問は何の気なしに言ったであろう上鳴との言葉によって解消された。
「式がちげえって何度言わせりゃ気が済むんだ!クソチビと同じ間違いしてんじゃねエ!」
「そんなん言われてもムズいってこれ!解ける方がおかしくない!?」
「おかしくねーだろ。解けて普通だわ」
「爆豪ってさ〜子どもの頃から解けねえ!って問題に当たったことねーだろ。勉強以外も」
「普通に授業受けてりゃ解けるだろ」
「オレだって超真面目に授業受けてますー!ったく、こんな才能マンとずっと一緒じゃユウちゃんも大変だよなー」
「大変なのはオレだろーが!」
「いやいやー大変だったと思うよ〜一緒にいると大体比べられたり、比べたりしちまうじゃん?友達で兄弟いるやつとか比べやがってってよく愚痴ってたぜ。それが原因で兄弟不仲になっちまったって奴もいたし」
「お前がユウの立場だったらどう思う?」
「そりゃあ自信なくすね!爆豪、できて当たり前だーってすぐキレるし!
まあ、それで不仲とか嫌いになったりは全然ねえけど。こうして勉強教えてもらうの超助かるし、色々心強いしな!」
「...そうか」
「え?もしかしてヘコんでる...?大丈夫だって!ユウちゃんも爆豪のこと嫌ってなんてねえし、心強いって思ってるって!まあ、怒るばっかじゃなくてもうちょい褒めることもしてあげた方がいいと思うけど。そうすりゃお前にも照れてくれるんじゃね?ユウちゃん、ちょっと褒めるだけですぐ赤くなるし」
元々目立つのは嫌いだし、積極的なタイプではない。家族がいないことや引越し先の劣悪な環境が大きく影響しているのは間違いない。
でも、上鳴の言う通り、オレの存在も影響してしまったのだと思う。
オレは周りよりも優れている。中学まではずっとそう思っていたし、実際中学まではそうだった。
オレの普通は周りの普通とはきっと違った。
それなのにユウにオレの普通を押し付けてしまった。その結果、ユウは大きな劣等感を抱き、今のような思考回路になってしまった。
そう考えることができてしまう。
後悔するのは間違いだ。それではユウと過ごしてきた時間を否定することになる。例え、オレが傍にいないユウは今のような思考にならないと分かっていてもオレはユウから離れるなんてことはきっとできなかった。
だからユウを変えるのはオレであるべきだろう。ずっと傍で見てきたオレが一番ユウの良いところもすごいところも知っている。本当の価値を分かってる。
「オレも変わらなきゃな」
ユウに布団をかけ、クラスの奴らのところへオレとデクは向かった。
変わるなら二人で