映画 ユアネクスト
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「ユウ、起きなさい。朝よ」
『んっ...まだ眠い...』
「早く起きないと誕生日プレゼントもお出かけもなしよ」
『誕生日...?』
「まだ寝ぼけてるなユウ。勝己くん達もうすぐ来ちゃうぞ?」
『お母さん、お父さん...』
「ええ!?なんで泣いてるんだ?怖い夢でも見たのか?」
『怖い夢...』
夢...なんで泣いているのか自分でも分からない。
「具合悪いの?今日、出かけるのやめる?」
『行く!』
お気に入りの黄色のワンピースをクローゼットから引っ張り出し、着替えるとお母さんに呼ばれた。
「今日は何がいいかしら。三つ編みでいい?」
『うん!』
籠に入った5thと書かれたブタのストラップが付いたランドセルを眺めながら、お母さんが髪を結び終わるのを待つ。
「よし!完成!」
「よく似合ってるじゃないか」
『えへへ』
ピンポーンとチャイムが鳴り、扉を開けに行ったお母さんについていくとかっちゃんとかっちゃんのお母さんとお父さんだった。
「ユウちゃんお誕生日おめでとう!」
「おめでとうユウちゃん」
「...おめでとう」
『ありがとう!』
映像でデクの声が入っていたし、恐らく3班は全員あそこにいた。ユウも間違いなく謎の光に飲み込まれているはずだ。
けれど光に飲み込まれた先にあった遊園地にはオレ達1班以外は誰もいなかった。そこにある城が一番きな臭かったため中に入ったが、オールマイトのパチモン野郎にダンジョンのような場所に落とされ、そこを進んでいる今も他の人間には一切出会っていない。
「そんな心配しなくてもユウなら大丈夫だろ」
「はァ!?オレは別に」
「隠しても無駄!爆豪ずっとキョロキョロしてんじゃん」
「そうそう。爆豪が探すのなんて三条しかいねえだろ」
ニヤつきながら言ってくる奴らに殺意が湧くが、図星のため何も言いせない。
「あいつ、早く見つけえねえとバカだから、まだ体治ってねえ癖に無茶すンだよ」
ダンジョンの壁を破壊し、辿り着いた場所にいた男が突如現れた穴に落ち、モニターにパチモン野郎が映される。
〈お見事!しかし、まだゲームは終わらないぞぉ!〉
壁から次々出てくるモンスターにまたかと苛立つ。
「そうかよ!」
「倒しても倒しても湧いて出てくるな」
「でもダンジョンなんだから、いつかは抜けられるだろ!」
敵を倒しまくり、抜けた場所からはデクの声が聞こえ、建物の外へ出ると、大勢の人間が座っていた。
「オールマイトのパチモン倒すってんなら、手ェ貸してやる」
「かっちゃん!」
見渡すとデクのすぐ近くにユウが倒れているのが見え、すぐに駆け寄る。
「おい、ユウ」
「個性にかかって眠っちゃってるだけだから、心配しなくて大丈夫。みんな目覚めてるし、ユウちゃんもすぐ起きると思うよ」
呼びかけても揺すっても何の反応もしないユウに不安になったが、デクが落ち着いてるところを見る限り大丈夫なのだろう。
「ユウちゃん、ここに飛ばされた段階で頭打ったらしくって調子悪そうだったから起きるのに時間かかってるのかも」
「そうか...」
「爆豪心配しすぎ」
「見たとこ怪我もねえし、顔色も悪くねえ。起きるまで寝かせといてやろうぜ」
物資集めや配給、避難民の介護を始めて結構経ったが、未だユウは目覚めず、流石におかしいのではと思い始めた頃、予想が的中したのかデクがユウの様子を見にいった。
「やっぱおかしくねえか?」
「うん...お年寄りの方も子どもも目覚めてるし、起きてないのはあとユウちゃんだけ...頭を打ったっていってもその後は普通に動いてたし、バイクで移動してたから疲労もそこまで酷くはないはずなんだ...そう考えるとまだ敵の個性が解けていないのか?でもそんなはず」
「ブツブツ1人で喋んなや!何があった?敵の個性ってなんだ」
「僕も含めてここにいる人達全員敵の夢を見させる個性にかかってたんだ。精神的幻想空間...多分その人が幸せだと思う夢を見るようになってるんだと思う」
「幸せだと思う夢...」
それを聞いてすぐに分かってしまった。ユウがどんな夢を見ているのかどうして起きないのか全て分かってしまった。
「ちょっとユウ連れてくぞ。しばらく2人にさせろ」
「へ!?わ、わかった!(かっちゃん何するつもり!?)」
ユウを抱き上げ、近場の建物の中へと入る。
『お母さん......お父さん...』
小さく聞こえたユウの声にゆっくりと目を閉じる。
ユウ自身が夢から目覚めることを拒絶しているからユウだけが目覚めない。それだけユウにとって夢の中は居心地が良くて現実とは比べ物にならないほど幸せで満ち足りているのだろう。
そんな状態のユウをこちらに連れ戻すのは極めて困難であり、とても残酷なことだと思う。
「でも、オレにはお前が必要なんだ。だから帰ってきてくれユウ」
「なあユウ」
『どうしたのかっちゃん?』
遊園地へ向かう車の後部座席、かっちゃんに貰ったプレゼントのぬいぐるみを抱きしめながら、かっちゃんを見るとかっちゃんは暗い表情をしていた。
「帰ってきてくれねえか」
『帰るって、まだ遊園地行ってないじゃん』
「そうじゃねえんだ。ここは夢で現実じゃない」
『夢...現実じゃ...ない?』
前で楽しそうに話しているお母さん達。運転しながら趣味の話で盛り上がっているお父さん達。横に座り、私を見ているかっちゃん。
これが全部夢...?
ズキっと頭が痛くなり、頭を抑える。
いたい。
ここを夢だと認めたらもっと痛くて苦しくなる。それが直感で分かってしまう。
『やだ...帰りたくない...』
「そうだよな...でもオレは帰らねえといけねえ」
『えっ...』
「だからお前も一緒に来て欲しい」
差し伸べられた手を見た後、真剣でいて大人っぽい目をしたかっちゃんを見つめる。
「お前が今すげえ幸せだってのは分かる。お前の夢を覚ますことが、お前を不幸にすることだっていうのも分かってる。でもオレはお前と一緒に進みたい。連合ぶっ倒して、進級して、卒業してプロヒーローになって...何年かかるかはわかんねえけど、お前のこと絶対この夢よりも幸せにしてみせる。だからオレと来い」
なんで涙が出るのか分からない。
まだ遊園地も行けていない。お母さんが作ってくれたケーキも食べれてない。お父さんが楽しみにしててと言っていたプレゼントもまだ貰ってない。
この手を取ったらきっともうここには帰ってこられない。
でも...
この手を取っても私が後悔することはない。
それだけは何故か分かった。
握った手がギュッと握り返される。その手がとても大きく感じて、驚いて顔を上げると先ほどまで同じ視点にいたはずのかっちゃんが悲しそうな顔で私を見下ろしていた。
「ごめんな」