最終決戦偏
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体が軽くて自由自在に動き回れるってハイになってたから、アドレナリンが出すぎたんだ。ちょっとした体の不調。明日になれば普通に戻ってる。そう考えようとしても治らないんじゃないかという不安ばかりが大きくなっていく。
先程のかっちゃんの顔が忘れられない。
あんな事かっちゃんに言っても困らせるだけなのに何やってるんだろ私...
ぐるぐるとそんな事ばかりがずっと頭を巡っていたが、疲れていたためいつの間にか私は眠ってしまった。
「おいユウ!」
かっちゃんの声と激しく扉を叩く音が聞こえ、目が覚めた私は急いで扉に向かおうとしたが、立ち上がった瞬間視界が歪み、前に転んでしまった。
『痛...』
「おい!大丈夫か!」
『ちょっとコケちゃっただけ!すぐ行く』
大声を出したからかクラっとし、全身が痛くなってきた。しかもこの感じ...這うように扉に向かい、なんとか扉を開ける。
「ユウ!とにかく保健室行くぞ!」
『大丈夫、多分行ってもどうにもならないから。みんなには申し訳ないけどちょっと今日は足ひっぱちゃうし、休む』
「どうにもならねえってどういうことだよ」
『いやあの、休めば治るから大丈夫ってことでそんな全然深刻なことじゃないから』
「本当にか?」
ものすごい深刻な顔をしているかっちゃんにこっちが面食らってしまう。
『うん。だから申し訳ないけどみんなに言っといてくれないかな』
「嘘だったら承知しねえぞ」
しゃがんだかっちゃんが何をしようとしているか察し、慌てて拒否する。
『いいよ!自分で歩けるから!』
「座り込んだままのやつが何言ってんだ」
かっちゃんにお姫様抱っこをされ、恥ずかしくて体が熱くなる。
まさか人生で2度もされることになるなんて想定外も想定外だ。
「おい...何が休めば治るだ!こんなん治るわけねえだろ!それともこれも気付いてねえのか...」
突然の大声に驚いて、かっちゃんを見ると苦しげで今にも泣きそうな顔をしていて、わけが分からず首を傾げると、スっとかっちゃんが視線を逸らした。視線の先を見るとベッドに大きな赤い染みができていて、カーッと顔が熱くなる。
『か、かっちゃん!これはね!』
「悪い...完全に早とちった」
『かっちゃんは全然悪くないから!私がハッキリ言わなかったから...ごめんね?』
顔を手で覆い、項垂れているかっちゃんの耳は真っ赤で申し訳ない事をしてしまったなと罪悪感を覚えつつ、この惨状をどうしようか痛みだしたお腹をさすりながら考える。
『あの...着替えたり、これ片付けたいから』
「わ、悪い!」
真っ赤な顔で脱兎の如く出て行ったかっちゃんに、彼もあんなに慌てふためいたりするんだなと少し驚きながら着替えを準備する。
随分久しぶりにきたせいかめちゃくちゃ重いし、貧血も起こってしまっているらしい。なんとか着替えは終わったが、目眩はするし気持ち悪いしどんどん腹痛が酷くなってきた。しかも全身筋肉痛でとてもじゃないがシーツをどうにかする体力がない。もう無理だと布団を床に敷き、くるまって目を閉じる。
寒い...でももう動く元気ないや...
ふと何か体に触れる感覚と浮遊感を感じて目が覚めると、赤い目と目が合った。
「悪い。起こしちまったな。体調は?薬、保健室で貰ってきたが要るか?」
『ありがとう...目眩と気持ち悪いのは良くなったかも...寒いのと腹痛は相変わらずだけど』
「お前、腹痛えのか?」
『うん。久しぶりになったせいだと思うけど、こんなに痛いの初めて...』
「よかった...」
『全然よくないよ...かっちゃん酷い』
「悪い!よくはないよな!でも、ちゃんと痛えンだな」
『あ...そっか...ははっ、ちゃんと痛いや。筋肉痛すごいし昨日の傷も痛い』
痛いのがよかったなんておかしな話だが、かっちゃんの言葉を聞いてやっと昨日の事を思い出し、痛いのが嬉しいことに思えてきた。
「水持ってくる。体起こせるか?」
『うん。あれ?』
ベッドの上?床で寝なかったっけ?
「悪い。シーツ勝手に替えさせてもらった。男にこういう事されんの嫌だろうとは思ったが、床で寝んのはよくねえだろうし、全員いねえ間に洗った方がいいと思ってよ...」
『ありがとう...全然かっちゃんが謝る事じゃないよ!ごめん、嫌なことさせちゃったね』
「別に血液恐怖症じゃねえし、血くらいどうってことねえわ、なめんな」
『そういうのもあるけど、なんて言うか気持ち悪いし汚いでしょ?そんなことかっちゃんにやらせちゃってごめん』
「気持ち悪くも汚くもねえだろ。女って大変だなってのはスゲえ思ったけどよ。こういうことはあんま知られたくねえことなのかもしんねえけど、定期的にくるもんなんだし、頼ってくれた方がオレは嬉しいし安心できる。今はまあいいとして、いずれは2人で暮らすわけだし...その体調不良を肩代わりしてやることはできねえから、できることくらいやらせろ」
『〜〜っ!』
なにそれ... こんなのもっと好きになっちゃうに決まってるじゃん...
『かっちゃんってすごいね...私にはほんともったいない』
「は?なにがだよ?つーかオレがお前を選んだんだからもったいねえとか卑屈なこと言ってんじゃねえ」
『痛っ』
デコピンをされて痛がってる私を見て安心した顔で笑うかっちゃんにまたキュンとしてしまう。スパダリとはこういう人の事をいうのだろう。
恐ろしい男だ...
薬を飲んで横になるが、今のですっかり眠気が覚めてしまったらしく、しばらく寝れそうもない。かっちゃんはいなくなっちゃうし、寝れた方が楽なのに...
『かっちゃんこれから捜索に行くんだよね?ごめんね、時間取っちゃって』
「別に。多分見つかんねーし。お前はどうしてほしい?」
『え?』
「なんかやってほしい事とか、欲しいもんとかねえのかよ」
気を使ってくれてるんだろうな...
捜索に行かずにここにいてほしいけど、機動力があるかっちゃんが抜けた穴は大きすぎるだろう。
『寒いから何かカイロとか温まるものが欲しい...』
「わかった。あとは?」
『あと...あとは...』
「体調悪い時くらい余計なこと考えず、素直になったらどうだ」
『...かっちゃんにここにいてほしい...でも』
「じゃあここにいる。でも、なんだ?」
『本当にいいの?捜索行かなきゃみんな困っちゃうんじゃ...』
「そのみんなにお前の看病任されてるから行かなくても問題ねえンだよ」
『なんか騙された気分...わっ!』
「人によってだろうが1人になりてえって場合もあるだろ。まあ、お前は逆のタイプだろうとは思ってたけどよ。冷てえなクソ」
布団に入ってきたかっちゃんに後ろから抱きしめられる。自分が冷えているのもあるだろうが元より体温の高い彼はとても温かい。
お腹に彼の手が触れ、驚いて体がビクついてしまう。
「悪い!嫌だったか?」
『びっくりしただけで嫌じゃないよ』
「さっきお前が腹さすってたからやった方がいいのかと思ってよ...」
『よく見てるねかっちゃん。うん。してくれた方が楽になるかも』
お腹に遠慮がちに触れた手が上下に往復していく。
かっちゃんの手大きくて温かい...
「どうだ?」
『あったかくて気持ちいい...』
「そ、そうか」
『ふふっ』
「なに笑ってんだ」
『いや、今日色んなかっちゃんが見れたなと思って。らしくなく何回も悪いって言ってたし、今日が人生で1番謝った日なんじゃない?』
「あ゙?バカにしてんじゃねえぞクソチビ」
『してないよ。色んなかっちゃんが見れて嬉しかったって話。かっちゃんはとってもいい旦那さんになれそうだね』
「〜ッ!なれそうじゃなくてなるに決まってんだろ!だから安心しとけバカ!」
『え?あ...』
そうか、付き合ってるんだからこのまま順調にいけばいずれは...
何の気なしに率直な感想を言ったのだが、よくよく考えればかっちゃんは私の旦那さんになるのだ。なんかめちゃくちゃ惚気けたみたいになって超恥ずかしいんだけど!
『違っ今のは!え、あ、違くはないけどっえっと、その』
反対側を向いているため、真っ赤になっているであろう顔を見られずに済むのが不幸中の幸いだが、恥ずかしすぎる。
「ハッ、顔真っ赤」
真上から声が聞こえ、頬を指でつつかれる。
『そういうつもりはなかったの!』
大きな声を出したからかドロっとした感触とともに少しお腹が痛くなり、悟られないように僅かに体を丸めたつもりだったが、気付いたのか再び彼の手がお腹を撫で始めた。
「悪い、痛くなっちまったか?」
『治まったり悪くなったりの繰り返しだから気にしないで。なんで分かったの?』
「こんだけ近くにいりゃあ分かんだろ」
『普通分かんないでしょ...』
体はちょっとしか動かしてないし、表情だってハッキリ見えるような角度じゃない。なのにバレてしまうなんて、かっちゃんには隠し事できないなと苦笑する。
『私、かっちゃんに好きになってもらえて本当に良かった』
「な、なんだよ突然っ!」
『今まで起きた悪いことが全部その代償だって言われたら納得できちゃう』
「お前にそんなん言われたらオレは代償としてこれからどんな災いに遭ンだよ。縁起でもねえ」
恥ずかしそうにボソッと喋った彼の顔が見てみたくなり、ごろっと反対側に体を向ける。
『かっちゃんも照れたりするんだ』
「するに決まってんだろバカ」
『...』
ヤバい!近い!こんなの恥ずかしすぎて耐えられない!
再び体を戻そうとするが背中に腕を回され、阻止される。
「最近のお前はいつも赤くなってんな」
『かっちゃんのせいだもん』
「ハッ、そうだな。そんなんじゃ熱出そうだし寝れそうなら寝ろ」
そっと私を寝かせ、ゆっくりと優しくお腹を撫で始めたかっちゃんは、とても穏やかな顔をしていていつもより大人びて見えた。
かっちゃんは大人になっても今と同じように私を好きでいてくれると思えるほどの自信が私にはない。だって自分の好きなところや良いところなんて一つも浮かばない。
高校生の恋愛は長続きしないのが普通で結婚まで行くカップルは極めて稀らしい。
だから私なんかがその稀の中に入れるはずもない。ちゃんと分かってる。でも、大人になってもなんてつい考えてしまう。
眠ろうと瞼を閉じて、お腹に感じる熱に心地よくなっているとボソッとかっちゃんが何か言った。
なんて言ったんだろう。聞くより早く睡魔に襲われ、私は眠りについた。
オレのこと好きになってくれてありがとな