最終決戦偏
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「ユウ!早く戻って来い!」
『諦めろ小僧。お前も娘もここで終わりじゃ』
「グッ!」
「爆豪!」
突然背後に出現した狐火が避けきれずに背中に当たる。
あの小せえ火が1個当たっただけでこれかよ...!
「いってえなクソ...!」
『不意打ちだったにも関わらず2個は避けたか。流石だな小僧。まあ今ので死なれては困るがの』
「ああ゙?」
「まずい!糸が...!クッ...!爆豪...覚悟を決めろ」
「!」
覚悟を決めろ。
その言葉が何を示すかすぐに理解できてしまった。
『強く締め付けたせいで骨折じゃ。全く、いたいけな娘の体に酷いことするのう』
「っ...」
力ずくで糸をちぎった体からは血が流れ、見るからに重傷だが、ふらつくことも痛みを口にすることもなく、狐はオレを見据えた。
『さあどうする?大人しく妾に殺されるか、この娘を殺すか。お前が死ぬか死柄木とやらを殺せば妾の力は解放される。お前はナンバーワンヒーローになりたいのだろう?ならここで死ぬわけにはいかぬし、ここにいる奴らを救けなくては!心配するな、この娘を殺しても誰も責めはしない!どんなに惨い殺し方をしてもこの娘がお前を恨むことはない!お前を殺すくらいなら喜んで殺されることを望むだろう!殺すか殺されるか、さあ選ぶがいい人間!』
今までにないテンションで嬉々として話す九尾にドクドクと心臓がうるさく鳴り響き、全身に汗が流れ落ちていく。
コイツの思うままになどなりたくない。ユウを殺すなんてできるはずがない。
でもコイツが大狐になって暴れたら、ヴィラン連合制圧どころの話じゃなくなる。この戦いが全て無駄になってしまう。例え連合を止められたとしても誰もコイツを止められない。
だからってどうする?そもそもオレはコイツを止められるのか?
そうだ。冷静に考えれば殺すも何もない。コイツはオレの反応を見て楽しんでいるだけだ。
「選べも何もねえだろ。てめえは体移動する術を持ってんだから殺したとこで意味がねエ。つーかお前を抑え込めればそれで解決なんだから、殺す必要はねえ。挑発が失敗に終わって残念だったな。悪いがオレは他のやつよりてめえに詳しいンだよ」
『ああ、言ってなかったな。今の妾に体を移動する力はない。先の戦いで一気に力を消耗してしまったからな。残念なことに今この娘が死ぬば妾も道連れじゃ』
「誰がそんな言葉信じるかよ。笑ってんのが隠せてねえぞ」
『じゃあ何故そこまでの代償を払ってまでこの娘の体を守ったと思う?』
「血縁者で尚且つ、若い体だからだろ」
『まあそれもある。妾が憑依できるのは呪いを受けた血縁だけ。大幅に寿命が縮むのだから大概死が近いものに呪いは譲渡される。だから若い娘の体が手に入るなど滅多にない幸運。でも今までもなかったわけではない。なのに何故今まで妾が大人しくしていたと思う?』
言われてみればそうだ。例え体が若くなくとも、大狐になれば歩くだけで被害が出る。自己再生する能力があるならどの体でも無茶は効く。それに、憑依している人物をどんどん使い捨てていけば再生する必要すらない。
『何故憑かれた人間は早く死ぬのか?次なる器を捧げても死を免れないのか?妾が手を下しているのではない。強大すぎる力に体が耐えられないから死ぬのじゃ。次の器を用意したとて、一度負荷を負い、ヒビの入った器が長持ちしないのは当然のこと。そもそも妾は殺すのが目的で憑依しているわけではない。今まで妾に憑依された一族の情報が記された書物。お前は読んだのだろう?でも九尾の能力についての記載はなかった。違うか?』
「!」
『血縁なら誰でもいいとお前は思っているようじゃが、それは違う。呪いが始まって数百年。今まで九尾の力を扱えた人間は誰1人いなかった。妾が何百年も待ち続けた、力に耐えうる体を持ち、扱える人間。それがこの娘じゃ。しかも若くて、体の馴染みもとても良い、これ以上ないほどの逸材。手放すわけがなかろう』
「そんなの知るかよ!ユウから出てけ!そいつにはまだやりてえことがいっぱいあんだよ!」
『フッ、お前とキスすることか?いじらしい娘よのう。でもそんな娘をいつかお前は裏切る。変わらぬ愛などない。妾の目的はあいつらを根絶やしにすることじゃったが、お前が苦しむ様を見るのがあまりに楽しくてな。お前がどんな顔して娘を裏切るのか見たくて仕方ないのじゃ。その顔が見られるなら殺されてもいいと思うほどにな。
朗報じゃ小僧。娘の反応が消えた。あと10分もすれば同化し、体は完全に妾のものとなる。お前は間に合わなかった。また娘を救けられなかった。もう娘が目覚めることはない。良かったな。これで躊躇する理由はなくなったぞ』
「てめェ...!」
これ以上に最悪なことなど存在するのだろうか。こんなの選択肢なんてない。拘束できてもあと数分で完全にユウは消え、コイツは力を取り戻してしまう。そうなってしまえば戦いは終わらないどころか更に甚大な被害が出る。下手をしたら日本が終わるほどの...
オレがユウを殺すしかない。
なんで...オレはユウを守りたかったはずなのにこんなこと...
『アッハハハ!いい顔するのう。死にたいと言った娘を自分の都合で生かし、今度は自分の都合で殺す。実に身勝手な男じゃ』
「っ!」
『最後にお前に良い夢を見せてやろう』
九尾が自らの腕を抉り、血が飛び散った場所から彼岸花が生え始める。
「なんだこれ!クソッ!」
自分の体にも彼岸花が生え、ゾッとしながら彼岸花を引きちぎる。
『この術は、陣地作成した場所に毒を充満させるものじゃ』
「毒だと」
『死にはしないから安心しろ。あくまで死なないだけじゃがな』
「!」
サッと景色が誰もいない公園に切り替わる。
『かっちゃん』
聞こえた声に振り返ると制服姿のユウが困ったような顔をしてオレを見ていた。
自分の服装も制服に変わっている。どう考えてもおかしい。このユウは九尾が作り出した偽物だろう。
「幻見せんならもっと上手くやんねえと効果がねえぞ。これじゃ偽物だって丸わかりだ」
『そう、これは幻。だからかっちゃんは早く元の世界に帰って』
「は...」
『私はもうそっちには行けないけど、かっちゃんならまだ帰れる』
「もうそっちには行けないってどういう意味だよ」
『...ゆっくり深呼吸して。ここに来る前の景色を思い出して』
「答えろよ!そっちには行けないってなんだよ!」
掴んだユウの手は冷たいが、ちゃんと感触がある。
『私はもう帰る場所がないから...かっちゃんにはやらなきゃいけないことがあるでしょ?早くしなきゃ』
「帰る場所って体のことか!?どうやったら九尾を追い出せる!?どうやったらお前を救けられる!?」
『殺して。最期まで迷惑ばっかりかけてごめんね。頼んだよ。ヒーロー』
「ユウ!」
儚げに微笑むユウが消え、景色が元の場所へと戻る。
『フフ...良い夢が見れたか?』
「っ!ユウから出てけ!出てけよ!」
『お前が戻れなくなると思って、早々に術を解除したが、かなり毒が回っておるのう。そんなにイイモノが見えたのか?お前が見たものは全て毒による幻覚。ちゃんと感触も匂いも痛みも感じるが、他人にはお前がただ固まっているだけにしか見えぬ。毒が回ると感覚が狂い、現実と幻覚の区別がつかなくなる。そして徐々に五感を失い、最後は抜け殻と化す』
「あれが幻覚...だと」
『幻覚はその人間の恐れを映し出す。状況によっても変わるが、大多数の人間が恐れるのは死。体が毒に侵されていく幻覚を見る。じゃが、ごく稀にそうでない者がおる。お前はその手の人間じゃろう?今この状況でお前が見るものなど聞かずとも分かる。
さて、お前が自分のやるべきことを自覚したことじゃし始めるか。ああ、ちなみに妾はここから動かぬ。動きながらだと不完全な器ゆえ、体の修復が間に合わなくてな。一発で仕留めるチャンスじゃぞ』
にいっと笑った九尾がパンッと手を叩いた瞬間、大量の狐火が九尾の背後に現れた。
『始め』
飛んでくる狐火をかわしながら、距離を詰める。さっきのは幻覚。そう思ってもチラついてしまう。ユウの意識がないのなら、もうオレの生死は関係ないのかもしれない。でも、例えユウの意識がなくともオレを殺させるなんて事は絶対させてはならない。中身がなんだろうとあの体はユウのものだ。オレが指切りしたのも抱きしめたのもあの体だ。
ユウの手を汚させてはいけない。
殺すことを避けられないのなら手を汚すのはオレだけでいい。アイツには誰も殺させない。
『早く妾を止めねば全員死ぬぞ』
「そんなこと分かってンだよ!」
時間がないのもやるしかないってことも分かってる。コイツを殺さなければユウの体はたくさんの人間を殺すことになる。さっきのが幻だったとしてもきっとユウは現実でも同じことを口にするだろう。
だからって気持ちの整理がつくはずがない。やらなければと思うほど、ユウとの思い出が頭に浮かんでくる。
「クソッ!」
『さあ、殺すがよい』
オレを見て愉快そうに笑う顔は思い出に残るユウの笑顔とかけ離れている。コイツはユウじゃない。それ以外考えるな。考えたらオレは止まってしまう。
掌に意識を集中させる。
「アアアァァ!!」
自分に向けられた掌を見て、オレの顔を見た九尾の口がとても楽しそうに弧を描く。
「ごめん、ユウ」
掌がユウの背へと回る。
『どうして...』
何やってんだろうなオレ...
抱きしめる腕に力を込める。
結局オレは正しい選択ができなかった。
もうユウじゃないと分かっていながら最後の最後で割り切れなかった。オレは誰も救えなかった。
『かっ...ちゃん...』
「!ユウ...?」
小さく聞こえた声に驚いてユウを見ると、尻尾と狐耳が徐々に透けて消えていく。
『約束...守れたよ』
ユウの指が目尻に触れ、自分が泣いていたことに気が付く。微笑むユウの顔はさっきまでとは違う、オレのよく知るユウだった。
『無事で...よか...った...』
糸が切れたように崩れ落ちるユウを抱きとめる。元の姿で眠っているユウを見て安心するが呼吸が浅く、体が冷たい。
「この服...」
あまりに綺麗に赤くなっているため、気にならなかったが、近くで見て気が付いた。この服はいつも着ている白衣が血で全て赤く染まっているのだ。さっき九尾は体の修復と言っていた。つまりこれは全部ユウ自身の血。そして今、九尾の修復の力は恐らく働いていない。
「早くユウの手当てを!ユウ!オレがついてる!だから頑張れ!」
ユウを寝かせ、手を握ると微かに手が握り返された。
「ユウ!」
『私の...せいで...いずっくんが...救けなきゃ...』
「オレに任せろ。オレはぜってえ生きて帰る。だからお前もぜってえ死ぬんじゃねーぞ!」
ユウの頭を撫で、棺の端へ移動して死柄木とデクを探して空を見下ろす。
そこで見えた光景にオレはすぐに空へと飛び出した。
頑張れmyヒーロー