最終決戦偏
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いくら泣こうが願おうが死んだ人にはもう一生会えない。保育園で知り、小学校で嫌というほど理解した。
傍にいてくれるのが当たり前だと思っていた人が突然いなくなる。怖くて悲しくて辛くて、いつまでも苦しい。
死ぬのが私だったらこんな思いはしなくてよかったのにと親戚の家に行ってからはずっと思っていた。
家にいるのが苦痛だった。
あの人達の私を見る目が大嫌いだった。暴力を振るわれるのは痛くて怖かった。
参観日が嫌いだった。
褒めてもらったりちょっと怒られたり、楽しそうに親子で会話するみんなを見て寂しくなってしまうから。周りの家族の子どもや孫を見る目を羨ましいと思ってしまうから。私の周りには誰もいないと再確認する羽目になるから。
中学になってからは平気なフリをするのにも慣れ、自分があと数年で死ぬ事を考えれば全てどうでもよくなって楽だった。当たり障りなく過ごしつつ、周囲の人達全員から距離を置いた。1人なら傷付く事も傷付ける事もないから。
眠るのが好きだった。
嫌いな現実から逃げられるから。夢だとしてもその時だけは幸せだって錯覚できるから。
だけど、時折見る貴方の夢は怖くてたまらなかった。あの日の放課後の教室。私と貴方の立場が入れ替わっていて大嫌い、絶交だと言い放ち、あの人達と同じ目で私を見る貴方の夢。
この現状が貴方を傷付けた報いなのだとしたら謝らなきゃ終われないと思った。貴方に会って謝れたら終わらせるつもりだった。まさか覚えていてくれて、以前と同じように接してくれるなんて夢にも思わなかったから。
たった一度。ほんの少しの時間で悲しいのも寂しいのも辛いのも全部貴方が埋めてくれた。すっかり忘れてしまっていた、夢とはまるで違う貴方の眼差しが酷く心地よくて安心できて...
だからもっと一緒にいたいなんて欲を出してしまった。近ければ近いほど別れるのが辛くなる。その教訓を忘れてしまった結果がこれだ。
こんな事ならもっと早く死んでおくべきだった...
(可哀想に。でももう大丈夫。あとは何も考えずに眠れば全部終わらせられるわ)
何したってもう二度と会えないのだからどうだっていい。考えるのも疲れた。目を閉じるとすぐに頭がぼーっとし始めた。
水の中に沈んでいくようなゆったりと心地良い感覚。微睡み、沈むほど心地良く、気持ちが楽になっていく。
...ろ...きろ
何か遠くで聞こえる気がする。
“起きろ”
嫌...起きたくない。もうこのまま眠りたい...
“約束した... ”
邪魔しないで。私はもう...
“ユウ”
うるさい...もうほっといてよ...
“ユウ!”
『!』
ハッキリと聞こえた彼の声にパッと目を開ける。
誰もいない。遂に幻聴まで聞こえるようになったかと自嘲する。再び目を閉じようとするとまた私を呼ぶ彼の声が聞こえた。
“ユウ!起きろ!”
もう起きてるじゃないかと幻聴に心の中で文句を言いつつ、周囲を見て思わず絶句してしまう。
『なに...ここ...』
赤い水の中で彼岸花が咲いている。上を見ると密集している彼岸花が見え、下を見ると底がかなり深いらしく、暗くて何も見えない。とても現実とは思えない景色にゾッとする。
“ユウ!ユウ!”
『かっちゃん!』
また聞こえた声に必死に辺りを見渡すが誰もいない。
“そんな奴に負けんな!戻ってこい!”
そんな奴って?戻ってこいってもしかして...
そう思った途端にグンッと下に体が引っ張られた。何故か下に行ってはいけない気がして上に向かって必死に泳ぐ。
“ユウ!こんなとこでくたばってんじゃねー!”
死んだのは私の方なの...?
訳が分からないが、もしかしたら彼はまだ生きているのかもしれない。
微かな希望を抱き、上を目指す。
(上に行ってはダメ。また酷い目に遭うわ)
そうかもしれない。でもかっちゃんに呼ばれてるから行かなくちゃ
(また約束を破られるかもしれないのに?)
かっちゃんはちゃんと約束を守ってくれる人だよ。上手くいかないことがあっても、約束をなかった事にはしない人だから。いつかは絶対果たしてくれる。今回ばかりはわかんないけど...それを確認する為にも行かなきゃ
(そう...じゃあ仕方ないわね...)
『!』
突然息が苦しくなってきた。
今まで平気だったのにっ
(苦しい?上に行かずにいてくれるなら楽にしてあげる。私、貴方のことは嫌いじゃないから苦しめたくはないのよ?憐れで可哀想な子。ここにいればもう苦しむ事も傷付く事もない)
苦しくても痛くてもいい!私はかっちゃんと一緒にいたい!
苦しさに耐えながら上へと泳ぐが、息が続かない。
(さよなら。ゆっくり休みなさい)
意識が朦朧とし、体が沈んでいく。
ごめんね...かっちゃん...