最終決戦偏
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約束守れなくてごめんな.....
どこかで子どもの泣いている声がする。
「ユウ?」
肩を揺らし、しゃくり上げる小さな背中には見覚えがあった。
ずっと響いていた泣き声がピタリと止む。
「オレがヒーローになってやるよ!」
少女と指切りを交わす少年を見て、ああこれが走馬灯というやつかとぼんやり思う。
泣いて笑ってまた泣いて。どんどん移り変わっていく光景を眺めているとユウに告白した日が映った。
余裕なんて微塵もない癖に必死に平気なフリをしている自分に笑ってしまう。
今までの人生で一番緊張した。そして一番嬉しかった。顔を真っ赤にして照れるユウがスゲえ可愛くて愛おしくて好きで好きで仕方なくて、今まで見たことのない恋人としての顔を覗かせるユウにドキドキさせられて、でももっとたくさん知りたくて。
「あいつとキスしたかったな...」
頬を流れる一筋の涙が落ちた瞬間に景色が歪み、切り替わった。
座り込み、ボロボロの姿で泣きじゃくっているユウは最初に見た幼い時ととてもよく似ていた。
でもこんなユウを見た記憶がない。
『ッ...かっちゃんっ...』
嗚咽混じりに聞こえた名にハッとする。
「ユウ!」
近付こうとするが前に進めない。
「ユウ!ユウ!」
いくら叫んでも声が届いていないらしく、ユウはひたすら泣き続けている。
「!」
ユウの座っている場所から広がるように赤くなっていく。そしてプツリとユウの泣き声が途絶えた。
『殺してやる!!』
ユウが叫んだのと同時にぶわっと大量の彼岸花が花開く。
「なんだよこれ...」
血のように赤い彼岸花に囲まれているユウの体が徐々に黒くなっていく。
「ユウ!!」
必死に手を伸ばすが届かず、ユウの体が沼に落ちるように沈んでいく。
『もういいや...全部どうでもいい...』
「ダメだユウ!」
虚ろで暗く淀んだ目をしたユウからは一切感情を感じられない。彼岸花に埋もれていくユウに背筋がゾッとする。
これは夢でも走馬灯でもない。何故か直感でそう思った。
早く救けなければ手遅れになる。
早く救けに行かねえと!オレがあいつを救けねえと!オレがユウのヒーローだろ!
そう思った瞬間、心臓がドクンと跳ねた。
「!」
「爆豪!!よかった!」
「ジーパン!状況は!?」
「死柄木は棺の外でデクが相手をしている。そして」
「ユウ?なんでここに!?」
膝と手を付き、下を向いたまま苦しそうに息をしているその姿はコスチュームは赤く様変わりしているが紛れもなくユウだ。
「ユウ!」
「ダメだ爆豪!」
駆け寄ろうと立ち上がるが、ジーパンに腕を掴まれ、止められる。
「なんでだよ!」
『驚いた。まさか生きていたとはな。だが少し遅かった』
「は...」
ドクドクと心臓が早鐘を打つ。
もしかして...
『久しいな小僧』
立ち上がったユウを見てスッと背筋が冷たくなる。目の色もにいっと笑う表情もユウではない。
「ユウをどこへやった」
『フフッ、どこへやった。か。妾は何処へもやっておらん。やったのはお主じゃ小僧』
「何世迷言言ってやがる」
『言ったはずじゃ。お前が死ねば娘も死ぬと。泣きわめいて終わりでないところが、この娘の良いとこよの。悲しみはすぐに殺意へと変わり、娘は自分の命を使って死柄木とやらを殺そうとした。なんの躊躇もなく命を掛けるとは恐ろしい娘よな。自ら攻撃を食らい、敵に血を撒いて敵そのものに陣地作成。無意識の痛覚遮断。人が意識を失うような怪我をしておきながら尚も勇ましく戦う様は実に見事じゃったが、傷口も塞げない普通の人間じゃ体がもつわけがない。妾が死柄木を殺すという願いを叶えてやると言ったら抗うこともせず、すぐに意識が落ちた。娘にはもう生きる意志がないし、妾が死柄木を殺せばすぐに自我が無くなるじゃろうな。そうすればこの体は完全に妾のものじゃ。娘を堕とした其方には感謝せねばな』
「っ...」
「ダイナマイトしっかりしろ!君のせいじゃない!」
さっき見た光景が頭に浮かぶ。
オレがユウをああしちまったのか...
「爆豪。意識を失ってるだけで彼女は死んだわけじゃない。奴の言っている事が本当なら時が経過するか奴が死柄木を倒すまでならまだ救うことができる」
「!」
そうだ。まだ死んだわけじゃねえ。ユウを救けるのはオレの役目だろ!こんなとこで立ち止まってる場合じゃねえ!
「ユウ!!起きろ!!まだやりてえこといっぱいあるんだろ!?オレもお前とやりてえこといっぱいあんだ!だから起きろ!起きてくれ!」
『無駄じゃ。五感は今妾のもの、外の声など聞こえぬ』
「ユウ!!」
『そうじゃ...其方を殺せばすぐに体が手に入るではないか!娘の精神が壊れれば無意識に娘が課した縛りが消え、大狐に化ける事もできるし、もっと自由に動ける。死柄木を殺すのも容易い...礼を言うぞ小僧』
「下がれ爆豪!」
向かって来ようとした九尾の体が糸に縛られる。
あいつに届くまで声を掛け続けろ!
「ユウ!起きろ!死なねえって約束したじゃねーか!またあとでってお前言ったじゃねーか!」
『五月蝿い!諦めて現実を見たらどうじゃ?約束なんてもの信用できるわけなかろう。約束ほど宛にならぬものはない。人間はすぐに約束を破る。悪びれもなく守る気もない約束をして裏切る事を繰り返す。約束なんてただの騙すための手段じゃ』
「実際そういう奴もたくさんいるし否定はしねえ。でも約束は破るためにすンじゃねえ。守るために、そう在るためにするんだ。オレはヒーローになるって約束した癖にユウのこと何回も守れなかった。でもユウはずっとオレのことヒーローだって、ガキの頃と変わらず思ってくれてる。だからオレはあいつのヒーローで在る事をやめねえ。例え守れなかったとしても、あいつがオレをヒーローだと言う限り約束は続いてく。だから次こそは約束を守れるように、ぜってえあいつを守れるヒーローになろうと頑張れんだ。お前がなんと言おうとオレはユウを救ける。それを諦めるなんて選択肢はなから存在しねえンだよ!」
誰がなんと言おうとオレはユウのヒーローだ