全面戦争 編
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『ご馳走様かっちゃん!やっぱりかっちゃんのオムライスは最高だね!絶対お店開けるよ!』
「開くかバーカ。ケーキここで食うと他のやつに食われそうだし、後でお前の部屋持ってく」
『えへへ、ありがとう』
まだ腹が空いているであろうユウはきっと1切れじゃ満足出来ないのだろう。
少し気恥しそうにユウはお礼を言った。
「ユウ、部屋来てもらってもいいか?」
『うんいいよ。かっちゃん、轟くんの部屋行ったあと部屋で待ってるね』
「...ああ」
なんで轟の部屋に?気になるのに口に出せない。さっきの歓声...もしかしたら...
嫌だ。行かないで欲しい。
『かっちゃん?気分悪いの?大丈夫?』
「大丈夫も何もなんでもねえよ」
『そう?疲れてるだろうし、無理しないでね?ケーキ明日とかでも大丈夫だし』
もし轟に告白されたらこいつは...
気がついたら背を向けたユウの手を掴んでいて、驚いた顔をしたユウと目が合った。
「...もうすぐ焼けるし、早くしろよ」
『うん!1切れかっちゃんに分けてあげるから一緒に食べようね!』
「何が分けてあげるだ。作ったのオレじゃねーか」
『へへっ じゃああとでね!』
エレベーターの前で待っている轟の元へ走っていくユウの背中を見つめる。
「意気地無し...なにやってんだよ...」
『ええ!?と、しょーとくんと小さい時に会ってた!?マジか!?』
「ああ。まあたった1回会っただけだし、覚えてねえのも無理はねえ。オレも姉さんに言われるまですっかり忘れてた」
『てかエンデヴァーさんに立ち向かうとかよくできたな私...』
「あの時のお前すげえかっこよかった。また会って、お礼と友達になって欲しいって言いたかった。連絡先も何も知らねえし、結局その時会うことは叶わなかったけど、こうしてまた会えた。ユウ、あの時は救けてくれてありがとう。オレと友達になってくれてありがとう」
『こちらこそありがとうしょーとくん』
「ところでユウ」
『なに?』
「お前オレの名前ってどう思う?」
『どう思う!?どう思うって...かっこいいと思うよ?ヒーロー名にしてもバッチリだし!』
「ふっ、良かった」
『なに?なんで笑ってるの?私変なこと言った?』
「お菓子みたいで可愛い名前だって小さい頃お前に言われたんだ。だから変わってて安心した」
『マジか!?ご、ごめん!失礼なこと言った!焦凍ってとってもかっこいい名前だと思うよ!うん!』
最初ヒーロー名を見た時にカタカナだとケーキっぽいななどと考えていた事は墓まで持っていかねば...
「ふっ...オレの名前はともかくユウって可愛い名前だよな。お前によく似合ってる」
『な、なななに全然そんなことないし!?可愛いって言ったの謝るからからかわないでよ』
「?からかってなんてねえぞ?本当にそう思ってる」
『〜っ!ご、ごめん!私、かっちゃんと約束してるからそろそろ行くね!おやすみと、しょーとくん!』
突然飛び出して来ちゃったし悪いことしちゃったなあ...
でもあんなの耐えられない!なんで真顔でサラッとあんなこと言えちゃうわけ!?多分ほんとにからかってたわけじゃないし...
轟くんのああいうところが苦手というか恐ろしい。あんなツラのいいイケメンにどストレートに褒められたら心臓が持たない。
自分の部屋の階につきエレベーターを降りると、かっちゃんとお茶子ちゃんがなにか話していた。
邪魔するのも悪いと思い廊下の角に隠れる。
2人って仲良かったんだ。そういえばかっちゃん、お茶子ちゃんのことはちゃんと麗日って呼ぶな?あ!前に言ってたかっちゃんの好きな人ってもしかして!
悪いと思いつつ会話の内容が気になり聞き耳を立てるが途切れ途切れにしか聞こえない。
「...だ。...けど...」
「...夫。...ユウちゃんは...」
自分の名前が聞こえドキリとする。
するとすぐに扉の閉まる音が聞こえ、会話が聞こえなくなった。覗き見るとお茶子ちゃんが部屋に戻ったらしく、かっちゃんが1人廊下に立っていた。
『待たせちゃってごめん、かっちゃん』
「別に...ほらよ」
『ありがとう!大丈夫?元気ないし、やっぱり体調悪いんじゃない?』
「なんでもねえよ」
『そ、そっか...じゃあケーキ食べよう!』
絶対いつも通りじゃないけど、原因が全然思い当たらない。
オムライス食べたとこまではいつも通りだった気がするし...無理してるっていうか...
ハッ!?もしかして今今振られ...
貰ったケーキを急いで切り分け、お茶の準備をする。
『美味しい物食べて元気出そう!』
「だからなんでもねえって言ってんだろ!」
『ご、ごめん...』
「悪い...」
こういう時ってどう声をかけてあげればいいんだろう...
「...お前、轟に何言われたんだよ」
『えっと、なんか小さい時に轟くんと会ってたらしくてそれのお礼を言われた』
「それだけじゃねえだろ。気付いてるかしんねえけど、顔赤いぞお前」
『そ、それは...轟くんにユウって可愛い名前で似合ってるって言われて、恥ずかしくて...逃げてきたからで...』
「告白されたんじゃねえのか?」
『告白!?轟くんが私に!?そんなのあるわけないじゃん!だって私だよ!?天地がひっくり返っても無理でしょ!』
「ンだよ、されてねえのかよ!はああ...よかった」
最後の方は聞き取れなかったが、暗かったかっちゃんの雰囲気が明るくなった。
『なに?どういうこと?』
「なんでもねえっつってンだろ。それよりケーキ早く食えよ」
さっきと言葉は一緒だけど、なんか嬉しそう。
よくわかんないけど元気になったっぽいし良かった!
『うん!いただきます!ん〜!美味しい!幸せ!』
お腹が空いていたのもありすぐにケーキを食べ終えてしまった。
「ワンホールあっという間だったな。これお前に返す」
『私のスマホ!無くしたと思った!かっちゃんが持っててくれたんだ』
「隠してたっつー方が正しいけどな」
『ごめんねかっちゃん。いっぱい無理させたし辛い思いさせちゃった』
「オレが選んでやった事だ。お前の辛さに比べりゃ全然大したことじゃねえよ。お前は生きる事を諦めずよく頑張った」
『...今日ヴィランに襲われた時に過去の嫌な事とか思い出したくない事が一気に頭の中を巡って、私すぐに折れちゃった。なんでこんな辛いことばかりなのに生きてるのか生きなきゃいけないのか分からなくなった。自分で言うのもなんだけど、あんまりロクな人生歩んでないし。
でもかっちゃんがいてくれたからここまで生きてこられた。お父さんが死んじゃった時も、ヴィランに殺されそうになった時も、クラスでキーホルダーを盗んだ犯人にされた時も救けてくれた。ずっと傍にいてくれた。離れてからも理由はどうあれかっちゃんのおかげで生きる事ができた。再会して、また昔みたいにかっちゃんが傍にいてくれて、色々あったけどすごく楽しかった。もっと生きたいって思えるようになった。
記憶を無くしてからもかっちゃんが挫けずに何度も救けてくれたから生きられたし、記憶も戻った。だから私が今生きてるのは全部かっちゃんのおかげ。他の誰でもないかっちゃんのおかげ。
どんな時でも救けてくれる本当にすごいヒーローなんだよかっちゃんは!』
「...」
『ねえ、かっちゃん笑って!』
「は?」
顔を上げたかっちゃんの表情は眉間に皺が寄っていて笑顔とは程遠い。
「なに突然写真撮ってんだ!」
『忘れないように形に残しておきたいなと思って。自分の生きてきた証みたいな?この時はかっちゃんとケーキを食べてたとか仲良かったんだよって思い出せるようにさ』
「ならコレじゃ意味ねえだろ」
『あー!記念すべき1枚目が!』
スマホを取り上げられ、無情に消去ボタンを押される。
『もー!勝手に何してくれるの!』
「ほら笑え」
『な、なに突然...!』
パシャッとシャッター音が鳴り、驚いているとかっちゃんは私のスマホを見て笑った。
「どんだけ驚いてんだよ」
『まさか撮られるとは思ってなかったし!』
「思い出っていうならお前も写んなきゃ意味ねえだろ」
『あんまり写真写るの好きじゃないけどやっぱりそう?』
「当たり前だろ。お前が写んなきゃ仲良いもクソもねえし」
かっちゃんに渡されたスマホには驚いた顔をした私と普通の顔したかっちゃんが写っている。
『この変な顔のが1枚目かあ...まあかっちゃん写ってるしいっか』
「んだそれ」
『ん?1枚目はかっちゃんの写真にしようって思ってたからさ。私の中でかっちゃんは1番大切で忘れちゃいけない人だから...』
言っていてかなり恥ずかしい事を言っていると自覚した私はどんどん声が小さくなり、恥ずかしくてかっちゃんを見れなくなっていた。
恋人とか家族でもないのにクソデカ感情すぎるだろ私!まあ実際そうなんだけど、本人に言うつもりは全くなかったのに!これは流石にひかれたんじゃ...
「ありがとなユウ」
『え』
頭を撫でられ顔を上げると、頬を赤く染めて気恥しそうに、でも優しく微笑んだかっちゃんが目に映った。
どくんと胸が高鳴る。
記憶を無くした時に薄々気が付いていた。
自分がなんの取り柄もない、他人に迷惑ばかり掛けてしまう人間だってちゃんと分かってる。
なのにどんどん欲張りで身の程知らずのズルいヤツになっていく。
私にとって大切な人で幼馴染で友達でヒーローでそれだけで十分なのに...
いつかこの人はナンバーワンヒーローになって、私のヒーローじゃなくなって、私と違って可愛いくて素直でなんでもできる女の子と結婚して幸せになる。
分かってるのにいつまでも甘えて縋って私は本当にズルい。
こんな思い私が持っていいものじゃないのに...
ずっと気付かないままでいたかった。知りたくなかった。でも気のせいだと誤魔化すにはもう遅すぎた。
目の前に映る綺麗な景色を見てハッキリと自覚してしまった。
きっともう一緒にはいられない。
私はずっとあなたのことが好きでした