全面戦争 編
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落ちていくユウの手を必死で掴み、引き寄せる。
何処にヴィランが潜んでいるか分からないこの場所でユウを置いてヴィランを倒しに行くのは危険だ。業腹だが、ここはあの上にいるヴィランから逃げて早く雄英に帰った方がいいだろう。
「ユウ?」
気絶してしまったのか目を閉じたままユウは動かない。ユウには悪いが移動するには好都合のため、起こさずにその場からすぐに移動した。
「チッ 降ってきやがった」
ユウを抱えて飛ぶのは片腕への負担が大きく、なかなかに体力を使う。そんな中、プラス悪天候は流石にキツい。
少し休むか...
この辺りは割と安全なはずだし休んでも問題ないだろう。
廃ビルの中に入り、ユウを地面に寝かせる。
「血...!」
ユウの右腕のシャツが赤く染まっており指先まで赤くなっている。傷口が開いたなんていう量の出血じゃない。
何とかしてやりたいが、そのまま飛び出して来てしまったせいで手当てできるような物を何も持ってないし助けを呼ぶにもスマホがない。
「クソッ!早くしねえと」
早く帰りてえが雨も強くなってきやがった。あの出血で体冷やすのは良くねえし、せめて雨避けできそうなものくらいどっかに...
何か使えそうなものがないか隣の部屋にも探しに行くと、近くに落ちたのか大きな雷の音が鳴った。
クソッ!雷まで...!
あまり使えそうな物がなく、一旦元の部屋に戻るとユウが俯いて座っていた。泣いているのか鼻をすする音と小さな嗚咽が聞こえてくる。
「痛えし怖かったよな...救けるのが遅くなって悪かっ」
いきなり飛び込んできたユウに驚いていると、細い腕が背中に回されギュッと抱きしめられる。
「お前、触れても大丈夫になったのか!?」
小さく頷くユウの頭をそっと撫でると本当に大丈夫らしく、パニックになる様子はない。
「やったなユウ。よく頑張ったな」
ユウの嗚咽が大きくなり、抱きしめる腕の強さ増す。本当に良かったと安心していたが、重要な事を思い出した。
「ユウ!右腕!そんな力入れたらマズいだろ!」
『ご...ッ...めんなっ...さい...ッ』
「違っ!別に怒ったわけじゃ...!」
即座にオレから離れ、相も変わらずユウは俯いたまま泣いている。
...なんかオレが泣かせたみてえじゃねえか!
どうしていいか分からず困っていると、嗚咽混じりにまたユウが何か言った。
『ッさい...かっちゃ...っん...ごめっ...ッ』
「え...」
『わたッ...し...っ...かっ...ちゃん...っのことッ...』
「お前...記憶が戻ったのか...?」
頷くユウを見た瞬間、体が勝手に動いていた。
腕の中に収まる体はやせ細り以前より更に小さく感じた。壊れてしまわないか心配になりながらも、抱きしめる腕の力は緩められそうもない。色んな事が頭を巡り感情も情緒もぐちゃぐちゃで何も頭が回らない。ただもう離したくなくて、離れて欲しくなくて、次々溢れては落ちていく涙を拭うこともせず、ひたすらにユウを抱きしめる。
感情が溢れて止められなくなり、声をあげて泣くオレに同調するように、ユウも声をあげて泣き始めた。
人気のない静かな場所で激しく降る雨の音とともに二つの泣き声が響き渡っていた。
散々泣いてやっと少し頭が回り始めたオレは焦って腕を解く。
「ユウ、怪我大丈夫か!?」
『ぅっ...ん』
聞いておいてなんだが、さっきよりシャツの赤い範囲が広がっているし見た目的に全然大丈夫そうな感じはしない。涙を拭おうとするユウの手を慌てて止める。
「そんな手で擦ったら目に血入るだろうが!」
『ごめっ...ありが...とう...』
ユウの涙を拭ってやると、目を真っ赤にしたユウと目が合った。そんな状態にも関わらず、オレを見つめる目がああ、ユウだなと実感し、胸が熱くなる。
『かっちゃん...ほんとに...ごめん...私っいっぱい酷いことした...たくさん傷つけた...ごめんなさ』
「ちげえ。お前は悪くねえし、謝罪なんて要らねえ。...もっと他に言うことねえのかよ。謝罪以外ならなんでも聞いてやる。だから溜まってるモン全部吐き出せ」
記憶があってもなくても、悪くもないのにいつも謝罪ばかりのユウにはため息をつきたくなる。抱え込みすぎというか、ものすごく生きづらそうな生き方だなといつも思う。怒りや悲しみ誰にも言えず溜め込んでいたものだらけだろう。
口に出せば、誰かにぶつければ少しは楽になれるはずだと思ったのだが、まだ何を言えばいいか分からないらしく、ユウは困った顔をしている。
ハッキリ言ってやろうと口を開こうとするとやっと分かったのかユウは困った顔をやめ、真っ直ぐオレを見た。
『かっちゃん...救けてくれて...ありがとう』
「は...」
予想の斜め上の言葉に唖然としてしまう。
『かっちゃんのおかげで...今も生きてる...まだ一緒にいられる...私、まだやりたい事いっぱいあるの...だから生きててよかった』
「そうか...じゃあやりてえ事いっぱいやんねえとな」
『うん...!』
頭を撫でると嬉しそうな顔をするユウが可愛いくて、久しぶりに見たその顔に嬉しさで胸がいっぱいになる。
生きてて良かった。
その言葉とあの戦い以降一度も見ていなかったユウの嬉しそうな顔に全てが報われた。
ユウにしていることが本当に正しい事なのか分からなくなっていた。苦しむユウを見る度にやっぱりユウの命を助けてしまったのは間違いだったのではと自分の都合で生かしてしまった事に罪悪感を募らせる日々だった。
でも正しかった。自分はちゃんとユウを救けられていた。
「おかえりユウ」
『ただいま、かっちゃん!』
雨は上がり、暗かった室内を陽の光が照らしていく。
雨は止んだ