全面戦争 編
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(嗚呼なんておぞましい!)(この化け物が!)
(もう手がつけられん!早く殺せ!)
信じてたのに...信じてたのに...!信じてたのに!
許さない...許さない!許さない!呪ってやる!殺し尽くしてやる!お前ら人間なんて全員!!
『う...』
ぼーっとしていた意識がだんだんと覚醒していく。
汗ばんだ肌が気持ち悪い。右腕が痛み、目を向けると包帯が巻かれている。
頬にも何か貼られている感触があり、首を傾げる。
なんで怪我してるんだっけ...いつ寝たんだっけ...
『あっ...あ.....私...なんてことを...』
ギュッと右腕を握り締める。
みんな驚いてた。心配してた。
爆豪くん...また私...
『ごめんなさい、ごめんなさい...』
人の腕を噛むなんて正気じゃない。少し触られたくらいであんなに取り乱すなんてどうかしている。こんなの誰かと一緒になんていられない。
(そいつがいたからセントラル病院はヴィランに狙われた!)
早く出て行かなきゃ!私がいるとみんなに迷惑かけちゃう。せっかく緑谷くんを連れ戻せたのに全部台無しにしちゃう!また彼を傷付けてしまう!
部屋を出ようとして足を止める。
出入口からだと誰かに見つかるかもしれない。扉の鍵を閉めてベランダへと向かう。
外は真っ暗で静寂に満ちている。出るなら今がチャンスだろう。
ズキズキと痛む右腕に苛立ち、歯を食いしばりながら何とか地面に滑り降りるようにして着地する。
出入口の方へ歩いていくが、扉は固く閉じられており出られそうもない。
どうしたら外に...
少し遠くで車のエンジンらしき音が聞こえ急いで隠れると、たくさんのトラックが中に入ってきた。そっと近付き様子を伺うと、食料などの荷物を降ろしてるようだ。
これに乗れれば外に出られる...!
大きな荷物を積み込み始めたボックス形でない車に隙を伺い乗り込む。荷物に隠れて待っていると車が動き始めた。
バレずにトラックを降りられるかドキドキしながら乗っていたが、夜なので人気もなくトラックが止まっている間に案外簡単に降りられた。
恐くてすぐに降りちゃったけど、もっと遠くで降りれば良かったな...
どこだか全然分かんないし、暗くてよく見えない...
朝まで休もうと近くにあった空きビルに入る。
使われなくなってそんなに経っていないらしく中は綺麗でソファや机など家具も置いたままだ。
ソファの上に丸まり目を閉じる。思っている以上に疲れていたらしく目を閉じて直ぐに私は眠ってしまった。
なかなか寝付くことが出来ず、気付けば時計は深夜を回っていた。
ユウはまだ眠っているだろうか。こんな時間にとは思ったが、様子が気になり部屋へと向かう。
目覚めたらあいつは眠る前の事を覚えているのだろうか。覚えてたらあいつはまた...
部屋の扉を開けようとすると鍵がかかっているらしく、開かない。こんな時間に声を出す訳にもいかず、ノックをするがどれだけ待っても物音ひとつしない。
鍵が掛かっているという事は一度は目覚めたということだ。嫌な予感がして外へと向かう。
ただ眠っているだけならそれでいい。でもそうじゃないとしたら...
「!」
ベランダの窓の鍵が開いている。部屋に入ると何処にもユウの姿はなく、ベッドの上にコスチュームのトランクケースが広げられていた。
靴とナイフがねえ...!
急いでベランダから外に飛び出し、学校の門へと向かう。
「ユウ!」
殺してやる!!呪って呪って呪って呪い尽くしてやる!!
体が燃えるように熱い。憎しみと怒りで頭がおかしくなりそうになる。
殺ス。コロシタイ。殺セ。殺さなければ!!
頭ガ痛イ。死ねシネ死んでしまえ!それしか考えられなくなる。
殺さなきゃ...
『!』
張り付いた服が気持ち悪い。
今のは夢...?それとも.....
階段を登る音が聞こえ、急いでソファから飛び起き、そっと上の階へと移動する。
「だいぶ学校への避難民も増えちまったし暴れたりねえなあ」
「せっかく自由になれたってのに遊び甲斐がねえよな」
最悪だ。まさか出てきて早々ヴィランに会うなんて...
「ん?なんかこのソファあったけえな」
「もしかして誰かいるんじゃねえか?」
『!』
「探す価値はありそうだなァ。おい!誰かいるのか?」
「...先に見つけた方の獲物ってことでいいな」
「ああ。見つけるのは俺だ」
早く逃げなきゃ殺される!
あの階を探してる間にとにかく上に上がるしかない。
隠れても見つかったらきっと逃げられない。それよりは隣の建物に飛び移れる場所を探す方が生き残れる可能性は高いはずだ。
かなり上まで上がってきたし、声も音も聞こえてこない。ここから飛び移れれば何とか逃げられるかもしれない。
窓から外を見ると横の建物の屋上には飛び降りれそうだった。
下に見える景色に足がすくみそうになる。
恐怖と不安でいっぱいの中、意を決して飛び降りる。
無事に降りることができ安堵の息を吐く。
あとはこの建物に入って下に降りるだけだ。
「素晴らしい!待ってて正解だったよ!泣き叫んで怯えているだけのつまらない奴じゃなくて君みたいな活きのいい奴が僕は大好きなんだ!」
『っ!』
こんなとこにいるなんて...どうしたら...どうしたら逃げられる?頬を冷や汗が流れる。震えた手足は上手く力が入らない。
「俺の個性は血を触れた相手の個性を暴走させる。勇気ある君はどんな個性を持ってるのかな。おいおい逃げるなよ」
『ぐッ...!』
投げられたナイフが足に刺さり、バランスを崩し前に転んでしまう。カランと音をたててナイフがころがり、恍惚とした表情でヴィランがナイフを拾い上げる。
「足を刺されてもその反応。いいねえ!いいねえ!どこまで痛めつければ君の絶叫を聞けるんだろう!さあ個性の方は」
『!?』
ナイフに付いた血をヴィランが触った途端に体が熱くなる。
なにこれ...
「変化なし?おかしいな〜すぐナイフ抜けちゃったし、血が少なかったかな?おや?その腕包帯赤くなってるし痛そうだね」
『来るな』
脚に付いているナイフを左手で隠し持つ。
殺してでも逃げるしかない...!
「いいねえ、その敵意の篭った目。すっごい興奮する。でもそういうのはもっと上手くやらなきゃ」
『っ!』
早い!
一瞬でナイフを奪われ、包帯の上からナイフを突き立てられる。
『ああ゛っ!』
「お、いい反応。傷口を刺されるのは痛いよねえ。いっぱい血が出てる」
「ラッキー!まだ死んでねえじゃん」
「邪魔すんなよ。先に見つけた方の獲物だって言っただろ」
二人目のヴィラン...
足も腕も負傷したこの状態でヴィラン二人から逃げるのは絶望的だ。
「殺さねえからちょっとだけ遊ばせてくれよ!絶望に堕ちた時の人間の表情を見るのは楽しいぜ?な?」
「はあ...しょうがねえな。絶対やりすぎるなよ?お前の個性やりすぎると頭イカれて死ぬんだからよ」
「そこは加減するって!いい思い出も混ぜときゃ問題ねえ」
『う゛!』
もう1人のヴィランが私の腕に刺さったナイフを引く抜くとニヤリと笑ってナイフの血を舐めた。
『ッ...あ...ああっ!』
激しい頭痛とともに、頭に色んな光景や声が流れ込んでくる。
“私もヴィランに殺されちゃう”“お前が盗んだんだろ!”“大っ嫌い!”“私を独りにしないで...”“嫌!行きたくない!”“今日警察に行ったな?”“誰か救けて”“来い。お仕置きの時間だ” “誰か救けて”“儀式を始める”“やった!成功だ!これで家族は救われた!” “誰か救けて...”“お前には躾がいるな”“生きてていいことなんてあるのかな...”“これは必要なことなんだ”“死んでやる...!”
“素晴らしい!素晴らしい個性だ!”“痛い!もうやめて!”“記憶がないなんて全く何の為に...”“痛い...苦しい” “頑張って思い出してくれ”“頑張ってるのにどうして...” “何故思い出せないんだ!”“死にたい”“そいつのせいで病院は”
『ああああああああ!!』
「おい!やりすぎだぞ!」「おかしい!こんなはず」
『.....』
なんで生きてたんだろう。死ねば傷の痛みも、記憶も壊れそうな心も全部関係ない。苦しみから解放される。
「おい!」「お前のせいだぞ早く連れ戻せ!」
あと一歩。
この高さから落ちれば間違いなく死ねる。目を閉じ体の力を抜く。これでやっと楽になれる。
“オレがお前のヒーローになってやるよ!”
『!』
突然聞こえた声に思わず目を開け踏み止まる。
小さな男の子の声。誰の...私はその子を知っているの?
『あっ...』
「んだコレ!?」「クソッ」
体のバランスが崩れ、足が地面から離れる。
苦い顔をするヴィラン。今にも降り出しそうな暗い空。一瞬のはずなのに、スローモーションのように全ての景色がハッキリ見えた。
突風に煽られて落ちるなんて、何とも呆気ない終わり方だ。
落ちるのは2回目か...
あの時とは違い、ヒーローは此処にはいない。
まだ噛んじゃったこと爆豪くんに謝ってないや。轟くんとおやつ食べる約束してたのに破っちゃった。女子会するってちょっと楽しみにしてたんだけどなあ。せっかく戻ってきてくれたのに緑谷くんと一言も話せなかった。
あの男の子の声は一体誰のものだったのだろう。
考えるだけ無駄か...
暗い空を眺めるのをやめ、目を閉じる。
どうせすぐに死ぬんだからどうでもいい。
「ユウ!!」
『!』
目を開けると少し遠くに爆豪くんの姿が見えた。
どうしてこんなところに...これは幻?現実なの?
「手出せ!」
スっと自然に手が爆豪くんにむかって伸ばされる。
この感覚は...
私はずっと前から爆豪くんを知っているような気がする。
「クッ!あと少しっ...!」
伸ばされた手が私の手をギュッと掴み、引き上げられる。
ああ...私はこの人を知っている。
この温かさ、感触、もう大丈夫だと底知れぬ安心感が心を満たされていく。
あなたは...
彼は...
君は...
私のヒーロー