全面戦争 編
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「ユウ?泣いてんのかお前」
『ごめんね。何か思い出せた訳じゃないの...今の自分の気持ちもよく分からない。なのに勝手に涙が出てくるの』
「そうか」
『でも緑谷くん連れ戻せて良かったね』
「ああ...でも問題はここからだ」
『?』
雄英の入口に来たところで緑谷くんが目を覚ました。
「戻るのは.....ダメなんだ」
『え...?』
ぽつりと呟かれた緑谷くんの言葉に疑問を持ったところで、入口が開き大勢の人達から一斉に声が放たれる。
《その少年を雄英に入れるなー!!》
「噂されてる死柄木が狙った少年ってそいつだろ!!」
「おい校長の説明があったじゃないか。我々の安全は保証されるって...」
「納得できるか!!できたのか!?安全だと言われたから家を空けて避難してきたのに!何故爆弾を入れるんだ!!」
「雄英じゃなくていいだろ!!」
「匿うなら他でやれ!」
「死柄木が来る!!」
「入れるな!!」「出てってくれ!!」
そんな...ここにいる人達を守るためにこんなにボロボロになるまで戦い続けてきたのに...
こんなの酷すぎる...
「説得できなかったか...」
「理解を示してくれる人もいた。けれど全ては拭い去れなかった」
「皆さん落ち着いて!」
「聞き入れ難い話だろう。こと教員からでは。提言したのは私だ」
「ジーニスト...!!私たちはあなたの言葉を信じてここへ来た!!」
「ああ!校長から説明があったように!ここは今最も安全な場所でありあなた方の命を第一に考えている!
我々は先手を打つべく緑谷出久を囮にヴィランの居場所をつきとめる作戦を取った!だが充分な操作網を敷けず成果はごく僅かしか得られなかった!
緑谷出久はヴィランの狙いであると同時にこちらの最高戦力の一角!これ以上の磨耗は致命的な損失になる!確かに最善ではない!!次善に他ならない!
不安因子を快く思わない事は承知の上でこの最も安全な場所で彼を休ませてほしい!いつでも戦えるように彼には万全でいてもらわねばならないのです!」
「あんたら失敗したから...そもそも日本は無法になっちまったんだぞ。んでまた失敗したからしわ寄せを受け入れろってあんたそう言ってんだぞ...!?」
「ふざけるな!それでヒーローのつもりなのか!!」
「勘弁してくれ!!俺たちはただ安心して眠らせてほしいだけだ」
もうやめて...まだ学生なのに...ずっと頑張ってきたのにこんなのないよ...
ふわりと浮遊し、拡声器を持った麗日ちゃんが校舎の上に着地する。
「緑谷出久は特別な力を持っています...!!」
「だからそんな奴が休みたいからってここに来るなよって話だろうが」
「違う!迷惑かけないようここを出て行ったんです!!連れ戻したのは私たちです!
彼の力は...!あの...特別で!オールフォーワンに討ち勝つ為の力です!だから狙われる!だから行かなきゃならない!!そうやって出て行った彼が今どんな姿か見えていますか!?この現状を一番どうにかしたいと願っていつ襲われるかも分からない道を進む人間の姿を見てくれませんか!?
特別な力はあっても!!特別な人なんていません!!」
「...見たらなんだよ...!?まさか...俺たちまで泥に塗れろってのかぁ!?」
「泥に塗れるのはヒーローだけです!!泥を払う暇をください!!」
『麗日ちゃん...』
「今!この場で安心させる事は...ごめんなさいっできません!!私たちも不安だからです!!
皆さんと同じ隣人なんです!だからっ...!!力を貸してください!!共に明日を笑えるように...皆さんの力で!どうか!彼が隣でっ!休んで...備えることを許してくれませんか!!
緑谷出久は力の責任を全うしているだけのまだ学ぶ事が沢山ある普通の高校生なんです!!」
「...でも...」
「ここを彼のヒーローアカデミアでいさせてください!!」
小さな男の子と大きなお姉さんが緑谷くんに駆け寄る。
傍観していた人達の空気が変わった。
すごいよ麗日ちゃん...
『私も麗日ちゃんみたいなかっこいい子になれるかな...』
「なれんじゃねーの」
『ば、爆豪くん!?いつの間に...』
恥ずかしい...誰も聞いてないと思ってた...
「そのヘボメンタルじゃまだまだかかりそうだけどな」
『ですね...』
最近爆豪くんの私への態度が変わったような気がする。ズバズバ言ってくるというか容赦ないというか...以前のちょっと口の悪い優しいお兄ちゃんな感じじゃなくなった。でもきっとこれが本当の爆豪くんで、私にもありのままで接してくれるようになったという事なのだろう。
記憶を失くす前はどんな会話をしてたのかな?幼なじみって言ってたけど、いつから話すようになったんだろう?もしかして私も虐められたりしてたのかな?
知りたいことだらけだけど、爆豪くんはなにも教えてくれない。
早く思い出せるようになりたいな...
「おい、上手く丸め込もうとしてっけど、そいつだけじゃねえよな爆弾は!オレは知ってる!そいつがいたからセントラル病院はヴィランに狙われた!」
(そうなのか!?)(なんだそれ聞いてねえぞ!)
『!』
セントラル病院って私がいた...
嫌な予感がして爆豪くんの顔を盗み見る。
...!強ばったような怒った表情...
心臓がバクバクとうるさい。もしかしてそれって...
「回復系個性だから、あんたのとこに行ったよ。随分回復したみてえじゃねえか。だからそろそろオレらの献身に報いてくれてもいいんじゃねえの?あんたが死んだら死柄木を倒せる奴がいなくなるって聞いてみんな必死であんたを救けようと頑張ったんだからさあ!?なあ、何とか言えよ三条ユウ!!」
指を指しながら名前を呼ばれひゅっと喉がなる。一瞬の静寂が訪れ、一斉に突き刺さるような視線が私に集まる。
「なんでこんなとこにいんだよ!」
「回復したなら早く死柄木を倒してよ!」
「そんな爆弾2個も抱えられるか!」
「出てけ!!」「死柄木のとこに行け!」
「聞くな!ユウ!!」
記憶もない、力もない私にどうしろっていうの...何度も思い出そうとした。私だって頑張った...頑張ったのに...
「やめてください!」「皆さん落ち着いて!」
「まずい、止まんねえ!」
段々と突き刺さるような視線、耳を塞ぎたくなるような怒鳴り声が気にならなくなってきた。
...救けなんて頼んでない。
「んだよその反抗的な目は!!とっとと死柄木倒して来いって言ってんのが分かんねえのか!?何のためにお前を生かしたと」
迫って来た男に一言言ってやろうと前に出ようとするが、突然視界が遮られ、ものすごい爆発音と男の悲鳴が響き渡った。
「もういっぺん言ってみろ。次は当てる」
爆豪くんの背中しか見えないが声だけで、ものすごく怒っているのが伝わってくる。
「死にそうなこいつを見たんだろ?ならどれだけの代償を払ってこいつが死柄木を止めたかお前は分かってるよなァ?次同じことさせたらこいつが死ぬってことも分かってるよなア!?」
(死ぬって...)(それはちょっと...)(というか本当にあんなか弱そうな子にそんな力あるのか?)(あの男嘘ついてるんじゃ...)
「じ、自分の命一つで日本中が救われるんだ。ヒーローなら本望だろ」
「ッ!」
「おい爆豪!やめろって!」
「爆豪!気持ちは分かるが堪えてくれ!」
「離せクソッ!あいつが目覚めてからずっと、どれだけ苦しくて辛くて、死にたくなるような思いしてきたと思ってンだ!!」
男に馬乗りになり殴ろうとしている爆豪くんを切島くんや上鳴くん達が必死で止めている。
(怖い)(ほんとにあれがヒーロー科か?)(体育祭見てねえのかよ。あいつ超ヤバいぜ)
止めなきゃ。爆豪くんをああさせてしまったのは私だ。このままじゃ爆豪くんが悪者にされてしまう。
『爆豪くんやめて...!私は大丈夫だから』
「ユウ!でも...!」
『いいの。自分が周りにどう思われてるか病院で嫌ってほど知ったから。私なんかの為に怒ってくれてありがとう』
「自分の役目が分かってんならとっとと出て行けよ」
『今の私には以前の記憶がないし、個性も使えません』
「 はあ!?命惜しさに嘘ついてんじゃねえぞ」
『嘘なんてついてません。それに目覚めてから一度も命が惜しいなんて思ったことない。
ずっと何も分からないまま、痛みと苦しみだけが続く毎日。周りに望まれるまま、何度も何度も思い出そうとした。でも痛くて苦しいだけで何も思い出せなかった...
そんな私を見て、毎日知らない人達が落胆して、哀れんで、怒ってくる。
生きててよかったなんて思ったことない。
救けたなんて思い上がらないで!死んだ方がよっぽど楽だった!
でも生きて欲しいって言われたから...
唯一私に普通に接してくれる人だった。優しくしてくれる人だった。私の為に強がって思い出さなくていいって優しい嘘をついてくれる人だった。命懸けで私の事を守ってくれた人だった。私が沢山傷付けた人だった。もう傷付けたくない、悲しませたくない、だから生きなきゃいけないって思った。救けようとしてくれる人の手をとれるようになりたいと思った。クラスのみんなと過ごすうちに、忘れたままじゃ嫌だって思った。みんなとの思い出を取り戻したい。
だから今私は生きてるの。決して貴方に生かされたわけじゃない!』
強く生きろ