全面戦争 編
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“じゃあ楽しみに待ってる”
悪戯に笑う爆豪くんを思い出して頬が熱くなる。
冗談だと分かっていても、ちょっと喜んでしまった自分が悔しいし恥ずかしい。
あの言い方はずるい。爆豪くんていつもああなのかな...一体今まで何人の女子を泣かせてきたことやら...
などと思っていたが、そんな事は全くなく、というか思っていた以上に爆豪くんは口も態度も悪い人だった。というか全然違くない!?
一体どういうことなんだろうか?なんか今までの印象とだいぶ違う...爆豪くんって2人いるの?二重人格?
『爆豪くんっていつもあんな風なの?』
「いつもあんな感じですわ」
「あれでもだいぶ丸くなったんだぜ?」
『あれで丸く...?』
まあでも、病人には優しいからそこが丸くなったあたりなのか?丸くなる前だったら、お見舞いとか絶対来てくれなそうだし...いや、丸くなる前を知らんけども...
あれから数日、体調が回復した私は、現在八百万さんと瀬呂くんと緑谷くん探しをしている。
「なかなか見つかんねえな」
『私のせいで散歩みたいになっちゃってごめんね...ほんとはすごい速さで駆け回ったり、ビルの上飛んだりしたいよねほんとごめんね...』
「そんなん気にすんなっつーかできねーよ!」
「街の現状も分かりますし、細かなところまで注意して見ることができるので、こうして普通に歩く方がいいと思いますわ!」
『ごめんねありがとう』
「爆豪が近くのエリアにいるし、そういう駆け回ったり飛んだりはアイツに任せときゃいーの」
『ずっと探し回ってるし、爆豪くんは緑谷くんの事がとっても大切なんだね。幼馴染って言ってたし二人は親友とか相棒的な感じだったの?』
「「え?」」
『え?』
心身ともに順調に回復したユウは、徐々にクラスの奴らとも打ち解け始め、数日前からともにデクの捜索をしている。
触れずに救助することが可能なメンバーにユウを任せ、もしもの際すぐに駆けつけられるように、その周辺のエリアをオレが捜索するという陣形だ。
精神が安定した今でもユウの触れられることへの恐怖心は変わらないらしく、依然として触れられる事も触れる事も出来ない。
ユウがデクの捜索に参加する前日、精神が安定し、落ち着いている今ならもしかしたら自分から触れる事ならできるのではとユウに自分の掌に触れるよう促してみたが、ことはそんなに簡単ではないと思い知らされる事となった。
オレの掌に触れようと伸ばした手は震えていて、見えない壁でもあるかのように残り数センチのところで止まってしまう。あと少しだと指先に触れようとした瞬間、ユウはビクりと大きく体を揺らし、身を縮めた。
『ごめんね...爆豪くんが信頼できる人だって事も味方で私を攻撃するはずがないってことも分かってるの...分かってるのにっ...』
泣きそうな表情をしながら、尚も震える体を押さえつけ、触れようとするユウに心が痛む。
怪我が治り、ユウが前向きになり、もしかしたら記憶を取り戻す日が来るのではと浮かれていた。でも実際、ユウの1番重傷な部分は少しも回復などしていなかったのだ。死柄木が植え付けた恐怖は体の深くまで根を張り、記憶を封じ、人に触れることも触れられることも出来ない体に変えてしまった。そこにユウの意思は一切反映されない。
『なんで...なんで自分の体なのに、いうこと聞いてくれないの...』
正直ここまで症状が酷いとは思っていなかった。精神が安定している今なら、触れられるのは無理でも、自ら触れることならできるのではと思っていた。
こんなのもう防衛本能や拒否反応じゃなくて呪いだろ。胸糞悪ィ...
まるで、あいつにユウの体が汚染されているみたいだ。
「悪い、嫌なことさせた。無理するな。クラスの奴らには触れなくても上手く立ち回って救助できるヤツもいるし焦る必要はねえ。体に刻み込まれた恐怖。見えねえだけでそれも傷みたいなもんだ。そのうち治る」
『うん...ごめんね...』
そう焦る必要はない。そのうち治る。自分に言い聞かせるように心の中で復唱する。
でも死柄木とオールフォーワンを倒しても治らなかったら?記憶が戻っても治らなかったら?もう二度とユウに触れられない...?
そんな考えを振り払い、デクの捜索を続ける。デクに会えば何か変わるかもしれない。
それに...
オレはあいつに言わなきゃいけねえことがある。
...?あの人だかりはなんだ?
<いたぞ てめェら>
「爆豪からの連絡だ!」
「行きましょう!」
「おう!」『うん!』
目的地に着くとたくさんの人だかりができていた。
「巻き込まれると危険なのでユウさんはヴィランを捕らえるまで離れていてください!」
「わ、分かった!」
ヴィランの確保が終わると、街の人達は逃げ出し、クラスのメンバーだけが残った。
あれが緑谷くんなの?
写真や文章の穏やかそうな雰囲気とはまるで違う。
『!』
クラスのみんなの言葉も心配も跳ね除け、離脱しようとする緑谷くんと一瞬目が合った気がした。
「てめーら絶対逃がすなよ!!」
「危ねえからユウはオレらから離れんな!」
『うん...!』
切島くん達と緑谷くんを見守る。
まるで何かに取り憑かれてるみたい...
みんなの声がまるで届いてない...
あの一瞬、私が何か言えていたら止められたのかな...
忘れなければどうにかできたのかな...
『あっ』
捉えた!
みんなの連携技で遂に飯田くんが緑谷くんの手を掴んだ。
落ちてきた緑谷くんを切島くんがキャッチし、みんなが緑谷くんの元に集まる。
「緑谷...!もう誰かがいなくなんの嫌だよ。一緒にいよう!?また皆で授業受けよう」
「緑谷くん!」
「...そう...したいよ...けど恐いんだ...!雄英には...!沢山の人がいて...!他人に迷惑かけたくないんだ...!もう 今まで通りじゃいられないんだ...」
記憶のない私には緑谷くんがどんな人だったか分からない。思い出が存在しない私には掛ける言葉が見つからない。
それに緑谷くんの気持ち...とてもよく分かる...
私も同じ立場ならきっと同じ事をする。
どうしよう...なんて言葉を掛ければ緑谷くんにちゃんと届いてくれるんだろう...
「ユウ」
振り向くと真剣な顔をした爆豪くんと目が合った。
「これから言う言葉、お前にも聞いて欲しい。分かんなくていいから、聞いていてくれ」
小さく頷くと爆豪くんは緑谷くんの前に歩いていった。
「死柄木にぶっ刺された時言った事覚えてっか?」
「...覚えてない」
「“一人で勝とうとしてんじゃねェ”だ。続きがあるんだよ...身体が勝手に動いてぶっ刺されて...!
言わなきゃって思ったんだ。てめェをずっと見下してた.....無個性だったから。オレより遥か後ろにいるハズなのにオレより遥か先にいるような気がして嫌だった。見たくなかった。認めたくなかった。だから遠ざけたくて虐めてた。否定することで優位に立とうとしてたんだ。オレはずっと敗けてた。
雄英入って思い通りに行くことなんて一つもなかった。てめェの強さと自分の弱さを理解していく日々だった。言ってどうにかなるもんじゃねェけど本音だ。出久、今までごめん」
あれ...?今までの二人のことなんて知らないはずなのに... 胸に熱いものが込み上げてくるような変な感じがする。つーっと頬に何か伝っていく。雨にしては温かい。
悲しくも嬉しくもないのにどうして?
どうして涙なんて出るんだろう。
「ワン・フォー・オールを継いだおまえの歩みはオールマイトそのもので何も間違ってねぇよ。けど今おまえはフラフラだ。オールマイトだけじゃ越えられねえ壁がある。おまえが拭えねえもんはオレたちが拭う。オールマイトを超える為におまえも雄英の避難民も街の人ももれなく救けて勝つんだ」
「ついてこれない...なんて...ついてこれないなんて酷い事言って...ごめん...」
「わーってる」
倒れそうになる緑谷くんを爆豪くんが支える。
何かを思い出した訳じゃない。今の私にとって緑谷くんはほぼ初対面も同じだ。いくら幼なじみだと言われても思い出がない私には何の実感もわかない。
それなのに...
どうしてこんなに胸がザワつくの...