全面戦争 編
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「おー!爆豪!退院おめでとう!」
「おめでとう」
「ってまだだいぶボロボロじゃね!?」
「うるせー!クッソ元気だわ!」
「お前の事だし、ユウの為に無理言って退院したんだろ?それなのにこんな状態で悪いな...」
「昨日の夕方から1歩も部屋の外に出てないみたい...」
「たまに物音が聞こえるから中にはいると思うんだけど、話し掛けても返事がないの」
「昨日私達なにかしちゃったのかな...」
「オレがゆっくり休めって言ったから...」
「轟くん、それはなにも悪くないと思うぞ!」
「あいつの性格の問題だ。心配するだけ無駄だし、そのままほっとけ」
「ほっとけってそんなんでいいのかよ!?」
「オレらになんかできることってねえのかよ!」
「それがほっとくことだって言ってんだ。気使ったり優しくするだけあいつにとって負担になる」
「爆豪は?お前ならどうにか」
「ならねえよ。オレはもうあいつにとって、特別でもなんでもねエ。お前らとなんも変わらねえただのクラスメイトだ」
「爆豪...」「爆豪くん...」
体が重い。気持ちが悪い。
流石に無理をしすぎたな...
ベッドから動く元気も、心配して声をかけてくれる人達に返事をする元気もない。
みんな心配してくれてるんだろうな...こんなつもりじゃなかったのに...
引きこもろうなんてつもりはなかった。
思い出そうと無理はしすぎず、ほどほどにみんなを心配させないように過ごすつもりだった。
でも昨日部屋から見つけてしまったクラスの人達からの誕生日のメッセージカードや文化祭の写真。苦しくてもなんでも忘れたままじゃ嫌だった。あの時はこうだったってちゃんと思い出したかった。
文化祭で係が一緒だったのか轟くんと一緒に写ってるものが多くある。悲しげな表情の彼しかほとんど見た事がないが写真の中の彼は楽しそうに見えた。
私、轟くんと仲が良かったのかな...
到底私なんかが、関わりを持てそうなタイプの人には見えないが、もしかしたらそうだったのかもしれない。
じゃあ彼は...
爆豪くんと私が2人だけで写っている写真。なんとも言えない距離感でお互い気恥しそうに写っているその写真は普通のツーショット写真というには少し無理があるように思う。
私、爆豪くんのこと好きだったのかな...
分からない...私は彼をどう思っていたの?
トントンと扉を叩く音が聞こえ、ハッとする。
「ユウ、誰にも会いたくねえならそれでもいい。でも食事はちゃんととれ。じゃなきゃ良くなるもんも良くならねえ。とりあえず食えそうなもん持ってきたから置いとくぞ。後でいいから食え」
謝らなきゃ...早くしなきゃ行っちゃう...!
急いで立ち上がるが立ちくらみがして、前に転んでしまう。音が聞こえたらしく、心配する声が聞こえてくる。返事をしたくても、扉の向こうに聞こえるだけの大きな声が出せず、這うようにして扉へと向かう。
急がなきゃ...
何とか扉にたどり着き、鍵を開けると、間髪入れずに扉が開いた。
「ユウ!大丈夫か!」
『大丈夫...ちょっと転んだだけ...声出せなくてごめん...』
扉の前で座り込んだまま、消えてしまいそうな声で話すユウは、とてもじゃないが大丈夫そうには見えない。恐らく立つこともキツいような状況なのだろう。
「そんなん別にいい。中入るぞ。キツけりゃ壁にもたれかかれ。んでこれ飲め。その様子じゃ水分もろくにとってねえだろ」
ユウの前に座り、持ってきたスポーツ飲料の蓋を開けて渡す。
『ごめん...ありがとう』
喉が渇いていたらしく、順調にペットボトルの中身が減っていく。
轟からは、だいぶ顔色も良くなったし、体調も普通そうだったと昨日聞いた。でも今は、病院の時と同じか、下手をすればその時より悪いように見える。うっすら隈も見えるし、もしかすれば一睡もしていないのかもしれない。
少しくらいオレの言う事聞いてくれよ...
「どうしてそんな無理をした。あいつらと過ごして罪悪感が積もったのか、相も変わらず使命感からそうするのか知らねえけど、そのまま続けてたら死ぬぞ。
お前は死ねればそれでいいのかもしれねえけどな、オレやクラスの奴らがどう思うかくらい考えてくれてもいいんじゃねえか」
『ごめん...なさい...』
震えた声で俯くユウをみて、スっと頭が冷静になる。オレ...今、ユウになんて言った...?
到底弱ってる人間に言っていいような言葉じゃなかった。ペットボトルを握りしめたまま顔を上げないユウは今どう思ってるか怖くて考えられない。
違う...そんな事が言いたかったんじゃない。
ただユウのことが心配だった。辛そうなユウを見たくなかった。救けることも、疲れきった様子で、壁にもたれかかるユウに手を貸すことすら出来ない自分が不甲斐なくて悔しくて嫌だった。忘れたままでも、周りのことなんて気にしなくてもいいから、生きていて欲しかった。
「ごめん...今のは違うんだ...信じて貰えねえと思うがオレはただ」
『思い出したかった...
どうしても思い出したかったの...
メッセージには私の名前が書かれてるのに、実感がわかなくて他人のことみたいに感じちゃうの...写真も写ってるのは確かに自分なのになんにも分からない...何をしていたのか、何が楽しかったのか誰と仲が良かったのか、爆豪くんのことをどう思ってたのか、苦しくても痛くてもいいから、どうしても思い出したかった...
でもダメなの...なんにも思い出せなかった...みんなに心配かけるつもりはなかったの...死ぬつもりも...
爆豪くん、病院で私のせいでたくさん怪我させてごめん。必死で守ってくれたのに酷いこと言ってごめんなさい。手掴めなくてごめんなさい。たくさん悲しませてごめんなさい。それでも...そんな私を救けてくれてありがとう』
「っ...!」
嘘じゃない。全部全部がユウの心からの言葉。
顔を上げたユウの目は、病院の時とはまるで違っていた。
保育園の時と同じだ。
理由は分からないが、この短期間にユウを変える何かがあったらしい。
轟の言葉で少し前向きに考えられるようにはなっていたが、やっぱりユウは命を救ってしまったオレを恨んでいるのではと不安だった。だから、退院してすぐに会いたい気持ちはあったが、ユウと二人きりになるのは怖かった。退院したし声くらいかけねばと思ったが、ここを訪ねるにも勇気が出ず、結局夕方になってしまった。
「遅くなって悪かった」
『?ちゃんと救けてくれたよ?』
「食欲はあるか?」
『気分悪いしあんまり食べたくないかな...』
「じゃあこれだけは頑張って食え」
『それならいけるかも』
「他のもんベッドの横に置いとくぞ。ドリンクもゼリーもまだあるからできるだけ食え。んでその死にそうなツラ早く治せ」
『がんばる...』
ベッドの横のテーブルにメッセージカードや文化祭の写真が無造作に広げられている。
誕生日に貰ったと、とても嬉しそうにオレに自慢してきたメッセージカード。カードを書き始めた発端の女子達のものをはじめ、上鳴や切島、轟、緑谷と書かれたカードが見える。そして名前のないメッセージカード。今のユウには誰から貰ったか分からないだろうが、オレが書いたものだ。改めてメッセージを書くのが何だか気恥しくて名前を書かなかったが、字ですぐにバレて笑われた。
文化祭のあいつすごかったな...
集合写真や発表の様子や準備をしている写真があり懐かしい気持ちになる。
班が一緒とはいえ、なんか轟と写ってる写真多くねえか?
眉間に皺が寄り始めたところで、落ちている写真に気付き拾い上げる。
これ...
文化祭衣装のあいつと二人で撮った写真だ。撮る時も撮った後も、散々アホズラに笑われたが自分で見ても少女漫画かよと頭を抱えたくなる写真だ。
あのアホズラユウにも渡してたのかよ。
笑いながらわざわざ写真で渡してきたあいつに、殺意しかなかったが、同じ写真がオレの部屋にもある。
写真を撮るのは好きじゃねえし、思い出を作るとか柄じゃないが、もっとあいつの写真を撮っとけば良かったなんて今になって思う。
いつかあいつの馬鹿みたいに笑ってる顔も、子どもみたいに拗ねた顔も、幸せそうにご飯を食べる顔も撫でられて嬉しそうにしている顔も、全部思い出せなくなってしまうかもしれない。
「思い出せねえって怖ええし辛えな...」
ベッドの横に食料を置き、ユウの元へと戻る。
「周りがどうこうじゃなくてお前の意思で、記憶を取り戻したいって思ってんだな?」
『うん』
「なら無理すんのやめてとっとと体治せ。お前がそれだけ頑張ってもダメだったんだ。次やるなら別の方法だ」
『別の方法?』
「オレらと行動をともにする。意識せず、ふとしたきっかけで記憶が戻るって映画とか漫画でよくあんだろ。オレらは今デ...緑谷って奴を探してる。髪もじゃもじゃのそばかすのクソナードだ」
『クソナード...?』
「敵の狙いが自分だからってオレらに何も言わずに学校出ていきやがった。あいつはお前が記憶をなくした戦いで一緒にいたし、オレとお前の幼馴染だ」
『!』
「だから会えばなんか思い出すかもしんねえ。でも外はヒーロー不足で街は荒れ放題だし酷い有り様だ。もちろんオレらは全力でお前を守るが、危険な事に変わりはねえ。ともにするっつってもここでクラスの奴らと過ごすだけでも違えだろうし、無理してついてくる必要はねえと思う。あいつのことは引きずってでも連れ戻すつもりだしな。どっちでも好きな方を選べ」
『個性使えないし、たくさん迷惑かけちゃうけど私も連れてって貰っていいかな...?外を見れば何か思い出せるかもしれないし、みんなと一緒にいる時間は少しでも長い方がいいかなって...それに閉じこもってるとまた余計な事考えちゃいそうだから...』
「分かった。クラスの奴らにはオレから言っておく。先ずは体調治すとこからだ。明日は食えそうなら普通の飯を食え。その様子じゃ明日も下に移動すんのはキツいだろうし、飯はオレが持ってくる。くれぐれも無理して動こうとすんなよ」
『手間かけさせちゃってごめん』
「エレベーター上って下りるだけだし気にすんな。ただ、次また無茶なことしたら爆破するから覚悟しとけ」
『は、ハイ...』
「んじゃあまた明日来るわ。ちゃんと大人しく待っとけよ?」
『そんな何回も言わなくても...来てくれてありがとね爆豪くん』
「お前を1人にしとくと、ろくな事にならねえってのが改めてよく分かったわ」
『ほんとすいません...』
「焦んなくていい。いつかきっと思い出せる日が来る」
『うん...ただのクラスメイトの爆豪くんが、本当は私にとってどんな人だったのか、ちゃんと思い出すから待ってて』
ああ...きっとこいつは、オレが嘘ついてるって気付いてる。
相変わらず超鈍感なくせに、他人の負の感情には敏感だ。だから必死に隠そうとした。今までの関係をなかった事にして、ただのクラスメイトになることを選んだ。でももうその必要はないのかもしれない。ユウはオレが思ってたよりもずっと強くて、絶望の淵からちゃんと前を向いて歩き始めた。
「...んだよそれ。オレが嘘ついてるってか?」
『べ、別にそうとは言ってないよ!爆豪くんは私のことただのクラスメイトだって思ってたかもしれないけど、私にとっては違かったんじゃないかなって...なんとなくそんな気がするの』
「じゃあ楽しみに待ってる」
余裕そうに言ってみたものの、予想外の可愛い返答に内心全く余裕がない。
そんな言い方ずりーだろ...
『...!』
「どうした?」
『な、なんでもない!』
ユウはぼーっとしていたのか一瞬固まった後、勢いよくゼリーを飲み始めた。
疲れてんのか腹減ってんのかどっちだこいつ
「食えるだけ食って早く寝ろよ?」
『うん!おやすみ爆豪くん』
「ああ。また明日な」
希望を胸に前へと進め