全面戦争 編
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「焦凍、三条ちゃんってユウって名前なんだよね?」
「ああ」
「どこかで聞いたことある名前だなって気になってたんだけどやっと思い出した。小さい頃に焦凍が言ってたユウちゃんって子と三条ちゃんってもしかして同じ子なの?」
「え?オレそんなこと言ってた?」
「確か保育園か小学生くらいの時だったと思うんだけど一時ね、ユウちゃんに会いたいって何回も言ってた」
「周りにユウなんて名前の奴いなかったぞ......?」
“ねえ、そんなに慌ててどうしたの?”
“そっか逃げてきたんだ!じゃあずっとここにいてもいいよ!”
「あ.....」
“しょーとくんって言うんだ。おかしみたいで可愛い名前だね!私はユウっていうの”
“なんで入院してるか?ヴィランに背中切られて友達助けようとして火傷したから。しょーとくんも火傷してるから一緒だね私たち”
“そりゃあ痛いけど、友達を助けられたからいいの!こういうの名誉の負傷って言うんだって!知ってた?”
“ヒーローみたいって、私は全然ヒーローじゃないよ?ヒーローは友達の方!いじわるで怒りんぼだけどいっつも助けてくれるの!”
“しょーとくんを離せ!そんな無理やり連れてくなんて、しょーとくんが嫌がってるってわからないの?それがわからないならヴィランと同じだ!”
幼い頃に病院で出会った少女。オレを助けようと親父の前に立ちはだかるその少女が、オレにはすごいヒーローに見えたんだ。
ああ...なんで忘れていたんだろう。きっとあの少女は...
今日か...
怪我も大方治り、動けるまでに回復したユウは今日から寮で生活を始める。
それなのに...
それなのになんで明日までオレは入院なんだよ!!
「大丈夫か爆豪?明日ほんとに退院できるのか?」
「できるわ!なんなら今日にでもな!」
「前倒し前倒しで明日が退院なんだからそれは無理だろ」
「マジレスしてんじゃねえ舐めプ野郎!」
「わりい。心配なのは分かるが、ユウの精神もだいぶ安定してきたみたいだし、触れたりしない限りは多分大丈夫だろ。その辺はクラスの奴らも理解してるし問題ねえと思う」
「...入院中あいつの見舞い来るなとか言って悪かった...こうなりゃオレのやってた事も無駄みてえなもんだったな」
「いや、爆豪のやったことは意味があったし正しいと思う。あの時のあいつに必要だったのは、前の自分を知る友達や親友じゃなく、今の自分を視て肯定してくれる人間だった。あいつに気を使わせねえように、なんでもない顔をする。オレにはそれができそうもなかった。謝らなきゃいけねえのはオレの方だ。お前の方が何倍もキツイのに、辛い役を1人でさせちまった」
「やるっつったのはオレだ。てめェが気にする事じゃねえ」
「...オレ、あいつに言わなきゃって思ってた事があったんだ」
「...なんだよ」
嫌な予感がスっと頭を過ぎる。
轟とユウの付き合ってる光景が目に浮かび、嫌だと胸がざわつき始め聞きたくないと耳を塞ぎたくなるような思いで轟の言葉を待つ。
「姉さんに言われて思い出したんだ。ガキの頃にオレ、あいつに会ったことがある」
「は」
「顔の火傷で通院してた時、1度親父から逃げた事があって、その時隠れた場所があいつの病室だった」
「そんな昔のどーでもいい事よく覚えてんな」
「どーでもいい事じゃなかったから覚えてたんだ。オレにとってすごく衝撃的な出来事だった。訓練ばかりの日々で、年の近いヤツと喋れる機会が少なかったオレは、何話したか覚えてねえけど、あいつと話せてスゲえ嬉しかったことは覚えてる」
「そんなんが衝撃か?」
「ちげえ。それで話すのに夢中になってたら親父に見つかって連れていかれそうになったとこで、あいつが親父の前に立ちはだかって、嫌がってるからやめろ。それが分かんないんならヴィランと同じだって、言ったんだ。大人でさえ怖がるのに小せえ、しかも女の子が親父に立ち向かう姿は衝撃的だったし、スゲえかっこよかった」
「それほんとにユウか?あいつエンデヴァーにビビりまくってただろ」
「姉さんが名前はユウだったって覚えてたし、確かヴィランに背中切られたって言ってた。あと腕に包帯巻いてて、オレの火傷見て、一緒だねって笑ってたからユウだと思うんだが...でも髪は短かった気がする」
「...」
確かにかなりユウっぽい。保育園から小学生までユウは、いつもお母さんに2つ結びや三つ編みにして貰っていたが、あの事件の時にオレの爆破とヴィランの爪のせいで背中まであった髪が短くなってしまい、あの時だけは肩につくかつかないくらいの長さしかなかった。別に似合わなかったわけじゃないが、それを思い出すのが嫌で、髪を短くするなとあいつに言っていたのを今思い出した。
ここまで来るとほぼユウで確定な気がするが、謎に認めたくないという気持ちがふつふつと湧き上がる。
「たまたま似てただけじゃねえのか?言ってることとかあいつにしてはちょっとちゃんとしすぎっていうか、かっこよすぎねえか?」
「あいつ戦ってる時は結構かっこいい事言うぞ。それに」
「それになんだよ」
「最初に名前聞かれて、焦凍って言ったら、お菓子みたいで可愛い名前だねって言われた」
「.....ユウだな」
「やっぱりそう思うか?親父も印象に残ってたみたいで言われてみれば似てる気がするって言ってた。...礼言いたかったな。救けてくれたこと、また出会って友達になってくれたこと。ありがとうってちゃんと伝えたかった...」
ひとまず告白じゃなくて良かったと安心するが、自分は素直になれず伝えられてないことばかりだなと後悔が募る。
「オレだって言えてねえことばっかだ」
今日から、寮で暮らす事となりガチガチに緊張していたが、みんなとてもいい人達で記憶のない私を優しく迎え入れてくれた。
思い出せと誰も言わない。それが逆に心苦しかった。
ここの人達はみんなとても仲がいい。きっと私とも仲良くしてくれていたのだと思う。それなのに私はこの人達の事を忘れてしまった。相変わらず思い出そうとしても変わらず頭痛と呼吸が苦しくなるだけでなんの成果もない。
もう一生思い出せる日なんて来ないのかな...
「こんなとこで何してんだ?」
『!えっと...ちょっと外に出てみたくて。話し掛けてくれてた人達が緑谷くん?の捜索に出ていったからちょうどいいかなって...』
誰も通らない寮の横壁なんて場所にまさか人が来るとは思わず焦ってしまう。赤白髪の男の子。病院で救けてくれたし、お礼言った方がいいかな...
「そうか。ずっと部屋の中だったもんな。怪我はもう大丈夫か?」
『う、うん! あの...病院で救けてくれてありがとう。えっと...』
「...轟だ。投げ出されたお前を救けたのは爆豪で、オレは何もしてねえ。礼なら爆豪に言ってやってくれ」
『やっぱり爆豪くんが救けてくれたんだ...
爆豪くん、入院してるんだよね。私のせいで...謝っても謝りきれないし、合わせる顔がない...
轟くんには本当に感謝してるの。爆豪くんを救けてくれてありがとう』
「そういうことか。場所と個性の相性が爆豪には悪すぎた。ほんとはスゲえ強え奴なんだけどな」
『分かってる。あの人は身体的にも精神的にもとても強い。私がいなければ、きっと普通に勝ってた。私が足を引っ張った。必死に守ってくれていた爆豪くんに酷いこと言った...
それなのに...
こんな奴救ける価値ないって見切ってくれればよかった。怒って罵ってくれればよかったのにどうして...』
「それはお前が.....なんでもねえ。ヒーローはヴィランから人々を守るのが仕事だ。だから誰かを背に戦う事はよくあることだし、お前が気に病むことじゃない」
『...ヒーローって大変だね』
「...そうだな。
明日爆豪が退院するんだ。お前の事すげえ心配してたから、合わす顔がないなんて言わずちゃんと合ってやってくれ。中に入って、菓子でも食わねえか?」
『ありがとう。でもあんまりお腹空いてないし、お菓子はいいや。疲れちゃったからちょっと部屋で休むね』
「...そうか。まだ病み上がりなんだし無理するなよ。ゆっくり休め」
『うん。ありがとう』
悲しそうな顔を見て見ぬふりするのにも慣れてきた。きっと本人達に自覚はない。隠せているつもりなんだと思う。指摘すればきっとみんな気を使う。優しくしてくれるみんなに、もうこれ以上気を使わせるような事はしたくない。
誰もいない場所で一人静かに生きられたら、誰も傷付けることも悲しませることもないのにな...
この世界は私には生きづらい