全面戦争 編
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けたたましく鳴り響くサイレンと人の悲鳴や靴音で目を覚ます。
なに...?
扉が開き、見覚えのない顔を仮面で覆った如何にも怪しい人物が中に入ってきた。
「みいつけた」
その背筋が凍るような不気味な声に思わず後ずさる。
『ヒッ!』
血だ。この男の手に着いているのも、床に付いた靴あとも全部全部...
男がゆっくり歩いてくる。
次は私。殺される。逃げなくちゃ。体に繋がれた器材を急いで外す。
でもどうやって?どうやって逃げるの?
点滴の針が刺さっていた場所から垂れる血を見つめる。
生きてていいことはあるの?
きっとずっとずっと辛いし痛いし苦しい。死ねば...このまま殺されれば楽になれるんじゃ...痛いのは一時だけの事。...そうだ...そうだよ。
ベッドの上に座り目を閉じる。
もう何もかも疲れた...
突然大きな爆破音が聞こえ、驚いて目を開けると爆豪くんの背中が見えた。
「ユウ!無事か!?」
小さく頷くと爆豪くんは安心したように小さく良かったと呟いた。
「なんとか間に合ったみてえだな。チッ!まだ動くか」
立ち上がり仮面の男は猟奇的に笑い始めた。
「アッハハハハ!アッハハハハ!その個性もしかしてもしかして...!あの髪色に生意気そうな赤い目間違いない!じゃあターゲットの小娘はまさかもう1人の?.....ああ、嗚呼アア!なんて僕はついてるんだ!これで夢にまで見た復讐を遂げられる!」
な、何この人...私と爆豪くんを知ってるの?
「!まさかてめェ...!」
「思い出してくれて嬉しいよ!僕はね、君を思い出す度に傷が疼いて疼いて仕方がなかった。でもそれももう終わりだ!今日こそ八つ裂きにしてやる」
男が仮面を外すと顔全体に酷い火傷のあとがあった。
爆豪くんと私はこの男に会ったことがあるの?爆豪くんの方を見ると、その顔を見て爆豪くんが苦しげな表情をしたのが見えた。
男の爪が鋭く刃物のように変化し、伸びる。
「ここじゃ僕が圧倒的に有利だ。大きな爆破は出来ない。建物や壁を壊せば周囲にも被害が及び攻撃は無闇に出来ない。それに何より君はその子をほおっておけない」
迫ってきた男に驚いて固まっていると、誰かに抱き寄せられた。体が壊れていくような感覚がする。嫌...もうやめて...痛い怖い...
『イヤ!』
必死に藻掻いていると何処かに落ちたらしく体に衝撃が走る。
「ユウ!...ぐっ...!」
『爆豪くん!!』
爆豪くんの肩が切りつけられる。
「アッハハ!君1人なら簡単に逃げられるのにねえ?それに酷いことするね彼女。救けたのにあんなに暴れてさ。それでも守ろうと庇って怪我して、泣けちゃうよね〜ほんと」
「黙れ」
『爆豪くんごめんなさい私...』
「謝んな。お前が人に触れられるのが怖い事は知ってる。知ってて触れないように対処できなかったオレが悪い」
「かっこいいねえ君」
「てめェに言われてもなんも嬉しくねえんだよクソが!」
爆豪くんが爆破しようとするが爪のせいで思うように近付けない。
「チィッ」
『爆豪くん!』
違う。私がいるせいだ。私がいるせいで避けられる攻撃も避けられないんだ...
どんどん爆豪くんの傷が増えていく。
『私の事はいいから逃げて爆豪くん!このままじゃ爆豪くんが...』
「ふざけんな!ここで救けられなくて何がヒーローだよ!」
『もういい...もういいの...救けなんていらない』
「オレが信じられないってか?当然だよな。でもオレはヒーローなんだよ。救けること諦めるなんざ死ぬのと同じだ!」
『じゃあ逃げてよ!...私もう生きたくない...』
「!!」
『生きてる事が辛いの...救けたいって言うなら私を置いて早く逃げて...』
「っ...!」
振り向いた先には暗い目をして悲痛な表情をしたユウがいた。これは嘘じゃなくて本心だと瞬時に脳が理解する。オレを庇ってとかそういう理由ではなく、本当にユウは...
救けるってなんだ...?
命を守ることなのか?
ユウは死を望んでいる。理由は痛いくらいよく分かる。ここでユウを生かそうとすることは、ユウを苦しめるのと同じなんじゃないか?でもオレはユウに死んで欲しくない。ユウがいなくなるなんて絶対に嫌だ。耐えられない。ヒーローが命を守ることは当然だ。だから決してオレのエゴだけじゃない。
だけど本当にユウの事を思うならきっと正解は...
「!...ッく」
『爆豪くん!』
「彼女の願いを叶えてあげようと思ったのになんで邪魔するかなあ」
「ッ!」
痛えなクソ...切りつけられる背中が痛む。ガキの体でこんな攻撃くらって、大火傷してスゲえ痛かったんだろうな...やっぱスゲエよお前
『もうやめてよ...死にたいの!お願いだからもう死なせてよ...』
「悪い...お前の望みでもやっぱそれだけは聞いてやれねえ。酷な事だってのは分かってる。でもオレはお前に死んで欲しくねえ。ごめん...」
『なんで...』
「じゃあお前から殺してやるよ!」
バキバキっと音が響き、地面が氷で覆われる。
「ユウ!爆豪!無事か!?」
「ちょーピンピンしとるわ」
「すげえ傷だらけじゃねえか...!ちょっと待て、薬をすぐに」
『...』
「クソッ!動けな...!」
「友達を傷付けられて、ただでさえ加減ミスりそうなんだ。凍死したくなきゃ大人しくしておけ」
「他のとこはどうなってる?」
「中の人達の避難は大方終わった。今徐々にヒーローが集まってるとこだ。敵の数は多いが個々の能力は大した事ねえし、直に事態は収束すると思う」
「そうか」
「ユウは怪我大丈夫か?」
轟の言葉にユウは下を向いたまま小さく頷いた。
「お前を守る為にぜーんぶ小僧が攻撃を受けたんだ。怪我してるわけないよねぇ?ほんと酷い女だ。そこまでした彼にむかって死に、ア"ァ"ァ"ァ"!!顔が!体が!」
爆破と炎の同時攻撃に男は、のたうち回っている。
「次は加減しねえ。この距離なら外す心配もねえしな」「言っただろ大人しくしろって」
「「『!?』」」
突然パキッと音が鳴り、床が傾く。
「フフッ アハハハハ!僕の勝ちだ!」
こいつ!初めから床が崩れるように攻撃を...!
「「ユウ!!」」
ユウの座っている場所に亀裂が走り、崩れていく。外に投げ出されそうになったユウに手を伸ばすが、ユウは伸ばしかけたところで、手を引っ込めてしまった。亀裂が広がり、ユウのいる場所は今にも崩落しそうだ。
「っ! 轟!周り全部凍らせて崩落を防げ!この階が崩れりゃ上にも下にも被害が出る!」
「ユウは!?触れねえんだろ!?オレの個性じゃなきゃ救出が!それにお前、その腕じゃ上手く飛べねえだろ!」
「ユウはオレがなんとかする!頼んだぞ!」
『あっ』
床が崩れて体が 落下していく。
真下ならまだ死なないかもしれないのに落ちる先が外だなんて私は余程運に見放されてるらしい。いや、今回はツイてるのか。
爆豪くんの手を掴めるかどうか、きっとあれが最後の分岐だった。あれだけ身を呈して私を救けようとしてくれる人が、私を傷付けるはずがない。頭では分かっているのに、やっぱり怖くて触れられなかった。
死んでもよかった。もうすぐ死ぬ今の今でも少しの恐怖も後悔もない。
でもあの人をこれ以上悲しませたくなかった。会いに来てくれた時、時折寂しそうな、泣きそうな顔をするの気付いてた。それなのに思い出さなくていいなんて強がりを言うあの人に何もしてあげられなかった。優しいあの人に嘘ばかりつかせてしまった。
だから、なにも悪くないのに、ごめんと泣きそうな顔をして微笑むあの人を見て、この人に望まれるのなら、辛くても苦しくても生きなければいけないと思った。
お願い聞いてあげられなくてごめんね。
強がりも嘘もない、本当の爆豪くんの言葉。
最後に聞けて良かったと目を閉じる。
「ごめん」
不意にあの人の声が聞こえた気がして、目を開けようとしたが、そのまま私の意識は闇に消えていった。
「ごめん」
落ちていくユウを抱き留め、気絶させる。乱暴だが今はこの方法しか浮かばなかった。
そもそも片手で人1人抱えて飛ぶこと自体大変なのに、それなりに怪我をしているこの状態で、暴れるユウを抑え込むのはキツい。
クソッ これでもやっぱり厳しいか...!
こんな時、デクがいればなんて不意に浮かんだ考えを振り払い、ユウを抱きしめる腕に力をこめる。
こいつを守るのはオレだ!
守るとは言えないかもしれない。きっとこいつはこのまま死にたかっただろう。でもいくらこいつが望んでも、やっぱりそれだけは聞いてやれねえ...
ヒーローになりきれなくてごめん...
落ちる前に勢いを殺してなんとか背中から落ちる形で着地する。
「痛え...」
背中切られてる中流石にこれはエグいな...
動けずしばらく転がっていると、赤白髪が視界に入る。
「爆豪!大丈夫か!?意識は!?」
「静かにしろ!こいつが起きんだろーが!」
「わりい...気絶してんなら触れても大丈夫だな。...1人で起きられるか爆豪?」
「起きれるわ舐めんな!」
轟に抱き抱えられて眠っているユウを見て少しモヤッとしながら、体を起こす。
こんな時まで何考えてんだオレ
「大丈夫か爆豪?」
「なんでもねーよ。あのクソ爪ヴィランは?」
「もう警察に渡した」
「ならいい。...来てくれて助かった。オレ1人じゃどうにもできなかった」
「場所と個性の相性が悪かった。あの状況でユウを守りきった爆豪はすげえよ」
「...あのヴィランとガキの頃、オレとユウは遭遇したことがある。その時にユウはオレを庇って大怪我をした。ユウに火傷のあとがあるの知ってるか?」
「左腕のやつ...か?」
「ああ。あれをつけたのはオレだ。...スゲえ痛かったと思う。気使ってあいつは何も言わなかったけど、女だし火傷のあとがあるの本当は嫌でずっと気にしてたんだと思う。だから今度は絶対に怪我1つさせずに守りたかった。痛い思いも辛い思いもして欲しくなかった。
でもあいつに...ユウに死にたいって言われて、どうしたらいいか分からなくなっちまった...
こうして救けちまったのはきっとユウを苦しめるのと同じことだ。けどオレは自分がユウを失いたくないから、死ぬのを見過ごしてやれない。ユウの為じゃない自分の為。結局オレもユウを死柄木と戦わせる道具としか見てねえ大人と変わらねえ...」
「大切だから死んで欲しくねえのは当たり前だろ。それにオレにはこいつが死にたいって思ってるようには見えなかった」
「お前は聞いてねえから分かるわけねえだろ!嘘じゃなかった。心からの言葉だった...」
「でもこいつ、お前の手掴もうとしてた」
「!」
「死にてえなら怖いの我慢して、手出す必要なんてねえ。掴めなかったとしても、その行動がこいつの答えなんじゃねえか?」
「...でも確かにあいつは...」
「たったの一言や何気ない行動で救われることがある。オレもお前もよく知ってるはずだ。オレ達がそうやって救けられてたみてえに、お前がユウを救けたんだ」
「...そうか」
今日、ユウの命を守った事が救けた事になるのかは分からない。死にたいと願ったユウをヒーローも正義も関係なく、オレの都合で生かしてしまった。きっとこの後もユウの辛い日々は続く。だから目覚めたユウにどんなに責められても、恨まれても仕方がない。
でも...少しでもあいつに生きたいという意思が生まれたのなら、本当にユウの気持ちを変えられたのならオレはユウを救けられたと思っていいのかもしれない。
弱くて自分の願いを優先させちまうようなしょうもねえヤツだけどまだ...
お前のヒーローでいさせてくれ