全面戦争 編
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許可された人間だけだがユウとの面会が可能になった。
しかし誰に会ってもユウの記憶が戻ることは無く、オレはあいつが記憶を取り戻すかもしれない唯一の心当たりにすがろうと、夜の病院に来ていた。
大切な物を置いてきたかもしれないと適当に理由をつけ無理を通して部屋へと入ったが、信頼されているにしてもこんなに簡単に部屋に入れていいものなのかと心配になる。
熱があるのか眠っているユウの額には汗が滲んでいる。
「ユウ」
小さく呼びかけても起きる気配はなく、寝苦しそうではあるがぐっすり眠っているようだ。
「...おい、いるんだろ狐」
「...フフッ 娘の寝込みを襲いに来たんじゃないのか小僧」
「ふざけたことぬかしてんじゃねえ。オレがなんでわざわざ夜に来たかもう分かってんだろ」
「つまらん男じゃ。どうせ娘の記憶を返せというのだろう?」
「そうだ。代価がいるってならオレの腕でも脚でもくれてやる。だから」
「無理じゃ」
「てめェ...!」
「お前の腕や脚を引きちぎってよいというのは魅力的だが、記憶喪失はこの娘が過ぎた力を使いすぎた代償。妾が奪ったわけではないのだから返しようがない。覚えがあるであろう?力を使った過去二度とも娘には前後の記憶が全くない。使った時間、力が強くなれば代償もデカくなる。当然の事じゃ」
「っ!...じゃあどうすればいい?どうすればユウの記憶を戻せる」
「知らぬ。というかこっちが知りたい。この娘があんな事をしたせいで妾も大損じゃ。
個性の使い方も何もかもを忘れたせいで、順調だった器としての成長も振り出しに戻り、娘の命を繋ぎ止める為に、貯めていた力を使い果たしてしまった。以前は娘の意識がない間、短時間なら体を好きにできたが、弱体化し今はこうして会話をすることがせいぜいだ。
まあでもこの様子じゃ娘が死ぬのは時間の問題だろう。こうなることなら、娘を救ける為に力など使わねば良かった。はあ...次の入れ物はどうせまた年寄りじゃろうなあ。記憶が戻れば多少は力も戻るがまあ望み薄よの」
「望み薄ってもう戻ることはねえって事か...?」
「ないとは言わん。実際分からぬしな。ただ単純に時間が足らぬ。記憶が戻るより早く、この娘の体と精神に限界がくる。難儀な性格よの。辛いなら辛い痛いなら痛いと言えばいいものを。
思い出そうとしなければ、頭痛で藻掻くことも、息が出来ないような苦しさを味わうこともないというのに、言われた通り、周りに望まれる通り毎日何度も何度も。思い出そうとしても防衛本能で体が思い出すことを拒絶しているのだから、無理に決まっているのに馬鹿な娘だ」
「てめえ...!」
「だってそうだろう?何度も体を刺された切られた壊された。都度死ぬ直前に妾が壊れた部分を再生しただけで、痛みは普通に感じているし、体に蓄積されたダメージも変わらない。何十回と死んでるのと同じ事だ。
結果死柄木とか言う奴が死のイメージに直結し、防衛本能として、体に深く刻み込まれた。触れられると壊される。思い出せば恐怖と不安に潰される。そしてまた戦わされる。死ぬ。だから拒絶する。
それにこの娘に彼奴と戦う度胸なんて元よりなかった。お前は知りもしないだろうが、娘の中は際の際まで怖い、死にたくない、救けて、そんな感情でいっぱいだった。でも救けてくれる者はいない。自分がやらなければ、仲間が、お前が死ぬ。
自ら望んでやったわけじゃなく、そうせざるを得なかっただけだ。
まあ最後は生きることもお前と共にいたいという願いも全部捨て、仲間やお前が生きることを願い、力を使ったがな。最後までお前の事ばかり考えてた。今はそんな事は一切忘れているがな。...なあ小僧」
「...んだよ」
「お前の事を覚えていないこの娘は今でもお前にとって大切か?」
「大切に決まってんだろ!ふざけたことぬかしてんじゃねえ!」
「もう二度とお前の事を思い出す事はないと決まっていてもか?」
「...ユウがオレの事を覚えていようがなかろうが、オレにとってユウは特別で大切だ。どうなろうがやることは変わんねえよ。オレはこの先もずっとユウのヒーローで在り続ける。ユウを絶対に救えるヒーローになる」
「記憶のないこの娘と引き換えに富や名声、絶対的な力を得られるとしてもか?」
「ああ。そんなもの要らねえ。逆なら喜んで引き換えるけどな。つーかそもそもそ富も名声も力も自分の力で掴みとらなきゃなんの意味も価値もねえだろーが」
「...フン。そう綺麗事を並べていられるのも今のうちだ。いつか絶対に変わる時が来る。結局人間なんぞ私利私欲に生きる生き物だ。他者など簡単に切り捨てる。時間切れだ。じゃあな小僧。娘が死ねばもうお前と会うこともないが、せいぜい苦しむがいい」
ダメ...か...
期待してしまっていた。あの狐ならどうにかできるのではと真っ先に考えてしまっていた。ユウを苦しめる元凶であるあいつに頼もうなんてどうかしている。そんな事は分かってた。それでもユウの記憶が戻るならなんでも良かった。
結局オレも周りの奴らと何一つ変わらない。
ユウに思い出して欲しい。
また一緒に過ごしたい。笑って欲しい。名前を呼んで欲しい。今の情けないオレを叱って欲しい。
けれど...
これで奴の発言が正しければ、ユウが記憶を取り戻す可能性は極めてゼロに近い。
辛いだけで、いくら思い出そうとしても無駄だなんて、そんな酷え話あるかよ...!
狐の言う通り、とにかく時間が足りない。ただでさえ、大怪我をしているのに、思い出そうと毎日そんな無理を続けていたら、体も精神も持たない。
早くユウをこの環境から解放しないと手遅れになる...
でもまだ退院出来る怪我のレベルじゃない。例え怪我が治っても、病院は何だかんだ理由付けしてユウの退院を拒否するかもしれない。
なんとか雄英に連れて行かねえと...
雄英なら傍にいられるし、きっとユウを守る為にみんな協力してくれる。忘れてしまったことに対して罪悪感は感じるだろうが、近くに味方が誰もいない今の環境よりずっとマシなはずだ。
ユウの味方。今のユウに必要な人間...
それはオレじゃない。
それはきっと...