ゆーあーmyヒーロー
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走るなと誰かの声が聞こえたが構わず私は廊下を駆け抜け、外へ出た。怖い、逃げたいその一心で息が上がって苦しいのを我慢して家に向かって走り出す。
いくら目を擦っても視界を歪ませる涙が邪魔で仕方ない。ゲホゲホと咳き込み足を止める。
汗はすごいし、体力も限界だ。もう歩いても大丈夫かな...
咳が落ち着き始めたのでゆっくりと歩き始めると、後方で犬の鳴き声が聞こえ、そのすぐ後に誰かがこちらに向かって走ってくる音が聞こえた。
逃げなきゃ!重い体に鞭打を打ち、前へ向かって走り出す。
早い!必死に走るも足音はどんどん私に近付いてくる。焦りからか、疲労からか足がもつれ勢いよく前に転んでしまった。
痛みより恐怖でいっぱいいっぱいな私はすぐに立ち上がり走り出そうとする。しかし腕を捕まれ走り出すことは叶わなかった。
『離して!私はやってない!』
「そんなこと...分かってる...だから...落ち着け...」
息を切らしながら、絞り出すように話すその声は間違えるはずもない彼のもので、私は抵抗をやめ、後ろを振り向く。
彼は私の手を掴んだまま、膝に手を置き、肩を大きく揺らし呼吸を整えていた。
「はあ...お前...そんなに走れたのかよ.....オレの方が...全然速いけど...怪我...大丈夫か?」
『うん...』
「そうか...っておい!大丈夫じゃねえだろそれ!めっちゃ血出てんじゃねえか!」
『え?あっ』
息を整え、顔を上げるなりギョッとした顔をして焦った様子で指摘する彼に、私も焦って下を見ると両膝から血が伝っている。見た途端、思い出したかのように傷が痛み始めた。痛みを追うように体を見ていくと、色んな箇所が擦りむけ、手や腕からも血が出ている。
「お前の家行くより近いからオレの家行くぞ!早く手当てしないとまずいだろそれ。早く乗れ」
自分のランドセルを投げ捨て、背を向けしゃがむ彼に困惑する。
『私、自分で歩けるから大丈夫だよ!』
「そんなんで歩けるわけねえだろ!」
『で、でもランドセルどうするの?』
「こんなん後で取りくればいいだろ」
そう言って自分のランドセルを近くの家の植木の下に置くと、彼は再び私に背中を向けた。
私も自分のランドセルを下ろそうとすると、背負ったままで乗れ!と何故かキレられ、恐る恐るそのままかっちゃんの背に乗った。
かっちゃんは危なげもなく立ち上がり、家に向かって歩き始めた。
『迷惑かけてごめん、重いよね』
「こんくらい楽勝だわ。つうか転けたのオレが追い掛けたせいだろ...こんな事になるんだったら、叫んだ方がマシだった」
言われてみればそうだ。いつもなら大声で名前を呼ばれているところだろう。ここは直線だし、私が足音を聞き取れるくらいの距離なら、かっちゃんが私を見間違えるなんて事はないし不思議だ。
『なんで名前呼ばなかったの?いつもすごい遠くにいても私のこと呼ぶじゃん』
「...お前クラスの奴らに会うの嫌だったんだろ?オレがデカい声出したら聞いた奴来るかもしれねえと思って呼ばなかった。でも普通に呼んどきゃよかった...」
『かっちゃん私のことなんでも分かっちゃうんだね。すごい。転けたのかっちゃんのせいじゃないよ。私の運動音痴のせい』
「運動音痴のくせに走るの速かったな。ほら着いたぞ。あ」
『どうしたの?』
「...鍵忘れた」
『あ、ランドセル...私のせいでごめん...』
「悪い...取り行ってくる。お前ちょっと...この辺座っとけ。オレが帰るまで動くなよ!動くなよ!」
『そんなに言わなくても動かないよ』
私を睨みつけ、大人しくしてろと言うと彼は走って行った。
そんなに念をおさなくても、この足じゃ大して動けない。というかかっちゃん来るまで、中には入れないし降ろされたこの塀と木の間にいるしかない。
そういえば、あの場所ってかっちゃんの家通り過ぎた所だ。わざわざ家を通り越して私を追いかけてきてくれたんだ。いきなり教室出てったし、かっちゃんには心配かけちゃったな...
少しすると息を切らしたかっちゃんが帰ってきた。めちゃくちゃ速かったけど、一体どれくらいの速度で走ってきたんだろう。
『疲れてるんだからそんなに走らなくてもよかったのに...』
「怪我人待たせて、ゆっくりしてられっかよ!それに早くしねえと...動くな、静かにしろ」
言われた通り大人しくしていると隣ではかっちゃんが眉間に皺を寄せて、塀の方を見ている。
不思議に思っているとクラスメイトの声が聞こえて来た。体が強ばり、あれほど暑いと思っていたのに、体が冷えていくような感覚がしてきた。
「にしてもさっきの勝己めっちゃ怖かったな」
「ほんと怒ってるとこはよく見るけど、アレはやばかったよな」
「ヴィランみたいだった」
「どう考えてもあいつが犯人なのにな」
「しょうがねえじゃん。かっちゃんあいつのこと大好きだからよ」
「確かにw何処もいいとこないのに趣味悪いよなw」
声が遠ざかり聞こえなくなると、かっちゃんは1度外を見た後、玄関の鍵を開けて自分のランドセルを乱暴に投げると、戻ってきて早く乗れと私にボソッと呟いた。ごめんねと呟いて背に乗ると、かっちゃんは足早に家の中へ入り乱暴に靴を履き捨て、私を浴槽の縁に座らせた。
「靴とランドセル置いてくるから、靴下脱いで傷口洗っとけ」
『かっちゃんあの』
私の言葉を遮るように、私のランドセルと靴を奪うとかっちゃんは浴室を出ていった。
幼なじみで私が失敗ばっかりするから、一緒にいてくれてるだけで別にそんなんじゃないのに、私のせいでかっちゃんまで悪く言われる...
どうしてこうなっちゃったんだろう。申し訳なくて、悔しくて、悲しくて色んな感情がごちゃ混ぜになって、止まっていた涙がまた溢れはじめる。
傷よりも心の方が何倍も痛くて、泣きながら傷口を洗い流した。