全面戦争 編
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安心する。優しい誰かの手。私はきっとこの人を知っている。
お母さん?お父さん...?違う...この手は...
『かっちゃん...?』
体が重い。じわじわと痛みが戻ってくる。横を見ると先生が寝かされていた。
そうだ私...!
死柄木は!?みんなは無事なの!?
急いで体を起こすとグニャりと視界が歪み、頭痛と気持ち悪さに襲われる。
『うっ...』
みんなは...
『!!ああ...っ!!』
顔を上げ見えた景色に絶句する。
嘘...違う...何かの間違いだ...
そう思いながらも冷静に無情に私の頭は答えを導き出す。少し遠いが見間違えるはずがない。死柄木に貫かれているのは.....あれは....
『かっちゃん!!!!』
体の痛みも何もかも忘れて一心不乱に走る。
『かっちゃん!!』
「三条!怪我は大丈夫なのか!?」
『そんな...嫌...いやだよかっちゃん...』
酷い出血に浅い呼吸。すぐに傷に触れ、吸収の能力を使うが、呼吸がどんどん弱くなっていくのが分かる。このままじゃ、かっちゃんが死んでしまう。
『お願い...死なないで...!』
「桜が赤くなってく...」
血も止まったし、呼吸が普通にもどってきた。あと少し...あと少しで!
『!?ゲホッ』
「三条!!」
口から溢れた血で服が赤く染まり、口内が血の味で満ちていく。
でもそんなのどうだっていい。体を駆け抜ける痛みも零れ続ける涙も苦しくなる呼吸も、自分がどうなろうがどうだっていい!
だからお願い、この人を救けて!!
「ここまで呼吸が安定すれば大丈夫だ!だからもうやめろ三条!」
『いやだ!』
突然ギュッと手を掴まれ驚いて吸収を止めてしまったが再び吸収を始める。
「やめろバカユウ...」
『かっちゃん!』
「相当無茶しやがって」
涙と血を拭われるが、すぐにまた涙は溢れ始める。
『かっちゃん...死なないで...』
「死なねえよ。ここまでお前にさせといて無駄にしてたまるかよ。てかお前が心配で死んでらんねーっつーの...」
『ふふ...良かった...』
倒れそうになるユウを抱き留めると布越しでも分かるくらい熱かった。手の甲の桜の印は不気味に赤黒く光っている。
「轟、ユウを冷やしてくれ」
「分かった!爆豪大丈夫なのか!?」
「ああ...そいつのおかげでな」
「三条スゲえ熱いな...桜みてえなのが舞ってたがあれが関係あんのか?」
「オレの傷をそいつが吸収した。だから今のオレより見た目じゃ分かんねえが恐らくそいつの方が重症だ。あいつぶっ殺して早く病院に連れてかねえと」
「お前も動けるような体じゃねえだろ!クソッ死柄木が来る!」
「僕がなんとかする...!」
爆豪も緑谷もエンデヴァーももう限界だ...
オレ一人でどうしたら...!
「みんな!!!」
向かってきた死柄木が波動先輩に吹き飛ばされる。
「大型ヴィランがここに向かってる!!向こうで脳無と戦ってるヒーローにも伝えてある!!」
「飯田!!三条たちを運んでくれ!」
「三条くんもここにいたとは...全くどうりで帰ってこないわけだよ!!」
「死柄木はまだ...僕を狙ってる...!かっちゃんと...ユウちゃんと...エンデヴァーを...!!」
「再生能力も牛歩...だいぶ弱ってる!波動先輩!」
「逃げろ゛ォ゛ォ゛」
波動先輩と必殺技を死柄木にぶつけるが、突然現れた巨人に吹き飛ばされる。
「ネジレちゃん先輩、ショート君!!!」
「降ろせメガネアーマー」
「ダメだ君、内蔵がやられて」
「完全...勝利しなきゃ...ユウを頼んだぞ...!」
「頼んだって...その傷じゃロクに動けないだろう!」
荼毘の正体は死んだとされていたエンデヴァーの息子であり轟の兄の燈矢だった。その事実を突きつけられ、エンデヴァーは動けなくなってしまい絶対絶命となったが、突如現れたベストジーニストによりヴィラン達は捕縛された。
あと少し...!あと少しで...!!
ここでジーニストをやられたら、終わりだ。何としても助けねえと...!
「バクゴー君!?ちょっと目を離したら!!動いちゃダメだ死ぬぞ!!」
勢い良く飛び出し、ジーニストに迫る脳無を爆破する。
「世界は見えたか?バクゴー」
「それは仮だ。あんたに聞かせようと思ってた!今日からオレはぁ...大爆殺神ダイナマイトだ!!」
体が熱い...呼吸するのが痛い...頭がぼーっとする...遠くで声が聞こえる。
『かっちゃん...』
「気が付いたか三条君!すまない!止めたんだが、バクゴー君は飛び出していってしまった」
『飯田くん...死柄木は...』
「...見ての通りだ。巨人を抑えることには成功したが、ミスターコンプレスのせいで連合はジーニストの捕縛から脱出。死柄木は復活してしまった...!!脳無が!!」
たくさんの脳無が集まってくる。動きや気配から通常の脳無ではない。病院の奥やUSJに現れたタイプと同じ、ハイエンドと呼ばれるものだ。一体でも勝てるか分からないのにこんな数...
「弔は負けた。ワンフォーオールとエンデヴァーに。その代償は潔く差し出そう。全ては僕の為に」
死柄木じゃない...!もっと禍々しくて邪悪な何か。
そうか...あれがオールフォーワン...
「せっかくここまでやったんだ。後の為にも虫の息のヒーロー達はここで殺しておこう」
っ!!
戦えるヒーローなんてもうほとんどいない。そんな状況で、負傷したヒーロー達を庇いながら、死柄木とたくさんのハイエンド脳無を相手にするなんて無理だ。確実にみんな死ぬ。
『飯田くん、私は大丈夫だから他の人を助けに行って』
「そんな体で大丈夫じゃないだろ!」
『私はまだ動けるだけマシだよ。ここからの救助はスピード勝負。飯田くんには頑張って貰わないと!私はいざとなったら空間操作で逃げられる。だから早く行って!』
「...絶対無事に再会するぞ!」
『うん!』
頼んだよ。飯田くん。
視界はボヤけるし、空間操作はもう使えない。立っているのもやっとなこの状態で、かっちゃんを探さなければいけない。
「三条君!バクゴー君を頼んだ!」
『!!』
かっちゃんを置いて、そのまま風のように飯田くんは駆け抜けていってしまった。
ありがとう飯田くん。これでなんとかなる。
かっちゃんのポケットを探る。かっちゃんの事だ絶対何処かに...
『あった...!』
私の血液が入った弾丸。良かった...これでかなり勝率を上げられるハズだ。
『ボロボロなのにまた無茶してバカ...』
吸収を使うと既に限界らしく、少ししただけで口から血が溢れた。ここで私まで倒れるわけにはいかない。
『ごめん、かっちゃん。私がしてあげられるのはここまでだ』
銃に弾を込め、できる限り遠くへ飛ばす。
これで準備はできた。後は陣地作成と同時に狐化が出来れば問題ない。しかし陣地作成のみで狐化が出来なければ無駄死にだ。どうすれば狐になれるのか分からない。それでもやるしかない。みんなを死なせたくない。
『急がなきゃ...』
きっと長くは持たないからできるだけオールフォーワンに近付いて奇襲をしかける。
歩き始めたところで、後ろから腕を引かれる。
『!』
「行くな...!」
私の指先を掴む手に込められた力がきっと今の彼の精一杯なのだろう。いつもの何分の1にも満たない、私でも簡単にほどけてしまうような力。それでも私の決心を鈍らせるには十分だった。
.....まだ死にたくない。一緒にいたい。誰か救けて...
『...ごめんねかっちゃん、それは聞けないや。私がやらなきゃ全部終わっちゃう。みんな殺されて、今まで戦った人達の頑張りも犠牲も全部なかったことになっちゃう。そんなのあんまりじゃん』
「っっ!それでもオレはお前が死ぬなんて嫌だ!」
『ふふっ 大丈夫だよ。私死ぬつもりなんてないし!それにかっちゃんの元気な姿見れるまでは心配すぎて死ぬに死ねないよ』
「ぜってえ生きて帰って来い。死んだりしたら許さねえ...!」
『うん!』
もう遠に限界だったのだろう。私を掴んでいた手が離れ、そのまま彼は気絶してしまった。
『ありがとうかっちゃん』
そっと綺麗なクリーム色の髪に触れる。
『長生きして、誰もが憧れるようなナンバーワンヒーローになってね』
振り返らず私は歩き始める。
最後くらいヒーローらしくできたかな。
ちゃんと私は笑えてたかな。
嘘ついてごめんは今更だね。
ナンバーワンヒーローのサイドキックになるって言ったのも、一緒にいるって言ったのも全部嘘になっちゃってごめん。
今まで本当にありがとう。
許して貰えないけど、君が生きていてくれたらそれでいい。
いずっくんも轟くんもみんなまだ生きてる。
みんなを救え。もう誰も殺させない!傷付けさせない!
『陣地作成!!!!』
さよなら ありがとう