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第5章


俺は甘いとみんなは言う。
優しすぎると褒められたのか馬鹿にされたのか分からない言い方で言われたこともある。
父は俺に向かって「その甘えはいつか人を危険に晒すぞ」と時折言っていた。
だから俺はせめてみんなを危険にさらさない世界を夢みた。
結局自分の得のために動いているだけで、俺の成すどれもが俺のエゴだ。
なのに、散々迷惑をかけて居るのに。追い出さないで居てくれるみんなの方が俺は余っ程優しく強いと思う。
そんなみんなだから、俺はいつか強くなって誰もを守りたいと願ったのだ。

_____血の花弁が宙を舞った。
その血は俺に付着すると思えたのに、何故。

緋緒の血は煉霞にはかからなかった。
煉霞は痛みを感じないことに違和感を覚え瞑った目をそろりと開ける。
その視界には見覚えのあるセーラー服。
アリクレッドのものだ。
「………ぇ…」
煉霞が目を見開き覆い被さるようにある身体に手を置いて状況を確認する。
アリクレッドの体躯には首から肩、足辺りに緋緒の血がべっとりと着いている。
その血はずる、と動くと薔薇の紋様を描いていく。
じわじわと激痛がやってきたのかアリクレッドは首から肩の当たりを抑えて呻き始める。
煉霞が上体を起こしたことで支えをなくしたアリクレッドの体は地面に倒れる。
そこにここぞとばかりに緋緒がナイフを振りかぶる。
煉霞は素早くナイフを振り抜き、緋緒のナイフを弾いた。
緋緒は弾かれた衝撃を利用し後ろに飛び退く。どうやら煉霞には一滴もかかっていないようで、小さく舌打ちをした。
しかし煉霞はそんな緋緒の挙動もひとつも頭に入ってこなかった。
なぜ、なんで。その考えが思考を支配する。
それと同時に苦しむアリクレッドの紋様を消すためには水が必要で、とも考える。
しかしこの場のどこにも水がないことに焦りを覚えた。
もしアリクレッドをこのまま放っておけばきっと吸血鬼に襲われてしまう。そう考えて心臓の拍動が頭に大きく反響した気がした。
そんなことを考えていたからぼうっとしてしまった。
後ろでフェールデが矢を番えていることに気づけなかった。
碧もはっとフェールデの矢の進行方向を見て気づく。止めようと思うが遅かった。
矢は放たれ一線に煉霞の背中に向かって行く。
碧は必死に「後ろ!!」と叫ぶと煉霞も流石に気付いたようでゆるりとこちらを向いた。
それでも遅かった。
煉霞に当たるかに思えた矢は、蹲っていたアリクレッドが起き上がり煉霞の肩を持ちその場から強く退けさせる。
矢はアリクレッドの肩に吸い込まれた。
「っぐ、…っぁ゙ぁ゙っ…ぅ、゙っ…」
紋様と肩に突き刺さった矢の痛みで意識が飛びそうになる。
それでもここで意識を途絶えさせれば煉霞が守れなくなると直感で感じて、必死に意識を繋ぎとめた。
「アリクレッドさん、アリクレッドさん…!」
煉霞が必死に呼ぶ声が聞こえるが痛みでそれに応えることは出来ない。ただ視界に映る煉霞の身が安全そうで何より安心した。

何故。何故なんだろう。何故俺は無力なんだろう。
竜胆の家は無数の祓魔師を排出し、そのどれもが強かった。
竜胆の家系は違和感を覚えたことがある者がいるほど能力持ちが多かった。
誰も彼も能力を持っていた。なのに、煉霞だけは能力が無かった、否、分からなかった。
何故。
視界がぐらつく。
自分の浅い息だけが聞こえる。もしかしたら過呼吸気味なのかもしれない。
聞き取れる範囲に、僅かに声が聞こえる。
碧が何かを言っている。フェールデの相手をしてくれているのだろうか。
あぁそんなこと、もう気にする余裕もなかった。
呻くアリクレッドを視界に入れているはずなのに見えるものは何も無い。
ただ、子供の頃の記憶と父の言っていた「能力はあるが」というセリフだけが反響する。
煉霞は能力を持っている、だがそれは。
まだ発現していないと、父は言っていた。
何故発現しないのか、願いが足りないから?力不足だから?色んな理由が思い浮かぶ。
でもどれも、正解にたどりつけはしなかった。
そうしていつか発現することを夢みて、いつかそれに対する思考を辞めた。
それでも、ここで、ここでその思考をやめたままでどうする。
こんな時に、能力がなくて救えませんでしたなんて言い訳にもならない。何故、どうして、こうも俺は無力だ。

『何だ。今更気づいたか』
頭に声が反響した気がした。
ずっと、ずっと夢に見て聞き取れなかった声。
想像してたよりずっと低く威圧感のある声だ。
どこから聞こえるのか、気になって周りをくる、と見回す。
視界に映ったのは声の主ではなく緋緒がナイフを振りかざす姿。
ぼけっとしている煉霞に攻撃を与えようとしていたのだ。
避けられないと思った。
『お前の能力は。』
頭に反響する声はまだ言葉を続けていた。 
『この我だ』
その言葉を理解する前に煉霞の意識は底へ落ちた。

「緋緒さん危ない!!」
煉霞を殺そうとする緋緒に仁は必死に手を伸ばす。
縁が後ろから攻撃してくるが構ってはいられない。
煉霞の目が、光っていた。
それは大半のものの能力発動時は目が光る。人によっては違うこともよくある話だが警戒するに越したことはない。
仁は煉霞の能力を知っている。だからこそ煉霞が危ないのではなく緋緒が危ないことに気付いた。
歩幅が大きくて助かった。
少し離れているとはいえ緋緒の服をがっ、と掴む。
女の人にこのような持ち方はいけないのかもしれないがそんなの今はどうだって良かった。緋緒に大事がなければそれで。
緋緒の腹辺りに腕を回し後ろに飛び退くように飛ぼうとする。
煉霞に一瞬目を向ければ煉霞はこちらにナイフを振り上げていた。
仁は咄嗟に刀をナイフを防ぐために緋緒の前に置く。
ガィンッ、という金属が擦り弾かれる音がして仁は同時に後ろに飛び退く。体が浮いた。
煉霞の攻撃は異様に重く、完全に殺しに来ていると殺意が伝わる。
「…煉霞…?…」
思わず仁の口から疑問の声が漏れた。
何故、なんて聞かなくても分かる。
雰囲気が異様だった。例えるなら、そう。初めて紅永と出会った時、その時の感覚に近い。
この特有の威圧感には最近慣れつつあったからまた少し違う威圧感に体が僅かに竦む。
煉霞が静かに顔を上げた。その瞳は赤く光っており、感情を移していなかった口元はにんまりと弧を描いた。
「…はは、…はははははははは!!」
突然煉霞は口を大きく開け笑い始める。そして天を仰ぐ。
「外だ。外に出た。やっと、やっとだ…ははははは!!!」
まさにその姿は異様。大きく開けて笑う煉霞の口には自分たちと同様の牙が存在する。
「…っぐ…ぅ…゙…ぁ゙……ぃ゙ぎ……」
煉霞の威圧感に耐え兼ねたか煉霞の足元に転がるアリクレッドが体を抑え込むように呻き声をあげる。
煉霞のような何かはそれを蔑むような目で見ると
「なんだこれは」
とそう言ってアリクレッドを軽く蹴る。
アリクレッドは抵抗する力もなく蹴られ、ごろりと仰向けの姿勢になる。
その頬には薔薇の紋様が描かれているのがみてとれた。
「…ほぅ。……童が無力に泣きわめき出したのはこのせいか…はははぁ゙!無様だなぁ!ニンゲン!」
がっ、とアリクレッドを容赦なく踏みつけそう言って笑う煉霞のようなものはまるで悪魔としか言えない。
煉霞のようなもの、はアリクレッドの薔薇の文様の部分を踏み付けにするとその薔薇の文様は赤と暗い紫の混ざる炎が起こり燃え始める。
その火炎はどんどん広がりアリクレッドを包み込むように大きく燃え始める。
「な、!あんた何してはるん!?仮にも守ってくれた人じゃあらへんの!?」
その状態を見ていた碧が思わずそう口にする。
殺すなんてあんまりだ。
「…はぁ゙?…なン゙の話だ。…」
上機嫌だった煉霞のようなものの表情が一変し、碧を冷たく見る。
「…ぁ、…」
息が詰まった。発言を許されないようなそんな感覚。
「なんだ。お前が相手してくれるのか?…我を」
くっくっと笑いが堪えられないようにそれは笑う。
煉霞のようなものは片手に持ったスローイングナイフを指に当てるとナイフに血が伝う。 
すると数秒後にそれは大きな薙刀になった。
「…さぁ」
それは手招くように指をくい、とこちらに寄せる。
碧は札を微かに震える手で投げるように構えた。

碧が応戦しようとするのを見て緋緒は仲間割れかと疑う。しかし先程の煉霞とやらとは全く違うようだ。
気配が変わった気がするが緋緒にとってこの程度造作もなかった。
仁に助けてもらったがここで人間は殺しておかねば。
そう思い動こうとすると仁にぐっ、と掴まれたまま離してもらえない。
「仁…?…」
首を傾げて後ろを振り向けば仁はどこか焦ったようななんとも言えない表情になっている。
「緋緒さん。」
「?なんだ?」
「引きましょう」
「何?」
突然の申し出に流石の緋緒も目を丸くする。仁の願いを聞き届けたい気持ちはあるが現時点でこちらの方が優勢なのだから引きたくは無い。
「…お願いです。ここにいちゃ不味い。」
切に願うと言わんばかりの仁の表情に緋緒は思わずたじろぐ。
どう返すべきか迷ったが自分に回された仁の腕に力が籠ってきてそれを伝って強い意志を読み取る。
「…わかった」
そう頷けば仁は安堵した表情を見せ腕の力も弱まる。
緋緒と仁が先程相手取っていた縁は煉霞が心配なようで何度か「煉霞くん」と呼びかけているものの煉霞はそれに一切反応していなかった。
今なら隙を狙って離れることが出来そうだ。
「…フェールデは?」
緋緒はふと気になり仁に問う。今ならフェールデへの注意も逸れているというのに。
仁は少し気まずそうな顔をしてから
「…もう遅いですよ。多分…」
と言う。何故かと思いフェールデの方に目を向ければその好奇心のせいか、フェールデは次の矢を構えている。
見た瞬間にはもうその矢を手放していた。

ひゅっ、と音が鳴り、フェールデの矢は真っ直ぐに煉霞に進む。
煉霞のようなものはそれに素早く気づきぱっと矢を見る。いつもの煉霞なら避けるか、なんなら避けられない距離である。
しかし今の煉霞は煉霞では無かった。
手を伸ばしたかと思えば矢をそのまま掴み取り止める。
その矢は煉霞の眼前で止まった。
「…好奇心旺盛な吸血鬼だなぁ゙?」
煉霞のようなものはその口角を上げくすくすと笑う。
「我を見て引く気もないとは…獣を従えて気でも大きくなったか」
「そんなわけないじゃないか。ただ、人間が思い上がっているようだから少し教えてやろうと思っただけさ」
フェールデも負けじとそう笑ってみる。
フェールデも馬鹿では無い。目の前の煉霞が謎の能力に目覚めたことはわかった。恐らくそれは炎焼の能力。先程焼いたアリクレッドの方に一瞬目線を移せばほぼ無傷で横たわっている。薔薇の文様が消えたことを除いて。
それと同時に何となく、重ねた。過去の自分を。
欲望を抑えられない自分を。
単純に高飛車な人間をたたき落とした時の絶望顔を見たかったというのもある、と思う。

「…確かにそうだな」
フェールデの様子を見て緋緒は思わずそう言う。
助けようかとも迷うがフェールデが人間一人相手に死ぬとも思えない。
ただ、薄々と嫌な予感がして置いていくことを少し躊躇った。
しかし仁がフェールデを見つめる緋緒を心配そうな顔で見てくるものだから思わず「行こうか」なんて返してしまった。
そう言って歩を進めようとすると縁がやっとこちらに反応して「待て!」と言う。待てと言われて待つバカがどこにいると思いながら仁の背中を押す。
そこで縄鏢を投げて来る。それは仁を貫く。
仁は当然のようにその体を部分的に霧化し空振らせた。
その後、仁の視線は縁を一瞥したあと緋緒を抱えて飛び上がる。
縁の追撃は絶えず下からしゅるりとツタが伸びたがそれも仁の足を空振った。
仁はビルの上に降り立つとフェールデの方をちらりと見る。
もう既に煉霞と戦い始めていたが仁にそれを止める手立てはない。
仁は何となくこれが見捨てるという行為なのではと勘づいてはいても、緋緒を守るため、ひいては自分を守るために今この場にいることが得策でないことは分かる。
仁は緋緒を抱えたままビルの屋根を駆け抜けた。

ちりっと髪の毛に火花が着く音がした。
フェールデが煉霞の素早い攻撃を避けながらその髪に薙刀が着く度、髪が少し焼ける音。そして焼ける匂いがする。
軽くあしらってやろうなんて思っていたのに煉霞の攻撃は激しく、避けるのでさえ精一杯だ。
何よりどうやら煉霞の能力はものを燃やすもののようだがそれにしてはどこかおかしい。そんな僅かな違和感を感じている。
隙を見つけて煉霞の懐にぐっと入り込み距離を詰めるとフェールデは弓を振り上げる。
煉霞は迷いなく後ろに重心をずらしその弓は煉霞の顎下を軽く掠るだけで終わってしまう。
しかし避けられることも予測していたフェールデは素早く後ろに飛び退き距離を取ろうとする。が、それは碧に読まれていたようで碧の投げた札が一直線にフェールデに届く。
同時に煉霞も重心移動が嘘のようにこちらに既に体を倒しており、薙刀を振りかぶっている。
フェールデは咄嗟に鹿を操作し鹿を煉霞と自分の間に飛び込ませる。
同時に首を振って札を避けるが髪の毛を軽く切っていく。
煉霞の攻撃は鹿に吸い込まれ鹿の背中から腹にかけて大きな裂傷を与え、その数秒後にその裂傷は赤と紫の火をあげる。
その火は一瞬で大きくなり火柱のようにフェールデと煉霞を包む。
フェールデは熱いと錯覚した、だがそれも一瞬の事だ。
実際は熱くもなく肌が焼かれることもなかった。しかし切られた鹿は切られたところが火傷したように確実に焼けている。血が干からびるかのように焼かれていく鹿は奇声を上げている。
煉霞の能力の仕組みがそれを見てもフェールデはなお分からなかったが、追撃が来る前に再度後ろに飛ぶ。
飛び退けば火柱の中からは簡単に出ることが出来、同時に火柱はすぐ収まる。
真ん中には薙刀を構えた煉霞と無惨に傷口を焼かれ、既に息絶えた鹿が転がっている。
今、己がどんな相手に戦いを吹っ掛けたのかとフェールデは頭で何となく理解する。
「…君の絶望顔をみるのが楽しみだよ」
気づけばフェールデの口角は上がり、そんな言葉を吐いていた。

C地区 同時刻

大きな火柱を視界に留めて正は上を見る。
火柱はすぐ収まり視界から消えたが、火柱の方向からはビシビシと殺気を感じる。
これはそう、特位を前にした時と一緒だ。
あちらで特位が戦っている…?と思いぐぅぐぅ眠るルーカスをアーナに押し付け通信機をポケットから取り出す。
確か白華はドローンで戦況を把握しているんだったか。それならば連絡すれば分かることだろう。
そう思い電話をかける。
断じて心配、だとか話したいだとかそんなことは無い。
二、三回コールが鳴ると白華は出た。
「何だ?」
普通の声に聞こえるがどう考えたって何も把握していないやつのセリフとしか思えない。
というかなんか物音聞こえないか?息の切れる音、それも複数。
「白華さん」
自分で思ったよりドスの効いた声が出た。もしやとは思うが…
「外、出てませんよね」
「エッ」
グレーどころか真っ黒の反応だ。
わざわざ格子の中に入れた労力はなんだったのか。
「あなたと言う人はぁ゙…!」
もうブチ切れ寸前でそう言えば電話の奥で「すまん…」と小さく声が聞こえた。
悪いとは思っているようだ。いや、それよりも無茶をするのを早急にやめて欲しいのだが。
「はぁ……まぁお説教と罰はまた後にして。特位の気配がありますが、A地区の方角ですよね。特位と交戦中なんですか?」
「いやぁ?A地区に特位は居ないよ」
白華に聞いたはずなのだが帰ってきた声は雪花のものだった。
「おっと。2人の会話中お邪魔したね。2人に伝えておくことがあったんで、丁度よく。すまんね〜!イチャイチャをぶった切ってしまって」
おちゃらけた雪花の言い分に突っ込みたいところはありすぎるほどだったが正はそれを必死に抑える。 
この人のペースに載せられてはダメだ。
「それで。特位じゃないならあれはなんですか」
「それがね〜、炎の電波妨害で映像が鮮明ではないんだけど多分煉霞だと思うのだよ。」
「煉霞…さん?」
煉霞と言えば能力がないことが周知の事実である。もはや一般人と言っても差し支えない程の戦闘能力しか有しておらずごく端的に言えば巻き込まれ一般人の命知らずか足でまといもいいとこだ。
まぁそう認識している相手だ。
それが今、その彼がこの気配の原因と言ったか。そういったように聞こえる。 
「そう。火柱の原因。もしかしたら…」
「能力が発現したかもしれない……ですか」
「その通り」
考えられる可能性はそれしか無かった。
それほど能力が強大なものなのか、だから特位と同じ気配がするのかだとか考えられることはあったがそんなことを口に出す暇はなかった。
「それなら、急いだ方がいいな」
白華の声が聞こえた。
そう、正は先代からボスの座を継ぐとき言われていたことがある。
『うちの倅が一緒に働いてると思うが。もし能力が使えるようになったらちゃんと止めて欲しい。危なかったら俺を呼んでくれ』と。
止めてくれなんて最初はよく分からなかった。
時々ある事だが能力が発現したばかりの人間は時々出力を間違えて周りに危害を及ぼすことがある。
正や白華の場合は直接外に放出するタイプの能力では無いため例外にはなるが。
例えばセレイアやアーナの能力。どちらも外のものに干渉するため意図せず壊したり人に向かって使う可能性がある。
人には発動しなくても身につけているものに発動した場合はそれは脅威となりうる。
そういった可能性での懸念だと正は思っていた。
が、これは確実に違った。
何か嫌な予感がした。それも酷く嫌な予感だ。
煉霞の未来など見たこともない。気にする気もなかった。
だがそれが今は仇となった。
「僕もそっちに向かいます。白華さんは、どうせもう向かってるんですよね」
「あぁ。ちと動けない奴もいるがな。」
「…それも後で何とかしましょう。今は煉霞さんの元に向かうのが先です」
「了解」
そう言ってお互い通信を切る。
正がぱっとルーカスとアーナに目を向ければアーナは少しうとうとして居ている。
蹴りたい衝動を抑えてアーナの背中を押しルーカスを起こすように促す。
ルーカスもこれまた眠そうにむにゃむにゃ言っているが急いで行きますよ。と言えば「ぅぁい……」だなんて雑な返事が返ってきた。
突っ込むのも面倒で正はそれを全てスルーしA地区の方に走る。
C地区はA地区から最も遠い位置にある。最悪B地区まで走って雪花に迎えでも頼もうかと思考をめぐらしながらその歩を進めた。



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