世界観 プロローグ
『紅い雨の降り頻るあの場所で』
「〜♪♪……〜♪」
やけに古びたレコードが落ち着いたジャズの音を奏でている。
レコード特有の音は何となく趣があった。
しかしその音は少年の手によって止められ、ピタリと音楽が止む。
白髪の少年は椅子にかけてあるマントを取りふわりと肩にかけ、首元を蝶々結びにして身につける。
少年はコツコツと靴音を立てて扉に向かって歩く。
『︎︎今日はどんな日になるかな』
竜胆アジトにて
酒場のようなところだが、ここは竜胆の拠点だ。
木でできた椅子や机がいくつか置かれていて、棚には酒樽や酒瓶がある。
団員達が集まり、机を囲んでわいわいと話している。
そんな中、その空間に酷く不似合いな紫色の髪をした少年が、筒状に丸められた地図と少しの紙束をもってカウンターの奥の部屋から出てきた。
それまで酒場の椅子に座ってやんやと話していた団員達はその少年を見つけると話をピタリとやめる。
それを横目に少年は抱えていた地図と紙束を机に置いた。
そして静かに口を開いて言う。
「皆さん。作戦会議を始めましょう」
そう、にこやかに声を上げた。
団員達がそれぞれ頷いたり小さく返事をしたのを見て、少年はにこりと満足そうに笑って話を進める。
「こうやって集まるのも久々ですし、初めましての方もいらっしゃると思うので自己紹介から始めましょう」
皆少しキョトンとするがまあ確かに、団員全員が集まっての会議は久々だったなと思いその提案を受け入れた。
少年は話を続ける。
「それじゃあまずはボスである僕から
僕はこの竜胆を管理している頭城 正(カミシロ ハジメ)です。よろしくお願いします。
能力は皆さんの愛着のあるものを通して未来を見ることが出来ます。
…とまぁ、こんな感じですね。名前と立場と能力を言ってくださると助かります。能力はまだ僕、把握しきれていないので。」
そう言って紫髪の少年は全員の自己紹介を初めて行った。
「次は私かな。
私はここの副ボスをしている彼方 縁(オチカタ エニシ)だよ。よろしくね。
能力は知っている植物を操ること。
皆のことを補佐できるように頑張るね」
そう言って2番手の自己紹介を終えたのは黒い髪を束ねた大柄ながらも綺麗な顔を持ち合わせる男性。縁である。緑色の瞳は明るいが、何かを考えている印象を受ける。
「じゃあ次は俺ちゃんだね!
俺は縁と同じ副ボスをしてるアリクレッド・ラズベリーだよ!気軽にアリちゃんって呼んでね♡
能力はフォークの形を変形させることが出来るよ!
よろしくね!」
元気よく立ち上がって胸を張って自己紹介をし始めたのはアリクレッドだ。
真っ黒な髪に真っ黒な瞳の若干陰鬱と感じるような見た目に反して非常に明るくおちゃらけた雰囲気が見受けられる女性だ。
「次は僕だな。僕はアーナ・ケリー。
吸血鬼をゼツメツさせるまで家に帰ってくるなと言われていてな!吸血鬼は僕が倒すから任せてくれ!
…………あ!能力だったな!僕の能力は……破壊…だ!」
青色の髪と瞳を持ち、少年のような見た目に見えるアーナの説明はあまりに覚束無く、だいぶ不安を覚える上に能力の破壊については全く分からない。
全員が首を傾げていると正が口を挟んだ。
「アーナさんの能力は物体の分子に干渉して分子間力を弱め、分子単位で分解する能力。一見破壊に見えますが結構科学的な技ですよね。」
「……?…そうだ!」
正の説明がまったく分かってなさそうな表情だが元気よく返事をしているアーナ。
正直正の説明もあまりイメージが出来ていないが、要は物体を分解する力なのだろうと全員が頭で結論づけた。
「…じゃあ私かな…?…えへへ、なんか恥ずかしいですね!初めまして!私は津城 星那(ツシロ セナ)です!役職は特にありません!
能力は物の記憶を読むことです!皆さんのお役に立てるように頑張ります!」
快活を絵に書いたような笑顔を見せる星那に一同は少しほっとする。服装から見て学生だろう。
黒髪にピンクのインナーカラーが特徴的だ。
能力はサイコメトリと言ったところか、有用そうな能力ではある。
端っこに座っている最後であろう人物に全員が目を向ける。
最後であろう青年は真っ赤な髪とそれとは真逆の色の青色のピンを髪に着け、自信なさげに視線をさまよわせたかと思えば、全員の視線に気づいてびくりと体を跳ねさせる。
「…ぁ、っと、…俺、…は、っはじめ、ひて、っ…」
全員思ったことは一緒だった。噛んだな、と。
完全にパニクっているのか挙動がおかしい。まぁみんな何度も見た顔ではあるのだから慣れてはいるのだが。
「落ち着いてください。煉霞さん」
正が優しく声を掛けるがそれにもびっくりしている。
少し驚いてから深呼吸をして煉霞と呼ばれた青年は口を開いた。
「…すみません…俺は、竜胆 煉霞(リンドウ レンカ)、です。…役職は特にありません…能力は、無い、ので…皆さんの足でまといにならないように、頑張ります…」
竜胆と聞けば誰もがわかる。
この竜胆を管理する家のものだろう。しかしそんな覇気は全く感じられず、自信が無いように視線をさ迷わせたり、体をぐっと強ばらせて弛緩させたり。と言った、緊張状態の人間がよくやる行動をする。
大丈夫かと思うような怯え様だがなんだかんだでこれが彼の普通なのだと皆受け入れているのかもうそれに対して触れるものは居ない。
「これで全員ですね。それじゃあ、次の任務について話しましょうか」
そう言って正は話を始めた。
緒環アジトにて
「うーし。……おいお前ら。作戦会議始めるぞ〜」
そう声をあげるのは片目に眼帯の年配の男。気だるげな声で呼び掛ける。
ここは緒環のアジト。竜胆に比べて少し棚が整理してあったりと少し整った雰囲気であるが、竜胆と変わらず木で出来た机と椅子で結局は酒場である。
さて、場所の説明はさておき、さっきの男の声でゆったりしていた団員達は顔を上げる。
年配の男がどうやらボスのようだ。
既に置いておいた書類と地図を横目に話を始める。
「あ〜。今日は初めましてのやつもいるから。まずは自己紹介から始めるぞー」
そう軽い声でボスは言い、周りが口出しする暇もなく「まず俺からな。」
そう言葉を続けた。
「俺は緒環のボスをやってる緑蘭 白華(ロクラン ビャッカ)だ。まぁこの場にいる全員は知ってるだろうな。
俺の能力は観察眼。対象の構造とか物質を見れる。
以上。こんな感じで、名前と能力を言ってってくれ。役職あったら役職もな。ほら次」
殆ど事を咀嚼する時間も与えず白華は次を促した。
「それなら私から。私は鉄紺(テツコン)だ。ここの副ボスをやっている。よろしく頼む。
能力は水の中に物を収納出来る。水溜まりとかでもできるぞ。」
そう言って自己紹介してくれたのは青髪と赤目のボブカットの女性。言葉が男らしく、かっこいいという印象を受けた。
「…ほら次……ってピース。お前だぞ」
「?ワタシ?」
少しの静寂が流れたあと、白華がそう言ってピースを指名する。ピースと呼ばれたピンク色のアフロと筋肉の塊のような男は不思議そうな顔で首を傾げる。
「ワタシ?じゃねぇよ。お前だろ副ボス。自己紹介しろ。じこしょーかい。」
「ジコショーカイ…ワカッタ!ワタシは異国カラ来たピース言いマス!ここのフクボス…?ヤッテル!能力ハ…モノを硬くデキル!ヨロシクネ〜!」
カタコトで若干聞き取りにくい上に肝心の名前を飛ばされて全員一瞬困惑を覚える。
「名前はピース・キンスリー。この通り、副ボスとしては頼りないが戦場では使えるだろうから。使い所は考えてくれ」
補足のように白華がそう告げてくれて助かった。
「じゃあ次は僕かな!」
そう言って金髪に黒い目隠しをしたあまりに怪しい見た目をした男がにょきっと現れ立ち上がる。
全員が何かと驚いていると男はケラケラと笑いながら自己紹介を始めた。
「僕はイルフォード・ウーリッジ!役職は無いよ!好きな物はティータイム!皆一緒にお茶でも飲まない?
能力は触れたものの気配を無くすことができるよ!例えば靴音とかね!」
ばちこーんとウィンクをするような音が聞こえた気がするが目隠しで何も見えない。怪しい見た目に反してとんでもないほど明るい人のようだ。
「次は俺やね。…俺は不知火 碧(シラヌイ アオイ)まだまだ皆さんより新米やけどよろしゅうな。役職にはついてへんよ。
能力は…投げたものを真っ直ぐ飛ばす能力。勇往邁進言うてな。
使うのはこの札なんやけど、吸血鬼に対してはナイフぐらいの殺傷力があるんやで。…他にも効果はあるけど大体はそんなもんやな。」
青色の髪に白いメッシュが入った髪型の碧は京都弁混じりにそう話してくれた。
「ルーカスさん。次ですよ」
少し小声で長い金髪を束ねた男性が、ルーカスと呼ぶ金髪の少年に声をかける。
ルーカスははっと気づいて可愛らしいスカートを揺らしながら笑顔で自己紹介を始めた。
「俺はルーカス・ラビット・マックイーン!長ぇからルーカスって呼べよな!ヤクショク?とかはわかんねーけど特にねーよ!
能力は切ったものを浮かせるぜ〜!よろしくな〜!!」
ぱぁっと元気よく笑いルーカスは両手の義手を振り回す。見た目からすれば少々幼い行動に見えなくもないがそれもまた愛嬌ということでさらりと流された。
「最後は私ですね。皆様こんばんは。私はセレイア・スイと申します。役職はありませんが皆様の補佐を頑張りたいと思います。
能力は水から氷を生み出すことです。」
そう言ってルーカスを小声で読んでいた金髪の男性が自己紹介をした。セレイアと言うらしい。非常に物腰が柔らかく、伏せられた瞳の色は分からないが穏和に口元は微笑んでいる。
「これで全員だな。これからはこのチームで行動すんぞ〜。さて。次の任務についてだが……」
そう言って白華は会議を始めた。
吸血鬼一族アジトにて
ここは吸血鬼達の拠点。王城のような屋敷の中のようだ。どちらかと言えば謁見室のような作りになっていて、真ん中に大きな赤いベロア張りの椅子があった。
そしてその大きな椅子に白髪の少年が鎮座している。
その正面に吸血鬼達が集まり、並ばされていた。
静寂の中。少年が声を発した。
「やぁやぁ諸君。よく集まってくれたね。いや?やっとと言った方がいいのかな?ふふふっ。本当に待ちくたびれたよ。さぁ。自己紹介をしようか」
そう一方的に声を出したのは、中心にある体に似つかわしくないほど大きな椅子に座る紅永。この吸血鬼一族のボスである。周りが相槌を打つ暇もなく話していく。
まぁまず相槌を打とうと思っているものがいるのかも分からないが。
「ボクの名前は知ってるよね?紅永だよ。なんとでも呼んでね。みんなからしたらボスとかかなぁ〜!」
にこやかな笑顔を他の吸血鬼達に向ける。
「さてさて。まずはボクの秘書兼補佐の紹介から始めようか!あ!僕が勝手に紹介するから話さなくていいよ!」
「ボクの補佐はディーバ・アナーキー。
能力は手を繋いだ相手を操る能力だね!」
ニコニコと笑顔を絶やさず紅永は手元にある紙を捲り読み上げる。そこに皆の情報が書かれているのだろう。
ディーバとは恐らく黒髪に赤い瞳を持つボブカットの少女のことだろう。紅永の斜め後ろ左横に立ち軽く頭を下げた。
「次は幹部!まずは茨目 緋緒(イバラメ ヒオ)。
能力は自身の血をかけた相手に薔薇の文様を刻んで継続的な激痛を与える。祓魔師のデータによると緋緒は最上位にされてるみたいだから、どうやらこの中では一番強いかもね!」
緋緒と呼ばれた小柄な女性はそう言われて少し不快そうな顔をするがすぐ紅永から目を逸らす。何か気に触っただろうか。
銀髪に青色のインナーカラーが入っており、片方の赤い瞳だけを覗かせ、もう片方の瞳は青色の薔薇型の眼帯に隠されていた。
「次も幹部!フェールデ・レイカンゲル。
能力は一定時間目を合わせた相手を洗脳、操る能力だね!」
その言葉に長い青髪をさらりと揺らし青年がぺこりとお辞儀をする。糸目なのか、その瞳が開かれることは無いが人好きしやすそうな、どこか胡散臭い笑みを浮かべている。彼がフェールデなのだろう。
「んで〜君も幹部ね。信樂 仁(シガラキ ジン)。
能力は……霧化、と……ふぅん。そっか。…よろしくね♡」
幹部と呼ばれ、本人も予想外だったのかオレンジ髪の長身の青年はその赤い瞳をびっくりしていると言わんばかりに見開く。今まさに、え?俺?と言わんばかりに自分のことを指さし周りをキョロキョロしている。余っ程予想外だったのだろう。
しかし紅永はそんな狼狽える仁を放置し話を続けた。
「次が最後の幹部ね。四天王的な?頑張ってね〜。
ノクス・ヴラド。能力は声を聞いた相手を眠らせる能力。よろしくね♡ノクス!」
意味深に微笑む紅永の顔をノクスと呼ばれた茶髪に赤髪のグラデーションのかかった青年はこれ以上ないほどウザそうな表情を見せる。
顔は黒マスクに半分隠れていて分からないが、それを引いて有り余るほど赤い瞳が「きっしょ」と主張していた。
「最後はメンバー。特に役職はないよ
コバルデ。能力は摂取した血を元に、血液の所持者の見た目をコピー及び能力を使用出来るようにする…ふぅん…ボクの血はあげないからね」
じと、と紅永が怪しむような瞳をするとコバルデであろう青白い肌と銀色の髪をした短髪で長身の男はにやにやと手を揉み始める。どうやら媚びを売っているようだ。
紅永はそれを見てフゥとため息をつき、次の紙を読んだ。
「あ。これで最後だね。リアナ・ネフィ。
能力は自身の血液を操る。」
リアナの紹介は異様な程に雑だった。
リアナと呼ばれた少女は紅永と同じ色の銀髪をたなびかせ、紅永より幾分か明るい赤い瞳を印象的に輝かせ堂々と立っていた。
可愛らしいハーフツインに束ねられた髪とゴスロリの相性は抜群だった。
そんなリアナは紅永の紹介についてなんの不満も感じていないのかよく分からないが紅永を冷たく一瞥してそれから特に発言することは無かった。
「これで全員だよ。みんなよろしくね。」
そう言って紅永はにこやかに微笑む。
「役者は揃った。さぁ。『人間狩りを始めよう』」
プロローグ fin
「〜♪♪……〜♪」
やけに古びたレコードが落ち着いたジャズの音を奏でている。
レコード特有の音は何となく趣があった。
しかしその音は少年の手によって止められ、ピタリと音楽が止む。
白髪の少年は椅子にかけてあるマントを取りふわりと肩にかけ、首元を蝶々結びにして身につける。
少年はコツコツと靴音を立てて扉に向かって歩く。
『︎︎今日はどんな日になるかな』
竜胆アジトにて
酒場のようなところだが、ここは竜胆の拠点だ。
木でできた椅子や机がいくつか置かれていて、棚には酒樽や酒瓶がある。
団員達が集まり、机を囲んでわいわいと話している。
そんな中、その空間に酷く不似合いな紫色の髪をした少年が、筒状に丸められた地図と少しの紙束をもってカウンターの奥の部屋から出てきた。
それまで酒場の椅子に座ってやんやと話していた団員達はその少年を見つけると話をピタリとやめる。
それを横目に少年は抱えていた地図と紙束を机に置いた。
そして静かに口を開いて言う。
「皆さん。作戦会議を始めましょう」
そう、にこやかに声を上げた。
団員達がそれぞれ頷いたり小さく返事をしたのを見て、少年はにこりと満足そうに笑って話を進める。
「こうやって集まるのも久々ですし、初めましての方もいらっしゃると思うので自己紹介から始めましょう」
皆少しキョトンとするがまあ確かに、団員全員が集まっての会議は久々だったなと思いその提案を受け入れた。
少年は話を続ける。
「それじゃあまずはボスである僕から
僕はこの竜胆を管理している頭城 正(カミシロ ハジメ)です。よろしくお願いします。
能力は皆さんの愛着のあるものを通して未来を見ることが出来ます。
…とまぁ、こんな感じですね。名前と立場と能力を言ってくださると助かります。能力はまだ僕、把握しきれていないので。」
そう言って紫髪の少年は全員の自己紹介を初めて行った。
「次は私かな。
私はここの副ボスをしている彼方 縁(オチカタ エニシ)だよ。よろしくね。
能力は知っている植物を操ること。
皆のことを補佐できるように頑張るね」
そう言って2番手の自己紹介を終えたのは黒い髪を束ねた大柄ながらも綺麗な顔を持ち合わせる男性。縁である。緑色の瞳は明るいが、何かを考えている印象を受ける。
「じゃあ次は俺ちゃんだね!
俺は縁と同じ副ボスをしてるアリクレッド・ラズベリーだよ!気軽にアリちゃんって呼んでね♡
能力はフォークの形を変形させることが出来るよ!
よろしくね!」
元気よく立ち上がって胸を張って自己紹介をし始めたのはアリクレッドだ。
真っ黒な髪に真っ黒な瞳の若干陰鬱と感じるような見た目に反して非常に明るくおちゃらけた雰囲気が見受けられる女性だ。
「次は僕だな。僕はアーナ・ケリー。
吸血鬼をゼツメツさせるまで家に帰ってくるなと言われていてな!吸血鬼は僕が倒すから任せてくれ!
…………あ!能力だったな!僕の能力は……破壊…だ!」
青色の髪と瞳を持ち、少年のような見た目に見えるアーナの説明はあまりに覚束無く、だいぶ不安を覚える上に能力の破壊については全く分からない。
全員が首を傾げていると正が口を挟んだ。
「アーナさんの能力は物体の分子に干渉して分子間力を弱め、分子単位で分解する能力。一見破壊に見えますが結構科学的な技ですよね。」
「……?…そうだ!」
正の説明がまったく分かってなさそうな表情だが元気よく返事をしているアーナ。
正直正の説明もあまりイメージが出来ていないが、要は物体を分解する力なのだろうと全員が頭で結論づけた。
「…じゃあ私かな…?…えへへ、なんか恥ずかしいですね!初めまして!私は津城 星那(ツシロ セナ)です!役職は特にありません!
能力は物の記憶を読むことです!皆さんのお役に立てるように頑張ります!」
快活を絵に書いたような笑顔を見せる星那に一同は少しほっとする。服装から見て学生だろう。
黒髪にピンクのインナーカラーが特徴的だ。
能力はサイコメトリと言ったところか、有用そうな能力ではある。
端っこに座っている最後であろう人物に全員が目を向ける。
最後であろう青年は真っ赤な髪とそれとは真逆の色の青色のピンを髪に着け、自信なさげに視線をさまよわせたかと思えば、全員の視線に気づいてびくりと体を跳ねさせる。
「…ぁ、っと、…俺、…は、っはじめ、ひて、っ…」
全員思ったことは一緒だった。噛んだな、と。
完全にパニクっているのか挙動がおかしい。まぁみんな何度も見た顔ではあるのだから慣れてはいるのだが。
「落ち着いてください。煉霞さん」
正が優しく声を掛けるがそれにもびっくりしている。
少し驚いてから深呼吸をして煉霞と呼ばれた青年は口を開いた。
「…すみません…俺は、竜胆 煉霞(リンドウ レンカ)、です。…役職は特にありません…能力は、無い、ので…皆さんの足でまといにならないように、頑張ります…」
竜胆と聞けば誰もがわかる。
この竜胆を管理する家のものだろう。しかしそんな覇気は全く感じられず、自信が無いように視線をさ迷わせたり、体をぐっと強ばらせて弛緩させたり。と言った、緊張状態の人間がよくやる行動をする。
大丈夫かと思うような怯え様だがなんだかんだでこれが彼の普通なのだと皆受け入れているのかもうそれに対して触れるものは居ない。
「これで全員ですね。それじゃあ、次の任務について話しましょうか」
そう言って正は話を始めた。
緒環アジトにて
「うーし。……おいお前ら。作戦会議始めるぞ〜」
そう声をあげるのは片目に眼帯の年配の男。気だるげな声で呼び掛ける。
ここは緒環のアジト。竜胆に比べて少し棚が整理してあったりと少し整った雰囲気であるが、竜胆と変わらず木で出来た机と椅子で結局は酒場である。
さて、場所の説明はさておき、さっきの男の声でゆったりしていた団員達は顔を上げる。
年配の男がどうやらボスのようだ。
既に置いておいた書類と地図を横目に話を始める。
「あ〜。今日は初めましてのやつもいるから。まずは自己紹介から始めるぞー」
そう軽い声でボスは言い、周りが口出しする暇もなく「まず俺からな。」
そう言葉を続けた。
「俺は緒環のボスをやってる緑蘭 白華(ロクラン ビャッカ)だ。まぁこの場にいる全員は知ってるだろうな。
俺の能力は観察眼。対象の構造とか物質を見れる。
以上。こんな感じで、名前と能力を言ってってくれ。役職あったら役職もな。ほら次」
殆ど事を咀嚼する時間も与えず白華は次を促した。
「それなら私から。私は鉄紺(テツコン)だ。ここの副ボスをやっている。よろしく頼む。
能力は水の中に物を収納出来る。水溜まりとかでもできるぞ。」
そう言って自己紹介してくれたのは青髪と赤目のボブカットの女性。言葉が男らしく、かっこいいという印象を受けた。
「…ほら次……ってピース。お前だぞ」
「?ワタシ?」
少しの静寂が流れたあと、白華がそう言ってピースを指名する。ピースと呼ばれたピンク色のアフロと筋肉の塊のような男は不思議そうな顔で首を傾げる。
「ワタシ?じゃねぇよ。お前だろ副ボス。自己紹介しろ。じこしょーかい。」
「ジコショーカイ…ワカッタ!ワタシは異国カラ来たピース言いマス!ここのフクボス…?ヤッテル!能力ハ…モノを硬くデキル!ヨロシクネ〜!」
カタコトで若干聞き取りにくい上に肝心の名前を飛ばされて全員一瞬困惑を覚える。
「名前はピース・キンスリー。この通り、副ボスとしては頼りないが戦場では使えるだろうから。使い所は考えてくれ」
補足のように白華がそう告げてくれて助かった。
「じゃあ次は僕かな!」
そう言って金髪に黒い目隠しをしたあまりに怪しい見た目をした男がにょきっと現れ立ち上がる。
全員が何かと驚いていると男はケラケラと笑いながら自己紹介を始めた。
「僕はイルフォード・ウーリッジ!役職は無いよ!好きな物はティータイム!皆一緒にお茶でも飲まない?
能力は触れたものの気配を無くすことができるよ!例えば靴音とかね!」
ばちこーんとウィンクをするような音が聞こえた気がするが目隠しで何も見えない。怪しい見た目に反してとんでもないほど明るい人のようだ。
「次は俺やね。…俺は不知火 碧(シラヌイ アオイ)まだまだ皆さんより新米やけどよろしゅうな。役職にはついてへんよ。
能力は…投げたものを真っ直ぐ飛ばす能力。勇往邁進言うてな。
使うのはこの札なんやけど、吸血鬼に対してはナイフぐらいの殺傷力があるんやで。…他にも効果はあるけど大体はそんなもんやな。」
青色の髪に白いメッシュが入った髪型の碧は京都弁混じりにそう話してくれた。
「ルーカスさん。次ですよ」
少し小声で長い金髪を束ねた男性が、ルーカスと呼ぶ金髪の少年に声をかける。
ルーカスははっと気づいて可愛らしいスカートを揺らしながら笑顔で自己紹介を始めた。
「俺はルーカス・ラビット・マックイーン!長ぇからルーカスって呼べよな!ヤクショク?とかはわかんねーけど特にねーよ!
能力は切ったものを浮かせるぜ〜!よろしくな〜!!」
ぱぁっと元気よく笑いルーカスは両手の義手を振り回す。見た目からすれば少々幼い行動に見えなくもないがそれもまた愛嬌ということでさらりと流された。
「最後は私ですね。皆様こんばんは。私はセレイア・スイと申します。役職はありませんが皆様の補佐を頑張りたいと思います。
能力は水から氷を生み出すことです。」
そう言ってルーカスを小声で読んでいた金髪の男性が自己紹介をした。セレイアと言うらしい。非常に物腰が柔らかく、伏せられた瞳の色は分からないが穏和に口元は微笑んでいる。
「これで全員だな。これからはこのチームで行動すんぞ〜。さて。次の任務についてだが……」
そう言って白華は会議を始めた。
吸血鬼一族アジトにて
ここは吸血鬼達の拠点。王城のような屋敷の中のようだ。どちらかと言えば謁見室のような作りになっていて、真ん中に大きな赤いベロア張りの椅子があった。
そしてその大きな椅子に白髪の少年が鎮座している。
その正面に吸血鬼達が集まり、並ばされていた。
静寂の中。少年が声を発した。
「やぁやぁ諸君。よく集まってくれたね。いや?やっとと言った方がいいのかな?ふふふっ。本当に待ちくたびれたよ。さぁ。自己紹介をしようか」
そう一方的に声を出したのは、中心にある体に似つかわしくないほど大きな椅子に座る紅永。この吸血鬼一族のボスである。周りが相槌を打つ暇もなく話していく。
まぁまず相槌を打とうと思っているものがいるのかも分からないが。
「ボクの名前は知ってるよね?紅永だよ。なんとでも呼んでね。みんなからしたらボスとかかなぁ〜!」
にこやかな笑顔を他の吸血鬼達に向ける。
「さてさて。まずはボクの秘書兼補佐の紹介から始めようか!あ!僕が勝手に紹介するから話さなくていいよ!」
「ボクの補佐はディーバ・アナーキー。
能力は手を繋いだ相手を操る能力だね!」
ニコニコと笑顔を絶やさず紅永は手元にある紙を捲り読み上げる。そこに皆の情報が書かれているのだろう。
ディーバとは恐らく黒髪に赤い瞳を持つボブカットの少女のことだろう。紅永の斜め後ろ左横に立ち軽く頭を下げた。
「次は幹部!まずは茨目 緋緒(イバラメ ヒオ)。
能力は自身の血をかけた相手に薔薇の文様を刻んで継続的な激痛を与える。祓魔師のデータによると緋緒は最上位にされてるみたいだから、どうやらこの中では一番強いかもね!」
緋緒と呼ばれた小柄な女性はそう言われて少し不快そうな顔をするがすぐ紅永から目を逸らす。何か気に触っただろうか。
銀髪に青色のインナーカラーが入っており、片方の赤い瞳だけを覗かせ、もう片方の瞳は青色の薔薇型の眼帯に隠されていた。
「次も幹部!フェールデ・レイカンゲル。
能力は一定時間目を合わせた相手を洗脳、操る能力だね!」
その言葉に長い青髪をさらりと揺らし青年がぺこりとお辞儀をする。糸目なのか、その瞳が開かれることは無いが人好きしやすそうな、どこか胡散臭い笑みを浮かべている。彼がフェールデなのだろう。
「んで〜君も幹部ね。信樂 仁(シガラキ ジン)。
能力は……霧化、と……ふぅん。そっか。…よろしくね♡」
幹部と呼ばれ、本人も予想外だったのかオレンジ髪の長身の青年はその赤い瞳をびっくりしていると言わんばかりに見開く。今まさに、え?俺?と言わんばかりに自分のことを指さし周りをキョロキョロしている。余っ程予想外だったのだろう。
しかし紅永はそんな狼狽える仁を放置し話を続けた。
「次が最後の幹部ね。四天王的な?頑張ってね〜。
ノクス・ヴラド。能力は声を聞いた相手を眠らせる能力。よろしくね♡ノクス!」
意味深に微笑む紅永の顔をノクスと呼ばれた茶髪に赤髪のグラデーションのかかった青年はこれ以上ないほどウザそうな表情を見せる。
顔は黒マスクに半分隠れていて分からないが、それを引いて有り余るほど赤い瞳が「きっしょ」と主張していた。
「最後はメンバー。特に役職はないよ
コバルデ。能力は摂取した血を元に、血液の所持者の見た目をコピー及び能力を使用出来るようにする…ふぅん…ボクの血はあげないからね」
じと、と紅永が怪しむような瞳をするとコバルデであろう青白い肌と銀色の髪をした短髪で長身の男はにやにやと手を揉み始める。どうやら媚びを売っているようだ。
紅永はそれを見てフゥとため息をつき、次の紙を読んだ。
「あ。これで最後だね。リアナ・ネフィ。
能力は自身の血液を操る。」
リアナの紹介は異様な程に雑だった。
リアナと呼ばれた少女は紅永と同じ色の銀髪をたなびかせ、紅永より幾分か明るい赤い瞳を印象的に輝かせ堂々と立っていた。
可愛らしいハーフツインに束ねられた髪とゴスロリの相性は抜群だった。
そんなリアナは紅永の紹介についてなんの不満も感じていないのかよく分からないが紅永を冷たく一瞥してそれから特に発言することは無かった。
「これで全員だよ。みんなよろしくね。」
そう言って紅永はにこやかに微笑む。
「役者は揃った。さぁ。『人間狩りを始めよう』」
プロローグ fin