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第4章


A地区
「やぁ!アリちゃんだよ!」
そう言ってアリクレッドは煉霞に向けてにぱっと笑う。煉霞は突然のアリクレッドの登場に驚くもえへへと笑顔を見せた。
アリクレッドに付いて来ていた碧は縁を目にとめた瞬間ゴミムシを見るような目に変わる。
幸い煉霞は碧の視線に気づいていないので縁は申し訳なく思いつつスルーする。
「…アリクレッド。説明を始めてもいいかな?」
そう縁が真剣な声で話しかければアリクレッドはぱっとこちらを向いて真面目に返してくれる。
「うん。OKだよ」
「分かった。それじゃあ、まず血の匂いはあちらの方から、吸血鬼の気配もするので恐らく確定だね。さっきからあちらを動かないんだ。」
冷静に縁がそこまで説明するとアリクレッドが首を傾げる。 
「動かない?血の採集でもしてるのか?」
「そうかと思ったけど血の匂いが途切れることは無いから確率は低いかもしれない。ただそこにいる、だけのように思える。」
「???ますます持って分からない…」
縁とアリクレッドはそう少し話し合ってから待ち伏せの可能性が高いと推測する。
「…待ち伏せ?…」
煉霞はその言葉に首を傾げる。
「そう考えるのが妥当かな。敵はとっくのとうにこちらに気づいていて私達を待っている。ということだよ」
縁はそう答える。
「…えっ…」
煉霞の表情があからさまに恐怖に染まり蒼白になってしまった。
縁が大丈夫だよなんて声をかけてみるが小さくこくりと頷くだけで結局怖がった顔は変わらなかった。
「こんなとこでぐずぐずするよりもう行った方がいいと思うんやけども。…やたら怖がって意味なんてあらへんで?」
蔑みの目を辞めることも無く碧は冷静に声をかける。
恐らくこのままだと進まないと判断したからだろう。
縁とアリクレッドはその言葉に反応し
「なら行きましょうか」
「さっすが碧くん!」
なんて苦笑とお調子者のような言葉が聞こえる。
煉霞はと言えば出発かと思って気を取り直し、気合いを入れ直しているように見える。
気合いだけは十分のようだ。
4人は準備が完璧なことを確認して吸血鬼の気配のあるところに歩を進めた。

B地区

イルフォードが鉄紺の言葉に反応して後ろを振り返った時にはもう少女、ディーバはこちらに銃を構えていてその引き金はひかれていた。
反り返るような形でイルフォードはその銃を避ける。
鼻先にかすりそうな位置に銃弾が走っていった。
イルフォードはブリッチのような形になった瞬間足を上げ床を蹴り上げる。
くるりと回転してから素早く地面に足をつける。
「逃したか」
ディーバはそう言ってひょいひょいと女性の方に飛んでいく。
「な、その女性に近づくな!」
「アクマ!見ツケタ!」
イルフォードがディーバに声をかけて止める瞬間にイルフォードの横をピンク色と肌色が飛んでいく。
次のみしみし、という音でその拳が外れ、床のレンガが割れていくのだと理解できた。
バキャッという音とともにレンガが完全に破壊される。
ピースの切り返しの速度はもはや人知の範疇には見えないレベルで素早く宙に浮くディーバに拳を浴びせる。
ディーバは即座に銃をピースの拳と己の間に挟むがその抵抗虚しくディーバの軽い体は宙を舞った。
体は重力とチカラの方向に耐えかね力んでも風に体が持っていかれる。
抵抗できない風の中、ディーバが苦戦している間に座っていた女性は突然走り出す。
逃げるのだろうか。保護するべきか。
そう、星那は考えた。が、女性はピースに静かに近寄りどこからともなく注射器を手に持つ。
そして、迷いもなくその注射器をピースに刺した。
しかし、予想とは反してパキンと静かに音がしてその注射器の先は折れた。
力の入り方が曲がっていた?そう女性、いやコバルデは逡巡する。
だがそれは違う。
ピースの高速の切り返しでコバルデは重い一撃を受ける。
吹っ飛ぶ瞬間にコバルデはこいつを天敵と判断した。
注射器の先が折れたのはコバルデの力の入れ方が悪かったのではなく、ピースの鋼鉄の筋肉により刺さらず、そのまま力んだことで折れたのだ。
なんとまぁコメディのようなことだろう。
ただ起きてしまったことに変わりは無い。
どうにか手立てを考えなければならない。
コバルデの体は床に打ち付けられそのままゴッと音を立てて床を跳ねる。
その衝撃も尋常ではなく、本当にこれは人間なのかと疑う程だ。
だが、吸血鬼であろうと人間であろうとコバルデにとって血はただの食料であるのだ。
そして力を借りる術、それは変わらぬ価値観であり、家畜風情が自分に勝つなどそれはまやかしに過ぎないのだ。
黙って食われていれば良かったものを。
コバルデは変身を解き、シスター服の内側にある血の試験管を取り出す。
少しもったいないが質のいいものを使わせてもらおう。
「お借りいたしますよ。茨嬢。」
そうくすくすと笑いながら緋緒の血の入った試験管を空けそれを飲み干す。
全て飲み干し、その試験管をしまおうとした、その時。
後ろから迷いのない斬撃がコバルデの首を目掛けて掻っ切る。
コバルデは試験管を盾にし、下にしゃがむことでそれを避ける。
「…相変わらず面白い戦いをする家畜だ」
視界の横にイルフォードの目隠しが映る。
「それはどうも」
イルフォードも笑っているのかは分からないがその口を少し曲げてそう返す。
コバルデは背後のイルフォードから素早く駆けて距離をとり、気配の根源たる足音の気配を消す。
コバルデの体は既に緋緒のものに変化し、小回りが利く体になっている。
図体の大きいイルフォードには見合わぬ相手のように感じた。だからこそ、これは優位なのでは?とコバルデは一瞬侮った。
しかしその侮りは一瞬の隙となり鉄紺はその隙を見逃さなかった。
強く床を蹴り、その薙刀でコバルデの首を迷いなく狙う。
「コバルデ!!!」
ものすごい剣幕でそう怒鳴ればおやまた騒がしいと言わんばかりに余裕な顔になってその攻撃を軽く避けてしまう。
「少しばかり面倒ですが…まぁ。あなた達にはたっぷり苦しんでいただきましょうか」
コバルデはそう言ってイルフォードと鉄紺から距離を取る。
「…星那。僕たちがコバルデを相手するから、そっちの小さい子、ピースとよろしく」
イルフォードはコバルデを警戒しつつじっとみながらそう星那に指示を出す。
星那もその指示に小さく「了解」と頷いて、イルフォードと背中合わせになるように立ち、その銃口をディーバのいる方へと向けた。


C地区

合図も何も無く、ルーカスとアーナはこちらに突っ込んでくる。
ノクスもそれに応戦する形となり、ルーカスとアーナの攻撃をひらりと躱す。
しかし避けた先をルーカスは見逃さずそちらの方に下から刀を振り上げてくる。
ノクスもさすがにそれには避けきれず槍で対処する。
「浮かせてください」
後ろで傍観しているだけだと思った少年がそう声を上げる。もちろん正だ。
「バカだなー!オマエ!」
そう言ってルーカスはげらげらと笑う。
その瞬間槍はノクスの手を離れ後ろに素早く飛んだルーカスについて行くように引っ張られる。
「…な、っ…!…てめぇ…!」
ノクスは槍を取り返すために槍を掴むようなイメージで引き戻そうとする。
ただ槍はそれでもビクともしない。
吸血鬼の武器、というものは2通りあり自分の血液を媒介に支配下に置いた、言わば眷属のようなものもあれば、ただ使っているだけの武器で2通りほど別れる。
ノクスの武器は前者であり、本人の意思に背くことは無い。もちろんなんらかに邪魔されていなければだが。
つまり今はルーカスのものの浮遊能力に邪魔されている。
それを手っ取り早く取り返す方法は。
ノクスは迷いなくそのマスクに手を掛け下にずらす。
「聞こえるな?」
そう離れたルーカスとアーナに確認する。
2人は少し首を傾げた。聞こえている。同時に2人に強烈な睡魔が襲いかかる。
「眠れ」
その言葉で体は鉛のように重くなり瞼はもう開くことすら許さず体は地面に為す術なく崩れ落ちた。
そこでルーカスとアーナの記憶は途切れる。
槍もがしゃんと音を立てて地面に落ち、ノクスがぴっと指を上に少しあげると呼応するように槍は立ち上がりノクスの手の中に戻ってくる。
「…予想以上でしたね」
少し遠くから見ていた正はそんなことを言う。
ノクスの声が届いていなかったようだ。それはそうだろう。ノクスはほとんど声を張っていなかったのだから。
眠らせてしまおう、今すぐ。
そう思うが、正のような子供になにかできるとは思わない。
先程の命令は馬鹿でなければ思考できるほど実に短絡的だった。
弱いものいじめは好かない。人は別だが。
「初めましてですよね。僕は竜胆のボスをしています。頭城 正と言います。」
「……ノクスだ。」
竜胆のボスと聞いて、一人称もその背丈も表情も。どこかの紅永を彷彿とさせる。
礼儀正しいように見えるがナイフ片手にこちらを警戒している。能力ももう知っているだろう。
小さいボスというものはどこもかしこもまともでは無いらしい。
嫌な予感がする。早く眠らせて血を抜き取ってしまおうと思い、返事をするためにわざわざつけ直したマスクを下にずらし、「眠れ」と言った。
しかしその言葉に反応する前に正は駆け出していた。声が聞こえていたはずなのに、眠ることなく。
「もう分かってるんですよ?負けるわけないじゃないですか。」
そのかぎ針の着いたナイフをそのまま横に振り、ノクスの服に僅かながら引っかかる。
ビッと派手な音を立てて服は解れ、同時に切れる。
「…は…っ…?…」
咄嗟に避けたことが幸いし服だけですんだがジャケットの袖は完全に破けている。
「…ッチ……何すんだよ…」
いっそあの近づいた瞬間に仕返しすればよかったと思うがもうノクスは正から距離をとっていて、正もノクスから距離を取っている。
ノクスの鬱憤はもう爆発寸前である。
次服に触れられるか攻撃が掠るかすればもう手がつけられなくなるだろう。
正は、と言えばノクスが潔癖であることを知っていた。答えはひとつ。煉霞の情報の中にあったのだ。出会った人間たちに触れられたり直接触れることを嫌うと。返り血なんかはもっと浴びたくない。嫌悪の姿勢を見せると。
正は何となく目星はつけていた。潔癖症かなんらかのトラウマか。しかし反応を見るに前者だろう。
能力に関しては耳栓をつけるという形で対処ができた。
あとはじわじわ痛めつけるだけ。
正はより苦しい方を選ぶ。精神攻撃など特に。
「あなたの声はものを通せば聞こえない。つまり直接鼓膜を振動させない限り麻酔にはならない。そうでしょう?」
くすっと笑った表情はノクスの知る紅永とまさに瓜二つ。双子と疑うような表情だ。
あのいけ好かない、ノクスが嫌う表情。
だがそれを見てもノクスはまだ平静を保つ。
地面を踏み締め、羽を羽ばたかせてその場にふわりと浮かぶ。
「ガキが全部わかった気になってんじゃねぇぞ。」
もう能力は効かない。
あの耳栓を取らない限り。どう足掻いてもこの子供とは相対しなければ逃げられないのだ。きっと。
その小さな体はどれほど俊敏に動くのかは先程の攻撃で何となくわかった。
ノクスがいくら素早く動いても撒けるほど簡単では無い。
それなら戦って眠らせてしまった方が幾分か楽だ。
この子供を手にかけることは紅永の命令のひとつでもあることが一番癪だが己の命が最優先だ。
ノクスは槍をふわりと浮かせて戦闘態勢を取る。
ルーカスとアーナは蚊帳の外でC地区の戦いは再び幕を開けた。


廃墟

廃墟は廃病院のようで、もう相当古いのだろう。ツタやらなんやらがむき出しになった鉄骨やコンクリートに絡みついている。
中に入れば割れた硝子の破片。恐らくだいぶ劣化したフラスコや試験管が転がっている。
特徴的なのは人が一人はいるほどのサイズのガラスでできた大きなカプセルだろう。しかしそれは真ん中から外の衝撃で割られたようで、そのまわりには細かな硝子の破片が転がっていた。
そんな中、カルテのようなもののページをペラリとめくる女性。雪花だ。
そのカルテの中の紙もだいぶ劣化して黄ばんでいる。雨ざらしにでもなっていたのだろう、力加減を間違えれば崩れ果ててしまうような脆さだ。
しかし雪花はそれに動揺することなく、その細い指で丁寧にカルテをめくる。ラミネートされたものすら無事とはいえず、曇って見づらくなっていた。
「…紅永、unknown。ディーパ・アナーキー。精神支配。…茨目緋緒…血液に触れると激痛を伴う能力……信樂仁、霧化。遭遇した祓魔師達の死亡者…多発……フェールデ・レイカンゲル…精神支配……ノクス・ウラド…No.10…ノクス…麻酔の能力……コバルデ…血液による変化…多数の事件に関連性がある……こんなものか…」
そう言ってカルテの入ったファイルをぱたりと閉じる。
ここは既に廃れてしまった廃病棟。主に吸血鬼などの研究をしており、とある吸血鬼に襲われてからは誰も近寄るものがいなくなった。
しかしながら、誰も近寄らず誰も触れなかったため吸血鬼の資料の宝庫である。
能力に関しての研究もしていたらしい。風の噂で聞いた程度の話ではあるが。
ここが襲われたのは本当に数年前。そうはいっても20年以上前の話だ。雪花にとっては少し前でも人にとっては遠い昔の話なのだ。
何故雪花がここに来たかと言えば吸血鬼一派の情報集めだ。報告に上がったほとんど全員の情報があった。だが、1つ情報がないものが居た。
リアナ・ネフィ
報告から考えるにきっと血液を操る能力者だろう。だが情報がひとつもない。
生きているとされている吸血鬼の中には。
一体何故。疑問は潰えず頭に浮かぶばかり。しかしここに長居するのは大変良くない。言われもない罪で本部に突き出される可能性もある。
今はこのカルテだけを持ち帰って下がるしかない。
そう考えて雪花は廃墟から出るために足を動かした。


A地区

こっそりと壁から頭を出す。
4人は路地裏を通ったが路地裏に吸血鬼の姿は見えなかった。そうだとすれば路地裏を抜けたところの道路一択だろう。
索敵は煉霞だ。前線に出れないのだからこれぐらいは役に立ちたいのだと言って立候補をしたのでやらせた。
煉霞は索敵のため道路をきょろきょろと見回す。
そこには人の死体が既に転がっていて煉霞は吐きそうな衝動を必死に押えつつ周りを見回す。
すると見覚えのある後ろ姿が見えた。
オレンジ色の髪、高い背丈。
紛れもない仁である。
「仁くんだ…!…仁くんがなんで此処に…?…」
小さな声で疑問を口にすればアリクレッドがいつまで経っても確認しきらない煉霞を不思議に思って一緒に道を覗き込んでくる。
そしてアリクレッドも同様に視界に仁を入れた。
煉霞は仁のことを人だと思っているためまさかアリクレッドが襲いかかるとは思わず完全に油断していた。
「吸血鬼。こちらに気づいていない」
そう素早く言った瞬間、アリクレッドは飛ぶように仁の元に走りフォークを振り、投げる。
まずいと思い煉霞は咄嗟の反応速度と足の速さでアリクレッドのフォークの前に飛び出した。
「ま、ってください!…」
いつもの煉霞からは想像もできないほどしっかりとした声にアリクレッドも驚きその煉霞に刺さりそうなフォークをすんでのところでたたき落とす。
「…アリクレッドさん?…どうしちゃったんです…?彼は人…」
「…煉霞…?」
煉霞が説明する前に仁が思わず振り返って煉霞の名を呼んでしまう。
仁も周りに明らかな祓魔師がいるのに煉霞の名前を呼んでしまったのはかなりの悪手だったと口に出した瞬間後悔した。
「仁くん…!」
後ろを振り返った煉霞の表情があまりに嬉しそうでもう友人であると包み隠す気は無い顔だ。
何となく察してはいたが煉霞が仁が吸血鬼であることに本当に気づいていないとは。
「…よ、よぉ…煉霞……」
めちゃくちゃ顔が引き攣ってしまった。
動揺があまりに隠しきれていない自覚はある。
早く指輪を返してこの場から立ち去らねば、煉霞に危害が及ぶだろう。もうアウトな気はしている。しかしその可能性には目を瞑る。
仁がポケットの指輪を探っている間に祓魔師の仲間であろう仁と同じぐらいの背丈の男とそれと青色の髪をした青年が走ってくる。
まずい、このままでは仁も袋叩きだ。
早く返さねば。
「煉霞…??煉霞、危ない。そいつから離れて!」
そうアリクレッドが慌てたように言う。
「アリクレッドさんこそ…人相手に何を…」
煉霞の吸血鬼と人間を見分けられない鈍感さがここに来てとんでもない勘違いを生み出してることにその場にいる全員が気づく。
碧も、竜胆相手に助ける義理は一切ないがその煉霞の言動に嫌なものを思い出させられる。
「あんた本気で言ってはるん?」
思わず口を出してしまった。
「えっ…?」
明らかにその言葉を不思議がったものだと分かるほど困惑の声だ。
なんでそんなことを言うのか聞こうと思った瞬間仁にちょいちょいと肩を叩かれる。
「手、出して」
周りの人に聞こえないほどの少し小さめの声でそう言われる。
煉霞は不思議に思いながらも両手のひらをそっと差し出してみる。
するとそこにちゃらっと金色の指輪とそれを下げるためのチェーンが着いたものが置かれる。
これは紛れもなく1ヶ月以上前に煉霞が落としてしまった指輪だ。
どこかに落としたとは思っていたが、まさか仁が持っていたとは。
「あ、ありがとう…!」
指輪が帰ってきたことの安心で煉霞はほっと息つく。
「落し物だ。お前のであってる…みたいだな。」
煉霞の危機感の無さに仁も少し頬が綻ぶ。
気が抜けていると気づいた数秒後に仁は慌てないように顔を少しきりっとさせてもう遅いかもしれないがフードを被る。
「俺はこれを届けに来ただけだから…それじゃ…」
今ならごまかせると思って手をチッスと上げるとそのまま踵を返す。
「待ぃや!」
碧の止める声が聞こえたが聞こえないフリだ。あんなところにいたら仁こそ死にかねない。
できることなら己の理解者を殺したくもない。
そう思って走った、矢先にフェールデと緋緒がこちらに歩いてきていることに気づく。
不味い。鉢合わせしてしまう。
フェールデと緋緒は少し先に進んで人間狩りをしていたはずなのに。仁が後ろの気配を悟って1人ここに残っていただけというのに。
「仁くん?一体どうし……た……」
フェールデは仁を視界に入れるといつまで経っても来ないのはどうしてかと疑問を口に出す。そして同時に背後の祓魔師に気づいてしまう。
「…仁、後ろの人間は…?」
緋緒の目の色が何となく変わった気がした。
いや分かっているのだ。緋緒が人に恨みがあることは。
こればっかりはどうしようも無いことなのだ。
ただこんな酷い板挟みがあっていいものだろうか。偶然にしても出来すぎだ。
もう仁は泣きたい気持ちでいっぱいになりながらこの後のことに思考をめぐらせた。


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