第4章
「…そういえば、私は呼ばれてないんですよね…留守番でしょうか?…」
先程の班編成の中にセレイアの名前はなかった。最後の3班に配属されるのかと思ったがそこにも呼ばれなかった為、どうも違うようだ。
そのことを不思議に思いながら晩御飯を持って白華の病室に向かう。
もう夕方の5時だ。太陽は半分ほど沈んでしまった。
皆配属された場所に向かったり準備で殆ど居ない。
格子には特別ご飯を置くところがある訳では無いためご飯を渡す時は鍵を開けなければいけない。
だから渋々と言ったように正はセレイアに鍵を預けてくれた。
鍵を渡す時、正はそれはそれは悔しい顔をしていた。聞いてみればどうやら出動する気は無く、白華と居るつもりだったらしい。
それでバックれないあたりまだいい子なのかなと思ってセレイアが心の中で少し笑ってしまったのはここだけの秘密だ。
そして、セレイアが呼ばれていないということに関してだ。
冒頭に戻るがそのことはもう正に確認を取っていたのだ。
そうしたら白華に聞いてくれということで、ご飯を持ってくるついでに聞きに行くことにした。
そりゃあ現在の1番上の司令塔に聞くのがいいなとセレイアも納得した。
そうくるくると回想をしているうちに白華の病室の前に着く。
こんこんとノックをして「失礼します」と声をかける。
小さくどうぞなんて返事が聞こえたのを確認してドアノブを捻る。
「晩御飯ですよ。主様」
「…からかってるだろ…」
格子の中にいる白華はやっぱり面白くて少し笑ってしまう。
情けない姿、と表現するのが一番合う。
「いえいえ」
くすくす笑いながら格子の鍵を開ける。
キィ、なんて音を立てて格子の扉を開け白華の横の机にお盆を置く。
よく見れば、というか見ればわかるのだが白華の正面の机にはノートパソコン。白華はマイク付きのヘッドフォンをつけている。
ノートパソコンには様々なプラグが連結されていて下の方に置いてあるルーターに繋がっている。
「…これは?…」
不思議に思って問えばカタカタと何か操作をしながら説明してくれる。
「指示用の、ドローンカメラの映像と通信機と接続されてるヘッドフォンだ。」
「おや、それ…前は使ってませんでしたよね?」
そう思って驚きの声を上げるセレイア。
「んぁ?…あぁ、まぁな。俺は使えるって言ってんのに本部がいつまで経っても支給しなくてな。俺を老人扱いしてんのかもしれねぇが、老人つったら本部のヤツらの方がそうだろ。…」
パソコンの画面から目を離さず白華は不満を漏らす。
いや、白華はいい歳だろうと言い返そうと思ったがこの人はそんなこと100も承知だろうなと思ってその言葉を飲み込む。
「…では、これは本部が?」
「んや?…雪花がな。」
「雪花さんが?」
「あぁ。あいつは本部直轄って言うだけあって本部の頭とすぐ連絡が取れる位置にいる。権力使ってソッコーで用意した。とか言ってたな」
行動力の塊のような人だなと思って思わずセレイアは関心の声が漏れる。
パソコンの画面をちらりと覗いてみれば、画面は3つあり、なるほど。1班ずつあるのかとわかる。
「…あぁ、飯だったな。ありがとな。」
やっとこちらを向いていつもようにへらりと笑う。
「はい。どういたしまして。……あの白華さん…」
本題はご飯では無い。こっちの方だ。
「私は班編成に組み込まれてませんが…留守番、ということですか?…」
首を傾げて聞いてみる。
「…あぁ、それな。説明が遅くなって悪かったな。」
「いえ…?大丈夫です。何かあるんですか?」
思わぬ謝罪にセレイアは少し驚く。
何かあるという言葉に少し白華がピクリと反応する。
何かあるんだな。
「…まぁ平たく言うなら留守番だが……正の代わりというか…あのな……これは俺の推測でしかないから、俺だけで片付けようと思ってたんだ。」
「…それはダメです」
「ほらな、そう言うと思ってお前に頼むんだ。正にも止められるだろうしな。……正直一番危ねぇ仕事ではある…が…」
「…なんでも命じてください。貴方は私の主ですから」
その言葉に白華はそのピンク色の瞳を揺らす。
「…あぁ、分かってる。……恐らく、この戦いでまた特位が出てくる。はずだ。…」
「特位が?…」
「あぁ。今回の3人…あ〜報告が上がってる吸血鬼は煉霞に聞いた限り特位の傘下だ。…だから多分特位も出てくる。…」
苦虫を噛み潰したような顔でそう言う白華。
それを倒してこいとでも命じるのだろうか。
主のためならなんだって……いや、死にそうになったら流石に引こうかなとそんな考えのセレイアの後ろ髪を誰かが引いた。
「…食い止めるだけだ。他の奴らに接触しないように。……」
「食い止めるだけ?…」
そんなことができるのかと思った。
「あぁ。いや、殺すことは構わないんだが…まぁ多分殺せないだろうし、な。引き付けておくか相手をするだけでいい。が、気は抜くなよ。…」
「分かっています」
「…分かればいい。どの地区に出るかはわからん。その情報は持ってないからな。…」
そこまで言うと白華はパソコンをカタカタと触り始める。
「ここに、四つ目のドローンがある。」
ぱっと3つの画面の中にもうひとつの画面が現れる。
「こいつで特位の場所を探す。分かったらセレイアはここからすぐ出動してくれ。…それでいいか?…」
「分かりました」
白華の真剣な問いにセレイアは迷いなく了承を返した。
吸血鬼アジトにて、同時刻
「…ない、ない、無い!無い!」
「……何がだ?…」
部屋をガサガサ漁りながら慌てる紅永にディーバが声をかけてみる。
「…やっぱりおしゃれに決めようと思ってコーヒーなんか飲みながら書類眺めてたから……」
そう頭を抱えながら言う紅永でディーバはピンとくる。
「コーヒーをこぼしたのか?」
「違う!コーヒーをこぼした方の書類!」
すかさず吠えられて少しびくっとする。
が、コーヒーをこぼした書類と言えばディーバが再発行を頼まれていたものだ。
「…あの、祓魔師の資料か?…」
「そうそれ!…無いんだよね…まぁ作り直せばいいからいいんだけど…捨てちゃったかな…」
そう言って紅永は悩む素振りをする。
相変わらず情緒が読めない人だなと思いながらそれを眺める。
少し思い当たる節があったが、それは師匠のためにも黙っておくべきだと思い口を噤んだ。
✣✣✣
誰かが鼻歌を歌っている。
それは紛れもなくノクスのものだ。
どうやら今日は機嫌がいいらしい。恐らく最近人の血を沢山集められているからだろう。
今日もノクスは屋敷を出るため、その歩を進め屋敷の出入口の扉に手をかける。
屋敷を出るとノクスはふわりと飛び上がり自分の持ち場の地区に足を向ける。
紅永の言いなりなのはかなり気に食わないが血を採取できるのはいい事だ。
そう思ってルンルンで持ち場に向かう。
その持ち場は祓魔師で言うところのB地区。祓魔師2班の持ち場である。
その後も、コバルデ、フェールデは自分たちの持ち場に向かう。
同行者がいるようだがそれに関してはまた後で。
※以下、町をABCと1班から順に表記させていただきます。
夜の6時。各自持ち場の招集時間である。
「…全員いるか?」
白華がマイクに向かって問えばそれぞれから「持ち場到着」という言葉が帰ってくる。
カメラを見た限りでも大丈夫そうなので「各自索敵を頼む」と命令する。
「了解」と揃った返事が聞こえて、それを確認すると通信を切る音が聞こえた。
全員切れたことを確認すると、白華はカタカタとパソコンを操作して四つ目のドローンを動かした。
吸血鬼側もとうに持ち場について人間狩りを開始していた。
屋敷に居るのはまさかのリアナだけだ。紅永もそろそろ出るらしい。
という話を横耳に挟みつつリアナは新しいお洋服を選んでいた。実に呑気な話である。
各々の思惑を抱えて次の戦いは幕を開けた。
A地区
「すげぇなこれ……今日の配属先予想まで書いてやがる…」
そう言いながら仁は紅永が”コーヒーをこぼした”と言っていた書類を見つめる。
明らかに黒塗りでおかしいなと思っていたが匂いから察するにコーヒーなのは仁も察していた。
書類の中には今日煉霞が出陣するであろう地区が書いてある。どこでこんな情報を拾ったのか。
そう、その出陣する場所というのがここである。
ということで単独行動は疑われるということでフェールデについて来ている訳だが。
「何を読んでいるんだい?」
突然隣ににゅっと生えた顔に驚いてその書類をぐしゃりと潰してしまう。
突然生えた顔はフェールデだった。
「…フェールデか…いや…なんでもねぇよ」
内容を見られていないだろうか。紅永のものだとバレたらチクられかねない。いやもう紅永は気づいているかもしれない。無駄に聡いから…
「?隠し事かな?…まぁそれにしたって…珍しいね。キミが人間狩りに付いてくるとは思わなかったよ。」
そう言ってフェールデはにこにこと笑う。
相変わらずの表情の読めない細目である。
今、仁、フェールデ、緋緒はフェールデの使役している鹿に乗り込みA地区を走っている。
フェールデが狩場に良さそうなところで降りるらしい。が、今日は人が少ない。
連日フェールデが暴れたせいで人が避難しつつあるのだ。
とはいえ、フェールデはそんなこと特に気にしていないようだが。
ある程度まで走ると3人は鹿から降りる。
仁の目的は煉霞に会うこと。このままフェールデについて行くより別行動した方がいい……が。
恐らく怪しまれる。紅永に。
まぁきっと煉霞に会ってしまえば疑いはきっと確信へと変わってしまうだろうが、今はリスクを犯す気は無い。
浮かない顔をする緋緒に小さく「行こう」と言ってフェールデの後に着いた。
数分後
「…ぅえぁ………」
煉霞は床に転がった人の死体を見て顔を蒼白にする。
血こそ抜かれていて青白い顔をしているが、確かにそれは人と解り煉霞にはグロテスクという感想が沸いた。
「…煉霞くん。行こう。見ていても始まらないよ」
そう縁は声をかけて煉霞を引っ張る。
先程から数え切れないほど転がる死体を何度も見た。何度見ても煉霞はこの反応だ。
何とか頑張っていただきたい。
索敵を兼ねているためとりあえず2組に別れて被害や敵の位置を探す。A地区はそこそこ広いので4人で行動していたらキリがない。単純に、縁が気まずいからという理由では無い。断じて。
縁と煉霞は歩を進める。
じゃり、というレンガをする音が聞こえたと思えばツンと鼻を刺激する鉄の匂い。
これは…
「…ぅぷ…」
隣から嘔吐く声が聞こえる。
紛れもない煉霞だ。
背中を緩くさすれば大丈夫だと言わんばかりに手を出す。
煉霞がこんな反応をする、ということは。
「…血の、匂い、ですね」
血の匂いはもう近くまで来ていた。
同時刻。A地区内
「碧くんだよね?ね〜ぇ?俺と連絡先交換しない?♡」
先程からただでさえ好かない竜胆のもっと好かない質の女に話しかけられる。
彼女はアリクレッド。竜胆の副ボスに属し、その軽薄な態度は本気を伺わせない。白華なんかよりタチの悪いタイプの軽薄さだ。
「せーへん、ってさっきから言うとるよな。なんや、えらいせっかちやな」
「そお?だって可愛い子には話しかけたいじゃん?」
きゃぴ!と言わんばかりのポーズをされて苛立ちが抑えられなくなるがここで怒っても仕方ない。何とか怒りを飲み込んで「先に進みますよ」と言えば大人しく着いてくる。
なんなんだこの人は。
そんな不満を覚えながら眉間に皺を寄せる。
そこで通信機が鳴った。
「はいはーい?」
アリクレッドが軽い声でそれに応対し、スピーカーにする。
「恐らく吸血鬼と思わしき気配発見。場所はガーデンストリートの一角、○△花屋の路地裏です。」
「了解。そっちに向かうね」
「くれぐれも慎重にお願いします」
報告に特に動じもせずアリクレッドは答え通信を切る。
あれは縁の声だったためか碧は一切言葉を発さなかった。
「さぁ行こうか碧くん」
アリクレッドはにぃ、と笑ってくるりと踵を返す。
「…地図は覚えてはるん?」
「とーぜん!副ボスなんだからそれなりにはやるよ?かわい子ちゃんにはいいとこ見せたいからね」
そうアリクレッドはウィンクをして走り出す。
碧もそれを追いかけた。
B地区
この地区は恐らくA地区より酷い惨状だ。
転がる死体の血はさほど吸われておらず無造作に投げられている。
「アクマ!イル!?」
「居ないね。…これは…もしかして注射器の跡かな?」
興奮するピースに特に気にもかけずイルフォードは転がる死体をじろじろと見る。
「注射器…?」
その言葉に鉄紺の顔色が変わる。
「どうしました?鉄紺さん?」
何も知らない星那は不思議そうに首を傾げて鉄紺の顔をすっと覗き込む。
「ぴっ、?」
次の瞬間、星那は驚いたような声を上げて後ずさった。
「…恐らく前会った吸血鬼だね。報告にも上がっていた。コバルデだったかな?」
その名前を出して、イルフォードは少し固まる。そそ、っと股間に手を当てていたが女性陣は見ないふりをした。
同時に俯く鉄紺の顔をちらりと横目で見るとそれはそれは鬼の形相をしていた。星那が驚くのも無理はなかった。
どうやら鉄紺はこのコバルデという男に何らかの因縁があるらしい。反応から見てそうなのだろう。とても憎しみが篭っている。正直結構怖い。
「あぁ、すまない。顔に出ていたか?星那、そんなに怖がらないでくれ」
鉄紺は先程の鬼の形相から打って変わっていつもの表情になっている。
「…いえ、っ!大丈夫です!」
星那は、にっと笑って返しているものの先程がとても怖かったのかちょっと冷や汗をかいているようにも見える。
「アクマ!気配!!!??」
話しているとピースが突然声を上げる。
声がそこそこ大きかったので驚くがピースに目を向ければもう既に走り出していた。
「ぴ、ピース君!?」
驚きからかイルフォードは思わずピースの名前を呼ぶ。
どうやら吸血鬼を見つけたようだ。視界内にはどこにもいない気がするが。これは野生の勘と言うやつなのか。
鉄紺も星那もピースを追って走り出す。
星那は一歩反応が遅れて鉄紺に少し引っ張られて来ているが、まぁ後で追いつくだろう。
にしたってピースの足速い。
どしんどしんと聞こえそうなぐらいだ。
本能的恐怖を覚えないと言えば嘘になる。
ピースは開けた場所に勢いよく出る。
「アソコ!!」
ビッとピースは開けた場所の一角を指さす。
そこには人がいた。
一般人だろうか。
「…?……アクマ…違ウ?」
ピースは指さした先にいた人、女性を見て首を傾げる。
キョロキョロ周りを見渡しても彼女以外の人は見つからない。
「え、っと……」
女性は動揺したようにその瞳を不安の色に染める。きっと警戒しているのだ、警戒を解かねば。
そう思って戦う姿勢を解し女性に笑いかけてみる。と言ってもイルフォードの格好は怪しすぎる。イタズラでも仕掛けて緊張をほぐそうか、と考えている間、油断してしまう。
何かが飛び出してきたのも気づかなかった。
「イルフォード!!!!!」
鉄紺の自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
C地区
アーナは歩きながらしゅっしゅっと拳の素振りをする。
正はそれを当然のようにスルー。
ルーカスも周りをキョロキョロ見回し吸血鬼を探している。
それも当然なのでスルー。
よりにもよってこの戦闘狂2人を任せられるとは思わず少しお疲れ気味のようだ。いや、ここまでこれといった弊害もなく連れてこれたのは正だからなのだが。
特に会話も交わさないままC地区の索敵を進める。ここは死体こそ転がっているものの血は多くが抜き取られており吸血鬼が直接吸ったようには見えない。と言っても血がない時点で犯人は吸血鬼なのはだいたい分かりきっている話だ。
死体はそれぞれ特に苦しんだ形跡がないことから精神を操るタイプなんだと予測できる。アーナとルーカスは死体に生きていないかとつついていたが興味をなくしたのかもう違うものを見ていた。
充満する死臭と血の匂い。
鼻が曲がりそうだ。
そう思いながら進んでいく。
そこで探し人は案外あっさりと見つかる。
緊張感もなく。
「いたぞ!」「いる!」
アーナとルーカスが同時に声を出し街の一角を指さす。言わなくてもわかると正は思いながら少しため息を着く。
街の一角ではしゃがんで人間から血液をちまちま採集している吸血鬼、ノクスの後ろ姿がある。
「あ゙?」
ヤンキーのような声でノクスは後ろを振り向く。
少し遠いところにガキが3人並んでいるようにしか見えない。
だが武器を持っているところを見て祓魔師だろう。
(……面倒だな…)
せっかく上機嫌で血を採集していたというのにそれを邪魔された挙句モンスターを見つけたような扱いをされたことに不快感を覚える。
今すぐ飛び立って逃げれば逃れられるだろうか。いや、無理そうだ。
もうあちらは警戒姿勢。動けば飛びかかってくるだろう。
一触即発の沈黙からこちらの戦いは始まった。
吸血鬼アジトにて
紅永はまだ出発していないらしく部屋で何か書き物をしているようだ。
独り言が多い。
「…えっと、……確か5回、だよね。……全く、わざわざ数えてそれを覚えておけなんて几帳面にも程があるよね。……よし。書けた。メモみたいなもんだからいいけど…」
そう言いながら5、と記した紙を引き出しに入れる。
「あ!リアナ〜!」
大きな声で部屋からリアナを呼べば少しの沈黙の後にドカドカと苛立った音が聞こえて扉がノックもされずにバァン!と開けられる。
「何の用」
それはもうゴミを見るような目でこちらを蔑んでくるリアナを紅永は気にもとめず話を続ける。
「ノクスのところに行って欲しいんだ」
「はぁ?なんであんな男のために私が動かなきゃいけないわけ?あんたが行きなさいよ」
ヒステリック、とは言わないが高い声でそう言われるとかなり耳に来る。
「ボクは他に仕事があるの。ね〜リアナ。行って欲しいな。昔からの仲じゃない?」
にんまりと笑えば冷たい瞳で返される。
「あんたを昔からの仲、なんて言うほど仲良くなったつもりは無いわよ。…はぁ。話しても無駄よね。あんたはもう話が通じなくなったみたいだし……行ってくるわよ。」
とんでもなく嫌な顔をしながらリアナは言う。
「ありがと♡……お礼はするよ」
ふざけた調子で礼を言い、すぐ真剣な顔になる。
「当然。緋緒ちゃんとディーバちゃんとのデートの日作ってくれたら帳消しにしてあげるわ」
「恋人いるけど?」
「それとこれとは別よ」
そんなしょうもないやり取りをしてリアナは直ぐに部屋から退出する。
「…またね〜」
紅永がくすりと笑って手を振る頃にはその扉は勢いよく閉められていた。
「さて、と!…ボクも行きますか。作戦開始の時間だ」
そう独り言を言って紅永はふわふわの椅子から立ち上がり、ハンガーにかけられたマントを取る。
ふわりと舞い上がるようにそのマントはたなびき、紅永は首元のリボンをきゅっと結ぶ。
その場で紅永が軽くジャンプをすると、シュンと音がして紅永の姿は消えた。