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第3章


少し時は戻って
端的に、簡潔に事情説明を終えた煉霞は小さく息を着く。
自分の割には落ち着いて話せたと少し安堵もあった。
鉄紺はと言えばふむと言って顎に手を置いた時から微動だにしない。なにか考え事をしているのだろう。
最初は目をそらすべきかと少し周りをちらちら見て気を逸らしてみたりしたがやはり反応が気になる。
もし救援に向かうなら煉霞もついて行きたい所だ。先程走った疲労は少し休んで回復しているので心配はいらない。
「……救援に向かうべき…だろうな…」
想像していた言葉を言われ少し安堵する。
「そ、それなら俺も…!…」
そう言ってみると鉄紺は首を横に振る。行ってはいけないということだろうか。
いや、行っても役に立たないという意味か。そこまで思考が至り悲しくなる。
顔に出ていたのか鉄紺が少し驚いた顔をした。
「そ、そうじゃなくてだな!………」
何かフォローしようとしたのだろうか。
しかしその言葉は煉霞のポケットの通信機の着信音でかき消されてしまった。
煉霞はビクリと肩を震わせるがその後サッと通信機を取りだし着信をとる。
「は、はい!こちら、煉霞でしゅっ…」
慌てて応答したので噛んでしまった。
恥ずかしくて少し顔を赤くした。
直後通信機からアリクレッドの声が聞こえた。
『煉霞!…やっと出てくれた!』
「っうぇ…!?…」
もしかして少し前にもかけていたのだろうか。履歴を見れば全体に呼びかけた記録がある。
しかしそれに誰一人として応答してはいない。
隠密班でさえ誰も見ておらずこの情報から推測するに、全員が交戦中か着信を取れない状況にあるということになる。
『全体連絡しても全員着拒かスルーで誰も出てくれなかったんだ…だから片っ端から掛けてたんだけど…やっと…』
「…すまないが、何かあったのだろう?本題を頼む」
そう言って鉄紺がアリクレッドの言葉を遮る。
通信機越しにも少しアリクレッドの息を飲む音が聞こえた。
『……撤退命令が出たんだ。』
「「撤退!?」」
アリクレッドから飛び出した言葉に思わず2人同時に驚く。
『…それと同時におじーさん…白華…さんが』
「白華さんがどうかしたんですか…!?」
嫌な予感がしてつい口を挟んでしまう。
『ボス……ちびくん…正くん、に指揮権を委ねるって』
もっと嫌な予感がして煉霞は思わず叫ぶように声を上げてしまう。
「アリクレッドさん!いまの、今の状態は!」
そこまで言ってハッと我に返り
「ゆ、ゆっくりでいいですから、」
と付け足す。叫んでしまって申し訳ない。

アリクレッドは電話越しに慌てた声が聞こえて元気そうだなと思うと同時に今の状態を聞かれて少しだけ申し訳なさを覚えた。
「…今は、鉄拳くんを俺が背負ってる…そんで、おじーさんは……俺たちに撤退命令を出させて、今。特位と戦ってる」
その言葉に電話越しから強く息を飲む音が聞こえてガタガタンと慌てた音が聞こえる。
その後冷静な鉄紺の声が聞こえて場所を聞かれる。
アリクレッドは周りを見回して○×番外と書いてある看板を目に止めるとそれを読み上げた。

「○×番外だそうだ。煉霞、そっちに向かうか?」
「…縁さんに関してはおそらく大丈夫だと思います……心配ですが……何となく、人といる気がしますし。…第一縁さんは仮にも竜胆の副ボスですよ!特位とでも遭遇しなきゃいけます…って!」
自分を鼓舞するように煉霞は笑ってみるが内心は酷く不安だ。だけれど特位と戦っている白華を放ってはおけない。
これは立派な命令違反だが、白華の考えることだ。自分が身代わりになるなんて考えていてもおかしくない。
「…ボスも、呼んだ方がいいかな……」
「…ボス?…正という少年の方か?」
隣を走っていた鉄紺に突然話しかけられて驚く。
「うびゃっ」
鉄紺はもう電話を切っていたらしく通信機をこちらに返してくる。煉霞も走りつつそれを受け取り開く。
「…そう、です。きっとボス、白華さんがピンチって知ったら急いでくるはずだから……」
人の気持ちに聡い、とまではいかなくても敏感な煉霞からしてみれば本当にわかりやすい。白華と正の関係値を詳しく知っている訳では無いがおそらくきっと、正なら白華を心配して動いてくれるはずだ。
指揮権を委ねたということを伝えなければ。
そう思って走りながら正に電話をかけた。

✣✣✣
正がぼんやり道端に立っていると着信音が聞こえてはっと目が覚める。
「…ぅぇあ、……俺は、ここで何を……」
そこまで言いかけてハッと我に返り周りを瞬時に確認する。
視認できる範囲に人はおらず死体もない。
正は静かに舌打ちをして吸血鬼を逃したことを悔いた。
溜息をつきつつもなった通信機をポケットから取り出し耳に当てる。
「…はい。こちら頭城です。…」
『ボス!!出てくれた!…』
「煉霞、さんですね。どうかしましたか」
電話越しに嬉しげな声が聞こえて吉報だろうかと推測する。
『えっと、えっとですね、その…』
おどおどするのは電話越しでも変わらないらしい。さっさと話してくれないだろうか。イライラする。
『ボス、○×番外に来れますか…?』
突然の申し出に不思議に思いつつも聞き返す。地図は脳に入っている。
「…はい。行けますよ。何故?」
『…白華さんが、単独で特位と戦っているそうです。』
神妙な声でそう伝えられて正は僅かに目を見開く。
「○×番外でですか?」
声に感情を乗せないように聞く。煉霞という男は怒りを少しでも見せればきっと怖がって話せなくなってしまう。それは面倒だ。
『…違います。○×番外の周辺です。俺も詳しいことは分からないので今向かっているんですが……』
そこまで話して正の耳に爆発音に近い轟音が聞こえる。
正はすぐさま顔を上げて聞こえた方角を見る。
「…煉霞さん。もう結構です。…」
『えっ、?』
電話越しから困惑した声が聞こえる。
しかし構っている余裕は無い。
今の轟音は、分かりにくいが確実に銃声。
聞き覚えのある音だった。
「白華さんの位置は把握しました。もう説明は結構ですから。」
そこまで言って電話を切ろうとする。
しかし煉霞が慌てたように一言を早口で話し始めた。
『白華さんはボスに指揮権を委ねると言いました!今ボスに指揮権があります!あと、撤退命令が出されてて…』
その言葉で白華がもしかしてここで死ぬ気なんじゃと嫌な予感が頭をよぎる。
「分かりました。命令は今特にありません。各判断で吸血鬼を処理してください。撤退は今しばらくお待ちください。」
そう言うと正はすぐさま電話を切った。
そして轟音をした方を真っ直ぐと見て軽やかに駆けて行った。

✣✣✣
「…切られちゃった……」
電話越しに聞こえた正の声がどこか意思の籠ったものだったから特に心配することは無いんだろうなと思いながら切られてしまった通信機をポケットに仕舞う。
鉄紺はどうだ?と聞いてくるがどうだも何も特に命令されていない。要領の悪い報告だったことは分かっている。おそらく正には先程時間が無かったのだろう。命令を貰う時間を与えれなかった自分の口下手に少し悲しくなる。
「……吸血鬼は各判断で対処してくれ…だそうです」
「撤退命令は?」
「撤退はまだ待ってくれということで。おそらく甚大な被害が出ていないからまだ引く理由がないんだと思います」
「そうか」
そう言ったら鉄紺は心得たという顔をして頷いてくれた。
考える前にアリクレッドのところに行かねば。
そう思って走る足を少しだけ早くした。

✣✣✣
銃声が聞こえた直後
「ひゃっ、……嫌ね…爆発音かしら」
リアナは碧の横に呑気に座りながら大きな銃声に驚く。
碧も1度だけ聞いたことがある音。爆発音に聞こえるような銃を打つのは知っている中ではたった一人しかいない。
白華が戦っているということだろう。
ただ白華は銃は抜けども打つことは殆どしない。何かあったのかもしれない
早くこの拘束を抜けないと。
「……なぁリアナさん?いい加減話してくれへん?あんたの質問にはだいぶ答えた気ぃするんやけど。」
「やーよ。私はこの戦いが終わるまであなたを拘束する。質問って言っても名前と性別しか言ってくれなかったじゃない。殆どはぐらかしちゃってさ、まさか男だなんて思わなかったわよ。まぁ男でも可愛いからいいけど…」
そう言いながらリアナは口を尖らせる。
素振りは本当にまるで女子高校生みたいだ。
それにしたってこちらばかりが質問をされて答えるというのも不公平な気はする。
先ほど質問をしたが立場を弁えろと言われてしまった。なぜそんなことを吸血鬼に言われなければならないのかと思って顔を顰めた。
「…なぁリアナさん。あんたはなんで、俺を拘束するん?あんたら吸血鬼は人の血を飲むんやろ。なのになんで血ぃ吸いもしいひんでここで拘束し続けるん?」
そう一番の疑問を投げつけてみればリアナは女の子らしい顔をきゅ、と顰める。
「……それあんたさっきも聞いたわよね。……だから、いまあなたにそんなことを聞く権利はないの。第一今のあなたの命は私の掌の上。わかる?」
そう言うがなんやかんやで先程から拘束するばかりで殺す素振りは無い。
「そやけども。あんた俺を殺そうとなんてしいひんやん。なんか理由があるんやろ?」
そう返してみればもっと不服そうな顔して渋々と言ったふうに溜息をしつつ答えてくれた。
「……私は別に人を殺したいわけじゃないのよ。……」
あれほど嬉々として戦っていた少女から出る言葉とは思えず碧は目を見開く。
「…なんや。あんなに嬉しそうに戦っとったやん。なんでなん…」
そういえば痛いところを突かれたという顔をしてまた言う。
「私からすればあれは演技のひとつ。今は紅永が戦ってて私に注意が行ってないからこうしてのんびりしていられる。けど紅永の命令は絶対だから。私には逆らう力もなければ従うほど従順な脳は持ち合わせてないからね。」
その話を聞いて碧はまた疑問が浮かぶ。
「……傘下にまで下って、人を殺したないなんて信じられへんよ」
そう言い切ってしまえばリアナは悲しそうな顔をする。
「そうだと思ったわ。あなた方祓魔師はだいたい吸血鬼に恨みがあるやつって相場が決まってんのよ。そう簡単に信用なんかしないでしょうね。……て言ってもこれ聞いたのあなただけど?」
「…そやったわ…」
ジト目でそう言われてしまえば少し目を逸らしたくなって逸らした。
少しだけ間を開けてリアナが口を開く。
「…人に相談すれば少しは気が晴れるかと思ったけど……ぜんっぜん晴れやしないわ!それにそろそろ動かないと他の人に怪しまれちゃう。あんたの仲間が来ても困るしね。」
そう言って少し重い雰囲気を吹っ切ってリアナはすくっと立ち上がる。
「ちょ、どこに…!…」
リアナを止めようと少しだけ身動ぎをすれば、リアナははぁとため息をついて碧を一瞥する。
「……どこにって。…そうね……私は今から助けられた借りを返しに行くの。あなたが来てくれれば話は簡単に済むかもしれないわね……どうする?…」
そう言ってにっこり笑うリアナの顔は自分と同い年と錯覚するほどに幼かった。

✣✣✣
銃声が聞こえる少し前に時間を遡る。
白華は体を壁に強かに打ち付け小さく呻き声をあげた。
それを面白そうに、だが空虚な瞳で見るのは紅永。
「わざわざ他のやつを逃がしてまで、なんでボクの相手なんてしようとしたの?……死ぬって分かってるのに」
一気に冷めた表情で紅永は白華を蔑む。
「が……っげほ、…っ誰が、死ぬってぇ゙…?…」
崩れ落ちた白華は両腕を立て起き上がる。
白華は死ぬ気なんて毛頭ない。怪我した訳では無いが口元からぽた、と血が垂れる。
衝撃で口の中を切ったか、肺のどこかに怪我をしたか。
体を見渡す限り、外傷は無い。
毒だったりして、なんて憶測を考えてみる。
毒なら体に完全に回りきれば終いだ。
引きつけるため、なんて言ってダラダラ戦っていられるほど相手は弱くない。
立ち上がり、目の焦点を少年に合わせる。
「なになに?能力でも使うの?……もうキミのネタは割れてるのに」
くすくすと笑う紅永をそっちのけで紅永の持つ鎌を解析する。
先程も見た、が少し違和感があった。
白華の視界に移るのは鎌の情報。最近だとステータスプレートなんて言われるものに似ている。
1番上に書いてある『名称:鎌』の鎌の部分にノイズが僅かにかかりジジ…と言う音を立てている。
(鎌、じゃないのか?……)
先程もこれを見たが今よく凝視すれば違うようだ。
もっとよく見るためにまたよく見る。
ノイズがジジ…という音を立て剥がれかける。
見えると思えば遠かった鎌が眼前まで来ていた。
「対人には向かないねぇ、その目は」
にっこりと笑う紅永の瞳はもうすぐそこまで来ていた。

爆発音に近い銃声が鳴る
「…っ、けほ……」
心臓近くを銃弾が貫通して紅永の軽い体を銃弾の勢いが吹っ飛ばす。
紅永が背中を強かに建物に打ちつければ建物にヒビが入りその壁は崩れる。
本来建物の壁はさほど脆くないはずだが既に白華の銃弾が当たったあとであれば崩れるのも仕方なかった。
「…ぅ゙…けほ、…」
紅永の肺に溜まった血が口を通り外へ出される。
本来ならこれで絶命、なんて事が簡単に行くはずもなかった。
白華があまりの呆気なさに微かに目を見開く。
だけれどここからが紅永の本気だ。
それは白華には分かっていた。
何故なら白華は1度それを見た事があるから。
何となく、白華は攻撃の気配を感じて目の前に銃を盾にするように構える。
その瞬間、コンクリが崩れ粉末となった煙をかき分けるようにその中から人が飛び出して来た。
その人、紅永は下から鎌を振り上げるような形でそしてその鎌は白華の銃に吸い込まれるように当たりガキンと音を立てる。
白華も弾き返そうと持つ銃に力を入れるがそんなことお構い無しに下から強く圧力がかかる。
白華の強い力をそのまま打ち消してその鎌は白華を空中に飛ばした。

白華の体が宙に浮く。
斜めに上がったため高い建物に背中を強かに打ち、体が跳ね、建物を削る。
そのままその建物の屋上に乗り上げるがそこで白華は屋上に手を着きひょいひょいっと手を使ってバク宙をする。
しかしそれだけで飛ばされた勢いは消えず屋上の端まで足を着くとそのまま落下。
そこそこ高い建物なのだから落ちたら一溜りもない。
まずいと思ってとりあえず足を下に出す前に上から声がした。
「いーち」
1?……目を向ければそこには同時に落ちる紅永がいて、白華の体は自動で動く。
紅永の撃ち抜いた心臓に焦点が合う。
その心臓周辺には風穴1つなく、ただシャツの穴が空いていてそこに銃弾が通ったことを証明していた。
白華は驚き目を見開いて紅永を見る。
その顔はもう終わり?と言わんばかりに微笑んでいた。
「んなわけあるか」
そう言って白華は紅永を鼻で笑う。
そうすれば紅永は一瞬目を見開いて次の白華の行動を見てにんまりと笑う。
白華は建物の壁に足を着き足の裏でブレーキをかける。
もう少しで地面というところで壁を強く蹴り上げ一回転して床に着地する。
「っふ、……よ、……ふー。…」
白華が一瞬息を吐けば直後に紅永の落下地点であろう地面が爆風を巻き起こして壊れる。
紅永が思い切り地面に向かって鎌を振り勢いを中和させたのだろう。
たとえ吸血鬼と言えど技の威力がおかしいなと思うがきっとこれが特位の力なのだろう。
「地面なんて壊しちゃえばいいのに。……白華は面白い戦い方をするね。君の両親とはまた違う戦い方だ。」
そう紅永はくすくすと笑いながら言い放つ。
「興味深いね、白華。」
白華はその問いに返すことなく銃口を紅永に向ける。
が、横から声が聞こえた。
集中していたから紅永以外の声が耳に入らなかった。
紅永も声に気づいてそちら側を見る。
「…緑蘭…さん……?」
驚いた声でこちらを見ているのは縁。
「…お前は…正んとこの…」
白華も突然の縁に驚く。一体なぜ、その問いの謎はすぐに解けた。
「紅永……?」
「…ボス!」
そう言って緋緒とフェールデは紅永を見る。
その顔は驚きに染まっている。
「…緋緒。フェールデ。…なんでこんなところに?」
戦闘態勢をゆるりと解いて紅永は首を傾げる。
「…なんでって……あんたらが今突然飛んできたんだろ?…そっちは…人間か」
緋緒は驚いた顔を一瞬でいつもに戻し白華を一瞥する。蔑むように睨んでから言葉を続ける。
「こいつらの仲間か?」
そう言って正面にいるイルフォードに目を向ける。
「………あ…あー!!金髪の君。そういえばさっき会ったね!元気してる〜?」
にこりとふざけたように笑ってイルフォードに目を向ける紅永。
イルフォードは静かに息を飲む。
「…俺らは縁とイルフォードが戦ってる時に吹っ飛んできた、ってことか。」
白華はそう縁に聞いてみる。
「そうですよ。集中していたようですが……えっと……もしかしてあちらは…」
恐る恐ると言ったふうに紅永の存在を確認した縁はそう白華に聞いてみる。
どうせなら自分が思っている答えでないことを願う。
「特位。こいつらのボスだ。」
そう端的に告げられてもう苦笑いしかできない。
「…縁。…撤退しろ、と言いたいところだが…今俺に権限は無いしな…それに吸血鬼、それも最上位と上位と来た。これは捌けない。…何とか特位のやつに目をつけられないように戦ってくれ。……頼めるか」
そう言われれば縁は「はい」と答える他なかった。

イルフォードは紅永の姿を見て
「お前は…」
とどこか憎しみの籠った声で言う。
「元気そうだね!まぁそんなことはさておき……ボク今お楽しみ中なんだ。邪魔しないでよね。…キミはボクになんか恨みがあるみたいだけどボクはそんなの覚えてないし。……緋緒も、フェールデもね。……じゃ。」
そう言って笑ってイルフォードに背中を見せる。
「な、っお前、!」
怒りの籠った声をあげるがその言葉は紅永には届かないようにスルーされてしまう。
イルフォードが1歩踏み出すとそこに緋緒が飛び込んできた。
同時にナイフで切り掛かられると思ったがナイフの攻撃は下からツタが伸びて止められる。
イルフォードはくるくるとバク転して避け縁の方に視線を向けた。
「…縁…助かった…!…」
そう言って声をかければ少し微笑んで答えてくれたような気がする。
イルフォードはすぅっと息を吸ってここが戦場だということを実感し直す。
どこからか流れてくる血の匂いがここは戦場なんだと脳に訴えかけている。
縁はもうフェールデと戦う準備は出来ているようだ。一緒に飛んできた白華ももう戦う体勢だ。
イルフォードも目の前の赤い目の吸血鬼、緋緒を倒すためにもう一度意識を集中し直した。


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