※きり丸過去捏造注意










雨の日は嫌いだ。


嫌なことをたくさん思い出すから。










持っている箒を動かし、床を掃く。
毎日掃除しているのに、どうしてこんなにも埃が出るのだろうか。
(ああ・・・なんか、イライラする)
ただ働きをしているから、というのもあるだろう。
でも理由はそれだけではない。
窓の外を見つめた。 雨が穏やかに降っている。空は重い灰色の雲に覆われていて、太陽は顔を出していない。
太陽がいるはずの空を睨み付けた。


「きりちゃんは何がしたい？」
「へ？・・・あ、ああ、そうだな・・・」


乱太郎に話をふられ、ドキッとした。
乱太郎としんべヱが話してるのは知ってたけど、何を話してるかなんて聞こえてなかったから。
でも、今まで二人と一緒にいたから、だいたいの予想がつく。


「雨が降ってるから外では遊べねぇしなー・・・」
「僕はね、部屋でお菓子を食べたいな」
「しんべヱ、またお菓子を溜め込んでるの？」
「えへへー」
「・・・あ、俺パス」


二人が驚いたように、俺を見た。


「図書当番なの忘れてた」
「え～！あ、でも、お菓子の取り分が増えて嬉しいかも～」
「しんべヱ・・・」
「ははっ、じゃあな。もう行かねぇと」


集めたゴミをゴミ箱に捨て、教室を出た。
二人に手を振って。






真っ赤に燃える村。
熱気と黒い煙で頭が朦朧としていて。
それでも、父さんと母さんの死顔はよく覚えている。
火で熱いはずなのに、穏やかな顔だった。
俺の幸せを願っていた。
これは後で思い出したことだ。
あの時はよく分からなくて、必死に逃げたのを覚えている。
混乱した頭の中、顔に当たる冷たい雨だけが俺の意識を保ってくれていた。


雨の日は嫌いだ。


嫌なことをたくさん思い出すから。






雨の音に包まれた図書室の中、一人机の前に座っている。カード整理を終え、何もすることがない。
机の上に顔を伏せた。


「「失礼しまーす」」


戸の開く音と同時に、聞き慣れた声が聞こえた。
頭を上げると、やっぱりあの二人がいた。


「きり丸ー、図書当番の仕事手伝うよ」
「・・・お菓子、食べるんじゃなかったのか？」
「夜でいいよ。きり丸がいないと楽しくないもん」


「ねー？」としんべヱが乱太郎を見上げると、乱太郎も「ねー？」とにっこりと笑った。


「……」


一人になりたいと思っていた。
図書当番で断る理由も出来て、ちょうどいいやなんて思っていて。
でも、いざ一人になると嫌なことばかり思い出されてきて、押しつぶされそうになっていた。


「何かすることある？」
「もうやることはないぜ」
「そうなの？折角手伝いに来たのにー」


乱太郎が残念そうに呟く。
そんなに図書委員の仕事がしたかったのだろうか。乱太郎もしんべヱも物好きだな、なんて思った。
二人は顔を見合わせ、ニンマリと笑ったかと思うと、二手に別れて俺の後ろに回り込んできた。
何事かと後ろを振り向こうとしたとき－－



ズシリと背中に重みがかかった。



「ど・・・、どうしたんだよー、二人とも」
「別にー」
「ただ、こうしたい気分かなーと思ってさ」



乱太郎としんべヱが？
それとも俺が？
二人が笑っているのが見えて、俺もつられて頬が緩んだ。
 
(・・・ありがとう)


少し滲んだ涙は、すぐに渇いて消えた。










傍にいて、なんて言わずとも










雨の日は嫌いだ。


でも、お前たちと一緒にいられるなら、好きになれるかもしれない。






(背中から伝わる温もりが心地好かった)